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第二章 ろくろ舌 観光課

「地獄だったでしょう?」


 暗い表情の若者に、満面の笑顔で声をかけた。


 緑豊かな広い庭を持つ、小さな町にしては近代的な市役所のホール。大きな窓から見える空の雲は、どんどんその厚さを増している。


「この町では、あの島の話題を敢えて避けてますからね。運転手が急に黙り込むのも無理はない。さ、どうぞ座ってください」


 やっくん――この青年からしたら社長――の知り合いというから、中年以上の人物を想像していたが、外見はまだ三十そこそこにしか見えない。それに、異常に整った顔立ちだ。


 そして、そんなことよりわたしの心を落ち着かせないもの――。


「何か、変な音でもしますか?」


 若者はさっきからずっと耳を塞いでいた。


 もしかして――。いや、やっくんが送り込んできたんだ。あり得ないことではない。


「いえ……。あの、ミナトさんの声は変わってるんですね……。あっ……失礼なことを言ってすみません。何でもありません。飛行機に乗り慣れていなくて、少し気分が悪かったんです。まだ、引きずっているのかな」


 笑ってみせる青年を、気づかれないよう観察する。


「いや、この天気じゃ空は結構揺れたでしょう? まず、近くのホテルで休んでください」


「駄目です!」


 突然大きな声を出されて、こっちが面食らった。近くを歩いていた職員が好奇の目を向けてくる。


「……すみません。あの、俺、少しでも早くあの島に行きたくて……。休んでいる時間が惜しいんです」


 うっすら目元を濡らす彼を見て、思い当たった。やっくんの魔に囚われたに違いない――。


「そう言われましても――。この天気では島に案内するのも不可能です。海が既に時化てきている。わたし一人でも絶対に海に出ないのに、ましてや都会からの客人を乗せてなんて論外です」


 すがるような目線を向けられても、これだけは譲れない。


「わかりました……。無理を言ってすみません。近くの安いホテルを探します――。島に行けるようになったら、スマホに連絡をください」


 そう言って、幽霊のようにふらりと立ち上がった。


「待って。車で送りますよ。そんな顔色で初めての街を彷徨われても、わたしの方が心配で仕事が手につかない。車で五分のところに、手頃で観光客にも人気の宿があります」


 青年に声がおかしいと思われないよう、最新の注意を払って申し出た。


「何から何まですみません――。まるで子どもですね、俺は」


 力なく自虐する青年に、昔の自分の姿が重なった。


「わたしの趣味なんですよ。ほら、観光課の所属が長いもので……。外から来た人を見ると、つい案内したくなる」


 できるだけ自然な笑顔を作ったつもりだが、勘づかれていないだろうか。この青年は油断できない。わたしの中の本能が――能力がそう告げていた。


「本当に――ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えます、ミナトさん……」

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