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誰かの影

「ここが、偽ミリオンバンブー島だ」

 見ればわかることを、ヨシカズくんにむかって得意げに言ったのはトモくんだ。


「……」

 ヨシカズくんも反応が薄い。ボートの上から散々見えていたし、周囲に他の島なんてないのだから当然だ。


 島に降り立ってまずわたし達がしたのは、その空気を吸い込むことだった。

 それぞれ、違う気持ちだということは想像がつく。


 ヨシカズくんは風の音を聞いている。トモくんは空気の味を感じている。

 そして、わたしは――島の顔になりたいと思っていた。


 そう、この島に顔があるなら、わたしはそれを奪って一つになりたい――。


「やっくん、とりあえずヨシカズくんを案内がてら、小屋に荷物を置きに行こう」

 トモくんに促された。


「ああ、そうだね」

 既に、十六時近い。さっさと夜の散策の準備をしなくては。

 あの鳥が現れるとしたら、夜だ。


「崖みたくなってますけど、大丈夫なんですか?」

 珍しく、不安げな表情でヨシカズくんが目の前の岩の壁を見上げた。高所恐怖症なのかも知れない。


「大丈夫だよ。一応、ちゃんと手すりのある道がある。偽ミリオンバンブーが見つかってから造られたものだ。でも滑りやすいから気をつけてついてきてくれ」

 トモくんが力強く先頭を切って歩き出した。


 これは下から見るほど高くはないことはよく知っている。二十メートル程度のスロープだ。


「あ! 大丈夫ですか?!」

 ヨシカズくんが声を上げた。


 トモくんが盛大に滑り、両膝を湿った地面についている。


「怪我はないか?」

 ヨシカズくんに続いて、わたしも駆け寄り、その顔を覗く。


「ああ、すっかり若いつもりでいたけど、やっぱり年齢には勝てないね。反射神経の衰えが著しい」

 トモくんが照れ笑いをしながら、フラフラ立ち上がる。


 全く――。年齢のせいというより、トモくんは昔からおっちょこちょいなところがある。それが、彼を脅威ではなく、愛すべき存在にしていることを、わたしは知っている。


「……気を付けてください」

 冷静に言うヨシカズくんを真ん中に、先頭をトモくん、最後尾をわたしの順で一列になり、狭いスロープを登った。


「さ、偽ミリオンバンブー島で一番見晴らしの良い場所が、ここだ」


「あぁ……きれいだ……」

 感情を滅多に言葉にしないヨシカズくんも、ストレートに感想を呟いた。


 それほど、ここからの景色は圧倒的だ。


 一歩遅れて二人と並んだわたしも、声に出さずに溜息をついた。


 声に出さずに? いや、出せなかった。

 思い出が、声を呑みこむくらい溢れ出してきた。


 地球の曲線美すら感じられそうなこの海、夏を運ぶこの風、遠い国の匂いが降る空――。


「あ! あそこ!」

 突然、トモくんが大声をあげた。


「どうした?」


「誰かいる!!」

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