3.親睦会
「18……18……18号室——ここだな」
放課後、直護くんが鍵を開けてくれたのは、高等部校舎内にあるサロンルーム18号室。
今後は『薔薇の間』と呼称され、わたしが自由に使用していい部屋になるそうだ。
「へえ。こんな感じになってんのか」
「直護くんも来たことないんだ?」
「ブルームの特権だからな。それ以外の生徒は、招待でもされない限り入れねぇんだよ。中等部の方じゃ、サロンがある区画自体に行ったことがない」
大きな窓のある部屋。教室ほど広くはないが、実家の自室よりは広い気がする。
家具はティーテーブルとソファーと壁掛けテレビのみ。テーブルのうえには、タブレットが一台置かれていた。
「これも勝手に使っていいのかな? ゲームしたら怒られたりとかない?」
タブレットを手に取ってソファーに腰を下ろす。
思いのほか座面が沈み込んで、ちょっとびっくりしたのは内緒だ。
「怒られはしないだろうが……一応、注文用らしいな、それ」
「注文?」
隣に座った直護くんは、パンフレットを持っている。
それをわたしにも見えるように広げながら、直護くんの指が説明書きの箇所を示した。
「そのなかに登録されてるものは、なんでも用意可能だと。飲み物、食べ物はすぐに、インテリア系は翌日運び入れって書かれてる」
「えっ、インテリアも!? ……うわ、ホントだ。ベッドとかまでリストにある」
タブレットを操作すれば、ベッドだけでなく、ミニキッチンなんてものまで表示される。
「これ、お金の表示がないけど……まさか無料?」
「恐らくな。あくまでも学校設備の追加って名目なんだろ」
「はへぇ。つくづくすっごい学園だね……」
「とりあえず、試しに飲み物でも頼んでみようぜ。俺、コーヒーで」
横から手を伸ばした直護くんが、タブレットをタップして注文を進めていく。
そのときになってようやく、わたしは彼と距離が近いことに気づいた。
いや、パンフレットやらタブレットやらを一緒に見るためには仕方ないことなのだが、思い返せば中学時代、男の子とは軽い会話をするだけで、ここまで近づいたことはなかった気がする。
「ほら、お前はなんにする?」
「ハッ……!」
思わず、直護くんの顔を見つめたまま固まってしまっていた。
「え、えと……じゃあ、これと……あと、ついでに」
なんでもないふうを装いながら選んだのは、ロイヤルミルクティーとチョコレート。
注文確定ボタンをタップすれば、なんとたった一分ほどで執事さんが配膳を済ませてくれた。
白手袋と燕尾服の執事が常駐する学校なんて、きっとここくらいだと思う。寮にハウスメイドがいることにだって驚いたくらいなのに。
「ん、うまいな。……一分でどうやって淹れてんだ?」
「ペットボトルのと全然違う……! チョコもなんかお高そうだし。直護くんも半分食べてね」
十粒お皿に並んだアソートチョコレート。包み紙にあるオシャレなブランドロゴは、オシャレな字体すぎて読み取ることができない。
「あっ、甘いもの平気? 苦手な味ある?」
「甘いのはわりと好きだよ。苦手なのは……そうだな……強いて言えば、体がおかしくなるくらい辛いやつとか?」
「それは特殊な人以外、好んで食べないやつだね……」
「実乃は? 好き嫌い」
「好きなのは、甘いのとか、お肉とか。あ、エビフライ大好き! よく子ども舌って言われる。苦いのがちょっと……その、ピーマンとかはがんばれば食べらんなくもないんだけど、ブラックコーヒーはまだ飲めない……と思う……」
「飲んでみるか?」
「い、いい!」
差し出されたコーヒーカップを前に慌てて首を横に振ると、直護くんが声をあげて笑った。
言っとくけど、苦い云々以前にそれ間接キスだから! ——とは言えず。
代わりに睨むと、「悪い悪い」とまったく悪びれていない口調で言ってから、直護くんは笑いを引っ込めてくれた。
「ほら、どの味がいいか先に選ばねぇと、とっちまうぞ」
「うぅ~……。ビター系とこれとこれあげる……」
「どーも」
まずはミルクガナッシュチョコを食べる。——おいしい。
すかさずヘーゼルナッツチョコを食べる。——これもおいしい。
