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アウトオブあーかい部! 81話 ホットな春

ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。


そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。



3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!


趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!

同じく1年、青野あさぎ!


面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!


独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河(しろひさすみか)



そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績(アーカイブ)を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。

池図女学院部室棟、あーかい部部室。


……ではなく、とある温泉旅館の最寄り駅。




ひいろ、白ちゃん、モーラ改め琥珀が駅前広場で(たむろ)していると、




「みなさーーん!」




遠くから1人の少女が3人に手を振って来た。




「「みどり先輩 (ちゃん)!?」」


「……ッ!」




モーラはみどり先輩の姿を視界にとらえるや否や、




「モ




全速力で駆け寄り勢いのままにみどり先輩を肩に担ぐと、そのまま物陰へと掻っ攫って行った。




「……。」




みどり先輩があまりにも手際良くさらわれたせいで、隣にいた(ゆき)は声を出すこともかなわなかった……。




「……よいしょ。」


「あの、なんで私攫われたんですか……。」


「ごめんッッ!!」




みどり先輩が困惑しているのにも構わず、モーラは手を合わせて頭を下げた。




「あの、モーラさん……!?」


「旅行中はあたしのこと『琥珀(こはく)』として接してください……ッ!!」


「こ……はく?」




モーラ改め琥珀は、白久家にいた当時は『琥珀』と名乗っていたこと、海の向こうで名前を変え別人になったこと、教頭先生と雪は自信を『白久琥珀(しろひさこはく)』と認知していることを包み隠さず説明した。




「な、なるほど……。」


「お願い……ッ!」


「モーラさ……琥珀さんにのっぴきならない事情があることはわかりました。……こんな感じですか?」


「ありがとうみどりちゃん!」




モーラ改め琥珀はみどり先輩を力強く抱きしめた。




「……でも良かったんですか?私に話してしまって。」


「何で?」


「私、雪さんとはお互いを応援し合う関係……つまりマブダチですし、牡丹(ぼたん)さんとも友好的な関係なんですけど。」


「  」


「……でも、黙っていてあげます。」


「みどりちゃあん……!」




琥珀は涙を流し歓喜した。




「その代わり、1つ条件があります。」


「え……?」


「あ!すみませんもう1つ負けてください。」


「えぇぇ……。」










所変わって駅前広場。




「……。」


「……久しぶり。」


「……ええ。」


「……。」


「……。」




・・・・・・。




(モーラさん!みどり先輩!早く帰ってきてくれぇぇええ!!??)




ひいろは白ちゃんと雪の険悪な沈黙に早くも憔悴していた。




「あら?」


「おばさぁん……!!」




ひいろはこちらに向かって微笑み歩いてくる教頭先生(きゅうせいしゅ)に駆け寄り抱きしめた。




「あらあら、ひいちゃん今日は甘えんぼさんなのね♪」


「おばさん……。」




ひいろは涙目で白ちゃんと雪のいる方を指差した。




「はぁ、まったくあの子たちは……。」




教頭先生はひいろの頭に優しく手を置くと、2人のいる場所までひいろの手を引いて歩いた。




「あらあら、2人とも仲良しさんなのね♪」


「牡丹ちゃん!」




雪は教頭先生を見つけるや否や、満面の笑みで教頭先生の両手を握った。




「……………………、は?」




雪と教頭先生の関係を目の当たりにした白ちゃんの瞳から光が消えた。




「えっと……白ちゃん?」


「なに……?」




(うわ怖っ!?)




白ちゃんから発せられた今まで聞いたこともない、心の芯まで凍てつくようなドスの聞いた声に、ひいろは震え上がった。




「ええっと……


「ねえひいろちゃん。私の目の前で、ニッコニコして揺れてるあの女……『白久雪(しろひさゆき)』よね。」


「あ……ああ。前に一度会ったときはあんなだった……ぞ。」




「………………………………。」




「あの……何か喋ってくれないと、怖いんだが……。」


「ひいろちゃんは牡丹さんに心の底から幻滅したことある……?」


「なんで今それを聞くんだ……?」


「ある?」


「ない……です。」




(あ、ダメだこれ帰る頃には胃が蜂の巣になってるヤツだ……)




