救われたい人たち
その時、突然、テーブルの上のスマホが振動した。
画面には『やっくん』の文字。
「ちょっと、失礼」
ヨシカズくんも誰からの着信か気が付いたはずだ。そもそも彼に隠し事は無駄。その場で応答することにした。
『トモくん、ヨシカズくんは無事着いたかい?』
「ああ、今、一緒だよ。あの……ボク、キミの能力を彼に話してしまった。ごめん……」
当のヨシカズくんが目の前にいるのも構わず、情けない声で謝った。やっくんはわたしのたった一人の友だち、そして救世主だ。
『気にしてないよ。そもそもヨシカズくんに隠し事は意味ないんだから』
出会ってから一度も怒ったのを見たことがないやっくんは、やっぱり優しく応えてくれる。
「あの、スピーカーにしてもらってもいいですか?」
ヨシカズくんが口を挟んできた。
「やっくん、彼も会話に入れてもいいかい?」
『ああ、もちろん。ヨシカズくんに無駄な力を使わせないためにもそうしよう』
それから、やっくんは嬉しい報告をしてくれた。
なんと、明日、この町にやってくるというのだ。
九州で行われる最先端医療技術のエキシビションに参加予定だったが、台風で飛行機が欠航になったという。新幹線もまだ発表はないが、運休になるか、大幅に遅れる可能性が高い。
そこで、一週間続く会の前半を、信頼している九州のエリア長に任せ、自分はこっちに来ることにしたというのだ。
『こうやって、数日でもぽっかり時間が空くのは、わたしとしては珍しいことだ。鳥に呼ばれているような気がしたよ』
「鳥は絶滅していない――と社長は考えているんですよね」
目の前の若者が、急に庇護の必要な小動物に見えた。
『そうだ』
「俺も、その鳥に会いたい……」
ああ、やっぱりそうか……。彼も救われたがっている。
『君も、一緒に鳥に食べてもらおう――異物を』
やっくんの慈雨のような声が、無機質なスマートフォンから降ってきた。
『トモくん、ヨシカズくんにはどこまで話したんだい?』
「ああ……ちょうど、キミと最初に島に降り立った日の夜のことを話していた。発光する木――偽ミリオンバンブーを見つけた時のことだよ。まだ鳥のことや、火事のことは話していない」
『そう。じゃあ、そのことはわたしの口から明日、直接説明するよ。会社に嫌がらせをする人物の痕跡を探って欲しい、なんて言ってそっちに向かわせてしまった責任もある』
明日、やっくんが到着する時間を確認して通話を終えた。
不思議な気分だった。でも、満たされていた。
長く夢見ていたことが叶う前日とは、こんなものなのか――そう思った。
「じゃあ、わたしは職場に戻って、明日の準備をする。やっくんを空港に迎えに行って、その足で三人一緒にボートで島に向かおう。この天気も、明日の午後には回復する予報だ」
息子でもおかしくない年齢の青年を前に、わたしはまるで遠足前日の子ども同然の口調で言った。
「わかりました――。では、明日正午までには準備しておきます。と言っても、特に何もすることはないのだけれど。また、電話をください……」
緊張した面持ちの彼を残し、わたしは一人、軽やかに蔵ホテルを後にした。