次は塩キャラメルチョコを食べる。——またまたおいしい。
その次は——と手を伸ばしそうになって、慌ててブレーキをかけた。
ひと息に三粒も食べてしまった。絶対にもうちょっとゆっくり、丁寧に味わって食べるべきチョコなのに。
がっつきすぎて、はしたなかったかな……と横目で直護くんを見ると、彼はべつに気にしていない様子で口を開いた。
「明日からはどうする? 一応、ここに来たばっかのブルームは放課後、親睦会も兼ねて婚約者からブルーム関連について教わるって流れになってるが……用事があるとか早く帰りたいとかあれば言ってくれ。放課後にこだわる必要もないし、ましてや俺たちは席も隣だからな。休み時間でも十分だ」
「……その教わるのって、放課後使ったら何日くらいかかるの?」
「さあ。何日っつーか、俺が箇条書きみたいにざーっと説明だけすりゃ二、三日で終わる話だとは思うが。ただ、実乃からも質問はあるだろうし、だらだら雑談することもあるだろ。たしか扉なんかは、もう何年も放課後の親睦会を続けてるんじゃなかったかな」
「……扉?」
「保崎扉。クラスメイト。高三の婚約者ブルームがいるんだよ。中等部んときから、ほぼ毎日高等部校舎に通ってた」
「へぇ~」
まだクラスメイトの顔と名前が一致していないから、全然だれだかわからないけれど、その扉くんとやらは婚約者さんとめちゃくちゃ仲良しみたいだ。いつか婚約者の関係性を参考にしたり相談したりできるかもしれないから、名前を覚えておこう。
「で、明日もここに集合するか?」
「んんん~……。なんか時間を使わせちゃってるみたいで気が引けなくもないんだけど……」
「ああ、そういう方向の心配はしなくていい。まあ一か月二か月先になるとまた考えが変わる可能性もあるが、いまは俺もほかのことより、自分の婚約者を知ることを優先したいって思ってるからな。とくにお前、おとなしそうな顔に似合わず変わってるし」
「はう……!」
コツン、と頭を小突かれた。
「えへ。えへへへへ」
それだけで、もう笑みがあふれて止まらなくなってしまう。
「あんまりほかの人間がいるところでは、そういう顔すんなよ」
「えへへ……お母さんもよく同じこと言ってた。ちゃんと外でおとなしくできたら、帰ったあと激痛足つぼマッサージしてあげるからって」
「……なるほど。そういう方法もあるのか」
直護くんが何事かを考え込むように、眉を寄せて黙り込んだ。
その横顔は、本当に整っていて、威圧感があって、あまりにもわたしの好みど真ん中。さらにときめいて、笑みを深めてしまう。
けれど、多少は自重しなければならない。
わたしは、わたしが変だということをちゃんと理解している。何度も何度も何度も何度も主にお母さんから言われ続けてきたからだ。
いずれ家族になる可能性が高い婚約者相手だからこそ、ある程度わたしの素は見せる必要がある。だが、自重も我慢もせずに度が過ぎた結果、はしたない、気持ち悪い、嫌いだな、と思われては大問題だ。
だって、この婚約はわたしたちの意志じゃない。だからつまり、婚約を解消するのも、わたしたちの意志では叶わないかもしれない。
相手に悪感情を抱いて、それでもなお婚約を続けなければならないなんてことになったら最悪だ。それだけは絶対に避けたい。
妙ないきさつとはいえ、せっかく結ばれた縁なのだ。
直護くんを好きなる努力をしたいし、直護くんに好かれる努力をしたい。
わたしは緩みきっているであろう頬を元に戻すべく、指でつまんでグイグイと動かした。
「ああ、そうだ」
チョコレートを一粒食べた直護くんが、こちらを向いた。
そのときには、わたしの表情は取り繕えていた——はずだ。たぶん。自信はない。
「部活入るなら、放課後はそっち優先で全然いいぞ」
「あ、茶道部を見学しようかなって。四季音ちゃんに誘われてて。でも、週一でゆるくやるとこみたいだから、それ以外の放課後は予定ないけど」
「茶道部か。俺も昔、参加したことあるな」
「そうなの?」
「ここの茶道部は、初等部も中等部も高等部も合同なんだよ。初等部んときに、菓子目当てで何回か行った」
