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第四十六話 『箱庭』

 珍しい客が来た……俺が店に入って来た彼を見た時思ったことはそれだった。


同時に、その時店の中にいた客たちは彼を見た瞬間に一気に静まり返ってしまった。


「いらっしゃいませ」


 その空気を気にすることなく、俺は入って来た彼に声をかける。


彼が入って来たときアサカも目を見開いていたのだが、俺が普通に応対したことでアサカも動き出す。


声をかけられた彼は少し遠慮したような声音で俺に問いかける。


「店主……ここで食事をしても大丈夫か?」


 ただその言葉だけを考えれば、喫茶店という場所を理解していないのかと疑いたくなるような質問。


だけど、彼という存在を考えれば、それは当然の質問なのだろう。


「ええ、構いませんよ」


「こちらへどうぞ!」


「……感謝する」


 だからこそ、俺とルノはその質問に笑顔で答え、カウンターの前の席へと案内する。


その行動に彼は安堵した表情で礼を言い、同時に俺の行動に喫茶店内がざわめいた。


「おいおい、いいのかマスター?」


「何がですか?」


「何が……って、この男、黒翼だぞ!?」


 客の言葉に彼は小さく反応する。


そんな彼に俺は気にすることはないという意志を込めて視線を向け、彼もそれを読み取ってくれたのか何かをしようとはしなかった。


明らかにおかしな状況、全ては客が言い、彼の背中にある黒翼と呼ばれるものが原因であった。


黒翼、その言葉の通り彼の背中には黒い翼が存在している。


その翼は、この世界の中で不吉の象徴とされているもの……悪魔の翼だと、同属の翼人からでさえ忌避されるほどの代物である。


当然それを持つ者の扱いは悪く、現に店の中にいる客の内数人が侮蔑を含んだ目で彼を見ていた。


「関係ないんですよ、そんなの」


 黒翼と騒ぎ立てた客に俺ははっきりとそう告げた。


それが不吉の象徴と呼ばれていることくらい、十分に知っている。


その上で言わせてもらおう……それがどうしたのだと。


「ここに来た人は誰であれ俺の客ですよ、そこに差は無いんです」


 俺の声が店内に響き、忌避していた客たちも渋々ながら矛を収めていく。


それでも耐えられないといったように数人ほど、金を置いて店を出て行ったものもいるようではあるが、構わない……むしろ彼のためにも好都合だ。


「……ふぅ」


「わぅう」


 ルノにが給仕をしていることもあり、獣人を忌避する人間はほとんど居ないとは言えさすがに黒翼は駄目な人間も多いようだ。


中にいる客の中にも居心地の悪そうな人も少なくない。


とはいえ、それでも予想していたほどの騒ぎにはならなかったと安心する。


最悪のケースとして黒翼を殺そうと剣を抜く者がいないかというぐらいには警戒をしていたのだから。


「すまないな……店主、空気を悪くする」


「気にしないでください」


 申し訳なさそうに言う彼に俺は軽く笑って答える。


注文されたサンドイッチと水を彼に出し、他の客の相手をする。


「しっかし、本当によく受け入れたな、マスター」


「言ったでしょう? ここに来たのなら客ですよ、人間だろうが獣人だろうが、魔獣だろうが使徒だろうが竜だろうが、ここに来たのなら等しく客ですよ」


 そんな中で、ゲインさんが感心したように声をかけてくる。