「みなさーーん!」




みどり先輩の呼ぶ声がひいろに届いた。




「みどり先輩!琥珀さん……!」




ひいろが顔を上げると、向こうから歩いてくるみどり先輩と琥珀の姿があった。




「み

「琥珀…………ちゃん?」





教頭先生と話していた雪が荷物を落とし、琥珀のもとに駆け寄った。




「琥珀ちゃん……ッ!」




雪は琥珀を抱きしめようとして両手を広げたが、目の前で立ち止まってしまった。




「…………なんで、そんな顔……する……の……?」




雪を立ち止まらせたのは……琥珀の、憎悪と軽蔑をグツグツと煮えたぎらせる様な熱さと、救いようのない汚物を忌避するかの様な冷たさが入り混じった眼差しだった。




「……抱きしめたいならすればいいよ、私は拒まない。……そういう約束だから。」




雪は琥珀の隣にいたみどり先輩へと視線を逸らした。




「この旅行の間、雪さんの言葉には耳を貸すし、雪さんからのスキンシップをお姉様は拒めません。そう言う約束をしましたので♪」


「みどりちゃん……。」


「これが私にできる精一杯の応援です。……あとは雪さんが乗り越えてください。」




みどり先輩の目が真剣なものへと変わった。




「……わかった。ありがとうみどりちゃん!」




雪が胸の前で両手の拳を握りみどり先輩にお礼を言うと、みどり先輩は数歩歩いて2人に振り返った。




「約束ですからね、お姉様ー!」


「く……っ!」


「お姉様、返事は?」


「……はいはい!」


「〜♪」




みどり先輩は満足するとひいろのもとへと駆け出した。




赤井(あかい)さーーん!」


「みどり先輩……!」




既に胃が蜂の巣になりつつあったひいろの目には、手を振り駆け寄ってくるみどり先輩に後光が刺して見えた。




「旅行、楽しみましょう♪」


「うん、うん……!」


「あの、なんで泣いてるんですか?」


「みどり先輩、来てくれてありがとう……!」




ひいろは涙を流しみどり先輩の手を固く、固く握った。




「えええ!?//////」


「フフ♪ひいちゃんもすみに置けないわね。」


「おばさん!?」


「ごめんひいろちゃん、琥珀との仲を取り持つつもりだったのに……。」


「い、いや良い…………すまないちょっと考えさせてくれ。」


「ひいろちゃん!?」


「ところでみどり先輩、いつの間に雪さんとマブダチになんてなったんだ?」


「まあ……色々ありまして。」


「雪ちゃんと3人でうちにお泊まりしたり、ね?」


「そんな、おばさん……お泊まりしたのか?ワタシ以外の人と……!?」


「そりゃするでしょ。……でも驚いたわ。あの白久雪にマブダチなんて……。」


「それもそうだが…………2人きりにして大丈夫なのか?」




4人が雪と琥珀の方を見ると、向こう側はこう着状態になっていた。








「……何もしないなら合流するよ。」


「あ……えっと……!?」


「大丈夫。……もう嫌ってほど慣れてる。」




雪は4人の方へ歩き出した琥珀の腕を、恐る恐る掴んで止めた。




「…………、へぇ、驚いた。(さわ)れるようになったんだ?」


「……、」




雪は琥珀の顔を直視できなかった。




「……おてて繋いで仲直りアピールしたいなら付き合うよ。そういう約束だし。」




再び歩みを進めようとした琥珀の手が後ろに引っ張られた。




「……!」


「……なに?言わなきゃわかんないでしょ、ぁぁあ虫唾が走る……!」


「……!!」




雪は目をギュッと瞑って琥珀の手を掴み続けた。




「…………はぁ。」




琥珀は雪に向き直った。




「……!」




琥珀が振り向き、目が合った雪の表情は僅かに明るいものになっていた。




「へえ?笑えたんだ。」


「……!?」


「よくもまあのうのうと気安く触れてニヤつけるもんだね。」


「なに……を


「他人にお膳立てしてもらわなきゃ喋ることも、手を握ることもできないあんたの血が流れてると思うと、虫唾が走る……!」


「なん、で……そんな、こと……


「みんなと合流するのか、ここでお話するのかすら自分じゃ決められないわけ?はっ、そんな自分と同じだろうから私を部屋に閉じこめ




「そこまでよ琥珀。」




白ちゃんが2人の間に割って入った。




「なに、すみ姉?ご所望の親子水入らずに水刺すの?」


「私だって嫌いだよ。でも言っていいことと悪いことがあるでしょう……!」


「……。良いよね、すみ姉は。」


「……。」


「手、離して。」


「……あ。」




雪が掴む手の力が抜けると、琥珀は3人に合流した。




「琥珀ちゃん……。」


「勘違いしないで、私は味方じゃない。鶸田さんも言ってたでしょ。これは母さんが乗り越える問題だって。」


「……そう、ね。」








所変わってひいろサイド。




「やはり、ワタシも行った方が……。」


「大丈夫です、雪さんを信じましょう。」


「だが白ちゃんも雪さんのことよく思ってないんだぞ……!?」


「そうねぇ……。」


「『そうねぇ』って、おばさん!?」


「そうだ、ひいちゃんは琥珀ちゃんのことよく知ってるのよね?」


「おばさんとみどり先輩よりは知ってる……と思う。」


「私もお姉様とお会いしたのは一度だけですし……。」


「な、なあみどり先輩?その『お姉様』って……?」


「お姉様と取引したんです♪お姉様はこの旅行の間、雪さんのスキンシップを拒めません……!」


「あら、それは相当な弱みを握っているのね?」


「牡丹さんにだって、教えられませんからね!?」


「ワタシの知らない所でものすごい相関図が構築されてる……。」




ひいろは頭を抱えた。




「ひいちゃんは琥珀ちゃんのこと、お姉ちゃんって呼ばないの?」


「……黙秘する。」


「あらあら♪」




「ふぃ〜、疲れた……。」




雪への険悪な態度を他所に、疲れ切った琥珀が3人の元へとぼとぼと歩いてきた。




「お、おつかれ琥珀さん……。」


「お疲れ様ですお姉様♪」


「琥珀ちゃん、感動の再会は楽しめたかしら?」


「てんめぇ……、覚えてろよ……。」




琥珀はげんなりとしながら教頭先生に恨み言を口にした。




「牡丹さんとお姉様って知り合いだったんですか?」


「そうよ♪」

「ちげーよ……。」


「どっち……?」


「なんというか……琥珀さんはおばさんに弱みを握られて無理やり連れてこられてるんだ。」


「え!?お姉様、弱み握られ過ぎじゃないですか……!?」


「みどりちゃんがそれ言う!?」


「強く生きろ、琥珀さん……。」


「もうダメだぁ、味方がひいろしかいない〜。」


「そういえば牡丹さん。けっこうな時間ここにいますけど、予定とか大丈夫なんですか?」


「今日の予定は15時のチェックインとお夕飯くらいだから問題ないわ♪」


「今まだ9時なんだけど!?」


「チェックインまで6時間、ノープラン……。」


「いい?2人とも、」




教頭先生はひいろとみどり先輩の肩に手を置いて目線を合わせた。




「この3人が一同に会して、予定通りに(こと)が進むと思う?」


「おいババア。」


「「いや。」」


「『崩れるくらいなら最初から予定を組まない』のもまたスケジューリングよ。」


「自分で誘っておいて無責任すぎない……?」


「そう言う琥珀ちゃんだって私の立場ならそうするでしょ?」


「それはそう。」


「気が合うのね♪」


「やっぱアンタ嫌いだわ。」






「いや〜お待たせ。」




白ちゃんが雪を連れて4人に合流した。




「話はまとまったかしら?」


「どんなめでてーおつむしてんだこんのババァ……。」


「た、立ち話もなんだし、とりあえず移動しないか……!?」










一同は駅から歩いて数分の距離にある水族館へと向かった。


道中、教頭先生は旅行の間6人全員に対して、緊急時を除くPINEの使用を禁止とすることを伝えた。








一同は水族館に着くと、お昼まで館内で自由行動をとることにした。




「みんな散り散りになったが……無理やりにでも親子で行動させた方が良かっただろうか……。」


「ずっと顔を突き合わせているのも疲れてしまいますし、歩き回ってたまに鉢合わせるくらいで良いんじゃないですか?」


「確かに疲れはしたな……。」




みんなが散り散りになった中、ひいろとみどり先輩は一緒に深海魚を見て回っていた。




「疲れるといえば……すまないな。」


「なんですか急に?」


「いや、なんだか巻き込むような形になっちゃったからな……。疲れていたらそこにでも腰を下ろして


「私は赤井さんのそばにいられれば、いくらでも♪」


「…………へ?///」


「はっ!?///いや、その!他意はないというか、言葉のあやというか、そう!お友だちと一緒ならって!」


「そ、そうだよな!?もう立派なお友だちだもんな!」





暗がりでもわかるくらい真っ赤な顔であたふたする2人をつけ回す不審な影が1つ……




「いんやぁ〜、目の保養だねぇ……♪」




琥珀である。




「まったく、若いって良いわよねぇ……♪」


「け"……ッ!?」




そして不審な影がもう1つ。




「なんでアンタがいんだよ!?」


「それはこっちのセリフよ琥珀ちゃん?ひいちゃんウォッチングの邪魔だけはしないでちょうだいね♪」


「うっわ




「いや流石に恥ずかしいんだが。」




約2名の不審者、呆気なく見つかる。




「せっかく水族館に来たんですし、お魚……見ませんか?」


「みどり先輩、オブラートに包まなくて良いって。」


「じゃあ……お邪魔虫は退散しましょうかね♪」


「青春、謳歌しろよ〜若人ども。」






4人は散り散りになった。




「白ちゃんと雪さん、さっきいなかったけど2人で回ってるのかな……?」




ひいろは広間の中央に位置している水槽のチンアナゴを見つめながら物思いに(ふけ)っていた。




(なんだろう、白くて妙に目力があって……。なんか、雪さんみたいだな。)




ひいろを見つめるチンアナゴの向こう側に雪の顔が一瞬見えて引っ込んだ。




「……雪さん?」




ひいろが水槽の反対側に回り込むと、雪の姿はそこに無く、水槽の中からこちらを見つめるチンアナゴに混じって、反対側から雪がひいろを伺っていた。




「雪さんかと思ったんだが……ああダメだ、チンアナゴが雪さんに見える程疲れているのか私は。」




ひいろはその場にしゃがんだ。




「……大丈夫?」


「え?」




ひいろが顔を上げると、目の前で雪がしゃがみこちらに目線を合わせていた。




「雪さん?」


「顔色は悪くないようね。」


「あ、ああ……なんとか。」


「……お水は嫌い?」




(お水?……え?突然なんだ?っていうか水が嫌いな人間とかいるのか……?)




「なんで水……あれ?」




ひいろが聞き返した時にはもう雪の姿はなく、




「なんだったんだ……。」




ひいろが困惑していると、少し離れたところから水の入ったペットボトルを持った雪が息を切らして駆け寄ってきた。




「雪さん?」


「……ついて来て。」


「ええ……!?」




雪はひいろの手を掴み、すぐそこのベンチに座らせた。




「具合が悪いのならすぐに休みなさい。通路でしゃがんでいたら周りの人の迷惑になるし、あなたも蹴られるのは嫌でしょう……。」


「……。」


「……未開封だから。」




ひいろにペットボトルを押しつける雪は、教頭先生と話しているときとはまるで違って、心の芯まで凍てつくような眼差しを向け絶対零度の威圧感を放っていた。




「……ありが、とう。」




ひいろは終始呆気に取られていたが、雪の『飲め』という無言の圧力に屈して水を口にした。




「……ぷはっ。」


「……。」




雪はひいろが水を飲んだのを確認して、一瞬だけ眼差しが優しくなったように見えたが、すぐに先ほどまでの温度を感じさせない冷たい目に戻った。




「……ごめんなさい。」


「え?」


「ここに来る前に、牡丹ちゃんから聞きました。あなたが澄河(すみか)ちゃんに目をかけてくださっていたこと、琥珀ちゃんとと澄河ちゃんを引き合わせてくれたこと……。」


「いや、目をかけてもらっているのはこちらなんだが……あと琥珀さんの件はワタシじゃなくてあさぎ……友達がやったことだ。」


「それでも今日、こうして白久(しろひさ)家を引き合わせるまでに、せっかくの旅行中に体調を崩してしまう程の多大なる心労をかけてしまったこと……謝罪させてください。」




