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花咲くわたしと意地悪な婚約者  作者: はねる朱色


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23.相談

 冬優ちゃんと仲良くなれて、お目当てを含む本を六冊も借りられて、まだ午前中だというのになかなかの充実っぷりだ。

 せっかく外に出たついでだし、このままの勢いでなにか甘いものでも買って帰ろうかな——と一瞬頭をよぎったが、すぐにそれはダメだと考えを改める。

 ここ最近の事件のせいで、ブルームはひとりでの外出を禁じられているのだ。直護くんと一緒に通学をするときはそこまでとやかく言われないのだが、今日のように別行動の日は、ボディーガードとともに外出することが義務づけられている。

 寮内や校舎内はまたべつで警備員さんが配置されているから、玄関から玄関までの道中のみの話ではあるのだが……気軽にお話しできない人がべったりついてくるというのは、なかなかの窮屈さを感じてしまう。

 甘いものは、寮でメイドさんに頼んで持ってきてもらおう。アイスとか冷たいものの用意があればいいんだけど。


「さようならー」

「はい、さようなら。帰り道、気をつけてくださいね」

「はーい」


 靴箱前の廊下に立っている警備員さんに挨拶をして、自分のクラスの靴箱へと向かう。

 すると、そこには先客がいた。


「あ……」

「あっ。えーと……こんにちは、千住くん」

「こ、んにちは……」


 直護くんほどではないけれど背が高く、しかし筋肉質な直護くんと比べるとひょろりと細っこい。さらに肌が青白くて、いつもクマが目立っているように見えるせいか、なんだか不健康そう。それが、ほとんど話したことがない彼、クラスメイトのガーデナー、千住くんの印象だ。

 千住くんは、上履きを履いている途中。ということは、いまから帰るわたしとは違って、彼は来たばかりということだろう。

 とくに仲良くもないクラスメイト相手だから、べつにこのままバイバイでも問題ない。ただ気になることがあって、わたしは彼が歩き出す前に口を開いた。


「千住くん、大学部行ってないの?」


 大学部の講義は希望制だ。けれど、てっきりわたしは、ガーデナーは全員受講しているものだとばかり。

 問いかけられた千住くんは、「あー……」と気まずそうに頬をかく。


「行ってないわけじゃないけど……今日は呼び出しで。期末テスト、95点をとったガーデナーは、自分だけだから……」


 千住くんはそう自嘲気味に笑ったが、わたしは愕然としてしまう。


「呼び出し……!? 95点で!?」

「う、うん」

「えっ、だっ、95だよ!? わ、わたし、最高点が98なのに……! 最低点聞かせてあげようか!?」

「はは……知ってるよ。教室でも食堂でも、聞こえてたから……」

「うっ……。さ……騒ぎすぎてた、よね……。うるさくてごめん……」


 自覚はある。あのときのわたしは、100点をとれなかったことが悔しすぎて、泣き喚いていた。自棄になって、自分の点数も順位も全部晒していたような気がする。恥ずかしい。


「自分はうるさいより……羨ましいって思っちゃったな」

「……羨ましい?」


 思いがけない言葉だ。

 首を傾げると、千住くんは逡巡するように視線を彷徨わせたあと、顔を俯かせた。


「少し、相談というか。ブルームとしての意見を聞かせてほしいんだけど……」

「なぁに?」

「自分のガーデナーに、べつのブルーム——べつの婚約者があてがわれるかもって話を聞いたら、どう思う?」

「…………うええぇっ!?」


 顎が外れるかと思うくらい大声で叫んでしまった。

 すぐそこにいた警備員さんが、「どうした!?」と駆け寄ってきたので、慌てて「話してただけです、ごめんなさい!」と謝る。

 ほっとした顔で離れていく警備員さんの背中を見送り、気持ち声を潜めて話を再開する。


「せ、千住くんと婚約者さんの話ってことでいいんだよね……? その、もしかして仲が悪いとか……?」

「仲はいい、よ。よかったはず。少なくとも自分は、婚約者のこと……その、好き、なんだ」

「わぁ……」


 青白い千住くんの頬が桃色に染まって、なんだかわたしの方まで照れる。


「彼女とずっと一緒にいるためなら、なんだってしたい。なんだってできる。そう、思ってはいるんだ。でも……自分がどう思っていても、他人からはそう見えていないみたいで。最近、管理機関から婚約者の変更を打診され始めたんだ。……たぶん相性が悪いって思われてる」


 話を聞く傍ら、頭の片隅で『これ、相談相手わたしであってる?』と考える。一対一で初めて話す内容がこんなに重いものになるなんて、思ってもみなかった。

 ほかのブルームの意見を聞きたいんだとしても、わたしは一番の新参者。四季音ちゃんたちの方がずっと長い付き合いのはず————いや、もしかすると、新参者だから……だろうか。

 仲がいい人や、事情を知っている人にほど相談しにくいというパターンなのかもしれない。


「的外れなこと言っちゃったらごめんね。婚約者さんから嫌だって言われたとかじゃないんだよね?」

「それは……うん」

「わたしの認識だと、管理機関の目的はブルームにガーデナーを産んでもらうことで、そのためにはブルームにストレスを与えないようにしなくちゃいけなくて、だからなによりもブルームの気持ちが優先される——って感じなんだけど。決まりだなんだって向こうが言ってきても、婚約者さんが強く突っぱねれば、うまいこと現状維持になったりしない?」

「そう、なんだけど……」


 なんとも歯切れが悪い。

 ここに入学した当初は、婚約は管理機関が決めたものだから、わたしたちの意志でどうこうすることはできないという意識もあった。けれど何か月も過ごせば、どちらかというとブルームの裁量権の方が大きいのだと察せられる。

 このわたしの認識は、千住くんの認識と同じ。だが、実際には千住くんも婚約者さんも望んでいないのに、婚約解消されそうになっている……?