それに俺はそう返したのだが、魔獣以外は事実ここに来た事があるんだよな……当たり前だが冗談ととられたようだけど。


「なるほど、マスターは中々豪胆な性格だな」


 ハハと笑い、ゲインさんはコーヒーを飲んだ。


彼もまた普通よりは黒翼と言うものに忌避感がないように思える。


「それに、俺はそういう区別に関して特に気にならない性質なんですよ」


 そもそも異世界から来た身にとっては、そういった常識に関して鈍感な部分が強い。


自分も彼らと同じような扱いにされる可能性もあるため、他人とは思えないという感覚があることも要因だろう。


まあ……さすがに言える話ではないのだけど。


「ま、ヒサメからすればそうだよな」


 事情をよく知っているアサカが苦笑しながら頷いた。


「いいことだと思うぞ? まあ、店の運営って意味合いで答えれば店に入れないことの方が正解ではあるだろうがな」


「別に、営利を目的にやっているわけではないから、そのあたりは問題ないです」


「ああ、知っているよ」


 ゲインさんは結晶印持ちであり、俺があまり金に執着していないことは夜会のほうでよく知っている。


まあ、魔法具の値段は本当にギリギリの超良心価格でやってるからな……そんなわけで、営利目的ではないと知っても驚くことは無い。


むしろ当然と言わんばかりの様子であった。


「というか、アサカもよく普通でいられたな」


「ま、お前みたいな奴と過ごしていれば嫌でもそうなるさ」


「……どういう意味だよ?」


「褒め言葉だ」


 ジト目でアサカを見るものの、特に気にした風もなくそう言われてしまう。


まあ、この際俺が何を言われてもいいから、忌避をされなかったことだけをありがたいと思うし喜ぶべきだろう。


正直に言ってこういうところで従業員同士で不和が起こるなど冗談にもならない。


「わう……ヒサメヒサメ」


「ん?」


 ゲインさんとの会話中、ルノに服を引かれた。


どうしたのかとルノを見れば、その視線は彼の方に向けられていて……


「眠ってる」


「……ああ、そうだな」


 食事を取れて安心したのだろうか、よく眠っているようである。


普通の客であれば起こしてもよいのだろうが……彼となればまともに眠ることも一苦労であろう、それを考えればここにいる間くらいは安心して眠っていて欲しいところである。


となると……やらなければならないことがあるだろう。


「アサカ、しばらく全ての仕切りを任せるぞ」


「あ? どういうことだ?」


「この店を戦場にするわけにはいかないだろ?」


「はい?」


 予想が正しければまず間違いなく面倒事がやって来る……それを少々険しい顔をしているルノが物語っていた。


それは決してルノへ向けられているものではない、だけど確かにこの喫茶店に悪意が迫っていることをルノは感じ取っていた。


店を出ていった者か、店に入るのを目撃した者か……どちらかはわからないが、とりあえずこちらに敵意を持って誰かが近づいてきていることだけは間違いない。


そうであるならば、そんな輩を店内に入れる気は俺には無い、屋外でお引取りを願うしかないだろう。


「マスター、問題はないだろうが気をつけろよ」


「ええ、ありがとうございます」


 ゲインさんが声をかけてきたためお礼を言い、俺は店の外へと出る。


コーダさんの件や、魔法具店関係でそれだけの材料を集めることができることを知っているため心配はされなかったが、事情を理解した上でそう声をかけてくれるゲインさんのような存在をありがたく思う。


