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SAKI  作者: 秋葉
2/13

SAKI02


佐姫(さき)は、粕淵(かすぶち)志学(しがく)の間に住んでいた、高校3年の女生徒であった。


雨の続いたある日、いつものように大田高校に通学するために家を出た。


そして、屋根付きの座って待てるバス停があるので向かっていた。


そこで佐姫の人生は終りを迎えた。巨石が佐姫の上に降ってきたのである。


最初に見つけたのは、軽トラに乗って通りかかった近所のおじいさんであった。


ちょうど佐姫が下敷きになった瞬間を見てしまったのである。


なんたことだら(大変だ)!」


車を路肩に停めて石を力いっぱい押したがびくともしない。


慌てて携帯で警察を呼んだが、警察が来たところでなにか出来るもんではなかった。


両親も祖父母も地区の住民も集まってみたものの、手のうちようがない。


打ちひしがれる両親の横で「はよう、出してごせやぁ(ください)・・・。」祖母が周りの者に取り付いて叫んでいた。


翌日、重機を出して石をどけてみたものの、なぜかそこには佐姫の姿はなかった。


「あそこの爺さんがころいただないか(殺したんじゃないか)?」


なんが(いやいや)あがやって(ああして)石のせいにしてどっか(どこかに)行っただで(行ったんだろう)?」


地域の皆が色々な噂をし合ってはいたが、全く証拠もなければ確定できることも何もなかった。


まだ一月前のことである。


佐毘売(さひめ)は、前から佐姫の存在を知ってはいた。しかし、悠久に近い時を生きる佐毘売にとって今までもたまに見かける形代のひとりであって、「どうしてもこの子じゃないと。」というわけではなかった。


昔は子供は大量に生まれ大量に死んでいた。育ち切る前に感染症、飢饉(ききん)などですぐ死んでしまうのだ。だから、自分の次を継ぐ存在の形代(かたしろ)には困らなかった。


7歳までは「神の子」と言い、この世のものでもあの世のものでもない。というふうに言い習わしていた。だから、死んでも死んだんじゃない。まだ、生まれていないのだから。神様のもとに帰っていったのだと。


そうやって、子供を亡くした深い悲しみを癒やしていたのである。


最近は、子供が極端に少ない。小学校の全生徒数が10名、20名といった状況である。

その上、子供は死ななくなった。だから形代は先細りである。しかし、そうであっても千年にひとりくらいのペースでしか必要でないのが形代であった。


佐姫は、最初は泣き狂っていた。


親に会いたい。学校に行きたい。友だちに会いたい。もとに戻りたい。


しかし、それは佐毘売にも無理な話であった。もう今は佐姫は人に見えないのである。


人には見えないが移動は自由である。


親や祖父母の生活は、見に行くことは出来る。しかし、喋っても聞こえない、姿を見せることも出来ない。つまり干渉することは出来ない。

唯一祖母には佐姫の姿が見えるようで、「佐姫がおおで(居るよ)!ほれ、そこにおおが(居るじゃない)!」というが

周りは気を使って「そがだね(そうだよね)ぇ。」というだけである。


割と早く佐姫は立ち直った。時々は家に戻っているようではあるが、佐毘売の下で家事見習い的な事をしている。


ある日、佐姫は家に帰っていて、縁側から外を眺めていた。


女生徒が通りかかった。佐姫の同級生の女の子、ひな子であった。


「ひな子、私のことは見えないよね。」


ひな子がいきなり倒れた。「え?なに?どうしたの!」


佐姫はひな子のそばまで駆け寄った。しかし触ることも声をかけることも出来ない。


通りかかった車が、倒れているひな子をみて救急車を呼んだ。


ひな子は、病院に運ばれたが、昏睡状態になっていた。


お宮。


打ちひしがれた佐姫が座り込んでうつむいている。


「ひな子に何が起きたの。何が、誰がひな子をああしたの?」


佐毘売は佐姫を呼んだ。「(かたき)を取ってみるかい?」


佐姫はじっと佐毘売を見たまま、大きく頷いた。


ひな子とは、生まれたときからずっと仲良く大きくなってきた。


七五三のお参りも一緒。初詣も一緒。学校も一緒。お互いの家を行き来して勉強もしていた。遅くなったら夕食も、お風呂も、寝るのも一緒。


ひな子と過ごした日々を思い出ながら、佐姫の怒りは頂点に達していた。


しかし、佐姫に何かが今すぐできるわけではなかった。


佐毘売が言う。「あんたのここに宝珠があって。」そう言いながら佐姫の胸の谷間にちょんと人差し指をさす。


すると、胸から出た光が差姫の身体全体を包んだ。


「今はあたしがきっかけで光ったよね?まずはこれを自ら光らせるように出来るようになって。」


「どうしたら、出来ますか?」


水垢離(みずごり)するの。外に手を清めるための場所があるわよね。その水を仕事が終わったあとで毎日百杯、かぶりなさい。」



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