雪はひいろの前に立ち、深々と頭を下げた。




「いやいや!?雪さんが謝ることじゃ!?」


「すみません、人目も(はばか)らず。困らせてしまうようでは謝罪の意味が


「ああもうわかったから!?座ってくれ!」




ひいろは雪を引っ張って隣に座らせた。




「……。」


「……今のでなんとなくわかったよ。白ちゃんと琥珀さんが言ってたこと。」


「あの子たちに娘として生まれたことを後悔させるような、最低な


「そうじゃない。」


「……?」


「雪さんって、とんっっっでもなく不器用なんだな。」


「…………牡丹ちゃんから聞いたんですか?」


「おばさんからは親友ってこと以外、何も聞いてない。」


「……そう、ですか。」


「何か?」


「いえ。昔……牡丹ちゃんにも同じことを言われました。」


「まあワタシはおばさんの孫……みたいなものだからな!」


「良いなぁ……///」


「へ?」


「あ!?いえ、なんでも


「もし、雪さんが良ければ話してくれないか?体調が悪いから歩き回れなくて暇なんだ。……誰かさんのせいでな。」




ひいろはニヒルに笑ってみせた。




「……羨ましいと思いました。自分と同じ血が流れていることを、誰かに誇ってもらえるのが。」


「雪さんだって……、すまない。」


「良いんです。……琥珀ちゃんに『あんたの血が流れてると思うと虫唾が走る』と言わせたのは、他でもない私です。」


「雪さん。……雪さんは、琥珀さんと再会して、何を思った……?」


「……驚きました。」


「まあそりゃ


「だって、ずっと……ずうっと大きくなってたんだもの。家出する前は反抗されたことなんて…………、


「雪さん?」


「いつからだったっけ……、あの子が私に逆らわなくなったのは……。」




雪は何かのスイッチが入ったかのように言葉を紡ぎだした。




「琥珀さんにそんな時期が?」


「……そう、澄河ちゃんがグレた頃辺りかしらね?今のあの子からは想像もつかないでしょう?」


(白ちゃん、グレてたんだ……)








所変わって、水上ショーエリア客席。




「いたいた♪」


「教頭先生?」




1人で客席に座っていた白ちゃんのもとに教頭先生がやって来た。



「オフな日は牡丹(ぼたん)『さん』で良いわよ♪」


「『さん』はとらせてくれないんですね。」


「強いヤツを敬うんでしょう?それともここで、下剋上してみる?」


「何年前の話ですか……。」


「あら?私には昨日のように思い出せるけど。」


「忘れてください。」


「『センコーが調子のんな!』って殴りかかってきた女の子が次の瞬間、気持ちよさそうな声をあげて全身ビショビショで身体を痙攣させてた件を?」


「口に出さなくても良いでしょう!?///だいたい、あんなこと今やったら1発で首飛びますからね……!?」


「ただのマッサージなのに?」


「あれはただのマッサージじゃありません……!それと無闇に継承しないでください!」


「あらやだ、ひいちゃんとあさぎちゃんのアレが『継承済み』だなんて、澄河ちゃんも面白いこと言うのねえ♪……もう一度受けて本物を思い出してみる?」


「絶対嫌です!!」


「フフ♪」


「……それで?な〜んにも泳いでない水たまりなんか見て楽しいんですか?牡丹『さん』。」


「私は澄河ちゃんを見に来たんだけど。」


「魚を見てくださいよ……。」


「言葉って自分に返ってくるものよねぇ?」


「くっ……!」


「琥珀ちゃんのこと考えてた?」


「……はい。」


「悪いようにはならないと思うけど。」


「でも琥珀、牡丹さんのことめっっっちゃ嫌いですよ。」


「なんでかしらねぇ……。」


「私の恩人だからじゃないですか?」


「恩人が嫌いなの?」


「謙遜とかしないんですね。」


「それで、琥珀ちゃんが私を嫌いな『わけ』って?」


「……、」




白ちゃんは、言ってしまっていいものかと少し黙っていたが、やがて口を開いた。




「……琥珀にはいなかったんです。首根っこ掴んで導いてくれる人が。」


「澄河ちゃんには私がいたものね♪」


「放任されてた私がケンカするようになってから、母は琥珀を厳しく束縛するようになったんです。」


「まあ、お姉ちゃんがグレたら……『妹にはあんなふうになってほしくない』って思うのが親心よねぇ。」


「琥珀……『悪い友達とは付き合うな』って、当時の友達とはみーんな疎遠になっちゃったみたいで。」


「当時の琥珀ちゃんって、小中学生って位の年齢よね?」


「はい。交友関係を断たれた琥珀は、当然部活も入らせて貰えなくて……。ひとりぼっちな青春を強いられたようなものです。」


「そんな子からしたら……お姉ちゃんが羨ましくなっちゃうのも納得ね。」


「……ある時から急に口ごたえしなくなって、部屋からもほとんど出てこなくなったと思ったら、高校卒業の翌朝には出国してたんです。……一枚の置き手紙だけ残して。」


「『私のことは死んだと思え』……。そういうことだったのね。」


「知ってたんですか……!?」


「伊達に雪ちゃんの親友やってないもの♪」


「なんというか、流石ですね……。」


「さて、と……。」




教頭先生は唐突に立ち上がった。




「どこか行くんですか?」


「やることがわかったからね♪用は琥珀ちゃんの首根っこ掴んであげれば良いんでしょう?(ぜん)は急げ




『この後、水上ショーエリアでイルカショーを行います!』




「……。」


「……。」




・・・・・・。




教頭先生は無言で着席した。




(ぜん)は……ッ!?」


「……急いては事を仕損じるのよ。」










一方、クラゲエリア。




「……。」




琥珀は独り、色とりどりの照明に照らされ漂うクラゲをガラス越しに眺めていた。




「はぁ……。」


(あたしも、もがくのを諦めてこの子らみたいに水槽の中で流れに身を任せていたら……もう少し楽に生きられたのかな?)




「お姉様、クラゲ好きなんですか?」


「……こっち来たんだ。」




琥珀はクラゲを見つめたまま、ガラスに映ったみどり先輩の呼びかけに応えた。




「ひいろとのデートはもういいの?」


「良くないですが何か?」




琥珀に話しかけるみどり先輩の朗らかな声は隠しきれない怒気を孕んでいた。




「え……なんであたし怒られてんの?」


「理不尽ですよね、全く♪」




みどり先輩は微笑むと、琥珀の真横に陣取りクラゲを見つめた。




「楽しくないならとっととどっか言っちゃえばいいのに。」


「……お姉様みたいに、ですか?」


「参ったなぁ……。」




琥珀はバツが悪そうに頭を掻いた。




「あたし今ちょっとおセンチだから、ダル絡みしても盛り上がれないかもなんだけど。」


「お姉様はどっかに行って、楽しかったですか?」


「お構いなし……ってわけね。」


「私、人に気を使えるような良い子じゃありませんから♪」


「そういえば悪い子だったねみどりちゃん……。」


「というわけで、悪い子なみどりちゃんはずけずけとお姉様にデリケートなことを聞いちゃいます。」


「みどり、『ちゃん』……。」




琥珀は無心でみどり先輩の一人称を反芻した。




「忘れてください///」


「あたしが素直に忘れてあげる程そんな良い人に見える?」


「知るわけないじゃないですか。私、お姉様のこと『白久先生の妹』ってことくらいしか知らないんですけど。」


「そんな人『お姉様』にしちゃって良いの?」


「口ごたえするんですか?」


「もうどっちが姉かわかんねえなこれ。」


「じゃあどっちが姉に相応しいか白黒つけるために、お姉様のこと教えてください♪」


「最初っからそれが目的ってことね、へいへい……。」


「さっすがお姉様、ものわかりがいいですね♪」


「もう突っ込まんぞ。……じゃあ何から話すっかなぁ……。」


「家のこととか?」


「……それを話すには、みどりちゃんのマブダチがどこまで話してるか知る必要があるんだけど。」


(……めんどくさ。」


「みどりちゃん!?」


「はっ!?すみません!つい


「突っ込んだら負け、突っ込んだら負け……!」


「私が雪さんから聞いているのは……、




みどり先輩は、末妹が高校卒業の翌朝に家を飛び出し、部屋に残ったパスポートの申請案内から行き先が海外だと推測されたこと、戸籍に『死亡』と記載されてもなお、雪は末妹の生存を信じて再会できる日を願っていたことを琥珀に説明した。




「馬鹿じゃないの?さっさと諦めれば楽になれたのに……。」


「マブダチの私に言わせれば、雪さんはとんだ大馬鹿者ですね。」


「マブダチなんだよね……?」


「はい♪そういえばお姉様、私と雪さんの馴れ初めはご存じですか?」


「知らな




「出会いは私の実家、キャットハウス鶸田(ひわだ)でした。」




「最後まで言わせろ?」


「いつものようにカウンターで赤井さんと他愛もない言葉を交わしていたとき、あの人は……まるで金魚のフンのように、牡丹さんの背中にこびりついて来たんです。」


「マブダチなんだよね?」


「突然札束を渡されてお店を貸し切ったかと思えば、ふれあいルームにこもって2人で大声を出して……


「いや何してんの……。」


「引っ掻き傷でボロボロになりながらにゃんこに『大好き』って言う特訓をしていました。」


「……。」


「あの時の雪さん、包帯を巻いた腕から血が滲むほど引っかかれても諦めなかったんですよ?娘と仲直りするんだ、ちゃんと大好きって伝えるんだー!って。……ほんと、大馬鹿者ですよね♪」




