面接
「大丈夫かい?」
社長に声を掛けられ、我に返った。
「あ、はい。ちょっとこの力が芽生えた頃のことを思い出していて……」
俺は、この力をいつ使ってしまうか怯えながら、今まで生きてきた。できるだけ目立たないように、悪口を言われないように――。
それでも何人かの耳を奪ってしまった。その度に、不登校や転職を繰り返してきた。
友人も、恋人もできない。いや、作れない。
口論になったり、陰口など叩かれた日には、自分を抑えきれる自信がない。どうせ深い関係を築くつもりもないし、いつ辞めるかわからないのなら……と、アルバイトを転々としてきた。
数週間前、このトモバイオサイエンスの求人をたまたま目にした。《おススメポイント!》の欄に書いてあったことが気に入った。
『人の話(声)を聴くのが苦手な方』――。
こんなことが書いてある求人を見たのは初めてだった。
どうせ長くは続かない。軽い気持ちで受けてみることにした。
人事面接はオンラインで、ありきたりな自己紹介を済ませ、志望動機を述べた時だった。愛想笑いを張り付けていた面接官の表情が、画面越しにもわかるほど変わった。
「志望動機は、《声》を聴くのが苦手だから――で間違いありませんか?」
そう念を押された。
しくじっただろうか。
「はい、まあ……」
「もう少し、詳細を聞かせていただけますか」
急に前のめりになった面接官に、かなり端折って伝えた。耳が良すぎるのとも少し違う、声の本質を聞き分けることができて、そのせいで神経過敏になってしまう――そんなことだ。
もちろん、耳を凍らせる力があるとか、余計なことは言わなかった。
自分は犯罪者ですと自己申告するのと同じだ。それが故意でないにしろ。
「わかりました……。貴重なお話をありがとうございます」
そう言って面接官が一度目を閉じた。
ああ、終わったな。直ぐに次を探さないと、貯金もない。家賃滞納は数回やってしまったから、次こそ追い出されかねない。住所がなければ、仕事探しの難易度は爆上がりしてしまう――。
そんなことが頭の中を駆け巡っていた時だ。
「では、最終面接にいらしていただけますでしょうか。本社で、社長面接になります」
「……」
一瞬言葉に詰まり、無言で面接官を見返した。
「あの――何か不都合でも? 就業の意志がなくなってしまったとか……?」
「いえ……あの、ありがとうございます。わたしの方は、今、仕事をしていないので、いつでも大丈夫です」
そう言いながらも、雨の降り始めのような灰色の暗がりが、心の中にじわっと広がるのを感じていた。
たかがバイトを社長が面接することがあるのか?
そもそも俺が申し込んだのは、営業部の中のECサイト担当。直接顧客と話す仕事でもなければ、社内会議に出席する必要もない。人柄などを重視しているとは思えない。
だとしたら――。
ここは、バイオサイエンスの会社だ。
俺の『能力』の方が目的ではないか。
研究対象として興味を持たれたのではないか。
難聴の改善に劇的な効果を持つ治療法――なんて謳い文句で発表するつもりでは?
冗談じゃない。そんな世のため人のためになる能力なら、こんなに悩むことはなかった。
この力は、望まず人の悪意や裏切りを知ることで、俺自身の制御も効かず、人の耳を奪っては傷つける――。
誰も幸せにならない力だ。




