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SAKI  作者: 秋葉
11/13

SAKI11

佐姫(さき)は朝から日常の家事を行っていた。


起床して朝餉(あさげ)の用意を始める。


三瓶で採れた米と野菜を使ったお味噌汁、和江の港で捕れた魚、今日は鯖を一切(ひときれ)焼いて。


佐毘売と佐姫とエノの三人分。


食べ終わったら、お宮の朝のお勤めを行い、掃除を始める。


エノは午前中は勉強をしている。花雪が先生である。


昼餉(ひるげ)をしている時、ラジオからニュースが聞こえてきた。


昨日夜、浜原の国道を歩いていた女性が突然意識を失い倒れました。同様の現象が粕渕、志学でも起こりました。


警察は事件、事故の両面から捜査を行っています。


花雪と佐姫は顔を見合わせた。矮は消えたわけではなかったんだ。一日のうちに何人もの人が被害にあってしまった。消滅させたとばかり思っていたのに。


豪鬼がやってきた。浮かない顔をしている。「儂が行ったときには、もうすでに消えておった。今まで周囲をできるだけ細かく調べておったが何も痕跡がなかった。ただ、状況を見るに(わい)の仕業と見て間違いないだろう。」


花雪は(あご)に手を当てて考え込んでいる。


「意識を抜いてエネルギーにして、それで増えたのではないでしょうか?」


「では、最低でも2体の矮が居ると?」豪鬼が確認する。


「確証はありませんが・・・。今日も犠牲者が出るかもしれません。できればすぐパトロールを始めましょう。矮は不利になると川へ水の中へ逃げようとします。川沿いを探してみましょう。」


豪鬼と花雪はパトロールを開始した。あずも程なくやってきた。


花雪とあずが一緒だと空を飛べるので、人から見えないように呪をかけて空中から広範囲に警戒して、豪鬼は粕渕駅で待機することにした。


あずが気づいた。「あそこ!今、人が倒れた。!」


見ると粕渕の駅前を歩いている女性がいきなり昏倒したところだった。


すぐそこには豪鬼が居る。


豪鬼は半透明で円筒形の矮に向かって背中の刀で一閃した。「ひひっ。当たるもんかよ。また俺の邪魔をしに来たのか?憎い!憎いぞぉ!」そう叫ぶと、おびただしい氷柱を飛ばしてきた。