みどり先輩は精一杯の身振り手振りで雪との馴れ初めを語ると、最後には照れくさそうに笑ってみせた。




「…………みどりちゃんはそれを伝えたくて来たんだね。」


「いえ。」


「え"!?……いや、ここは肯定する流れじゃない……?」


「私は旅行を楽しむために来てますから。」


「そっか。」


「だからさっさとお姉様達は仲直りしてください。」


「え?嫌なんだが。」


「ここはする流れじゃないんですか……!?」


「だ〜ってさ?」




琥珀は頭の後ろで手を組み、みどり先輩に背を向けた。




「あたし……あの人の気持ち、な〜んにも聞いてないもん。……物心ついたときから、ただの一度もね。」


「……。」


「そいつが好きか嫌いかなんて、直接会って、そいつの言動見て決めるもんでしょ?そんじゃ。」




琥珀はみどり先輩に背を向けたまま、悠々と歩き出した。




「ちょっ!?お姉様!まだお姉様のこと教えてもらって


「あたし、律儀に約束守るようないい子じゃないから。……旅行、楽しみな?」



琥珀はクラゲエリアから立ち去った。




「…………もう。」








所変わって、巨大水槽前。





「なんか開けた所に出たな……。」




琥珀は巨大水槽沿いを歩きながら、悠々と泳ぐジンベエザメを見上げていた。




(お腹になんかくっついてる……)




ジンベエザメのお腹を良くみると、数匹のコバンザメがひっついて泳いでいた。




「お〜、なんか金魚のフンみた…………。」




琥珀は立ち止まった。




「……あ〜、だめだ。他行こ、他。」




琥珀が巨大水槽から逃げるように移動すると、広間の中央に鎮座するチンアナゴの水槽が目に入った。




(なんか、変なのいるな……)




琥珀が水槽に顔を近づけると、目が合ったチンアナゴが砂の中に引っ込んだ。




(なんだろう、白くて妙に目力があって……)




「…………はぁ。ま〜たヤなもん思い出しちゃったなぁ。他行こほ




琥珀がチンアナゴに背中を向けると、目の前には無機質な白髪と、力のある冷たい眼差しを向ける雪が目の前にいた。




「……か……。」


「……。」




「…………はぁ。」




琥珀は憤りと諦めが混じった大きなため息をついた。




「1人?」


「……………………はい。」


「そ。」




琥珀はぶっきらぼうに手首から先だけを振ると、雪の横を通り過ぎようとした。




「待ってください。」


「おん?」




雪は琥珀の手首を掴んだ。




「……なにその傷?」




目線の高さになった雪の腕には、うっすらと無数の引っ掻き傷の痕が残っていた。




「これは……!?」




雪は慌てて琥珀の手を離し、腕を引っ込めた。




「……隠すようなもんなわけ?」


「…………聞いたんですか。」


「しょーもない特訓の話なら。」


「……。」


「話すことないなら行くよ?イルカショー、良い席取りたいし




「……いますか。」




雪は俯いたままつぶやいた。




「ん?」


「琥珀ちゃんは、笑いますか?……物心ついた頃からただの一言も大好きだと伝えられず、家を飛び出された後になって、物言わぬ獣を練習台にしないと、胸の内を伝えられない私を……笑いますか?」


「……で?そのにゃんこ達には言えたわけ?」


「はい。」


「そんなら、笑わないよ。……悔しいことに、血は争えないみたいだし。」


「……琥珀ちゃんも、頑張ってましたからね。」


「知ったような口きくじゃん。」


「……。」




雪はおもむろにポケットから小さく折り畳まれた一枚の紙を広げて両手に持った。




「……『私のことは死んだと思え』。」


「嘘でしょ……なんでまだ持ってんのさそんなもん。」




雪が読み上げたのは、琥珀が高校卒業と同時に書き残した置き手紙だった。




「……この紙を初めて見た日、琥珀ちゃんのお部屋からパスポートの申請案内を見つけました。」


「そりゃ出国したからね。……誰かさんのお人形になるのが嫌で。」


「他に……コンテストのページに付箋が貼られた雑誌の山、全額引き出された預金通帳、よれた英語の本も。……誰かさんのお人形になる道もあったのに……きっと私から自由になりたくて、たくさん頑張ったんですよね?」


「あたしだったら、人生諦めて樹海の片道切符でも買ったのかもとか考えるけど。」


「……血は争えないものですから。」


「諦めが悪いのはお互い様って?」


「……、」




雪は無言で頷くと、琥珀は俯き震え、拳を握り声を絞り出した。




「……ざけんなよ。」


「……。」


「こっは諦めてんだよ……!」


「琥珀ちゃん?」




琥珀は雪の胸ぐらを掴んで捲し立てた。




「……っ!」


「誰かが私を縛り付けるせいで……!部活も入らせて貰えなかった!友だちもみんな離れてった……!!」


「琥珀ちゃん……、」




琥珀の右手の拳が軋むほど硬く握られ大きく振りかぶられた。




「今さら同情されたって、もうあの時間は帰ってこないんだよ!!」




琥珀の拳は雪の頬を抉る寸前で静止した。




「あたしだって……!」




琥珀は雪の胸ぐらを放し、力無くその場に膝をついた。




「あたしだって……すみ姉みたいに喧嘩したり、センコーに怒られたかった!ひいろみたいに部活のみんなと集まってバカやりたかった……!みどりちゃんみたいに、恋がしたかったよぉ……、」




琥珀の目からボロボロと涙が溢れた。




「返してよ……!あたしの青春、返してよぉ……。」


「……………………。」




雪は琥珀の訴えを最後まで聞き届け、膝をつき、両の掌に続けて額を床についた。




「……ごめんなさい。」


「そんなことされたって、あたしの過去は帰ってこない……!!」


「承知の上です。」


「じゃあそんな無駄なことさっさとやめてよ!?」


「やめません。」


「ほんっっとなんなの……!?アンタの顔見るのが嫌でわざわざ海越えて!死んでやったのに……!なんであんな紙切れ大事に持ってんのさ!?さっさとどっか行ってよ!?あたしなんか忘れてよ!」


「…………嫌です。」


「はあ!?」


「あなたのことを忘れようと思ったことは一度もありません。私の過去の過ちのために、今もあなたが苦しんでいるのなら……忘れて逃げるのは卑怯です。」


「そんなに良い母親面したいわけ……!!?エゴイストにも限度ってもんが


「だから!!」




雪の声に熱がこもった。




「……!?」


「……だから、この愚かな私に……埋め合わせをするチャンスをください。」


「…………。今更なに、してくれんのさ。」




雪は俯いたまま、琥珀の手を自身の両手で優しく包み込んだ。




「イルカショー、一緒に行きしょう……♪」




雪は顔を上げ、琥珀に初めて笑顔を向けた。




「……………………、なんで


「行きたいんでしょう?」




この日、琥珀は雪の手と眼差しに初めて温もりを感じた。




「……………………あれ、なんで……。」




琥珀は雪に感じた温もりが瞳からこぼれ落ちていく感触に言葉が詰まった。




「あ!ごめんなさい!?痛かった……!?」




雪は琥珀の涙に困惑し、慌てて手を離した。


琥珀は自分以上に動揺する雪を見て落ち着きを取り戻した。




「あはは、そんなんじゃないって♪」


「そ、そう……なの?」


「だって初めてじゃん……、あたしが行きたいところに、『一緒に行こう』……なん、て……、




雪の言葉をなぞった琥珀の唇がこわばり、再び琥珀の目から涙がポロポロと溢れた。




「……、」




雪は再び琥珀の手を取ると、優しく手を引き琥珀を立ち上がらせ、そのまま抱きしめた。




「かあ……さん?」




戸惑う琥珀の呼びかけに反応して、雪の抱き締める腕がきつく締まった。




「やっぱり私……、


「……、」




途中まで言いかけて琥珀が無言で雪を抱きしめ返すと、無限にも感じられる静寂が訪れた。




「琥珀ちゃんのことが…………、




静寂を破ったのは雪だった。




「大好き……♪」


「……!?」




再び2人の間に静寂が訪れた。




「……言う相手が違うよ。」




今度は琥珀が静寂を破った。




「いいえ違いません。だって……たった一言……『母さん』って呼ばれただけで……こんなに嬉しいんだもん……!」




『この後、水上ショーエリアでイルカショーを行います!』




「「あ。」」




「大変!?早く!」


「ったく、誰のせいだと……。」




雪は琥珀の手を握ると琥珀も握り返した。




「じゃあはぐれないように……!」


「遊園地すら誘ってくれたこと無かった癖に、生意気……。」


「…………遊園地も、行こうね♪」


「……へいへい。」




2人はイルカショーが開催される水上ショーエリアへと走っていった。








柱の影に、屋外へと向かう2人の背中を見送る人影が2つ。




「……もう、大丈夫そうですね。」


「琥珀さん……。だからワタシ達に目をかけていたんだな。」




ひいろとみどり先輩が柱の影から出て来た。




「お姉様にはこれからいっぱい青春してもらわないとですね♪」


「だな♪……ところでみどり先輩。」


「はい?」


「恋なんてしてたんだな。」


「!!??//////」




みどり先輩の顔が真っ赤に茹で上がった。




「……みどり先輩?」


「私たちも行きますよ、イルカショー……!///」


「あ、ああ……。」





一組の親子を追って、2人の若人も屋外へと移動した。








イルカショーでびしょ濡れになった6人はお土産屋で鉢合わせ、仲よくお揃いの水族館Tシャツを購入。館内のレストランでお昼を済ませ、程なくして宿泊予定の旅館にチェックインすると、教頭先生は受付からカギを3本受け取った。