——かわいい。いまは大人っぽい直護くんにも、そんな時代が。
初等部時代の直護くん……もう少し仲良くなったら、アルバムかなにか見せてもらおうと決意する。
「直護くんは部活、なにに入るの? 運動部?」
「あー……迷い中。初等部はサッカー、中等部はバスケやってたけど……べつにこだわりもねぇし、いろいろ忙しくなるだろうから、毎日練習詰めのとこは避けたくてな。つーか、高等部は入んないやつも多い」
「なんで?」
「高等部からは、希望制で大学部の授業にも参加できるんだよ。単位取得もできる」
「え……えぇっ!?」
初耳だ。
つまり飛び級みたいな制度が、花絆学園にはあるということなのだろうか。しかもいまの言い草だと、それを活用する生徒は複数。それだけこの学園には、優秀で意欲的な人間が多いという話になる。
「すごい……! じゃ、じゃあ、直護くんもそれに行くの?」
「まあ、そのつもり。大学の課題もやんねぇとだから、どれくらい余裕が残るか様子を見てからだな、部活は」
「でもそれなら、親睦会も負担になるんじゃない?」
「だから、いまはまだ大丈夫だって。気にすんな。手が回らなくなったら、遠慮なくこっちから言う。むしろ部活に入らなかったら、中等部のころより全然ヒマになる可能性だってあるしな」
「そ、そう……? じゃあとりあえず、親睦会はわたしの部活がある日は避けてもらって……あとは、直護くんが忙しくなるまで続けるって感じでいい……のかな?」
「ん、いいよ」
軽く頷いた直護くんは、チョコレートをまた一粒、口に放り込んだ。
わたしも四粒目を食べながら、直護くんへとさらに問いかける。
「その大学の授業っていうの、わたしも受けられるの?」
「……どうかな。一応、中三のときに試験があったんだよ。実乃はそんとき在籍してなかったから、頼めば融通してもらえる可能性はあるが……」
「あ、いや、そこまではいいや。大学ってどんな感じかなって思っただけだから」
「また三学期にでも試験はあると思うから、気になるなら挑戦してみるといんじゃないか? ……ま、でもその前に」
おもむろに直護くんがブレザーを脱ぎ始める。
「ブルームとガーデナーについて勉強するのが先だけどな」
「あ、うん。それはもちろん。そのためにこの部屋に来たん……だもん……ね……」
さらに直護くんは、ネクタイを取り払った。
暑い、というわけではないだろう。
さすがのわたしも妙な空気を感じる。声も尻すぼみになるってもんだ。
「まず今日は、ガーデナーの話からだ」
直護くんの指は、第一、第二とワイシャツのボタンを外しにかかる。
「え……あ……え……?」
「昔は庭師だとか園芸師だとか呼ばれてたらしいが、普通の庭師とごっちゃになるからな。前に、ブルーム以外にも少し特殊な人間がいるって話をしただろ?」
わたしの困惑なんて気づいていないかのように、直護くんは話を進める。
その間にもどんどんシャツのボタンは外れていって、インナーがあらわになって。それなのに直護くんは、「覚えてないか?」といたって普通のトーンで問いかけてくる。
「え……あの……え? えと……特殊な……えっと……あ、『証』を持ってるっていう……?」
「そ。『証』を持って生まれた男のことを、ガーデナーで呼ぶんだよ。いまから見せてやる」
そうしてとうとう、直護くんはインナーも脱ぎ去ってしまった。
「ぎゃっ!?」
わたしは慌てて、体ごと目を逸らす。
軽く混乱状態にあったとはいえ、もっと早くからそうすべきだった。なにを悠長に脱衣シーンを眺めているんだ、わたしは。
顔が熱い。耳まで熱い。
けれどそんな状況でも、わたしの耳はきちんと機能してくれていた。
「くくくくっ……」
噛み殺したような声。
わたしはそっぽを向いているので、直護くんのことは見えていない。
それでも、直護くんが体を震わせながら爆笑している姿は、容易に想像できた。
「わわわ笑わないで! 急になに!?」
「いや……くくっ……期待通りの反応すぎて……。くくくっ……べつに、からかったわけじゃねーよ」
「ぜ、絶対うそだ……!」