外に出たまま、こっちに向かってくる気配の方向へと俺は歩を進める。


そして、ちょうど一本道となるような場所で俺はそいつらと遭遇した。


「はいはい、ここからは通行止めだぞっと」


 道を遮るように俺は男たちの前へと立つ。


人数は十数人ほど、幸いなことに見知った人間がいない……外から新たにやって来た探索者の一団なのだろう。


とりあえず向こうから感じる強さは正直そこまで高くない……どうあっても負ける要素はなく、問題なく処理できそうだとひとまず安堵する。


「そこをどけ」


「俺たちは中の悪魔に用があるんだ」


「悪魔? そんなやつは中にいないよ」


 黒翼の蔑称が悪魔であることは知っている。


けど、この店に悪魔はいない、いるのは翼人であるし、客だけである。


「庇いだてするのなら痛い目を見てもらうぞ」


「「悪魔狩りだ!」」


「「黒翼狩りだ!」」


「「化物狩りだ!」」


 先頭の男の言葉の後に続いて男たちが騒ぐ。


彼らの騒ぐ悪魔狩り、黒翼狩りはそれなりの地域でやられていたものだ。


最悪なのは黒翼と言うだけで討伐の報酬が出るという事実。


金に目が眩んだ者たちが黒翼たちを襲い、それから逃げるために戦い、被害が出て悪名が増える。


最悪の循環である、そこに黒い翼を持つ者の救いは無い。


存在そのものが罪だと声高に言う者もまたいるが……俺はその言葉が認められず、大嫌いである。


それに、外から来た一団が黒翼を狙うというこの状況……そこから判断できるのは、ここまで彼を追いかけていたのがコイツらなのではないのかという仮説。


黒翼の能力は基本的に高く、コイツら一人一人ならば敵ではないだろう。


しかし、倒せば倒すほど立場の悪くなる状況に、多人数からの襲撃……消耗は激しい。


そこまで思い至った時点で、俺は考えることをやめた。


「帰れ……お前らのような奴を店に入れる気は無い」


 もっと他に穏便に済ませる方法があったかもしれない。


しかし、少々イラつきが押さえられなかった。


「わかんねえ奴だな……おい」


 先頭の男が目配せをすると、後ろから二人ほどニヤついた男が前に出てくる。


男たちは俺に向かって拳を振り出そうとし……


「……遅い」


 当然のように俺の反撃を食らって地面に倒れ伏した。


この程度の相手なら、どうとでも相手にすることができる。


「な……ぁ……?」


 その光景に驚愕を見せる男たち。


程度によっては何が起こったかもわかっていないような者までいるだろう。


「最後の警告だ……帰れ」


「ふざけんな、全員でやっちまえ!」


 襲い掛かる十数の男たち。


それにため息をついて、俺は戦いとも言えないそれを始めるのだった。


「……………………終わりか?」


 一分にも満たない短い時間で、先頭にいた男以外を全員地に沈めた。


そのまま俺は興味もないと言ったように男へと告げる。


言外に逃げ帰るか一緒に沈むかを選べと含ませて。


「ふざけんな……なんだこれ、ふざけんなよちくしょう!」


 引き起こされた光景を理解できず、男はただただ吠える。


こんなはずではない、そう言わんばかりに男は取り乱し続ける。


やがてその様子を冷めた目で見ている俺を見て、怒りが再燃し始めたようだ。


「てめぇ……よくもやってくれたな……」


「世の中そうそううまくは回らないってことだ……いい経験だろ?」


 男を貶めるように、出来る限り酷薄な笑みを浮かべる。


その笑みに男が吠えながら殴りかかってくるが、あまりにも遅いその攻撃を躱して、同時に腹へ一撃叩き込む。


「がはっ……」


「わかっただろ? さっさと諦めてこの街から出て行け」


「クソが……こんなボロイ店の従業員が俺たちの邪魔するんじゃねぇ、中にいる奴関係なく店を潰してやろうか?」


「…………あ、なんつった?」


 蹲りながら吐き捨てた言葉は、決して聞き捨てならない言葉で。


ほとんど無意識に男の腹を蹴り飛ばした。


「ごほっ……がっ!?」


 蹴られた衝撃で壁に叩きつけられた男の顔をすぐさま足で踏みつける。


怒りのまま踏みつけた足に力を込めていき……男へと告げる。


「店を潰す前に、お前を潰してやろうか?」


「そこまでだよ、マスター」


 そんな俺の背後からかけられた声は、聞き覚えのある声だった。


呼びかけられた俺は、仕方なく踏みつけた足の力を若干緩めながら、だけど振り向かずにその声の主に声をかける。


