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絶滅の復讐

「それで、本題だ」


 この数時間でも、俺にはかなり重たかったが、社長にとってはここからが本当に話したいことなのだ。


 ワインを一口だけ飲んで、座り直した。


 なんだ、このワインは。またしても衝撃だ。

 雪の味がする――。


 ……何を考えてるんだ、俺は。雪の味ってなんだ。あんなものに味があるわけないだろう。


「聞いているかい? 大事な話なんだ」


 無言の俺をじっと見つめて、社長が声を落とした。


「わたしは絶滅の復讐に殺される」


「……」


 ちょっと意味がわからない。まあ、冷静に考えると、さっきの話にあった偽ミリオンバンブー島での火事に関することだろう。希少な――というか奇妙な植物と鳥が絶滅してしまったという話のことだろうが……いったい誰に殺されるんだ?


「鳥の怨念に命を狙われている」


「へ?」


 柄にもなく、子どもっぽい声が出てしまった。だって、鳥の怨念って――怪談話か?


「わたしの頭がおかしくなったわけではないよ。いや、本当に頭のおかしな人間が、自分はおかしいですと申し出たりはしないか……。とにかくだ――絶滅した鳥を愛していた男がいたんだ」


 そう言って、社長は目の前のサラダに静かにフォークを刺した。


「鳥を愛した――。それは、そういう性癖ということですか?」


 俺の質問が耳に入らないかのように、社長は続けた。


「鳥類の研究をしている――そう聞いたことがある。ただ、その男とも、わたしが島で生活していた二年間の中で、数回会っただけだから、詳しいことは知らない。しかし、あの鳥に入れ込んでいることだけは知っていた」


「……」


 どういう相槌が適当なのかわからず、取り分けたピザをかじった。


 俺の今までピザだと思っていたのは何だったんだろうと思うほど、ピザの味がした。美味い。いくらでも食べられる。


「鳥が絶滅したのはわたしのせいだ。それは恨まれても仕方ない。でも、あの鳥を見つけたのはわたしだ。それまで、その存在にすら気が付いていなかった人間が何を勝手なことを――と、心のどこかで思ってしまうよ」


 今気が付いたが、この部屋の照明は、日本家屋に似合いそうな暖かなオレンジ色ではなく、雪のような白だ。


 そのせいで、真夏のだらしなく揺らぐ空気が、ピンと張ったような気になる。それは寒々しいのとは違う。なんというか、洗濯機から出したばかりの、しわしわで生暖かいシーツを音を立ててピシッと広げた時のような――そんな眩しさだ。


「社長がその鳥の発見者だったんですか?」


「そう。わたしがあの鳥の写真を撮って自分のブログに載せた。鳥類を研究している人間たちの間では衝撃が走ったようだよ。今まで、誰も目にしたことのない鳥だったからね。急にその鳥を捕獲しようなどと言い出して、島が騒がしくなった。わたしとしては大迷惑だ。静かに研究に励んで、息抜きに島の自然の写真を撮ったり、絵を描いたり――そんな幸せな生活が狂いだした。その直後だよ、あの火事が起きたのは」


 社長はこうしていると本当に表情が豊かだ。そして、表情以上に俺が心惹かれているもの――それは声だ。


 ずっと不思議だった。人に心を開かないように生きて来た俺が、この社長の言いなりになっているのが。


 この人の声は、俺に聞き分けられない。

 この人の耳は、俺には凍らせることができない。


 理由は説明できないが、そう確信できた。


「それで――。今週末から島に行ってもらえないだろうか」

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