第三十七話 『夜会』
それなりの好評を得ている喫茶店『旅人』だが、少し前から毎週末の前日に行われているものがある。
それは日付も変わるような夜に行われているもので、喫茶店の中で行われていることではあるが昼とはまた違った様相を見せていた。
この場にいるのは俺にルノ、それに従業員メンバーにシオン、そしてレスカさんをはじめとした喫茶店の常連たちである。
その常連たちの幅は広く、四十を越えるような男性からレスカさんのような若い世代、果ては一、二年前まで学生だった人間もいる。
そのため、アサカとシオンにとっては先輩として知っている顔もいるようである。
ちなみに、本来ならアサカたちはシオンを除いて参加させる気は無かったのだが、この集まりが週末の前日であり、次の日に学園が休日なため全員参加しているのである。
仕事があるわけじゃないんだからサナちゃんもセリカちゃんも眠いのならわざわざ来なくていいのに……シオンがいれば一応なんとかなるはずなので、他に無理はしてほしくはないのだが。
逆に本来『旅人』の従業員ではないはずのシオンはこの集会では割と必要だったりする……なぜならば、
「さて……それじゃあ今夜の魔法具店『旅人』を始めようか」
今回の商品は魔法具であるからだ。
『遺跡』の踏破後は、他に迷惑をかけた分を取り返すため喫茶店に大きく力を入れていたのだが、元々の本文を忘れたわけでもない。
これまでにもそれなりの品を信頼できるほどの強さや人格を有している客に譲る、あるいは売っていた。
だけど、その人数が少々多くなってきたため、会員制にして定期的に魔法具の販売会を開くようにしたのである。
会員の証としては、やはり利便性のことを考えて空間を弄ったリュックやポーチをそれぞれに渡している。
各自受け取った時は絶賛してくれたのは記憶によく残っている……後半はそれらも有名になっていて俺が渡していたことに驚きを見せていた人もいたが。
「毎回毎回、この夜の店が待ち遠しくて仕方がないんだ」
「わかるぞ、ここの魔法具を知ったら普通の店じゃ本気で物足りないんだよな……」
「この辺りでここ以外の良い所って言ったらザインのオヤジがいるところか?」
「ああ、あそこも良いな」
探索者たちの話を聞いて、若干シオンが嬉しそうな顔を見せる。
まあ、自分の働いている店が褒められていれば嬉しいのも当たり前か。
「さて、次に備えての要求は何かあるかな?」
夜会では、まずこの言葉から始めるようにしている。
必要なものを聞き、在庫のあるものであるならばそれを紹介し、なければ次週以降に並べられるように詳しい要求を聞くようにしている。
実用性の高いものに関してはそれなりの数を作っているから問題ないが、時折限定的なものを欲しがられることもあるから困る。
値段は、もともと営利目的ではないから材料費に気持ち程度上乗せといったところであり、他にも材料払いなども行っている。
「次の探索までに雪山用の装備が欲しいんだけど」
「武器、防具? 材料の負担は?」
「防具一式で、材料は……とりあえず聞いてからで」
「なるほど……じゃあ、こんなところでどうですか?」
おおよそのことを聞いて、ホログラムボードにそれぞれの装備の詳細とそれに必要な材料、その合計の値段が表示される。
営利目的ではないとはいえ一式揃えるとなると多少の値は張るもので、詳細を見た探索者がやや顔を曇らせる。
「もう少しどうにかならないか?」
「まあ、ここにあるのは一例ですので相談は向こうにいるシオンにお願いします、色々と仕様の違うものをリストにはしていますので」
「すまんマスター、その仕様、俺にも見せてくれ」
「あ、わかりました、ではあちらに」
話に入ってきたのは後ろにいた探索者の一人。
どうやら、彼もまた『雪山』への挑戦を考えているようだ、彼にもシオンいる方へと誘導して俺は次の客の相手をする。
この夜会に開くようになってから増えた利点といえばこういうところであろう。
今までは客とマスターという立場で毎回毎回個人で相手をしていたため、似たような依頼がバラバラな日に頼まれるようなことも少なくなかった。
そうなると材料をどれだけ用意すれば良いのかわかりづらくなるのだ、たまに足りなくなって本気で焦ったりするのだが。
それはともかくとして、ここで多人数を集めるようになったことにより、同じような依頼をまとめて受注できるようになった点は正直ありがたい。
「シオン、雪山装備のリストよろしく」
「わかったよ」
それからシオンがいるのは俺のアシスタントをしてくれているからである。
魔法具の扱いや仕様に詳しいシオンならば、ある程度の客の対応を任せることができる。
このあたりのことはさすがにアサカやサナちゃんたちには頼めなかったから正直なところ助かっている。
シオンは元々『旅人』の従業員ではないからこちらに引っ張るのはどうかと思ったが、探索者の欲しがっているものなどの情報が手に入るといった有益な話と一緒に頼んだのだが、少々怒られた。
「あのねえヒサメ、そんな利点とかつけなくても言ってくれれば手伝うに決まってるでしょ、友達なんだから」
そう言われて嬉しいと同時に申し訳ないと思いながらシオンに協力を依頼して、シオンも受けてくれた。
同時にザインさんにも話は通しており、その結果として必要な材料や技術を相互に提供し合う関係を結んだのだった。
ザインさんの無駄なものをそぎ落とす技術は素直に驚きに値する、あれは俺やルノが持っていない技術であり、非常に有用な技術である。
「っと、次の人は何がご所望で?」
「ああ……近々依頼で空獣を相手にしなければならないんだが、有用なものはあるか?」
