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ナナシと呼ばれた魔法使いが、神に拾われ魔王と恐れられるまで  作者: こいち


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第39話: 少女は、街のざわめきに居場所を持たない

人が多い。

以前よりも――確かに、賑やかになっていた。

街には活気が満ちている。

声が行き交い、足音が重なり、笑い声が浮かんでは消える。

そのすべてが、少女には少しだけ重たかった。

視線が、気になる。

自分を見て、何かを囁く人々。

好奇と警戒が混ざった瞳。

それらがなければ、もう少しだけ、ここは歩きやすい場所だったのだろうか。

そんな考えが、ふと胸をよぎる。


――けれど。

今は、それどころではなかった。

少女には、やらなければならないことがある。


マンドラゴラ。

植物の魔物。


あの子の傷を癒し、再び力を取り戻してほしい。

それだけを、願っていた。

デネラからもらった肥料で、確かに少しは元気を取り戻した。


できる限りのことは尽くしてきたつもりだが、

まだ足りない。

枯れた葉を見るたびに、あの子の命が、ゆっくりと削れていく気がする。

早く、何とかしなければ。

そうしなければ――また、目の前から消えてしまう。

その予感が、胸を締めつけた。

少女は、珍しく焦っていた。

情報を求め、足は自然とギルドへ向かう。

マンドラゴラ騒動の後、ここに集う人間たちの視線は、あからさまに変わった。


人を殺し、

人を傷つけ、

魔物を操った――謎の少女。

彼らの中で、言葉は一つに収束している。


「……うわ、ま、『魔王』!!」


その声が、耳に刺さる。

驚きも、罵りも、どちらも同じくらい不快だった。

少女は浅く息を吐き、フードを深くかぶる。


「……ねえ」


声をかけると、ギルド嬢は即座に応じた。

表向きは、どんな冒険者にも平等。


けれど――

その瞳の奥に潜む、微かな怯えを、少女が見逃すはずもなかった。


「植物を、元気にする方法を知りたくて」


「『植物』ですか。申し訳ありません。先日の森の大規模火災の影響で、植物系の依頼や情報は滞っておりまして」


「……そういうことじゃなくて。まあ、いいや」


「お力になれず、申し訳ありません」


もう、ここにはない。

そう悟り、少女は踵を返した。

来て早々の無駄足。

それでも、溜息すら出なかった。


街を当てもなく歩くうち、

ふと、古びた本屋が視界に入った。


――そういえば。

リブの父親、ユウゴは、本から多くを学んでいた。

そんな記憶が、静かに浮かぶ。


「……本……か……」


何か、手がかりがあるかもしれない。

少女は、普段なら決して立ち寄らない店の扉を押した。

中に入った瞬間、肌がひりつく。

空気が、合わない。

原因はすぐに分かった。

店主が放つ、刺々しい気配だ。


「……ふん」


舌打ちひとつ。

歓迎のつもりは、さらさらないらしい。

何を聞いても無駄だと悟り、

少女は黙って棚に視線を走らせた。

埃とカビの匂い。

管理が行き届いているとは言えないが、

本の量だけは異様に多い。


「……地図……」


くるくると巻かれた古い地図が目に留まる。

興味半分で広げた瞬間、舞い上がる埃に咳き込んだ。


「……あんまり、ちゃんと見たことなかったな……」


北の大地・アルヴェン周辺。

知らないはずの土地。

けれど、不思議と、懐かしさがあった。


「…………」


理由は分からない。

だが、確かに“見覚え”がある。


「……東……そうだ。東」


その言葉が、口をついて出た瞬間。


「店のもん触ったなら、責任持って買ってもらおうか!?」


鋭い声に、肩が跳ねる。

睨みつける店主に、少女は逆らえず、銅貨三枚を差し出した。

本当は、もう少し見ていたかった。

けれど、これ以上いれば、次々と買わされるだろう。


「用がないなら出てけ」


そんな無言の圧に耐えきれず、少女は逃げるように店を後にした。

冷たい店主だった。

きっと、商売よりも、

自分の“収集物”を抱え込むことだけが目的なのだろう。


***


外に出ると、冬の北風が、容赦なく髪を揺らした。


「……東、かぁ……」


昔、誰かが言っていた。

東には、あらゆる植物の命を吹き返す大樹がある――と。


「……誰だったっけ……」


暖かな眼差し。

優しい微笑み。

横顔。

思い出そうとした瞬間、鈍い痛みが、頭を貫いた。

大切なことだった気がする。

けれど、その輪郭は、もう掴めない。

考えは、冷たい風にさらわれるように、どこかへ消えていった。

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