表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

面接

「大丈夫かい?」


 社長に声を掛けられ、我に返った。


「あ、はい。ちょっとこの力が芽生えた頃のことを思い出していて……」


 俺は、この力をいつ使ってしまうか怯えながら、今まで生きてきた。できるだけ目立たないように、悪口を言われないように――。


 それでも何人かの耳を奪ってしまった。その度に、不登校や転職を繰り返してきた。


 友人も、恋人もできない。いや、作れない。


 口論になったり、陰口など叩かれた日には、自分を抑えきれる自信がない。どうせ深い関係を築くつもりもないし、いつ辞めるかわからないのなら……と、アルバイトを転々としてきた。


 数週間前、このトモバイオサイエンスの求人をたまたま目にした。《おススメポイント!》の欄に書いてあったことが気に入った。


『人の話(声)を聴くのが苦手な方』――。


 こんなことが書いてある求人を見たのは初めてだった。


 どうせ長くは続かない。軽い気持ちで受けてみることにした。


 人事面接はオンラインで、ありきたりな自己紹介を済ませ、志望動機を述べた時だった。愛想笑いを張り付けていた面接官の表情が、画面越しにもわかるほど変わった。


「志望動機は、《声》を聴くのが苦手だから――で間違いありませんか?」


 そう念を押された。


 しくじっただろうか。


「はい、まあ……」


「もう少し、詳細を聞かせていただけますか」


 急に前のめりになった面接官に、かなり端折って伝えた。耳が良すぎるのとも少し違う、声の本質を聞き分けることができて、そのせいで神経過敏になってしまう――そんなことだ。


 もちろん、耳を凍らせる力があるとか、余計なことは言わなかった。


 自分は犯罪者ですと自己申告するのと同じだ。それが故意でないにしろ。


「わかりました……。貴重なお話をありがとうございます」


 そう言って面接官が一度目を閉じた。


 ああ、終わったな。直ぐに次を探さないと、貯金もない。家賃滞納は数回やってしまったから、次こそ追い出されかねない。住所がなければ、仕事探しの難易度は爆上がりしてしまう――。


 そんなことが頭の中を駆け巡っていた時だ。


「では、最終面接にいらしていただけますでしょうか。本社で、社長面接になります」


「……」


 一瞬言葉に詰まり、無言で面接官を見返した。


「あの――何か不都合でも? 就業の意志がなくなってしまったとか……?」


「いえ……あの、ありがとうございます。わたしの方は、今、仕事をしていないので、いつでも大丈夫です」


 そう言いながらも、雨の降り始めのような灰色の暗がりが、心の中にじわっと広がるのを感じていた。


 たかがバイトを社長が面接することがあるのか?


 そもそも俺が申し込んだのは、営業部の中のECサイト担当。直接顧客と話す仕事でもなければ、社内会議に出席する必要もない。人柄などを重視しているとは思えない。


 だとしたら――。


 ここは、バイオサイエンスの会社だ。


 俺の『能力』の方が目的ではないか。

 研究対象として興味を持たれたのではないか。


 難聴の改善に劇的な効果を持つ治療法――なんて謳い文句で発表するつもりでは?


 冗談じゃない。そんな世のため人のためになる能力なら、こんなに悩むことはなかった。


 この力は、望まず人の悪意や裏切りを知ることで、俺自身の制御も効かず、人の耳を奪っては傷つける――。


 誰も幸せにならない力だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