そんなに笑っておいて、からかったわけじゃないは信じられない。
すると直護くんはあっさり、「まあ、たしかに半分はうそだな」と言い放つではないか。
意地悪な人だ。————そういうとこ、ドキドキする。
「ほら、そろそろこっち見ろ」
「む、むむむむり……! いまはむり! 心臓が痛い……!」
「じゃあ、落ち着くまで説明な。……ガーデナーの『証』は、遠目で見りゃただの黒っぽいアザだ。だが、よくよく見れば花の形をしてる」
高鳴る心臓のあたりを服の上から押さえながら、わたしは耳を傾ける。
「で、その『証』の花と同じ種類、同じ場所に花を咲かせたブルームを、婚約者として迎えることができるって決まりだ。そういうブルームが、自分が生きてる間——しかも年齢差に問題がないタイミングで誕生すると決まってるわけじゃないから、実際に婚約できるかどうかは運だけどな」
心臓のあたりを押さえていると、自分の手がどうしても花弁に触れる。
わたしの花は、黒い薔薇だ。
「つまり……直護くんの『証』は、薔薇の形をしてるの?」
「そういうこと。実乃の薔薇と同じで、胸の中心にある。だから、俺とお前が婚約者になったんだ。……見るか?」
「うっ……」
なにを、というのは言うまでもない。
直護くんが服を脱いだ理由は、わたしに『証』を見せるためだ。わたしが見なければ、脱いだ意味がない。……もちろん、脱ぐ前に説明してほしかったけども。
わたしは恐る恐る、真正面からガン見する勇気はなかったので、横目で直護くんを見た。
——腹筋が割れてる……! いや、違う、見るのはそこじゃなくて!
少し視線を上げると、たしかに薔薇をデフォルメしたような形のアザ——というより、タトゥーのようなものがあった。
「——触るか?」
笑いを含んだ意地悪な声。
わたしはすぐに顔を背けた。
「触らないっ……! も、もう十分だから服着て……!」
笑い声の合間に聞こえる衣擦れの音が、なんだか生々しく思える。
居たたまれない時間は非常に長く感じて、何度も「着た? もういい?」と確認してしまった。
「もういいぞ」
そっと振り返る。
直護くんは、ブレザーは脱いだままだけどシャツはきちんと身に着けてくれていて、ほっと安堵の息がもれた。
「すっごいビックリしたよ、もう……! わたしの心臓ぶっ壊す気なのかと……!」
「悪かったって。いろいろと質問を挟まれる前に、これはさっさと終わらせといた方がいいと思ったんだよ。…………ここからは、あんまいい気分にはならない話だろうから」
「え……な、なんかこわい前置き……。けっこう心構えがいる感じ……?」
「人によっては、かなり」
「うえー……」
シリアスな話はあんまり得意じゃない。
でも自分に関することだし、聞かないわけにもいかない。
「じゃあ……お話、どうぞ」
「ふはっ、すげぇ嫌そうな顔。まあ、そうやってわかりやすく表現してくれると助かるよ。こっからの話も、素直に思ったことを言ってくれていいからな」
「うん」
「ここの学園経営にもかかわっている管理機関のことは、前に渡した資料にも書かれてたと思うが——」
「あー……あれ……。流し読みというか……飛ばし飛ばし読んじゃったんだけど……」
「ああ、それはいいよ。あれ、堅苦しい文章なうえに分厚いからな。重要なところはまた明日にでも説明する。ただ、いまから話すのは、その資料には載ってないこと……ブルームとガーデナーをわざわざ国が管理する目的のことでな」
「目的……」
「単刀直入に言えば、ブルームに子どもを産ませることが目的だ」
「………………えっ」
わたしは数秒固まってしまった。
思ってもみなかった言葉が出てきて——というか、国の機関が目指すにはかなり問題がありそうな方向性で、どう反応すればいいかわからなくなってしまう。
「なんでかっつーと、ブルームの第一子は、必ずガーデナーになるからだ。逆に、ブルーム以外から産まれたガーデナーの事例は、ただの一件もないと言っていい」
「…………えーと、そしたら直護くんのお母さんも……?」
「ブルームだよ、薔薇の。厳密に言えば、ブルームだっただがな」
だった……?
