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第三十八話 『宿泊』

 以前の夜会の提案から、今度こそはと次の週末に夜会を終了させた俺たちは初となる宿泊会を開いたのだった。


「考えてみりゃ、家の中に入ったことはもう何度もあるが……ここに入るのは初めてだな」


「それもそうだな……ま、見られると不味いものも結構あるからな……」


「確かに……見る人が見ると度肝を抜かすようなものがちらほらと見えているんだけど」


 現在いる場所は俺とルノが魔法具を制作する際に使っている工房。


アサカとシオンが見たいと言うので、案内しているのである。


本来こういうものはシオンのように別の技術者に見せるのは避けた方が良いのだが……シオンにはルノと同じく俺の技術の一端でも吸収していってほしいため見せることにした。


なお、見られて不味いものとは、例えばファフニールの鱗であったり古代言語の刻まれている剣であったりする……正直、度肝を抜かすどころか卒倒する奴もいるんじゃないだろうか。


「というより、まず入り口に驚きなさいよ……」


「何も無いところから……扉が」


「これが、マスターの言うところのじいさんの技術ですか……」


 後からついてきているサナちゃんたちはここへ入るための方法に驚きを隠せなかったようだ。


まあ、何もない空間から突然扉が現れて開いたら驚くほかないだろう……ここへの入口は権限を持っている人間がこの喫茶店の居住区内であれば任意に呼び出して開くことができるようになっている。


当然、その権限を持つのは俺とルノの二人だけである。


「いやいや、ちゃん驚いてるんだぜセリカちゃん」


「ただ、それよりも中が気になってしまったから反応が薄くなっただけですよ」


「「それに、ヒサメが何をしても今更だし」」


「……それもそうね」


「はい、ちょっと待とうかお前ら」


 声をそろえて理由を述べるアサカとシオンに納得するように呟くセリカちゃん。


言いたいことは十分理解できる……できるが、文句の一つくらいは言わせてくれ。


「でもマスター、否定できる要素が欠片もありませんよ?」


「……ごめんなさい、マスター、私も同じです」


「……わかってる、味方がいないことくらい」


 追い打ちをかけるようにサナちゃんとシトネちゃんが俺にツッコミを入れてくる。


どうやら俺が普通ではないことには文句の一つも入れることができないらしい。


いや、こんな空間作り出している時点で何かが言えるはずがないのだけど。


「けど……なあルノ、これくらいのことはしておかないとここは不味いもんな?」


「わう、泥棒対策」


「いやいやいやいや、待て待て待て待て」


「言いたいことはわかるよ、けど泥棒程度にマスターたちにそれは必要ないから、むしろここに入る泥棒には同情するよ僕」


 ルノに救いを求めるように話を振ったのだが……正直予想の斜め上をいった気がする。


アサカが頭を抱えながらルノにツッコミ、シオンもまた引きつった顔でそう言った。


だからシオン、お前は俺のことをどう思っているんだよ?