豪鬼はその無数の氷柱を背中の刀の一閃で吹き飛ばしたその時、真逆の方向から無数の氷柱が豪鬼を襲った。「ぬおっ!」避けきれず氷柱を受けてしまう豪鬼。


花雪が叫ぶ。「豪鬼さん!池田へ飛んで!早く!」豪鬼は戦線を離脱した。


矮は二体いた。


ー あず、二体だけだとは思わないで。何体居るか分からないから、遠距離攻撃で。


花雪が指示を出す。


「バリバリバリバリ!」あずは 10メートルくらい離れた位置から電撃を飛ばした。


「ひひっ。そう何度も何度も同じ手は食わねぇよ。」矮は飛び跳ねて攻撃の範囲外に移動した。


そこに


《合力!》まばゆく光ったかと思うと同時に佐姫の攻撃が届いた。


矮は攻撃を避けきれず、佐姫の放つ広範囲攻撃に身をさらしてしまった。『ああああ!痛い!憎い!痛い!憎い!』


その間にもう一体の矮を花雪の攻撃が襲う。《二刀刃(にとうじん)!》花雪は日本の刀を重ねて融合させ

攻撃を飛ばす。矮は攻撃を飛び跳ねて避けたが、その方向はもう一体の矮のところであった。


「バリバリバリバリ!」そこにあずの電撃が再び襲う。


『おのれぇぇぇぇ!憎い!憎いぞぉ!』


(しび)れて動きを止めてしまった二体の矮。そこに佐姫の放つ収束攻撃が貫き固定した。


佐姫と押ケ峠の声が重なる。「あなたは和魂(にぎみたま)?それとも荒魂(あらみたま)?」


「びゅおおおおおぉぉぉぉぉ・・・」《風刃!》花雪は刀を柄のところで合わせて薙刀のようにして一体化、高速回転させ、大きな風切り音とともに固定された矮を切り刻んだ。


『くそぉっ!卑怯者め。よってたかって攻撃しやがって。覚えていろよ!憎い!憎い!憎い!』


断末魔とともに二体の矮は消滅した。




池田。血まみれの豪鬼はよろよろと湯屋を歩き、蹲踞(そんきょ)をして、かけ湯で血を流す。それだけで

出血は止まった。「ふぅ!」と一息ついて湯船に浸かり目を瞑る。しばし、まどろんでいた。


「ぱりぱりぱり・・・。」何か、チクチクするような、それで心地いいような。


目を開けてみると、湯船にはエノがいて真剣な顔をして両手をこちらに突き出している。


豪鬼が目を開けたのに気付き、一瞬ニコッとしたが、また真剣な顔で作業をしている。


「おいおい。お主がそんな事をしなくてもいいのだ。」


「いけませんか?」


「いや、いけないというか、お主人間であろう?身体に害はないのか?」


「何ともないですよ?」


「かたじけない。心配をかけたな。でも、子供がここまでせんでいい。な?儂は大丈夫だ。ほら、このとおり。」


力こぶを作り、ふと見ると、エノは気を失いかけている。


「ああ。いわんこっちゃない。」豪鬼は慌てて抱き上げると脱衣所に向かった。



花雪とあずはお宮の広間に居る。上座には佐毘売(さひめ)が座っていた。


花雪が話し始める。「どうやら、事態は思ったより深刻です。」


『そうじゃな。どうする花雪?』


「現状、矮があと何体居るかわかりません。また、被害者が出るごとに矮も増えるものと思われます。」


『あたしは、余り干渉したくないの。だけど放おって置いて良いものでもなさそうね。』


「矮以外にも、未だ存在が掴めていない、何かがいる可能性もあります。」


『ほう。聞こうじゃない。』


「佐姫はなぜ蛭子になったのでしょう。そして、なぜ殺されたのでしょう。殺され方も不自然です。あそこにあんな大きな岩は、なかったはず。」


『そうであったな。そのようにつなげて考えると、お主がそう思うのもわからなくもない。』


「佐姫を陥れた何者かが矮を産んだのではないでしょうか。」


『・・・何ともいえない話じゃな。確証がない。』


「そうなんです。まだ仮説段階です。」花雪は肩を落とす。


あずがいう。「そうは言っても、これ以上の被害は防ぎたいです。」


『それはそうじゃな。』佐毘売が同意する。


「では、そこは対策をしましょう。まず、必要最小限の外出にするよう、噂を流します。人々も半信半疑ですが、原因不明で意識を失った町民が何名も居れば、恐ろしいと思っているのも事実です。」


「それから八百万(やおろず)に協力を仰ぎます。矮を見つけたら報せてもらえるように。」


『そうだな。人の活動が弱まると八百万も力が弱まってしまう。八百万にとっても問題ではあるな。協力してくれるであろう。』



数日過ぎた。


『くそぉっ!なぜ俺達が隠れている場所が分かる?』


『人も更に歩かなくなってきたぞ。田畑に居る人間を狙おうにもすぐにあの大男がやって来る。』


『悔しい!憎い!悔しい!!憎い!ああああああ、腹が立つ!!!』


『おい、あそこに女が歩いているぞ。』


『よせ!また大男が来るぞ。』


『ああああ!もういい!近づければ意識を、エネルギーを抜ける。もう、腹が減ってどうせジリ貧だ!』


女性の歩く方向にいる一体の矮に女性が近づく。あと1メートル近づけば、意識が抜ける。


『ひひっ。ひっ。ようやく、ようやくだ。』


刹那(せつな)


「バリバリバリバリ!」歩いていた女性、あずの電撃が矮を襲う。


『うわぁぁぁ!痛い!憎い!痛い!憎い!』矮は硬直している。


佐姫と押ケ峠の声が重なる。「あなたは和魂(にぎみたま)?それとも荒魂(あらみたま)?」


《風刃!》「びゅおおおおおぉぉぉぉぉ・・・」花雪は大きな風切り音とともに痺れて動けない矮を切り刻んだ。


他の矮は動けない。動くと気取られて消されてしまう。動けなければエネルギーも補給できない。もうジリ貧だ。ただ、今のところ動かなければバレることはなさそうだ。


追い詰められて思考を巡らせる。


おかしい。今までは意識を抜くとばれた。だがそれは人の意識だけだ。動物ではあの大男は来なかった。しかも今は大男ではなく、普通の男と女に見える奴らだ。


何が起きた?俺達はどうすれば良い?


『くそぉ!憎い!悔しい!腹が減った!憎い!悔しい!腹が減った!』


矮の怒号だけが虚しく響いていた。


花雪とあずは時間を見ては上空からのパトロールをしていた。


豪鬼は八百万(やおろず)の報告が入るとすぐに飛んでその場で矮を消滅させていった。


矮の退治は10体を数えた頃、八百万から報告が入らなくなった。また、昏倒する人もいなくなっていった。



「ごめんね。ひな子。すごく時間かかっちゃった。やっとあなたの仇が討てたみたい。」


佐姫はお宮で小間使いをしていたが、正式に佐毘売の宮の巫女となった。


エノは巫女の資格は十分だが、7歳までは神の子ということで巫女にはなれないようである。



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