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花咲くわたしと意地悪な婚約者  作者: はねる朱色


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11.引越

「実乃!!」

「直護く————わっ!?」


 事件後の検査を終え病室を出たわたしは、廊下の真っ只中で、しかも看護師さんとボディーガードさんの目の前で、直護くんに抱きしめられた。

 正直すごく恥ずかしいけれど、直護くんの「よかった……」という言葉を聞いてしまえば、離れようとすることもできない。

 仕方がないので、直護くんだけに集中して、看護師さんたちの存在は忘れることにした。

 …………いやでも、直護くんに集中すると、それはそれでドキドキするな。それになんというか、直護くんの腕が力強くて、顔が直護くんの胸に押しつけられて息がしづらくて、痛くて苦しくて。


「えへ……。うえへへへ……」

「…………実乃、お前」


 直護くんの体が離れる。

 見上げると、呆れた表情の直護くんと目が合った。そして、頬を摘ままれる。


「いひゃい」

「あんま外でその顔すんなって。……まったく、どんだけ心配したと思ってんだ」

「あい。ごえんなあい」


 一応真面目そうな顔を作って謝ると、頬を解放される。

 もっと強くほっぺ引っ張ってくれていいのに——という言葉は言わないでおいた。


「怪我はしてないって聞いたが……検査結果はどうだった?」

「オールAの問題なし! カウンセリングは一応また来週もって話だったけど、薔薇が微塵も変化してないから、たぶん精神面も大丈夫だと思うって言ってた」


 わたしは胸を張ってそう伝えたが、直護くんの不安を完全に払拭するには至らなかったようだ。

 わたしの顔と薔薇を繰り返し見て、「無理してないな?」「少しでも思うところがあるなら、ちゃんと言えよ。俺に言いにくいなら、友達にでも、カウンセラーにでもいいから」と何度も念を押された。

 すごく心配性だ。わたしとしては、わたしよりもあやめちゃんや手鞠ちゃんたちの方が心配なんだけど。芽繰ちゃんも無事だっていうのを人づてに聞いただけで、まだ会えていないし。たしかほかのクラスメイトも、ちらほら同じ寮住まいだったはずだし。

 今日はボディーガードさんを扉前に置いた病室で寝泊まりすることになるようで、わたしたちはその部屋へと案内された。

 侵入者は窓を割って寮に入ってきたらしい。それを踏まえてか、窓のない、ドラマとかで見る無菌室みたいな部屋である。

 ボディーガードさんもいてくれるということで安全なんだろうけど、ずっとこんな部屋で過ごすのは、ちょっと嫌になりそうだ。


「明日、みんなと会えるかな? 学校どうなるんだろ」


 まだ面会終了時刻まで余裕があるため、ベッドに並んで座って、直護くんと話を続ける。


「まだその連絡は来てないが……その前に、住む場所がどうなるかだな」

「えっ。もしかして、引っ越し?」

「とくにブルームはそうだと思うぞ。侵入者は捕まったが、どうも黒幕っつーか、裏にほかの人間がいるみたいだからな」

「……黒幕?」


 なにやらきな臭い話になってきた。

 直護くんはスマホを取り出す。


「逐一、管理機関から情報が飛んできてんだよ。まあ、まだ少ないが……たとえば、侵入者は学園関係者ではなかった、とかな。来校申請書での申請があった人間でもないらしい。それどころか薬物関係で逮捕歴があるとも書いてある」

「……そんな人、寮どころか、どうやって学園自体の敷地に入れたの? まさか塀をのぼったとかじゃないよね?」

「あー、その情報は……いや、まあいいか。ここからは、あくまでも裏取りができてない、薬物依存の可能性が高い人間の言葉になる」

「おっけ。まるっと信じちゃダメってことだね」

「そ。侵入者曰く、車で運ばれてきたそうだ。後部座席の、足元の部分に隠れてな」

「え……じゃあ、入り口のとこの検問みたいなあれ、普通にスルーしちゃったってこと?」

「ここ何年も、こういう事件は起きてなかったから——ってのは、さすがに言い訳にならねぇよなぁ」


 要するに、なあなあな確認作業が常習化していなければ、今回の事件は防げていたかもしれないということか。

 これでは、ブルームとガーデナーの保護を名目にあげている安心安全の学園も形無しである。


「まあもちろん、機関の方から指導が入るだろうし、再発防止策は講じてくれるんだろうが……一番の問題は、学園関係者か生徒の身内に協力者がいるってことなんだよな。しかも、もしかすると複数人」


 直護くんは頭が痛いというような表情で、ため息をつく。


「これも侵入者曰くの話だが、騒ぎを起こせって依頼を受けたらしい。依頼人はスーツを着た男だがサングラスとマスクで顔は曖昧。多額の前金を受け取ったことで、見知らぬ怪しい人間の作戦に乗ったと言っているそうだ」

「……それってもしかして、また似たような事件が起こる可能性高い? だって、依頼人は捕まってないんだよね……?」

「残念ながらな。だから引っ越しだよ」

「あー、そっかぁ……なるほど……。うー……まだ住んで一か月だよ? めんどくさあ……」

「俺が手伝いに行けりゃいいんだが……女子寮となると、入れねぇだろうし」

「むしろ、女子しか入れないっていうのがいけなくない? 今回だって侵入者がひとりだったからよかったけど……いやよくはないんだけど……もし、もっといっぱいいたら、女性警備員だけじゃキツイって、絶対」