じっくりと聞いてみたいところではあるがそんなことを続けていてはいつまでも終わらないため断念、中の案内を続けることにする。


「ちょっとむこうは制作中のものとか危険物とかあるからそっちにはさすがに近づかないでくれ」


 とりあえず、本気でヤバいものと部品とかがなくなると面倒な場所を指差しながら、工房の様子を簡単に見せていく。


「了解……ちなみに危険物って?」


「とりあえず、軽くここが吹っ飛ぶ」


「絶対に近づきません」


「よろしい」


 アサカと間の抜けたような会話をしながら、他のメンバーにはそこ以外であれば好きに見ていいと告げる。


各自興味を引くもののある場所へと移動しながら、俺やルノの作ったものを覗いていく。


「ここで、マスターとルノ君は魔法具を作っているんですね」


「そうなるね、最近はルノの方が執着しているけど」


「わん! 作るの楽しいよ」


 そんなみんなの様子を見ながら、近くにいたシオンの言葉にルノと答える。


ルノには基本的なことだけは大体教え終わっているため、自分の作品を作りながらさらに深いところを教えている途中である。


学んでいる最中となるルノは非常に熱心に魔法具制作に力を入れており、最近のここの使用率はかなりのものなのだ。


当然、俺もかなり利用してはいるのだが……最近喫茶店の新メニューを考えるのが楽しく、そちらにばかり傾倒しているため使用率はルノに負けているのだった。


「……あれ、これは」


「ん、ああ」


 他の人がどんなものを見ているのかと回ってみれば、シトネちゃんが少々見られたくないものを見つけていた。


と言っても危険なものと言うわけではないのだが。


「できれば見なかったことにしておいてくれ、完璧なものを作るにはまだまだ修行が足りないんだ」


 シトネちゃんが取り出したものは刀だった……いや、まだ刀と呼ぶにはおこがましいか。


以前借りた刀を参考にしての一振り、だけどやはり簡単には作り上げることなどできなくて、まだまだ未完成と言っていいレベルのものである。


「……そうですね、普通の剣より斬ることは出来ると思いますけど、刀と言うには遠いです」


「はは……厳しいことだ」


 扱っている人間からの言葉、それは何にも増して説得力のある言葉であった。


俺は少々落ち込みながらそう言って、他のメンバーが何を見ているのか引き続き確認して回っていく。


サナちゃんやセリカちゃんは試作品の魔法具の棚を見ているようで、ルノからどのようなものであるのか説明を聞いていた。


アサカは武器、特に機工剣の類を中心に見て回っているようだ。


シオンは作品よりもむしろ機材への興味が強いらしく、機材の機能を理解しながらしきりに感心しているようだった。


しばらく時間を取って見て回った後、この工房を出ようとしたのだが……


「ごめん、もう少し」


「いや、それ三度目だからな」


「ごめん、もう少し」


 一人諦め悪く居座ろうとする人間がいた……まあ、シオンである。


普段ならこういうことは珍しいだろうが、今この場所に置いてはある意味で当然の状態とも言えるだろう。


とりあえず、言葉では動きそうにないため無理やりでも外に出すことにする。


「駄目だこりゃ、ヒサメ、無理やり引っ張るぞ」


「……仕方ないな」


 俺がシオンの右側、アサカが左側に移動し、連れて行こうとしたところで……


「待って、まだ……まだ!」


「へ!?」


「嘘だろ!?」


 その場に留まろうとシオンが抵抗をし始める。


俺もアサカもそれなりの力を入れているはずなのだが……それでは動かせそうにないほどにその抵抗は強い。


「まだ……まだ、見たいんだ!」


「お前の咆哮は珍しいけどこんなところで見せるなぁ!」


 全力で突っ込みを入れ、アサカと必死でシオンを引きずっていくのであった。


人は好きなものの前では軽く全力と言うものを越えるのだということは理解しているが……シオンに改めて思い知らされることになるとは思わなかった。


それでも引きずり出して扉を閉めると、若干名残惜しそうな顔をしてから、我に返ったらしく自分がどういう状態だったかを理解して、


「申し訳ございませんでした」


 全力で謝られた……見事なまでの土下座であったとだけ言っておこう。


まあ、そんな珍事があったものの後は問題などあろうはずもなく、全員喫茶店側へと移動して宿泊会のある意味本番へと差し掛かる。


「さて、言うまでもないことだが、全員徹夜コースな」


「当然よ!」


「楽しいことになりそうね」


 全員が座ったところでアサカの言葉に周りも賛同する。


ことさらセリカちゃんとシトネちゃんはかなりの乗り気のようだ。


俺を含め、そのほかのメンバーも反対するものはおらず、各自でそれなりに遊ぶ物を持ってきていた。


余談だが、この世界にトランプに類するものが存在しており、家庭での遊びや賭け事など元の世界と同じように親しまれている。


アサカも行っている学園生同士の賭け事でもダイスと一緒によく使われているそうな。


さらに余談ではあるが、トランプ等のカードゲームのセットの売れ行き層、圧倒的に多いのは探索者だったりする。


野営中に暇つぶしに遊んだりするのだが……その最中に魔獣に襲われるなどで紛失することが多くて買い直す人が後を断たないんだとか。


「全員で七人か、まあ色々出来そうではあるな」


「ま、まずは定番を攻めようぜ」


 トランプを取り出したアサカが、慣れた手つきでカードを切り、全員に配っていく。


マークではなく赤青黄緑の四色、数字は15まででキングなどの絵柄はなし、ジョーカーはゼロで表しているといったような差異はあるが、特に違和感もなく遊ぶことが出来ている。


