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SAKI  作者: 秋葉
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SAKI05

いつの頃からか意識が芽生えていたのだろうか。


半透明で缶コーヒーくらいの円筒形の大きさのそれは、川の底で(うごめ)いていた。


「憎い!憎い!憎い!どうやってこの感情をぶつけてやろうか?」ただひたすらそう思念しているそれは、名前を「(わい)」という。



男がいた。真面目で気さくでよく働く職人であった。


ある日。男はついつい賭け事をしてしまった。結婚を機会にギャンブルからは足を洗っていたはずであった。


この男の唯一のダメなところ、それがギャンブルである。


ギャンブルはしない。それが嫁との約束でもあった。


「今日は昨日の負けを取り戻すんだ。」「今日は必ず勝てる日だ。」「だめだ。もうギャンブルは辞めるんだ。金輪際、手を出さないぞ!」


「また今日も負けてしまった・・・」


儲けをギャンブルに注ぎ込み始めて、宿(いえ)にお金を持って帰らなくなり始めた。


「あんた。こんなのでどうやって食べていくのよ?」嫁に叱責(しっせき)された。


それがストレスになり、解消するために、またギャンブルにのめり込む。


「なぁ、明日には必ず返すから、金貸してくれよ。一万円!あ、いや、五千円でいいんだ。」


職場の人間にお金を借り始めた。


「あいつに金貸しちゃダメだ。返ってこないぞ。」「どうやら賭け事に狂ってお金を無くしているいるらしい。」


だんだん男から人が離れていく。


とうとう親方から給料を前借りして、それも返せなくなった。


親方は彼に告げた。「働いて返しなさい。だが、給料はあんたの奥さんに渡すからな。」


男はお金が手に入らないことを悟ると、仕事にも顔を出さなくなっていた。


男は途方に暮れて橋の欄干に持たれて、流れる川をぼうっと見ていた。


『どうした?』男はあたりを見回す。誰もいない。『話くらいなら、聞いてやるぞ?』


「誰なんだ?あんたは?」


『誰でもいいじゃないか。ただで話を聞いてやろうっていうんだ。話せば楽になることもあるだろう。』


男はお金がない事、ギャンブルが原因であることを、川面に向かってしゃべり始めていた。


(実は、最初の『どうした?』の声かけで、すでに男は矮の手中に落ちていた。)


『じゃぁ、俺がお前に金を貸してやろう。』「ほんとうか?」男は小躍りして喜んだ。


『それだけじゃない。俺がお前を必ず勝たせてやろう。』「そ、そんな事ができるのか?」


『ああ。だがな。ひとつやらなきゃならないことがある。』「か、勝てるんなら、お金が取り戻せるんなら、仕事に戻れるんなら、何でもする!」


『お前の中に俺を取り込むんだ。』「えっ・・・?どういうことだ?」


『俺はギャンブルにめっぽう強いんだ。だがな、残念なことに身体がない。だからお前の身体を借りてお前を勝たせてやろうって話だよ。』「う〜〜〜ん・・・」男が迷っている。


『ああ、俺はいいんだ。お前の話が聞けただけで。じゃ、さよならだ。』「まっ、待ってくれ!分かった。分かった。俺に入ってやってくれ。」


『いいのか?』「ああ、だが本当に、本当に大丈夫なんだろうな?頼んだぞ?」


『任せておけよ。さぁ、口を大きく開けな。』


男が口を大きく開けた時、しゅっと何かが男の口に入った。男が白目をくるんと剥く。表情が一変する。


『わはははは。馬鹿なやつだ。』それはもう職人の男ではなく矮であった。


真夜中。矮は男の粕渕にある自宅に帰宅した。寝所に向かう。この男の嫁が寝息を立てている。『まず、この男の意識で一番大事なこいつを栄養にすることにしよう。』


寝ていた女性は「しゅっ・・・。」という音とともに意識を失った。


『あ〜、力がみなぎるねぇ。じゃ、次は2番目に大事な娘をいただくとしようか。』


その時、壁が破れて大男が飛び込んできた。「何をしている?」


『ああ?邪魔すんじゃねぇ!』


矮が空気中の水分を凍らせて無数の槍にし大男を攻撃をする。


大男は背中から刀を抜き一閃して矮ごと叩き落とす。


矮は一回のこのやり取りでこの大男に歯が立たないことを悟る。


大男が刀を切り返し次の攻撃に移る前に手負いの矮は川に飛び込んで逃げてしまった。


「なぁに?おかあさん?・・・ひっ!」めちゃめちゃに荒れた部屋の惨状を見て娘が驚く。


大男は咄嗟(とっさ)に女の子の口をふさぎ、大きく跳躍した。


「これはまずいことになったな・・・。」大男は豪鬼であった。


男の体のまま傷が癒えるまで矮は江の川に移動して水中に何日も潜んでいた。


『くそっ!あんなのが居たんではいつまでも俺の思い通りにはならない。憎い!憎い!どうしょうもなく、憎い!』


数日経って傷が癒えた矮は獲物を探して歩き回っていた。姿は誰にも見えないよう呪をかけてある。


ある日、道路を歩く女がいることに矮は気づいた。『次はあの女にしよう。だが前のように邪魔をされてはかなわん。どうしたものか・・・。』


矮は女に近づき、まずは思念を読むことにした。『なんだ?悲しんでいるな・・・。』


『どうした?お嬢さん・・・。大事な人が死んだんだねぇ?悲しいねぇ?』


女の子はあたりを見回す。「なに?だれ!」


『ああ済まない。驚かすつもりではなかったんだ。』笑顔の男が山際の木の陰から姿を表した。


『もう一度会いたいとは思わないかね?』「・・・あなた、誰です?」


どうも年頃の女は警戒心が強くていけない。矮は、ぼそっとつぶやいた。


『死んだと決まったわけじゃないんだ。だって死体はなかったんだ。』


「そんなことは、このあたりの人みんな知っているわ。何がいいたいんですか?」


『その娘に会わせてあげようって・・・。』


「佐姫はどこに居るんですか!」ひな子が大声をだす。


『お、おちついてください。』「落ち着いてなんかいられないわ。おじさん、佐姫はどこに居るんですか?」


『その子はね。あるところに居るよ。』


口からでまかせである。


『おじさんについてきたら・・・』


「ああ!そうだったんだ。」女の子の顔がぱっと明るくなった。「待ってて下さい。今、他の人も呼びますから。」


突然女の子がばったり倒れた。矮のせいだった。


『あ~~~~。いいねぇ。若い女も。』矮はにやりと笑ったが、ふと、気配を感じ素早く近くの小川へ逃げた。


大男は空からまるで降ってきたかのように「どん!」と、道路に降り立った。


「くそっ!」あたりを見回し歯ぎしりをする大男。


豪鬼は数十キロをひとっ飛び出来る跳躍力と、同じくらいの範囲の異変を察知できる能力を持っている。


川本にいた豪鬼は異変を察知し、すぐここまで来たがすでに矮は消えた後だった。


ひな子の運び込まれた病院。


医者が缶コーヒーを持ったまま宙を仰ぐ。


下校中に倒れたとして、CTを撮っても、血液検査をしても何処にも異常がない。


「一体、どういうことなんだ?何が起こったらああなるんだ・・・。」


医者は頭を抱えた。


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