「3部屋も借りているのか……!?」


「部屋割り、どうしましょうか♪」


「大人の経済力……。」


「安心して、みどりちゃんの分は私が。」


「ひいちゃんの分は私が出すわ♪」


「さらっと2泊3日奢る大人怖っ……!?」


「なに、すみ姉お財布冷え冷えなん?」


「そ、そんなことないし!?1人分くらい余裕よ、よ、ゆ、う!」


「さっすがすみ姉、だいちゅき♪


「あんたは自腹だからね……!?」


「ぶー!」




琥珀はブー垂れつつもギンギラのカードで1部屋分のお会計を済ませた。




「うわっ、何そのいかついカード……!?」


「すみ姉持ってないの?」


「どーせ私は下っ端公務員ですよ……!」


「え〜、改札とか光って鳴って楽しいよ?」


「おもちゃ売り場に返して来なさい。」


「え〜〜〜やだやだやだやだ!」


「琥珀さんテンション高いな……。」


「楽しい旅行になったなら良いじゃないですか♪」




各々が談笑していると、教頭先生がパンパンと手を打ち鳴らした。




「はいはい、じゃあお待ちかねの部屋割りタイムと行きましょうかね♪」


「やったぁ♪3部屋だから2人ずつよね?どうする?どうする!?」


「よし、ひいろちゃん私と


「待て待て待て待て待てーーい!?」




ひいろに声をかけようとした白ちゃんを琥珀と雪が物陰まで連れ去った。




「え、なに2人とも……!?」


「すみ姉正気!?」


「なんでそんな罵倒されてるの……?」


「ひいろもみどりちゃんも、あたしらの仲取り持つために胃袋蜂の巣になる思いしてついて来てくれたんだよ!?」


「それは……そうだけど。」


「……私は、みどりちゃんに恩を返したいです。


「いやなんでお母さんまで


「ひいろちゃんはみどりちゃんのです。邪魔立てするなら……!」


「ああもうわかった!わかったから……!」


「「わかればよろしい(です)。」」


「はぁ……。っていうか2人ともいつの間にそんな仲良くなっちゃったの。」






教頭先生サイド。




「なんか、ものすごい勢いで白ちゃんが攫われて行ったな……。」


「仲がいいならいいんじゃないですか?」


「そうね♪ところで、


「「?」」


「1部屋はひいちゃんとみどりちゃんで良いわよね?」


「はっ!?///」


「いやおばさん、流石に無理やり組ませるのは違うだろう。みどり先輩ならマブダチの雪さん辺りが良いんじゃないか?」


「はあぁぁぁぁ…………。」




教頭先生はとても大きなため息をついた。




「ひいちゃん。あなたには心の底から失望しました。」


「え!?なんで?」


「私は常々、人の気持ちを考えられる優しい人になりなさいと教えて来たのに……。」


「いや、だからみどり先輩の気持ちも


「はあぁぁぁぁ…………。」




教頭先生はとてもとても大きなため息をついた。




「いやだからおばさんなんなのそれ!?」


「ひいちゃん。あなたには心の底から失望しました。」


「ループしないでよ、おばさん怖いって!?」


「私は常々、人の気持ちを考えられる優しい人になりなさいと教えて来たのに……。」




教頭先生はみどり先輩に目配せした。




「そ、そうだそうだー。」


「みどり先輩!?」


「赤井さんはお優しい人だと思っていたのに……。」


「ああもうわかった!みどり先輩とで良いから!?」


「みどり先輩と……『『『で』』』、良い……!?」




教頭先生が笑顔の裏に凄まじい怒気を孕んだ声で聞き返した。




「みどり先輩と『が』良いです……。」


「なんでひいちゃんは私にそれを言うのかしら?」




教頭先生はひいろの両肩を掴むと、みどり先輩に正対するように90度向きを回転させた。




「み……みどり先輩と『が』いい……です///」


「赤井さん……///」




教頭先生は1本のカギを2人に渡すと、2人の背中を押し、部屋へと歩く2人の背中を無言のサムズアップで見送った。


それからすぐに白ちゃん、琥珀、雪が戻って来た。




「あれ?ひいろとみどりちゃんもう行ったんだ。」


「きっと今夜はお楽しみね♪」


「へ〜、アンタもたまには良いことすんじゃん。」


「こら、琥珀……!」


「はいじゃあこれ♪」




教頭先生は雪に1本のカギを手渡すと3人に背を向け悠々と歩き出した。




「それじゃあ楽しんで、


「あ、こらババアカギ持ち逃げすんな!」


「おわ……っと!?」




教頭先生は後ろから飛びかかった琥珀を鮮やかに躱してみせると、琥珀の背後に回り込んで親指を突き立てた。




「っっぶね!?」




琥珀は身の危険を感じ大きく飛び退いた。




「あら、勘がいいのね?」


「何するつもりだババアてめぇ……!?」


「これはなかなか調教のしがいがありそうね♪お部屋まで追いかけて来てもいいけど、2人きりだと……何されちゃうのかしらねぇ?」




そういうと教頭先生はまた悠々と廊下を歩いた。




「おほほほほ♪」


「くぉんのババア……!!」


「諦めなさい。牡丹さんに刃向かったら最後、奇声をあげて全身ビショビショで身体を痙攣させることになるわよ……。」


「すみ姉、何されたん……?」










鳥の間。




「「凄……ッ!?」」




ドアを開けた2人の前には、こじんまりとしていたが、今にも札束の香りが漂って来そうな和室と、その奥に露天風呂が広がっていた。




「雪さんと牡丹さん……これを、『ポン』と……。」


「キャットハウスのときもだが、どんだけ金持ってるんだ2人とも……。」


「……。」




みどり先輩はおもむろに押し入れを開けると、フッカフカの布団を引っ張り出して、雑に敷いた布団に身体を預けた。




「……あぁ、ダメ溶ける……///」


「そ、そんなに……なのか?」




ひいろは目の前で普段の丁寧な言葉遣いが剥がれダラシなく布団の上に溶けるみどり先輩を前に唾を呑んだ。




「あかいさんもどうぞぉ……///」


「そ、それじゃあ……お邪魔、しま




ひいろがみどり先輩の隣に腰を下ろすと……争い難い引力に吸い寄せられ、布団に寝そべった。




「ぁ……だ、ダメだこれ……溶け……///」








花の間。




「……。」




教頭先生は鳥の間と隣接する壁にコップを突き立て、息を殺し耳をピッタリとつけていた。




「……静かになった。」




教頭先生はコップを机に置き、音を立てないように退室すると、鳥の間のドアノブに手をかけた。




(鍵……開いてるわね)