「……邪魔しないでくれますか、レスカさん?」


「そういうわけには行かないだろう?」


 背中から聞こえる声には強い制止の意志を感じた。


仕方なく俺は踏みつけることを止めてレスカさんの方を見る。


レスカさんの瞳はいつになく真剣で、やりすぎるようなら止めると語っていた。


「事情はよく把握していない……マスターがキレた理由は聞こえたが、そもそもどういう経緯があったのか教えて欲しい」


「それは……」


 俺が口を開こうとして、それよりも早く倒れている男が叫びだす。


「レ、レスカ・セルフィナ? 助かった、その男を捕まえてくれ、黒翼を庇って俺たちを襲いやがったんだ!」


 レスカさんは単独で『大迷宮』の下層に潜れる実力者だ。


当然ながら、その強さは探索者の間では有名であり、男が知っているのも不思議ではない。


そうであるなら、この場での乱入者であるレスカさんに助力を頼むのも頷ける。


「黒翼? ああ、なるほど……そういうことか」


 男の言葉でレスカさんは納得したように頷き、俺に告げる。


「おおよそ理解した……となればマスター、彼らはギルドが預かるよ……さっきの発言で彼らは既に詰んでいるよ?」


「……ああ、そうか……わかった」


 レスカさんの言いたいことがわかって、俺はレスカさんの提案に乗った。


確かによりにもよってこの街でその手の発言は命取りだ。


「十数人か……マスター、中の知り合いを借りるぞ?」


「了解、御代はいらないから頼むと伝えてくれ」


「ああ」


 レスカさんは微笑を浮かべて喫茶店のほうへと向かう。


だが、ここで倒れたままの男は様子がおかしいことに気づいて叫びを上げる。


「な……なにをしているんだ、はやく捕まえてくれ、この男を!」


「残念だが……捕まるのは君のほうだよ」


 男の叫びに、レスカさんは若干の嫌悪を滲ませて告げる。


「な……」


 告げられた内容に男は絶句。


そのままレスカさんは続けて説明を行う。


「君はここを潰してやると言ったな……ギルド公認であるこの店を」


「ギルド……公認……だと……?」


「そう、ここは探索者の街、世界でも最大規模のギルドが特別に店舗登録を行っているこの店……それを潰すということは、ギルドに弓を引いたことと同義だ」


 つまりはそういうことだ。


ギルドの店舗登録は、同盟関係と考えるのが一番正しいだろうか?


ある程度の融通を利かせることができる代わりに、不利益を被る際に守る……そういう契約だ。


そして、探索者が店舗に対し不利益を与えるということは端的に言えば一方的に同盟を破棄しようとしている裏切りのようなものになる。


結果登録していた契約が切れ、さらにはギルドの評判も悪くなるというギルド全体に悪影響が出る。


ギルドに不利益を与えるということはギルド側から見てもその探索者は敵であると言える。


そのため、侘びでもあるし本意でないことを示すために探索者に処分を与えることは必須であろう。


ようやく理解が追いついたのか、男は顔を青くして逃げ出そうとするが、今さらそんなことが出来るわけが無い。


あっさりと捕まり、レスカさん他客の皆さまによってギルドへ連行されていくのだった。


それからはとりあえずは平穏のまま『旅人』の終了時間を迎えることになる。


来た客の中には眠っている彼を見て明らかに顔を歪める者もいたが、騒ぎになることはなく俺もルノもアサカも胸をなでおろしたのだった。


「……すまなかった、迷惑をかけたようだ」


 目覚めた彼は状況を把握して俺たちに頭を下げてきた。


「俺は別に何もしてない、やったのはそっちのヒサメだけだって」


「そうそう、追ってた奴らみんなヒサメが倒しちゃったんだもん」


「む……逃げやがったな」


 軽く睨むがアサカとルノはそ知らぬ顔でスルーする。


そんな様子を見て、彼は小さく笑った。


「ふふ……」


「あ、すみません、見苦しいところ見せて」


「見苦しいって何だ見苦しいって!」


「ヒサメはボクらに謝るべき」


「いいから黙れよお前ら……」


「ふふ、ははは!」


 俺は頭を抱えるように肩を落とす。


そんな様子を見て彼もこらえ切れないように大きく笑った。


「ははは……久しぶりだよ、普通の楽しさってものが」


 楽しそうに笑う彼に、俺たちは軽く目くばせをし合い話を進めることにした。


少しでも空気を軽くするためにやった芝居はどうやらうまく行ったようである……うん、芝居だよな、素でやっていなかったよな?