内容はババ抜き……こちらで言えばゼロ抜きと言うことになるか。


元の世界より若干多いそれを受け取りつつ、ペアを捨てていく。


とはいえ、七人だから元の数も少ない、一組捨てた時点で終わり、残り七枚。


他のメンバーも似たり寄ったり……って。


「ルノ、お前初期で三枚かよ」


「うわ、いいなぁ」


「わん!」


 相変わらず運がいい、と若干ルノを羨ましく思いながらゲームが開始された。


配ったアサカがセリカちゃんから引き、アサカのカードをシトネちゃんが引き、次に俺と順番が回っていく。


「じゃあ、マスター、引いてくれますか」


「……さて、どれがいいのか」


 このメンバーで一番表情が読めない相手であることにため息をつきたくなる中、とりあえず一枚引いた。


揃う組は無し、そのまま次のサナちゃんのほうへ八枚となったカード群を突き出す。


「……これっ! ……やった!」


 カードが引かれ、嬉々としてサナちゃんが一組捨てる。


次に引いたシオンはどうやら揃わず、そのままルノに引かせたのだが……そこでルノが一組捨てる。


「一巡で残り二枚かい……というより一枚か」


 ルノのカードをセリカちゃんが引き、残り一枚。


引いたセリカちゃんは一組捨てて、二巡目に回る。


アサカも一組捨てて、ついでシトネちゃんも同じように一組捨てる。


それで俺はといえば、


「……げ」


 他が捨てている中でゼロを引いたことに思わず声が漏れる。


シトネちゃんを見れば、口元に若干の笑みを見せしたり顔。


その反応に周囲も俺が引いたことに気づいたようであり、若干俺のカードを引くサナちゃんが困った顔を見せる。


俺の方もなんとかゼロを引かすことを考えるが、八枚もあれば早々当たらない。


ゼロが残留したまま三巡目を迎えることになる。


救いなのは自分が枚数を持っている分、周りの揃うカードも少ないことか。


他のメンバーもカードを捨てることなく自分の番が回ってくる。


「……よし」


 三度目の正直と言った感じで一組成立し、残り六枚。


これでまだなんとかなると安心したところで……


「わう、あがり!」


「早っ!?」


 ルノがトップで上がりを宣言。


俺も周りもある意味で納得しているが、運が良いにしてもほどがあると言いたい。


まあ、上がられたのなら仕方がないと全員気を取り直したところで、そのままゲームは続き、セリカちゃん、サナちゃん、シオン、シトネちゃん、アサカと順に上がり……


「…………あれ?」


「マスターの負けね」


「おお、ヒサメが負ける姿って初めて見るな」


 最初に抱えたゼロを結局最後まで持ったまま敗北した。


サナちゃんをはじめ俺から引いたメンバーが軒並みゼロを避けて引いて行きやがった……イカサマらしいことはなし、完全に運の領域である。


……なんでだろうか、ある意味イカサマ等があって負けたよりも悔しいんだが。


「チクショウ! もう一回だ!」


「うわ、ムキになりやがった」


「じゃあ最下位のマスター、カード配ってくれますか?」


「……シトネちゃん、わざわざ口で言うの止めてくれるか……」


 上がってきた意気を消沈させつつ、カードを集めてシャッフル。


一枚ずつカードを配っていき、中身を確認。


二組捨てて残り五枚、ババは無しとなかなかの初期手札にこれならと安心する。


「……と、思ったんだけどな」


 うまくカードが揃わず、残り二人で俺が一枚、そしてルノが二枚の状態となったんだが……全員沈黙。


周りからは俺にかかる同情の視線。


「……こっちか」


 俺が右のカードに手を伸ばす。


ルノの表情は変わらず、どちらがゼロかはわからない。


……そう、表情だけなら。


「…………わぅぅ」


 耳がピクピク動き、尻尾が力強く振られている。


そして左のカードに手を伸ばしてみると、今度は耳も尻尾もペタンという音が聞こえてきそうなほど力を失った。


困ったように周りを見れば、周りからもお手上げと言った感じで首を振られた。


「ヒサメ、他の人に聞くのは無しだよ」


「いや、ああ、うん」


 ルノが咎めて、俺は視線を戻す。


やはり、そのルノの表情は変わらず、読めない。


それなら俺もある程度運に任せて引くのもやぶさかではないのだが……耳と尻尾のせいで台無しだった。


「ああ、うん、どうしよ……」


 自覚してないんだろうなぁ、などと思いつつルノの二枚の手札を見つめる。


勝つのは簡単である……しかし、これに勝つのはあまりにも大人げないんではなかろうか……そんなことを散々葛藤した結果。


「勝ったあ!」