 うーん。よくわからない。


「その……一応、まだ絶対に婚約者が変わるって段階じゃないんだ。それで、そういう可能性があるってこと、彼女には伝えられていなくて。早く打ち明けるべきだと思う? それとも隠したままの方がいい? 甘楽さんなら、どっちの方が嬉しい?」

「ん……んー……むむむむ……」


 正直、困った。

 普通にどっちが嬉しいとかない。どっちも傷つく。


「強いて言えば……先に打ち明けといてもらう方、かなぁ……? 98点のときの比じゃないくらい泣き喚きまくると思うけど、管理機関に駄々をこねまくる猶予があると思えば、まあ……。うーん、でも……もし知らないうちに直護くんが解決できるんなら……いやでもなぁ、あとで知らされたらそれはそれでムカつきそう……」


 話しているうちに、ふと思い出す。

 調先輩が婚約者との関係で悩んでいたときのこと。あのとき、直護くんは解決のために、片方の調先輩だけのことしか知らないわたしたちじゃなく、調先輩と婚約者さんの両方を知っているお兄さんに任せることを選択した。

 今回の件も、それに倣った方がよさそうな気がする。

 だって、わたしは千住くんの婚約者さんをこれっぽっちも知らない。この話を打ち明けられたとして、わたしみたいにみっともなく泣き喚いて駄々をこねてでも、管理機関に対抗してやろうと思うタイプなのか。はたまた、傷つきながらもすんなり受け入れてしまうタイプなのか。あるいは、『アンタがわたしの婚約者に変なアドバイスをしたせいで!』とこちらを責めてくるタイプかもしれない。

 逃げの選択だととられても構わない。わたしは素直にそれらを言葉にすることにした。


「……あの、ね。千住くんはさ、わたしに相談しやすいって思ってくれたのかもしれないんだけど……その、わたしじゃ事情がわかんなすぎて……」

「……ごめん」

「あっ、ううん、謝んなくていいよ! むしろわたしがごめんなんだけど、えーっとね、周りに千住くんのことも婚約者さんのこともよく知ってる人っている? お父さんとかお母さんとか兄弟とか友達とか、なんなら先生とか管理機関の人でも。とにかく、ふたりの性格と事情をちゃんと把握してる人」

「まあ……うん、いる、よ。でも……」

「言いにくい?」

「そういうわけじゃ……なくもない……けど。その人には、もうたくさん迷惑をかけて……悩ませてばっかりで……。いい加減、自分のことは自分でちゃんと背負って決めないとって思ってるのに……はは……結局、ばったり会っただけの甘楽さんに頼ってるんだから、世話ないよね」


 千住くんは俯きがちで、表情——とくに目元のあたりが前髪に隠れて見えにくい。けれど、いまにも涙をこぼしそうな、そういう危うさを感じた。


「なんだかいまの千住くん、いっぱいいっぱいに見えるよ」


 つい、わたしはそう言ってしまった。


「自分で背負って決めるのも大事だけど、だからって自分を追い詰めることないと思う。その相談相手さんから嫌がられてるとか、直接迷惑だって言われたとかじゃないなら、また頼ってみてもいいんじゃないかな? その方がわたしに相談するより、千住くんや婚約者さんに寄り添った答えを聞けると思う。……あ、いや、絶対聞けるってわけじゃないんだけど。でも、ほら、可能性的にね?」


 締まりのない言葉選び。我ながら、もっと不安を吹き飛ばせるような言い回しをしてあげろよ、と思う。

 しかし悲しいかな、わたしは大概お気楽に生きてきた人種なので、重みのある言葉というものをひねり出すことが難しいのだ。

 だからこそ、シリアスな、人生が左右されるような問題の相談相手に、わたしを選ぶべきではない。わたしの性格や普段の言動に疎い人は、なおさら。


「どうしても難しいなら、たとえばカウンセラーさんみたいなプロに相談してみるのもアリかも。……ごめんね。せっかく勇気を出して言ってくれたのに、こんなことしか言えなくて」

「……ううん。ありがとう。甘楽さんがちゃんと誠実に考えてくれたこと、伝わってるから」


 少しだけ胸を撫で下ろす。

 千住くんの悩みを晴らすことはまったくできていないけれど、どうやら最低限度のアドバイスはできたようだ。

 千住くんは少しだけ歩を進め、振り返りざまにもう一度「本当にありがとう」と口にした。


「気をつけて帰ってね。いろいろと……最近は物騒だから」

「うん。千住くんも、帰るときは気をつけてね。あと、いっぱい寝て、いっぱいご飯食べるんだよ。ガーデナーだからって、体調を疎かにしちゃだめだからね。バイバイ!」


 手を振ると、千住くんも手を振り返しながら立ち去っていった。

 ——さて。図書室を出るとき、『用事終わりました』とボディーガードさんにメッセージを送ってしまっている。きっと待たせてしまっているだろう。早く待ち合わせ場所の校門に向かわなくては。

 靴箱から靴を取り出し、代わりに上履きをしまう。

 そうして靴を履いているところで、ふと思い出した。

 ——そういえば、芽繰ちゃんのお姉さんの婚約者が、千住くんだっていう話じゃなかったっけ。

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