「……まあたしかに、その問題はあるよなぁ」


 ——このとき、まさか『その問題』に対してとんでもない解決法が提示されるなんて、思ってもみなかった。





 ◇





 ゴールデンウィークは二日だけ延期となった。

 その間に行われたことといえば、直護くんの予想通り、ブルームの引っ越しだ。

 そしてこちらはわたしも直護くんも予想していなかったことだが、ガーデナーも複数人引っ越すことになった。

 なぜかと言われると。


「ええと……じゃあ、あの……あ、改めて、よろしくお願いします……?」

「……おう」


 ぴかぴか新築2LDK。LDK部分の家具もほとんどがぴかぴかの新品。個室2部屋にはそれぞれ、わたしが寮で使っていた家具と、直護くんが寮で使っていた家具が運び込まれている。

 前のキッチンなしワンルームと比べるとかなりの進化具合だが、重要なのはそこではなく——まあ、つまり、同棲が始まったのである。

 管理機関が考えたブルーム保護強化策のひとつが、昼夜問わずガーデナーといればいいんじゃね? というものだったのだ。

 この話をハウスメイドさん経由で聞いたときは、正直、非常に悩んだ。

 理屈はわかるのだ。理屈は。わたしだって、女子ばっかりで固まっているのも問題があるんじゃないかと思ったほどだったのだから。

 けれどまさか、婚約者とはいえまだ高校生の男女を同じ部屋に押し込むとは思わなかった。

 さらにこの同棲に、双方の親が電話一本で承諾を出すなんて思わなかった。

 とんとん拍子で話が進みすぎて、心構えをする時間すら与えてもらえなかったんだけど。


「あー……なんか作ろうか。寮食は明日の朝からって話だったろ。出前でもいいが」


 緊張しているわたしを見かねたのだろうか。直護くんがそう提案してくれた。


「嬉しいけど……今日は引っ越しで疲れてるでしょ? 出前で全然大丈夫だよ。明日から学校だし、ぱぱっと食べてお風呂入って…………お風呂…………」


 言葉にすることで、変に実感する。余計な緊張を自分で積み重ねてしまった。

 中学の修学旅行でも、男の子のお風呂あがりは見なかった気がする。たしか女子と男子で入浴時間がズレていたはずだから、わたしも男の子にお風呂あがりを見られたことはない。

 というかよくよく考えたらわたし、子どもっぽいパジャマしか持ってない……!


「……ふっ。実乃、さっきからすげぇ顔してる」

「だ、だってぇ! 逆に直護くんはなんでそんなに普通なの!? わたし心臓バクバクしっぱなしなのに~!」

「俺だって緊張してるよ。……触って確かめてみるか?」


 そう言って直護くんは、自分の心臓のあたりを指さした。

 意地悪く笑う顔に、ますますわたしの心臓は悲鳴をあげる。


「触んない! これ以上ドキドキさせないで! ぶっ倒れるよ!?」

「それは困るな。出前、なんにする?」


 やっぱり直護くんは余裕そうで、出前を選ぶときも、頼んだピザを一緒に食べるときも、ずっといつもと変わらない調子だった。

 その調子が目に見えて崩れたのは、わたしがお風呂からあがった直後のことである。


「お、お先でした……次どうぞ」


 前開きの、子どもっぽいシロクマ柄のパジャマ。本当は見られたくなかったけれど、全面ハート柄パジャマよりマシだと割り切ってリビングに行くと、「おう」と返事をしながらこちらに視線を向けた直護くんが数秒わたしの胸元を見つめ、そのあと勢いよく顔を逸らしたのだ。

 パジャマのボタンは三つ開けている。そうしないと薔薇が布に当たって、嫌な着心地になるからだ。

 でも、いつもの制服だって胸元の開き具合は変わらないのに——そう思って自分の胸元に視線を落とすと、濡れた薔薇から滴る水が胸元を濡らし、薄手のパジャマの、シロクマ柄の白い布部分から、ナイトブラの色が透けて見えていた。

 顔を背けている直護くんの耳が赤い。——完全に見られた。

 理解した瞬間、せっかくお風呂に入ったというのに、汗が噴き出る。


「ちがっ、これは、だって薔薇はいつも自然乾燥だから……!」


 変な言い訳を並べても、直護くんはうんともすんとも言わない。いっそ笑ってくれた方が助かるのに。

 恥ずかしすぎる。気まずすぎる。——逃げたい。

 だから、逃げることにした。


「おやすみなさいっ!!」


 一応、胸元は両腕で隠しつつ、すばやく自室へと逃亡。そして、ベッドへダイブ。

 まだドライヤーをしていないから髪はびしょびしょだし、薔薇も乾いていない。このままじゃ、布団が湿っていくのはわかっている。でもまだしばらくは、身悶えることしかできそうになかった。

 いままでまったく意識していなかったことにも気を使う。男の子と一緒に暮らすというのは、そういうことなのだろう。


「いつかは慣れるのかなあ……」


 その兆しが見えるのは、まだまだ先になりそうだ。

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