若干不安に思いながらも、それよりも重要なことがあるためそちらを優先する。


「とりあえず、名前を聞かせてもらっても良いですか、自分は水森……水森氷雨です」


「アサカだ」


「ルノです」


「ああ、私はレザレスと言う」


 彼、レザレスさんは小さく微笑を浮かべながらそう名乗った。


それから少しの間簡単な会話をしてから、立ち入った話に入る。


「なあ、レザレスさん、貴方はこれからどうするんですか?」


「そうだな……こんな翼を持つ身だどこに行くにしても今日のように追われる……ひたすらに逃げるだけさ」


 そう言うレザレスさんは自嘲するように呟いた。


永遠に逃げるか、それとも戦い立場を悪くするか……その二つ以外の黒翼に選択肢はほとんどないと言っていい。


「んなの……あんまりじゃないか」


「わう……酷い」


 アサカがそれを聞いて肩を震わせ、ルノも思うところがあるようで下を向く。


それを見たレザレスさんはかすかに頬を緩ませて言う。


「ありがとう……君みたいな人がいてくれるだけでも、本当に救いになる」


 本心からそう言うようにレザレスさんは言う。


だけどアサカは納得しない、けれど自分ではどうすることもできなくて、自然と視線は俺へと向く。


お前ならばなんとかなるんじゃないか、そんな意志が込められた視線に俺は強く頷いた。


案がないのなら、こんなわかりきった質問などしないさ。


「レザレスさん……行き場所がないのなら、ここへ行ってください」


 俺は言いながら、レザレスさんが来てから用意していた地図を渡す。


「これは……」


「箱庭……あるいは小さな楽園と呼ぶ場所を示した地図です」


「小さな楽園?」


 聞き返すレザレスさんに俺は頷いて答える。


「黒翼、角付き、あるいは使徒に魔眼持ち……疎まれる者たちが寄り添って作られた村です」


 答えた瞬間、レザレスさんが目を見開いた。


アサカもまた驚いているようだが、それでも手段はともかくどうにかできるとはわかっていたため驚きは薄い。


「そんな場所が……あるのか?」


「ええ、実際に行きましたから」


 ルノとそれから、道中で出会った魔眼持ちの男の子と一緒にその辺りを旅していたとき、そこを見つけたのだ。


というよりは連行されたといっても良いかもしれない。


使徒や魔眼持ちといった特殊な力を持った者たちがいるため、よほど力を持った者でなければ見抜くことが出来ない結界に守られている。


その近くを月犬の仔と魔眼持ちの男の子を連れた人間が通りかかったのだ、その二人を救うためといったように村から数人に囲まれて村にまで連れて行かれた。


いや、正直俺に向けられた敵意が凄くてあの時は本気で殺されるかと思った。


それでもどうにか誤解が解けて、事情説明を行った後、数日の間泊まって村を出たのだが……その時にここに残りたいと魔眼持ちの男の子が言って別れたことがある。


「黒翼ならば近づけば迎えに来てもらえるはずです……ただ、穏やかに過ごすだけならばここに行けば間違いないはずです」


「そうか……本当にそんな場所が……」


 レザレスさんは本当に嬉しそうに笑う。


村のリーダーから見かければ助けになってやってくれと頼まれたこともあるが……そうでなくても良かったと思う。


「……一度、行ってみたいと思うよ、その村に」


「ええ、でしたら、こちらをお願いします」


 俺は封筒に入った手紙をレザレスさんに渡す。


「これは?」


「村にいる知り合いに渡してください、魔眼持ちの男の子でニーアという名前です」


「わかった、必ず届けよう」


 レザレスさんは頷き、出口へと歩いていく。


出口の扉に手をかけたところでこちらに振り向き、


「ありがとうヒサメ、アサカ、ルノ……今日会えたことを感謝するよ」


「ええ、それでは」


「ああ」


 一度頷き、レザレスさんは出て行った。


願わくば、彼が無事にあの村までたどり着けることを……そう俺たちは祈るのだった。




 後日、彼が村に着いたことを村の住人の使いが知らせてくれた。


もっとお話したいから手紙をよこせと催促する手紙を渡されながらだったが。


それ以降、定期的にやってくる使いの人により俺とルノとその子にレザレスで文通することになるのだが、それはまた別の話である。






 喫茶店『旅人』、誰にとっても安らぎとなれるように日々励んでいます。

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