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逃ゲラレルカ?

「もしもし! だから、火事なんです!! 偽ミリオンバンブーの林が!! ちょ……聞こえてますか!?」

 市の消防局へ電話をしているが、異常に音声が小さく、途切れがちだ。これまで何度もこの小屋から市へ電話をかけたことがあるが、こんなのは初めてだ。

 火事の影響だろうか。早くやっくんの所に戻らなければならないのに、イライラする。


「……了解……。ただちに偽ミリオンバンブー島に向かう。管理人小屋にて待つように――」

 切れてしまった――。でも、とりあえず状況は伝わったようだし、救助も来る。


 僕はやっくんを連れ戻しに行こう。


 懐中電灯をリュックから取り出すために、テーブルに置いた、その時だった。


「イクナ――」

 背後から、何者かの声がした。行くな、と言ったのか? 外国人か? 明らかに不自然な発音だった。


 不法投棄や無許可でキャンプや釣りに興じる暇人か?

 すっかり防犯意識が緩んでいたせいで、今だって小屋に鍵なんかかけずに、電話に夢中になっていた。


「ダメダ」

 今度は距離感もはっきりわかった。そいつは僕の、真後ろにいる。背中に息を感じるくらい近い。

 振り向いたら、至近距離で顔を見合わせることになる。


 勘弁してくれ――。僕はこういうホラーっぽいのは大の苦手だ。

 自分が『ろくろ舌』なんて、オカルトの象徴みたいな名前で呼ばれていることを棚に上げてそう思った。


 だが、ここでいつまでも正体不明の何かと背中でにらめっこをしている時間はない。


 やっくんのあの表情――危うかった。二重の意味で。

 何かに憑りつかれて、今にも炎の中に飛び込んでいきそうな、心ここにあらずといった顔をしていた。


 もう一つは、彼自身がとても美しかったことだ。

 もともと、わかりやすくハンサムなやっくんだが、さっきはこの世のものではないオーラを放っていた。

 炎の美しさなんかより、ずっと。


 だから、僕はそのやっくんを救わないといけない。

 それができるのは、僕だけだ。


 意を決して振り返った――。


「え?」

「エ?」


 何か、非常に恐ろしいものを想像していた。

 外国人風の幽霊とか、死神とか、なんかそういう映画にありそうなのを。


 ところが、目の前にいたのは可愛らしい、小柄でまだ若い女性だった。

 一瞬で生きているとわかる。

 僕の驚きに、逆にびっくりしておどおどする幽霊なんていない。

 ざっと全身を見たが、透けてもいないし、足もついている。


「あなた、誰ですか?」

「ジョ――シュ」

「……助手? そう言ったんですか?」


 女子と聞こえて、からかわれているんだと思ったが、彼女はいたって真面目なようだ。その目に嘘はない――。

 偽ミリオンバンブーと同じ、スフェーンのような緑色の瞳。


「ニゲテ。トリハ、キケン」


 鳥は危険――。理由を聞くのは後だ。


「わかったよ、逃げる。でも、僕はやっくんを連れ戻さないといけない。逃げるのはそれからだ」


 言い終わらないうちに、管理人小屋を飛び出していた。

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