風の間。




「え"……なにこの悪い金持ちみたいな部屋。」


「どうも悪い金持ちで〜……どわぁああ!?」




琥珀が我先にと上がりこみ、机に置かれていた紙箱を開けると、中には山吹色のお饅頭がびっしりと詰められていた。




「やや、山吹色の……お饅頭!?」


「そんなベタな……。」




白ちゃんも上がりこみ、紙箱の中身を見下ろした。




「小判形……なんというか、心得てるわね。」




白ちゃんと琥珀が眉を顰めお饅頭を見下ろしていると、2人の後ろからにゅっと一本の腕が伸び、お饅頭をひとつまみ。




「「!?」」




白ちゃんと琥珀が振り返ると、




「…………む///」




そこにはお饅頭で膨らんだほっぺが真っ赤に染まった雪の姿が……。




「「……。」」


「…………、」




・・・・・・。




沈黙の中、雪が饅頭を飲み込んだ。




「…………ちょっと外へ///」




雪が静かに退室した直後、部屋の外からはドタドタと騒がしい足音が廊下を遠ざかって行った。




「お饅頭くらい別にいいのに。」


「変なの。」




琥珀は雪に呆れながら、服を脱ぎ捨てていた。




「琥珀って裸族だったっけ?」


「ちゃうわい!」




琥珀が部屋の奥を指差すと、そこには露天風呂があった。




「へ〜、露天風呂……。」


「いっちばん乗り〜♪」


「……まったく♪」




白ちゃんも遅れて琥珀を追いかけた。






2人が身体を洗い、湯船でくつろいでいると、白ちゃんが琥珀に語りかけた。




「……で?どうなの、母さんとは。」


「すみ姉にはどう見える?」


「今朝よりは随分と仲良さげに見えたけど。」


「えっへっへ♪」


「……海越えて、死んだ割には随分と簡単に許すのね。」


「…………。簡単じゃないよ。」


「条件付き?」


「いんや?」


「ふぅん……?」


「……すみ姉って頑固だよね。」


「誰かさんに似たんじゃない?……誠に遺憾だけど。」


「あたしが尻軽に見える?」


「……もっと下半身鍛えなさい。」


「ムキムキは違うじゃん。」


「誰がムキムキじゃ……!」


「自分でふった癖に。」




・・・・・・。




「「はは♪」」


「……母さんね?今日、初めてあたしの行きたいところに一緒に行ってくれたんだ。」



「……ふうん?で、行きたいところって?」


「イルカショーに行きたいって言ったらね?『一緒にいきましょう』って……♪」


「そう……。」


「もう一度だけ、信じてみることにするよ。」


「……やっぱ尻軽じゃない。」


「おっぱい軽いよかマシだし。」


「んなっ!?」








鳥の間前。




「……開いてる。」




ひとっ走りしてきた雪が風の間に戻れずにいると、隣の部屋の扉が少し開いていることに気づいた。




「……換気でもしてるのかな?」




恐る恐るドアの隙間から中を覗き耳を澄ませるが、中から話し声は聞こえてこない。




「…………、♪」




雪は魔が差した。




(お邪魔しまぁ〜す♪)




足音を立てないように、靴を脱ぎ忍足で玄関を通り、壁からひょっこり顔を覗かせると……




「雪ちゃんこっち♪」




先客がいた。




「牡丹ちゃん……!?」




雪が教頭先生の隣に移動すると、教頭先生は続けた。




「お部屋に着くなりぐっすりなんて、2人にはたくさん気苦労かけちゃったわね……。」


「……、」




雪はひいろの手にみどり先輩の手を握らせた。




「あら、雪ちゃん粋なことするのね?」


「みどりちゃんにはいっぱい……ほんとにいっぱいお世話になっちゃったから……。」


「そうね♪」


「……頑張ってね///」




雪と教頭先生は2人を起こさないよう、音を立てずに鳥の間を後にした。





「……ねえ、牡丹ちゃんのお部屋、お邪魔してもいいかな?」


「あらどうしたの?また喧嘩した?」


「そうじゃないんだけど……その///」




雪は風の間で年甲斐もなく山吹色のお饅頭を我先にと口いっぱいに頬張ったところを2人に見られてしまったことを説明した。




「帰れ。」


「酷いッ!?」


「そんなちぃぃぃぃっっっっぽけなこと気にしてんじゃないわよ……。」


「ちっ……!?」


「寧ろチャームポイントじゃない。……どんどん見せてけ。」


「そんなぁ!?」


「じゃあ聞くけどみどりちゃんの食べっぷりを見て雪ちゃんは引


「引くわけないっ!」


「……………………そういうことよ。」




教頭先生は花の間に1人で入り、無慈悲にもドアを施錠した。










鳥の間。




「……んん、」




眠りこけていたみどり先輩は目を覚ました。




「……………………ん?」




みどり先輩は右手に違和感を覚え目視で確認すると、自分の右手がひいろに指を絡めた状態で握られていることに気づいた。




「は…………!?//////」




右手から感じるひいろの体温に鼓動が早くなる。




(へっ!?いや、何故……!!??///)




「……ん、」




ひいろが目を覚ました。




「あれ……みどりせんぱ……い?」




ひいろは目の前に見えたみどり先輩の顔が真っ赤なことを不思議に思ったが、右手の違和感で原因を察した。




「えっ!?なんでっ、手……!?」




ひいろは自身とみどり先輩の手が指を絡める形で握られていることに驚き手を引っ込めようとしたが、指が絡まっていて敵わなかった。




(あれ、離れない……!?)




もっと強く引っ込めようとも思ったが、みどり先輩に拒絶されたと思われることを考え、手はそのままにしておくことにした。




「赤井さん……えっと、これは……///」


「あ……その、すまない。寝ぼけてやったのかも……///」


「そう、ですか……♪」


「嫌じゃ……ないのか?」


「何故?」


「えと……、


「目が覚めたら、目と鼻の先にお慕いしている人の顔があるなんて……この上ないしあ……わ…………/////////」




みどり先輩は途中で自分の台詞を省み、仰向けになってひいろと反対側に顔を逸らした。




「言うなら、最後まで言ってくれないか……?こっちまで恥ずかしいんだが……///」


「ええっと……///その!夕日が、綺麗ですねぇっ!?///」




窓側を向いたみどり先輩は、絡めていた手を離し、緋色に染まった空のふもとを指差した。




「そ、そうだな…………って今何時だ!?」


「へ?…………ああっ!?」




2人は慌てて時間を確認すると、受付で案内された夕飯の時間がすぐそこまで迫っていた。




「遅れるのは不味い!?」

「急ぎましょう!?」




2人は慌てて玄関まで駆け出し、勢いよくドアを開けると、




「いったぁぁあ!!??」




外開きのドアのすぐ外で白久家の3人がぶっ倒れていた。




「「……あ。」」


「もうちょっとゆっくりしてても良かったのに……。」




教頭先生は何故かコップを四つ持っていた。




合流した6人は夕飯を終え、各々の部屋に戻り翌朝まで自由行動ということで解散した。








鳥の間




「「……。」」




2人きりになったひいろとみどり先輩は夕日の一件を思い出し気まずくなっていた。




「……、あ!露天風呂があるじゃないか!?」




沈黙に耐えかねたひいろが大袈裟に窓の外の露天風呂を指差した。




「ほんとに露天風呂ですね!?」




・・・・・・。




(いや露天風呂くらい見ればわかるだろう何やってるんだワタシは!?)

(『ほんとに露天風呂』ってなんなんですか私!?露天風呂っぽい別な何かなわけないでしょう!?)




・・・・・・。




「はは……入って、みる……か?」


「……。」


「あ、すまない!?ワタシは大浴場で




部屋を出ようとしたひいろの腕が掴まれた。




「みどり先輩?」


「その…………、思ったことを、言っても!良いでしょうか……!?」




みどり先輩が震えているのが握られた手から伝わってきた。




「……座るか。」


「はい。」




2人は隣り合って部屋に置かれたふっっかふかの座布団に腰を下ろした。




「あの、隣なんですか?」


「その方が言いやすいだろう?」


「……どうも。」




・・・・・・。




「雪さんとお姉様、仲直り……できて良かったですね。」


「ハラハラさせられたけどな。」


「……赤井さん、雪さんと私がマブダチなのはご存知でしょうか。」


「今日初めて知ったよ。『マブダチ』って呼ぶということは、友だちよりも格上なのか?」


「どうでしょう。……ただ、友だちには無い約束……のようなものがあります。」


「約束?」


「はい。お互いを応援するっていう約束です♪」


「それで、みどり先輩は雪さんの仲直りを応援して、今日の旅行について来てくれたんだな。」


「……私がそんな良い子に見えますか?」


「今日のみどり先輩は、な。」


「……。」


「悪い子にはならないのか?」


「良いんですか?悪い子になっても……。」


「今こうしてワタシに手を握らせているのは、昨日までの悪い子なみどり先輩だ。」


「……。」


「……、」




ひいろはみどり先輩の手に自分の手を重ねた。




「ゆっくりで良


「いえ!覚悟、決めました!」


「え?……早いな。」


「じゃあ言わせてください、『思ったこと』……!」


「ああ……言ってくれ♪」




みどり先輩は深呼吸をし、大きく息を吸い込んだ。




「私……!」




ひいろの手の下に重ねられていたみどり先輩の手が裏返り、ひいろの手を握り返した。








「私……、赤井(あかい)さんのことが好きです。大好きです。


……自分の身を心配するように怒ってくれた赤井さんが……私がドジ踏んでも、隣で話を聞いてくれる赤井さんが……肉まんのおっきい方を分けてくれたり、一本しかない傘を貸してくれる赤井(あかい)さんが……!


