新種発見
彼の申し出は、わたしにとって運命だった。大袈裟でもなんでもなく、あれが運命だ。
まず、わたしは当時、偽ミリオンバンブー島の管理者だった。
あの島の存在は大昔から知られていたが、特に何の資源があるわけでもなく、誰も注目していない無人島だった。
注目を集めるようになったのは、ある地元誌の小さな記事だ。
あの島の西側に生息している木々の話だった。
ミリオンバンブーという植物によく似た木々が生い茂る一角があるという。植物に興味のないわたしにはピンとこなかったので、ウェブサイトで調べた。すると今度はあまりにも多くの画像が出てきて、逆に混乱した。
確かにどこかで見かけたことのあるような、ありふれた観葉植物だが――しかし、部屋に置ける程度のサイズだ。
これが、高さ十メートルほどになって生い茂っているという。
普通の竹とは違うのか?
説明をよく読むと、竹ではなく、ドラセナという植物の仲間らしい。
話題になっている木は、初めて発見された植物――として紹介されていた。
最初は、ふーんという感じだった。
数週間後、当時の観光部長から呼び出された。
「君、独身だったよな?」
謎の質問で会話が始まった。
重要な話をしようとして空回っているような、軽い口調だった。
「はあ、まあ……」
逆にわたしの方は、危険察知センサーが稼働しだす。
「折り入って、お願いがあるんだ」
ほら、来た。きっとロクな話ではない。
「あの島――偽ミリオンバンブー島の噂は君も聞いているだろう?」
「ええ。わたし自身はあまり興味はありませんが」
部長の言いたいことがわかってきていたが、とぼけて見せた。
「あの島は言うまでもなく、わたし達の市の管轄だ。今までは半年に一度、観光課の職員が形式的に見回りに行くだけで十分だった。誰も興味を示さないような場所だったからね。ところがだ……」
そこで部長がわたしの口元を見つめた。特に意味はないのだろう。普通の人間は目を真っ直ぐ見るのが気まずい時、口元に視線をやるというし。しかし、わたしには逆効果だ。
「もしかして、野次馬が島を荒らしているんですか?」
悟られないように会話を促す。
「いや、あんな不便な場所に人が殺到しているわけじゃない。でも――どこにでもマニアはいるらしい。島に定期的に上陸して、勝手に寝泊まりまでしている痕跡があったと報告を受けている。偽ミリオンバンブーにも、人工的な傷跡がついていたとか……。そこでだ――しばらくあの島に管理人を置くことにした」
「それが、わたしということですか……」
笑いを隠すために口元を押さえて、足元を見た。考え込んでいる風に見えるだろう。
「お願いできないだろうか。管理人小屋も、実は既に準備してある。実はあの島には何十年も前から管理人小屋はあったんだ。ただ、かなり老朽化していてね。大急ぎで改修させた。小さいけど、一人で生活するには充分だ……って、決してそこに住めと言っているわけではないんだ。週に二日、いや三日でいい。そこに居てくれないか? 無許可の上陸者から罰金を取って、見せしめにしたら、もう週一程度で良い。ここはちゃんと市が管理しているってことを世間に知らせたら、それで目的は達成だ」
言いたいことを一気に言って、館長はいっそすっきりした表情だ。
「その間、役所での仕事はどうすればいいですか?」
「それは、もう来週いっぱい使って引き継いでくれれば良いよ!」
引き受けたとは言っていないのに、部長は水を得た魚のように、生き生きとその後のことを説明しだした。




