1.うちの居酒屋に魔王が来てしまった。
――朝八時、夏の眩しい太陽が、『ひより亭』の窓を橙色に照らしていた。
「ふぁ~っ、ねみぃ~……」
俺は自宅の二階から店のある一階に降りて、空に向かってあくびをした。
この居酒屋、『ひより亭』を営んでいたばあちゃんが今年死んじまったことから、母ちゃんと一緒にこの店を継いだばかりであり、大学に落ちたいわゆる『落ちこぼれ』な俺。
最初は右も左も分からなかったが、なんとか仕事が出来てきているつもりだ。
今日もいつもと同じように台所の掃除をしていると、カラン、と戸の鈴が軽く鳴った。
……ん? 待て待て待て、今まだ営業時間じゃないぞ? あれ? 準備中の看板かけ忘れた?
「こんちゃっ、大将殿! 俺、これからこの現代…にほ…にっぽ、日本か! この現代日本で勇者と戦をせねばならないんだが、なんか飯をくれ!」
……は?
俺は目の前の光景に目を疑った。
なぜかって、目の前には黒い羽を贅沢に使ったローブを羽織り、頭に二本の角を生やした、如何にも『魔王』としか言いようがない、大柄な男が立っていたのだ。
「え、あ、あ、あの~……お、お客様、すみませんが今は営業時間外でございまして……」
俺はあまりの威圧感に背中を丸めながら、ぼそっと話す。
「ん? エイギョウジカンガイ? なんだそれ、勇者が持ってるアイテムか? 嘘だろ!? そんなのがあったのか!? 家来に詳しく調べておくよう言っておいたのに!! リサーチ不足ではないか!! 情報提供ありがとう、大将殿!! あと、飯をくれ!」
「え、あ、いや、あ、あの、これは勇者のアイテム? じゃな「あら、お客さん? こんな朝早くから来てくださってるんですか~!」
俺が慌てていると、母ちゃんが上から降りてきて、魔王に話しかけていた。
「おお、女将か? そうそう、今日勇者と戦をせねばならんのだ、なにか飯をくれ!」
「あら、そういうことでしたかー! すぐご準備いたします!」
母ちゃんは張り切って台所に立つ。
「ちょ、待て待て母さん! あの客絶対なんかおかしいぞ、なんか魔王みたいなオーラ放ってるけど!! あんなやつ店に入れて大丈夫なのかよっ」
俺は母ちゃんに小声で問う。
「まあ魔王でもなんでもいいじゃない、今うち赤字なんだから! あなたも浪人かなんかするのは分からないけど、お金いるんでしょ? さっさと働きなさいよ~!」
いやいや、それとこれは関係ないだろ…
俺は母ちゃんの『マネーファースト』に心底失望した。
下手なことしたらこの魔王何するか分からないだろ……
ハイジャックでもされるんじゃねえか……
「ちょっと、あなた! ちゃんと働いて! お客さん目の前にいるでしょ!」
「え、あ、あ、おう……」
俺は動揺しながらも、しぶしぶ卵焼きを作って魔王に出した。
魔王はただの卵焼きに目を輝かせ、バクバク口に卵焼きを運んだ。
「!? 大将殿、この黄色いふわふわなもの、すごく美味いな!! 名前は何と言うのか?」
「あ、卵焼きって、言います……」
「おお、タマゴヤキと言うのか! なんか良く分からんが、また作ってくれよ! さて、早速口コミを書かねば……」
「え? 口コミ?」
俺は首を傾げた。
こんな日本に来てまだ時間が経ってなさそうな魔王が口コミを書く? なんかおかしい気が…
「大将殿、この俺様がばっちりお前の店に口コミをつけてやったからな!」
魔王は親指を立てる。
「あ、あの~、お客様、口コミっていうのはどのことですか……」
俺は魔王にぼそぼそ問う。
「あれ、大将殿、知らんのか? 今、我ら異世界転生者がこの現代日本のいい店をシェアするアプリ、『テンセイレビュー』で口コミを書いたのだよ!」
「テ、テンセイレビュー?」
「ああ! それでお前の店がすっごい好評だったから、俺様も来てみたんだよ! そしたらめっちゃ美味かった!! だから転生者の中で一番影響力のある俺様が、口コミを投稿すればこの店も大繁盛だろ? じゃっ、ありがたく思えよー! じゃあなー!」
魔王は立ち上がり、ドアを開けて外に出て行った。
「あ、ま、またのお越しをお待ちしております!」
ふうっ……疲れたぁ……最近変にリアルなコスプレしてる客が多いと思ったら、転生者だったのかよ……
てかほんとに転生者っているんだな…
…………ん? 待てよ? 転生者の中で一番影響力がある魔王が口コミを投稿した?
…………明日からやばいかも。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!!
ぜひ、次もお楽しみに~!