私と違って、見返りも無しに、人のために行動してくれる赤井(あかい)さんが……!


今も……、今もこうして……手を握って、勇気をくれるひいろさんが……どうしようもなく大好きです……!!」









「……初めて、名前で呼んでくれたな。」


「あ……。」




隣に座った2人の目があった。




「…………ここからはワタシが勇気を出す番だ。聞いてくれるか?ワタシが『思ったこと』。」


「……!」




みどり先輩は目に涙をいっぱい溜めて頷いた。




「……あさぎやきはだに言わせると、どうやらワタシは人からの好意にどうしようもなく鈍感なようだが、


「はい……!」




みどり先輩は力いっぱい相槌した。




「弱ったなぁ……。えっと、続けるぞ?」


「はっ!?すみません……。」


「ずっと、気づかないふりをしていたんだ。……誰かに恋心を抱かれるなんて経験、今までなかったからな。」


「そうなんですか……♪」


「……なんでちょっと嬉しそうなんだ?」


「だって、私が初めてってことですよね♪」


「そういうことになるな。こんな目つきしてるもんだから、怖がられるばかりで……『カッコいい』って言ってくれたの、初めてなんだ。」


「牡丹さんは?」


「……身内はノーカウントだ。」


「そうですか♪」


「あさぎやきはだとも帰り道が違うから、帰り道で買い食いしたりなんてことも、ろくにしてこなかったしな。……してみたいって気持ちはあったんだが///」


「……♪」




握り返されてからずっと力を込められていたみどり先輩の手が緩んだ。




「今までおばあちゃんやおばさんに喜んで欲しい一心で、ひたすら優等生であろうとしてきた。……全然!嫌だったとかじゃないけどな!?」


「フフ♪わかっていますよ。」


「だからその……なんというか……自分の欲望に……正直、に生きてるみどり先輩は、まるでワタシと正反対で……その…………心地よかったんだ///みどり先輩と2人で過ごす時間は。」


「……『悪い子』で良いですよ♪」




みどり先輩が腰を浮かせて座布団を引き抜くと、拳ひとつ分、ひいろに寄った。




「……///」




ひいろも同じようにみどり先輩に寄り肩を軽く触れさせると、握られた手を自身の太ももの上に置いた。




「恥ずかしながら、ワタシは人に恋心を持ったこともなくて、な……///この心地よさが本当に恋心なのか、みどり先輩と同じ気持ちなのか、なかなか確信が持てなくて……。」


「初めてなら仕方ないですよ。」


「みどり先輩は初めてじゃないんだな……。」


「いえ、お恥ずかしながら……///」


「そうか♪」


「……なんでちょっと嬉しそうなんですか?」


「知ってる癖に……♪」




・・・・・・。




2人は肩をくっつけてからしばしの沈黙を楽しむと、ひいろがみどり先輩に向き直って口を開いた。




「夕飯前にみどり先輩に言われて気づい

「忘れてくださいッ!///」

「嫌だッ!」


「なんでぇ……///」


「『目が覚めたら目と鼻の先にお慕いしている人の顔があるなんてこの上ない幸せ』……、


「なんで一言一句覚えてるんですか!?//////」


「考えたんだ。ワタシにとってそれはどんな人なんだろうって……。」


「うぅ……///」


「…………みどり先輩だった。」


「〜///」




みどり先輩は顔を両手で覆い悶えた。




「そしてさっき、みどり先輩に胸の内を伝えられて、ワタシも胸が高鳴った。……確信したよ。ワタシが今まで感じていた心地よさは……みどり先輩への恋心だって。」




ひいろはみどり先輩の両手を顔から剥がすと、包み込むように、強く握った。




「待たせてしまってすまない。ワタシは……みどりさんのことが、どうしようもなく愛おしい……!!」


「…………。」




みどり先輩の頬を一筋の涙が伝っていった。




「……。」


「……。」




・・・・・・。




「どうしましょう……ひいろさんの手を握り返したいのに……。」


「あっ!?すまない……。」




ひいろは慌ててみどり先輩の両手を包み込んでいた手を離した。




「……♪」




みどり先輩はさっきまでひいろがしていたように、ひいろの両手を包み込むように優しく握った。




「これ、やられるととんでもなく恥ずかしいな……///」


「散々待たされた仕返しです……ひいろさん♪」


「これは……覚悟しないとだな///」


「私、悪い子ですから……♪」


「!?///」




自身の手の甲や手首をみどり先輩の指が這う感触に、ひいろの身体が小さく跳ねた。




「お、お手柔らかに頼む……///」


「やり直し。」


「何を!?」


「会話には主語をつけるものですよ、『ひいろさん』。」


「な、なあ……それ、いちいち強調しなくても///」


「ダメです。『ひいろさん』は私だけのものなんですから……!」


「ふぇっ!?//////」




ひいろの声が上ずると、2人の間に沈黙が訪れた。




・・・・・・。




「……あ!?///いやっ、そう言う意味ではなく!『ひいろさん』と呼べるのは私だけと言う意味……というか…………//////」


「あ、ああ……。なら、『みどりさん』もワタシだ


「忘れてくださ〜〜〜〜い!!??/////////」




みどり先輩は目にも留まらぬ速さで鳥の間を飛び出した。




「鍵……。」








翌朝。


空が薄明るくなった頃、




「んん……、」




ひいろは目を覚ますと、目の前で寝息をたてているみどり先輩の髪を優しく撫でた。




(『目が覚めたら目と鼻の先にお慕いしている人の顔があるなんてこの上ない幸せ』……)




「まったくだな……♪」


「「まったくよ(ね)。」」




背後から聞こえた、聞こえるはずがない2つの声にひいろは固まった。




「ごめんなさいひいちゃん、私たちには構わず続けてちょうだい♪」


「う"ぅ……、よか"った"ねみどりちゃ……、」




ひいろは錆びついたからくり人形のようなぎこちない動きで首を回し、声が聞こえた方に顔を向けた。




「あら、もういいの?」

「わた"した"ち"は気にせす"に……、」




振り向くとそこには、徹夜明けの如く目をギンギンに輝かせる教頭先生と、箱ティッシュを抱え涙やら鼻水やらを滝のように流す雪の姿があった。




「うわぁぁあああ!!??」




ひいろは悲鳴をあげ、被っていた布団を吹っ飛ばし壁まで這って後退(あとずさ)りした。




「布団が……


「ふっとんだわね。」


「んん……、」




遅れてみどり先輩が目を覚ました。




「ひいろさ………………え"?」




みどり先輩も状況を察して固まった。




「う"ぅ……おめで


「雪ちゃん、その言葉は本人たちからの報告の後よ。」


「でも牡丹ちゃん、今『ひいろさん』って……!」


「ぁ……/////////」




頭が冴えていくにつれ、みどり先輩の顔はみるみる赤く染まっていった。




「わかってる、わかってるわ雪ちゃん。1つしか敷かれていない布団、みどりちゃんの寝言、そしてひいちゃんの首筋に残った痕


「ッ!?」




ひいろは慌てて首元を手で隠した。




「ごめんねひいちゃん、最後のは嘘♪」


「な、な、な、な…………!?//////」


「まあ///」




起床して早々、教頭先生と雪に押しかけられ半ば強制的にお付き合いの報告をさせられたひいろとみどり先輩は、残り1日あまりの旅行を弄られに弄られまくり過ごしたが、なんだかんだで旅行を満喫した……。








