第三章 誰の顔 わたしの顔
どんな顔で会えばいいだろう――。しばし迷って、昔のままの自分で空港のロビーに出た。例え、その造りは違っても。
「やっくん!!」
大きな声がした方に顔を向けた。
「トモくん……」
そこには旧友の、全く変わらない姿があった。二年前から更にしわや白髪が目に付くようになったけれど、それでも全然変わらない。
すぐにトモくんだとわかる。
年甲斐もなく、涙が浮かんだ。
トモくんの横には、複雑な表情でこっちを見つめるヨシカズくんがいた。
試すようなことをして、彼にはすまなかったと思っている。
「やあ、二人とも。わざわざ空港まで迎えに来てもらって悪かったね」
「いや、全然。昨日の雨が嘘のように快晴だ」
九州に上陸している台風も、こっちに来る頃には低気圧に変わっているだろう。天気はわたし達の味方か。
ところで――。
「ヨシカズくん……いつにも増してだんまりだが、わたしのことを怒っているのかな。謝るよ。キミを騙そうとしていたわけじゃないんだ」
「社長……その顔はいったい誰のものなんですか?」
彼は、怒っているわけではない。困惑しているんだ。
「トモくんの車の中で話そう。人目が気になる」
海岸沿いをなぞって進む車の窓から、懐かしい海が見える。
「窓を開けてもいいかな」
トモくんの返事も待たずに、開閉ボタンを押した。
忘れたことのない匂い――。
この海の香だけで、時間を自由に行き来することができる。
海はその底にすべての記憶を持っている。わたしはそう信じている。都会に行ってから、海と会話をする時間がすっかり減ってしまった。海に溶けることのないわたしの熱い感情は、今、冷却を求めてざわざわと動き出していた。
「この顔だが、死んだ人間のものだ」
そう切り出した。
「死んだ人間の顔……」
頭の回転の速いヨシカズらしくなく、わたしの言葉をただ繰り返す。
「そう、わたしを恨んでいる植物学者の内の一人だ」
「植物学者は、一人じゃなかったんですか? その人はもしかして――」
やはり、察しが良い。
「島の火事で死んだ人物だ。そのことは、わたしとトモくんと、そしてその人物の助手しか知らない」
「助手がいたんですね……その人物と植物学者、そして社長とトモくんさんの四人が、当時島にいたと……。社長はなんでまた、その植物学者の顔で生きることにしたんですか? 社長の本当のご両親や、これまでの生活はどうしたんですか」
もし、あの時もこの青年がいたなら、事態は変わっていたような気がする。あの頃のわたしとトモくんは、熱にうなされるように、ただ鳥を見つけることに夢中になっていた。
「そのことだが、まずこの植物学者の方には家族も、親戚付き合いもなかったから助かった。わたしの方は――今も昔の顔のまま暮らし続けている」