疑問が生じたが、わたしが問いかけるよりも先に、直護くんが話を続けた。
「ガーデナーの特異性は、『証』だけじゃない。ガーデナーは全員勉強が得意だし、運動が得意だし、視力も聴覚もいいし、病気にもほとんどならない」
「おぉ……完璧超人じゃん」
「あとは相対的に、ブルームに好意や庇護欲を抱きやすいっていうのもあるが……まあ、それはいいとして。ともかく、まあ役に立つ人間なんだよ、ガーデナーっていうのは。だから、国に何人ガーデナーがいるかで国力が決まる——なんて、本気で考えているお偉いさんもわんさかいるっつーわけだ。時代錯誤なこったな」
直護くんが皮肉げに鼻で嗤った。
そんな姿もすっごくかっこいい——けど、もしかすると直護くん、管理機関とやらが好きじゃないのかもしれない。
「昔はガーデナーを産めっていう圧でストレスが溜まって、花が枯れたブルームもいたらしい」
「……え!? 枯れるの、これ!?」
自分の薔薇を見下ろす。
水をあげたりなんてしていないけど、いつだって花弁はみずみずしい。ほんのちょっとでも萎れているところを見たことがない。
「ああ。長男——ガーデナーを産んだら散るし、過剰なストレスでも枯れ落ちる。重篤な病気になっても枯れる。ガーデナーを産む前に前に散ったら、もう花は咲かないし、ガーデナーは産めない。……ああ、普通の子どもは産めるぞ。そこんところの心配はしなくていい」
「いや、まあ……そういう心配はしてないけど……」
「一応最近は、子どもに関して直接的に管理機関が言ってくることは少なくなったらしいが……やっぱ、遠回しにネチネチ言われることもあるんだと。実乃もそういうことがあったらすぐに言ってくれ。マジでこれ、ブルームになって嫌だったこと第一位だって話だから」
「わ、わかった。……ちなみに、第一位っていうのは、なんかそういうアンケートがあったり?」
「俺の母親と祖母だけのアンケート結果だな」
「お、おお……なるほど……。お母さんとおばあちゃん……」
わたしはまだ、直護くんの家族に会ったことがない。
お母さんとおばあちゃんがどんな方なのかは全然存じ上げないが……もしやわたしを気遣って、直護くんに注意を促すよう言ってくれたのだろうか。そうだったら、すごく嬉しいけど。
「それで、嫌な気分になってないか?」
「え?」
「ブルームになりたくなかったとか、思ったこと言ってくれていいぞ」
「あー……うーん……。子どもって言われても、実感が……。あっ、も、もしかして、いますぐ産めって話!?」
「ああ、いや、それはさすがに…………いや、15で出産もないわけじゃないが……。少なくともほとんどは高校卒業後だ。成人以下だと、それはそれでリスクがあるらしいからな」
「卒業後……」
わたしはまだ高校生になったばかり。
卒業後の自分を想像してみても、大学進学しているのか、働いているのか、はたまた結婚して専業主婦にでもなっているのか。……いまいちどれもピンと来ない。
「やっぱりまだ、よくわかんないかも……。だから、嫌って感情もとくに……かな?」
「……そうか。ま、ならひとまずこの話は終わりだな」
一区切りついたとでも言うかのように、直護くんはチョコレートに手を伸ばした。わたしもそれに倣って、チョコレートを一粒食べる。
——子ども。赤ちゃん。
べつに子どもは嫌いじゃない。機会に恵まれるのであれば、赤ちゃんを産むのも嫌じゃない……と思う。
けど、そもそも。出産より前に、重大イベントがあるよね?
いわゆる、そう——子作りとも称される行為が。
そんな考えに至った瞬間、わたしの脳内に上半身裸の直護くんが出現した。
もうそれだけで頭が茹りそうになって、わたしは急いで頭を振って脳内の直護くんを追い出す。
当然、不審な行動を見た直護くんは「どうした?」と尋ねてきたが、わたしは「なんでもない」とミルクティーを飲んで誤魔化すことしかできなかった。