3日目、日曜のお昼前。


午前中に現地解散していたみどり先輩とひいろはキャットハウス鶸田(ひわだ)前まで来ていた。




「……着いちゃいましたね。」


「また学校でいくらでも会えるさ。」


「……うち、寄っていきます?」


「みどりさん、旅行帰りで疲れてるんじゃないか?」


「すみません気が回らなくて……ひいろさん、お疲れでし……ひいろさん?」




ひいろはお店のドアに手をかけていた。




「誰が寄らないと言った。」


「良いんですか?」


「告白した時から、旅行の最後はここと決めていたからな。」


「私たちの憩いの場ですからね♪」


「憩いの場って、一応仕事場だろう……。」


「それと告白したのは私からです。」


「そうだったな♪」




ひいろがドアを開き、入店すると、




「「2名さまごあんな〜〜い。」」




少し懐かしい、聞き慣れたうら若き乙女の干物2名の声に歓迎された。




「け"……っ。あさぎ、きはだ……!?」


「なぜカウンターの中に……?」


「おうおうおうおう、

「やいやいやいやい、


「1人ずつ話せ。」


「「まずそのTシャツなに?」」


「Tシャツ?」




ひいろとみどり先輩は初日に訪れた水族館で買ったお揃いのTシャツを着ていた。




「…………流行ってるんだよ。」




ひいろはあさぎときはだから90度顔を背けて答えた。




「んなわけあるかぁっ!?」


「何故か2人おんなじ日に学校を休んで、


「おっきな荷物持ってぇ、


「白ちゃん先生も教頭先生も休んで、


「おっきな荷物持ってぇ、


「モーラ姉も留守にして、


「おっきな荷物持ってぇ、


「「いったいみんなでどこに旅行してきたんだい!?」」




・・・・・・。




「……温泉だ。」




「「だろうねぇ!?」」




「おんなじジャンプーの匂いプンプンさせてると嫌でもわかっちゃうよねぇ。」




きはだはひいろとみどり先輩を煽るかのように、自身の髪をフワッとかき上げた。




「「なっ!?///」」


「まあそれは後で問い詰めるとして……ひいろ、みどり先輩。スマホ見てみて?」


「「スマホ?」」




ひいろとみどり先輩がスマホの通信設定をオンにすると、2人のスマホが振動で踊り狂い、ものすごい数の通知が滝のように流れてきた。




「やっぱ通信切ってたか……。」


「すみません、何か急な用事でも


「いんやぁ?全部ダル絡みだよぉ。」


「3日で3桁も送るんじゃない……っ!」


「1日1桁か……。」


「あさぎ、それだとどう足掻いても3桁には届かないぞ……。」


「まぁまぁい〜じゃん暇だったんだしぃ?」


「……あーかい部の投稿も更新されてますね。」


「本当だ。」


「暇すぎたからねぇ……?」


「暇暇言ってただけの回だけど。」


「いやぁ〜、ホットなスプリングですかぁ〜。」


「は〜るがき〜た♪は〜るがき〜た♪ど〜こ〜に〜き

「お前の後ろだぁぁあッ!!」


「ホラーにするんじゃない。」


「フフ♪なんだか久しぶりですねこういうの♪」


「……だな♪」


「おおぅ?こいつぁホットですぜ兄貴ぃ。」


「まるで新婚さんだよね。」


「「!?///」」


「きっと開放的な露天風呂で……


「叡智だなぁ。」


「しとらんわっ!!」

「してませんっ!!」


「だいたい教頭先生と雪さんと白ちゃんと琥珀さんもいたんだぞ……。」


「「『琥珀さん』?」」




あさぎときはだが聞きなれない呼び名に首を傾げた。




「ああそっか、もう『モーラさん』で良いんだな。」


「それ2人に言っちゃって大丈夫なんですか……!?」


「ああ大丈夫だ。2人とも琥珀さんがモーラさんだって知ってるよ。」


「そう……良かった。」


「ねえねえみどり先輩、


「なんですかきはださん。」


「『雪さん』ってだぁれ?」


「私のマブダチです♪」




みどり先輩、渾身のドヤ顔。




「それと、白ちゃんとモーラさんの母親な。」


「「はぁぁあああ!!!???」」」




あさぎときはだが後退りしすぎてカウンターに腰をぶつけた。




「ったぁぁ……、

「〜!」




「大丈夫か……?」


「だだ、大丈夫なわけないでしょお!!??嘘でしょ、モーラさんお母さんと一緒に温泉行ってたの!?ええ!!??」


「きはださん、大げさ


「いやいやいやいやいやいやいやいや!!??モーラ姉、お母さんが嫌いすぎてわざわざ海の向こうで名前変えてまで正体隠してたんだよ!?」


「だから『琥珀』で通したんだって……。」


「いやいやいやいや、だとしても直接会っちゃって大丈




4人が立ち話している最中にお店のドアが開けられた。




「どうしたの?みんな集合してるじゃない。」


「ほぉら、やっぱここにいたっしょ♪」




遅れて入店してきた白ちゃんと琥珀改めモーラもお揃いの水族館Tシャツを着ていた。




「「ほんとにお揃いだ……。」」




あさぎ、きはだ、驚愕。




「ああこれ?」


「イカすっしょ!ほれ妹ども、お土産だぞ〜?」


「やったぁモーラ姉大好き♪」

「ありがとモーラ姉。」


「これが『姉力』よ……!」


「く……っ!?」


「そこ張り合うところか?」


「なんだか大所帯になっちゃいましたね……。中、入ります?」




みどり先輩の提案で6人はみどり先輩の部屋に集まった。




「お〜、だせぇ!?」

「このB級感……!」




さっそく水族館Tシャツを着たきはだとあさぎは盛大に浮かれていた。




「2人とも帰ったんじゃなかったのか?」


「帰ったんだけどあさぎがいなかったから、ここかな〜って。」


「私は帰宅途中に琥は


「今はモーラで。」


「はいはい。モーラにPINEで誘われたってわけ。」


「いんや〜、スマホの通信設定オンにしたら通知の雨霰(あめあられ)でびっくりよ。」


「私たち、普段かなりスマホに依存してたんですね。」


「みんな旅行中スマホ切ってたんだねぇ?」


「成り行きで、な。」


「まあ、お陰でモーラは母さんと仲直りできたみたいだけどね。」


「モーラ姉、仲直り……できたの?」




あさぎが不安そうにモーラを上目で見つめた。




「……歩み寄れたと思う。」


「そっか♪」


「あさぎもすっかり『モーラ姉』呼びが板についたな。」


「もうなんなのお姉様やらモーラ姉やら……!お姉さんは私なのに。」


「お姉様?」


「あ、それ私です……けど、どうしましょう?」


「ん〜?ああそっか、旅行中って約束だったもんね。みどりちゃんは呼びたい?」


「……はい♪」


「いよっしゃ!今日からあたしはみどりちゃんのお姉様だぁ!」


「はい、お姉様……!」


「『お姉様』のセリフじゃないのよ……。」


「うわぁ相関図がぐちゃぐちゃだぁ。」


「なんか私たち、取り残されてるなぁ……。」


「わたしとあさぎちゃんは雪さん……?の顔すら知らないもんねぇ?」


「こんど紹介しま……そうだ♪みんなで写真撮って雪さんに送りませんか?」


「お、粋なこと考えるねえみどりちゃん!」


「ちょうどお揃いだもんねぇ。」


「すみ姉、お土産買っといたあたしにありがとうは?」


「なんで私に言うのよ……。」


「クソダサ……///」


「ほら、あさぎが変なのに目覚める前にさっさと撮るぞ?」


「わかったわよ、ありがとねモーラ。」


「えっへっへ♪」




6人は部屋の1箇所に固まると、




「じゃあカメラは言い出しっぺの私が撮りますね。」




みどり先輩が5人を写真に収めるために距離を取ろうと立ち上がったが、ひいろが腕を掴んで止めた。




「ひいろさん……?」


「それだとみどりさんが映らない。……寄れば、インカメで撮れるだろう///」


「……!!」


「ど〜うどう、抑えるんだあさぎちゃん。あとでたっぷりいじらせてやるからねぇ?」


「きはだは誰目線なの……。」


「と、撮りますッッ!!///」


「「「「は〜い。」」」」




カシャ……







「へ〜、よく撮れてんじゃん。」




みどり先輩は5人と、雪、教頭先生に写真を送信した。




「……よしっ!ゆけいあさぎちゃん!」


「ねえねえひいろいつから呼び方変えたのっていうか距離近くない?一緒の部屋で寝たの成婚?」


「落ち着けあさぎ。」


「まだ成婚してないです///」


「『まだ』……ねぇ?」


「あ///」


「うわ〜立ち会いたかったなぁ。」


「安心するんだあさぎちゃん、どうせこれから死ぬほど惚気られる。」




あさぎときはだがひいろをいじり倒している傍らで、白ちゃんがモーラに話しかけた。




「あさぎちゃんときはだちゃんがいるとなんだか、一気に日常に戻った感じがするわね♪」


「いや〜参ったね。」


「そんなに旅行が楽しかったの?」


「それなりにね。」




モーラは大きく伸びをしてみどり先輩のベッドに背中からダイブした。



「ちょっと、他人(ひと)のベッド


「お姉様とっけ〜ん♪」


「まったく……。」


「……………………それよりさ、悪くないって思ちゃったんだよねぇ。」


「そりゃ、風来坊様にとって旅は楽しいでしょうね。」


「じゃなくて、




モーラは仰向けのまま首だけ若人4人の方を向くと、頬を緩めて笑って見せた。




「ここでの日常が、旅よりもさ……♪」


これにてあーかい部!、一段落です……ッ!作者さんは別作品の執筆としゃれ込んでます故、しばらくあーかい部!からは一旦離れることになりますが、白ちゃんと雪さんの溝やひいろ、みどり先輩の今後などなど、書きたいネタがまだまだあるので機会を伺って更新できればなぁ、と。


ここまで、随筆というにもおこがましい作者さんのお戯れにお付き合いいただき誠に感謝感謝……

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