「ああ……負けたよ」


 両手を挙げて喜ぶルノと、消沈してテーブルに倒れた俺……結局敗北を選んだ俺は決して間違っていないと信じたい。


周りからもあれは仕方がないといった空気を持っており、ゼロ抜きはこれで終了した。


誰も好き好んで同じシチュエーションなどやりたくはないということである。


初っ端から二連敗と成績の悪いまま、座る順番を変えて次の勝負へと移行するのだった。


そして次の勝負は……


「7」


「8」


「9!」


「10」


「……………………11」


「「「「「ダウト!」」」」」


「あうぅ」


 手札を捨てたサナちゃんが崩れ落ちた。


ゲーム内容はサナちゃん以外が宣言したとおりダウトである。


なお、これは元々この世界ではなかったようで俺から元の世界からのゲームを紹介した、このほかにも七並べや大富豪も俺からこちらに伝わっていたりする。


まあ、それはともかくとして、捨てられたカードは10。


場に出ていた十一枚のカードごとサナちゃんの手札へと戻される。


「…………ちょっと、みんな嘘つき過ぎるよ!」


 捨てられていたカードを見て明らかに数字順に並んでいなかったのだろう……カードを確認したサナちゃんが怒ったように叫ぶ。


ちなみに俺は二巡で二回とも宣言したカードを出してはいない。


「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ、ってわけで11」


「そういうことだな、あとは勢いで出す、逡巡なんかしてればすぐに怪しまれるぞ、12」


 サナちゃんに言葉を返しつつ、アサカと俺が順にカードを捨てる。


「まあ、サナは正直者だからねぇ……13」


「サナちゃん、がんばろうね、14」


「あまり人事じゃない辺り、笑えることでもないけどね……15」


「わう、1」


「うぅ……2」


 落ち込んだ様子でサナちゃんが二枚同時にカードを捨てる。


さすがに量が多いだけに二枚出しでも怪しくはない……というより性格上確実に本物だろう。


そのまま次々とカードが溜まっていき、俺の番がやってくる。


「…………11」


「ダウト!」


 逡巡したのを見ていたのだろう……出してすかさずサナちゃんが俺に宣言をしてくる。


宣言をされた俺は若干頭を抱えて呟く。


「なんでよりによってサナちゃんが……」


「ふふふ、さっきの仕返しで…………」


 若干勝ち誇っていたサナちゃんが俺の捨てたカードをめくり、硬直した。


当然、カードの数字は11である。


「ど……どうして……」


「逡巡したら怪しまれるんだから、宣言狙いで罠を仕掛けるのも常套手段だろ……他を狙ったつもりだったんだけど……」


「いやいや、今のは明らかに誘いだろ」


「言った本人が止まるんですもの、なにか裏があってしかるべき……といったところでしょうか」


 アサカはニヤつきながら、シトネちゃんはすました顔で俺の狙いを外した理由を言う。


まあ、若干あからさまであったのは確かか……


「あぶなかった……」


「本当に……」


 とはいえ、引っかかりそうなのは他にもいたようではあるが。


なお、ルノは基本的に宣言しないでリスクを減らすタイプなので最初からルノだけは狙っていなかったりする。


それはともかくとして、手札が二十枚を越えたサナちゃんはとても沈んでいた。


そんな状態で勝てるはずもなく、サナちゃんの最下位でゲームは終了。


この後も二度三度と再勝負を行っていくが、サナちゃんか、あるいはシオン、セリカちゃんあたりが敗北を続け始めたところで終了。


ここまでで一度も負けていないのはアサカとシトネちゃんだけである。


そろそろどちらかを負かしたいと考えながら、三つ目のゲームに持ってきたのは七並べ。


もっとも、ここのカードは15まであるから八並べとしてゲームをしている。


「おいアサカ、お前だろ緑の7と13止めてるの」


「さて、何のことやら」


「わうぅ……パス」


「こっちもないわね……パス」


「じゃあ、黄の6を出すわね」


「ありがとシトネちゃん、黄の5」


「赤の14、かな」


 パス四回でゲームオーバーのおそらくはオーソドックスなルールなのだが……その場合、やはり両端を保持している奴が有利なのは当然だろう。


勝手にこっちがパスで自滅するのを待つだけなのだから。


中盤も終わりかけ、アサカがパス1、で他がパスを2まで使っている状態……そろそろどうにかしなければいけないというところで、


「アサカさん」


「ん?」


 その突破口を開いたのはサナちゃんだった。


