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焼失と残存

 なんだか、俺も急に喉がカラカラになり、ぬるくなったコーヒーを一口飲んだ。余計に乾燥した気持ちになる。


「それで――今の島の様子についてだったね。あの火災で焼けたのは島の十分の一程度。発見が早かったからね……。おかげでわたしも助かったのだけど」


 ビルの外では雷の音が激しくなってきている。


「わたしを責めているみたいだな――」


 社長がぽつりと言った。


「え? どういう意味です?」


「わたしだけ、のうのうと生きていることを責めているように聞こえる。だから、雷は嫌いなんだ――」


 何を子どもみたいなことを――とは笑えない真剣な声だった。


「でも……島のほとんどは被害を受けることなく残ったんですよね?」


 十分の一が、その島にとってどれ程の面積なのか、想像がつかなかったが、何となく、社長を慰めたくて、適当なことを言ってしまった。


「そうだな……。そして、二年たった今、焼けた場所も、緑を取り戻しつつあるよ」


「じゃあ何で――」


 ついに社長の目から涙が溢れた。ゴクリと唾を飲んでしまった。


 美しかった――。おじさんに魅かれるような趣味はない。


 そんなものを超越した、虹みたく触れることが叶わない光の粒が、しわのある頬をつたう。その頬すら、白っぽい木の幹に見えてきた。ああ、なんて完璧なんだろう――。


「偽ミリオンバンブーと、それをエサにしている鳥は絶滅した――」


「え? その竹のような木は、島全体ににょきにょき生えているものじゃないんですか?」


 植物に興味のない俺の、デリカシーのない物言いを気にすることもなく、社長は頷いた。


「ああ、あれは島でも極一部――厳密に言えば、火災の起きた辺りにだけに生息していた」


 そんな植物存在するのか? なぜ、そうとわかっていたら、苗? 種? 何でも良いが、そう言ったものを保管しておくとかしておかなかったんだ。


「君の考えていることはわかるよ。でも、そうもいかない事情があった。島からひとたび持ち出すと、偽ミリオンバンブーはただのミリオンバンブーに変化してしまったんだ」


 思わず笑ってしまった。俺をからかっているのだと思ったのだ。


「そんな植物あるわけないじゃないですか。もし、環境が少しでも変わると枯れてしまう、とかいうことを言っているなら――」


「そんなことを言っているんじゃない。文字通り、性質そのものが変わってしまう。そんな偽バンブーだけを食べる鳥が存在するのを発見したのは、なんとわたしなんだよ」


 誇らしげに笑う社長は少年のようだ。まだ虹色の涙が揺れる目で微笑む。その表情は、幻想的にすら見える。


「その鳥ごと、絶滅してしまった――ということですか……」


「そう、唯一無二の植物と鳥がこの世界から消えて――そして憎しみだけが残った――」

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