SAKI13
江の川 浜原辺り。
川原で男二人、女一人が鮎を焼いて食べている。歳の頃は皆三十歳代くらいに見える。
「おい!もっと魚焼こう!酒がうまいな。」火の周りの大きな石に座って酒を呑みながら男が話す。名を白竜という。
「分かった、分かった、そう急くな。」火を見ながら木を足している男が答える。豪鬼である。
「もっと、お魚に塩を利かせてよぉ・・・。」ボンボンベッドの上に寝転がっている女が声を掛ける。佐毘売であった。
「はぁ・・・。分かった分かった。」豪鬼がくたびれたように返事をした。
「ええ?何か文句あんの?ここいらじゃ私が一番、顔なんだからねっ!グダグダ言ってると噴火するわよ!神戸川も江の川も流路を変えられたいのぉ~~~~?」
「おい、もう酒が残ってないじゃないか。今封を切ったばかりだぞ。佐毘売、お前酔いすぎだ。少しはペースを考えてだな・・・。」
「うっさいわねぇ。私に逆らう気?あの大山ですら、前後不覚に怒って山体が変わるくらいの破滅的な噴火を起こしても、こっち側だけは噴火させなかったのよ?わかるぅ~~~?私が怖いからだよぉ。あはははは!」
男二人は顔を見合わせる。「あいつ、ヤバいな。」「おっ、おお・・・。」
豪鬼が魚を差し出す。「佐毘売様、お塩をよく効かせた鮎が焼き上がりました。」
「うむ。苦しゅうない!」佐毘売が鮎をぱっと奪い取り、うまそうに食べ始めた。
「はぁ~~~。きょうはこれ、大変だぞ?」
「儂も、ガンガン飲んで酔っ払って不覚になるので、豪鬼、あとは任せたぞ?」
「ええ!勘弁してくれぇ・・・。」豪鬼が困り果てている。「おおとは、広島から来るんじゃなかったのか?」
「来ないだろう。あいつは佐毘売の酒癖、知ってたんだろうな。今日はこの界隈の流域の顔役の親睦会だと言うのに。付き合いの悪いやつだな。」
「まぁ、仕方がない。これは確かに酷い。出たくないのもなんとなくは分かる。」困った顔で豪鬼が言う。
「誰か、お酒注いでちょうだ〜〜〜い!」盃を高く突き出して佐毘売が叫ぶ。
「お、おう。」豪鬼が佐毘売の杯に酒を注ぐ。
「豪鬼、あんたの流域、広いわねぇ。」
「たしかに大きいな。」
「あれだけをどうやって管理するのさ。」
「部下がおってだな。支流ごとに分担しておる。」
「ふ〜〜〜ん。白竜。あんたはひとりでやってんの?」
「儂か?そうだな。神戸川は儂ひとりで流域を見ておる。隣の斐伊川は、そうはいかんようだがな。」
「八岐のところね。あいつも呼んだらいいじゃない。」
「八岐様はだな、大国の件で身動き取れんのだ。」
「あ、そうだったわね。で、どうなのよ大国は。」
「もともと根の国の民だからなぁ。どうにも分からんのだ。向こうにも言い分はあるだろうがな。」
「まぁ、攻めて来るようなら、私も力を貸すわよ。といっても攻撃力ゼロだけどね〜。」
「いやいや、佐毘売の補給力、回復力は類を見ない。」
「褒めても何もでないわよ〜〜〜。っていうか、魚ちょうだい〜。塩をよく振ったやつ。」
「あれが一番の呑助だな・・・。」
「なんか、言ったぁ〜〜〜?噴火するわよぉ〜〜〜?」
男二人は顔を見合わせる。「あいつ、まじでヤバいな。」「おっ、おお・・・。」