「緑の13、出してください」


 サナちゃんが出したのは、緑の14と、ゼロ。


「あ……」


 ゼロと場に出ているカードの一つ飛ばしの数字のカードを同時に出すことで、間のカードを持っている人間に強制的にカードを出させて、代わりにゼロを渡す。


ルール上アサカに断れるはずもなく、13と14が場に現れることになり、そして……


「じゃ、緑の15」


「あああああぁぁぁぁぁぁっ!」


 シオンからトドメとなるカードが捨てられた。


1あるいは15、片方の端に着けば、もう片方の端からしか出せなくなる。


緑の7を所持しているであろうアサカにすればたまったものではなく。


「……負けた」


 ゼロの警戒のためにあえて緑の4までしか出されない状態ではどうすることも出来ず、パス4によるアサカの敗北が決定するのだった。


その後も色々とゲームをしながら過ごし、『旅人』の夜は明けていく。


徹夜だと騒いでいた面々も、ルノを筆頭に睡魔に負けていき、半数が眠りについたところで終了を迎える。


結局、全ゲームあわせての勝率ではシトネちゃんが、次いでアサカ、ルノ、俺、セリカちゃん、シオン、サナちゃんといったような形となり、サナちゃんが若干沈んでいたのは言うまでもない。


そして現在、眠ったメンバーを布団のある部屋まで運び、日の出までもう少しといった時間帯で起きているのは俺とシトネちゃんのみとなっていた。


「シトネちゃんは強いね……カードゲームでは特に」


「気づいてますよね、勿論……どうしようかとも思ったんですけど、やっぱり負けるのは嫌だったので」


 軽く腹も減ったため、軽食程度のものを作りながら俺とシトネちゃんは話す。


「俺はまあ、勝つための手段としては否定しないがな……それに、狙ったのは俺とアサカくらいみたいだしね」


「そこまでバレてましたか……」


 ゲームの勝率、特にカードゲーム系ではシトネちゃんが圧勝だったのは多少のわけがある。


勝率の高さで言えばアサカは日ごろから賭け事などである程度やっているだろうから高くても普通である。


ルノに関しては単純に運の高さだろう。


しかしシトネちゃんは少し違う、ほんの少しだけだが、別の要素が混じることになる。


「正統派の裏技……ある意味反則じゃないよな」


 似たような事象はじゃんけんだろうか。


動体視力に物を言わせて相手の出すものに合わせるようなものである。


ガラスに映った相手の手札が見えても反則とは言えないだろう、相手側も気づくべきことであるから。


それを拡大解釈すれば、同じように瞳に映りこんだ手札が見えたとしても反則とは言いづらい、同じように気づけばいいのだから。


「しかし……よく気づきましたね」


「まあ、俺も仕込まれた口だからな」


 原因はエレンシア姉さん……じいさんとクラウを含めてやったときは、酷かった。


瞳に映る手札は当たり前の如く、目線を合わせれば視覚共有をされる。


視覚以外の認識範囲を広げて識別してくる、カードを引く寸前に超高速のすり替えを行ってくる等々視線を逸らしたら逸らしたらでどんな細工をされるかわかったもんじゃない。


あんたら夜の王のスキルの無駄遣いしてるんじゃないという絶叫をしたくなったボロ負けのゲーム、それに比べれば今回のことなど俺は怒る気にもなれなかった。


ちなみに今回その方法が可能だったのは俺とシトネちゃん、ルノにアサカ、セリカちゃん。


やったのはシトネちゃんだけであり、ルノとセリカちゃんはその方法を思いついてすらいないだろう。


シトネちゃんにしても気づける可能性を持った者を最初のゲームで見極め、対策をした俺とアサカに限ってそれを使ってきた。


さすがに常に対策できるわけもなく、ある程度は読まれただろうことは想像に難くない。


俺とアサカだけとはいえ、カードの情報は他よりも大きくなる。


それを活かし勝ち抜いたのだから、むしろ見事としか言いようがない。


「ま……今回は見逃したけど、次回やるときは俺も……たぶんアサカも仕掛けてくるよ」


「そうですね……自重しておきます」


 面倒なことは火を見るより明らかなため、簡単にそう決めるシトネちゃん。


まあ、これで普通のゲームとして楽しめるだろう。


サナちゃんとシオンはもうダウトは嫌だと泣いていたが……まあ、あれは仕方がない。


次までに何か遊べるものを作成しておくか……と、夜明けを待ちながら適当に考えるのだった。






 喫茶店『旅人』、一部のメンバーは昼近くまで寝ていたそうな。

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