「空獣ですか……だったら、地面に落とすことが重要ですし、こういったのはどうですかね?」
俺はいくつか手段を思いつき、いくつかの魔法具を紹介する。
一つは空中で真空刃を周囲に発生させる使い捨ての風の魔法具。
一つは空中で風と同時に睡眠効果のある花粉であったりガスであったりを撒き、拡散させる魔法具。
もう一つ、周囲の重力を上昇させて、自らの体重の増加で飛行を不可にして地面にたたき落とす魔法具。
基本的には二つ目が一番簡単だし、経費も安くすむ。
一つ目の方も安価で用意できるが、外してしまうともったいないといった点がある。
三つ目に関して言えば効果はあるだろうが、他二つの方が手軽だろう……どちらかと言うとこれは能動的に落とすよりも、フィールドトラップとして発生している場所に誘い込んで動きを鈍らせるなどの使い方が正しいだろう。
どれにしても使い方を間違えれば自分たちの方にまで影響を与えてしまうため注意が必要なものである。
ここにいる信頼できる者以外には渡すことができない類のものでもあるだろう。
「なるほど……それでは、一つ目と二つ目をお願いする」
「じゃあ俺には三つ目のものを頼む、空中にいない奴にも十分有効そうだからな、それ」
「了解しました……数は一発ずつで?」
「二発……いや、三発ずつで頼む」
「俺の方は二発頼んだぞ」
「かしこまりました……ルノ、持ってきてくれ」
「わん!」
言われた魔法具を正確に持ってこれるのは俺かルノくらいのものだろう。
ルノの持って来た各種魔法具をそれぞれ客に渡していく。
「いつもすまないな、マスター」
「これで空獣も何とかなりそうだ」
「それならよかったです……ですけど、渡したものはあくまで補助用の魔法具です、これだけでなくしっかりと準備することをお勧めしますよ」
「ああそうだな、わかっているよ」
自分の持つ魔法具は確かに強力ではあるけれど、それだけですべての状況がうまく行くと断言することなどできはしない。
そのための一応の忠告ではあったのだが、ここに呼んでいるメンバーには今更なことだろう。
道具に依存するのではなくて、本当の意味で扱うことのできるものしかここにはいないし、なによりそういうメンバーを集めたのだから。
「それじゃあ、次は俺の頼みを聞いてもらえるか?」
「ええ、何ですか?」
一人一人、時間はかかるもののしっかりと要求を聞いて、答えを出していく。
その間も待っている客は当然いるのだが……この夜会も何度か続けていたおかげかやり方を覚えたアサカが要求を聞いてまとめてくれているようだ。
アサカもいくらかここで取り扱っている商品、特に実用性のあるものは覚え始めているから特殊なものでない限りは大丈夫だろう……正直に言って助かる。
また、サナちゃんたちもアサカの行動を見て動き出す、何も出来なくて正直手持無沙汰であったというのもあるだろう。
全員喫茶店の常連であるし、知らない人は基本的にいないため、会話も弾んでいるようである。
そのまま何人もの客の相手をしながら、合間を見つけてアサカたちのメモにあった要求も片づけていく。
おおよそ、客全員の要求を取り終わり、最後に相対したのはレスカさんであった。
「や、相変わらず盛況だね」
「どうもです、レスカさんは今回は何か御入り用ですか?」
「いや、今回は以前のものが残っているし必要ないが……そうだな、コーヒーを一つ」
そんなレスカさんの回答に思わずガクリと頭を下げてしまう。
ある意味らしいと言えばらしいのだが……昼だろうが夜だろうがレスカさんにコーヒーは欠かせないようだ。
と……ここで済めば冗談で済んだのだが、完全にきっかけとなってしまったらしい。
「おお、いいじゃないか」
「こちらにもコーヒー一つ頼む」
「俺は普通に飯が食いたいんだが」
「おい待てあんたら乗っかるなよ!?」
口々に要求を言い始めた客たちにツッコミを入れるも既に止まりそうにはない。
他のメンバーに助けを求めようとしたのだが……敵は何も外側だけではなかったらしい。
「すまん……ヒサメ、俺も腹が減った……」
「わう……ボクも」
「お前らもかよ!?」
ウチの大食漢二人が見た瞬間にこっちにそう告げてくる。
一縷の望みをかけてサナちゃんたちの方を見たのだけれど、むしろ期待した眼を返されてしまい何も言えなくなってしまう。
あれ、今の俺に味方がいないんだけど……酷い裏切りを見た気分である。
俺と同じく作る側であるシトネちゃんだけは少し違ったけれども……周りの空気を読んで諦めたようにため息をついていた。
どうやら俺も諦めるしかないようだ……まあ、それはそれでいいか・
「わかった……わかったよ、だったら全員座ってくれ……今から準備を始めることになるからさすがに時間かかるぞ」
俺と、そしてシトネちゃんが厨房へと入るのだが……その途中、完全に食べる側に座っているアサカに少々イラッとした。
「はいはい……我関せずとか通じると思うなよアサカ?」
「うげ、マジか……」
「あはは、僕も手伝うよ」
面倒そうに厨房側へと入るアサカと、それに苦笑しながら善意で手伝ってくれるシオン。
とりあえず人数的には大丈夫かな……それじゃあ、はじめようか。
「はいはい、今から作るから食いたいもん注文しろー」
「オムライス!」
「カレーだな!」
「それじゃあ、サンドイッチを貰おうかしら」
等々、見事なまでにバラついて行くメニューに少々泣けてくるのだが、仕方がない。
口には出さないが内心もう少しこちらのことを考えてほしいと思ったりもする……同じく口には出さないものの苦笑いをする面々は同じことを思っているのだろう。
「しょうがない……お前ら気合入れろー」
「「「了解」」」
聞いた注文を思い出しながら他のメンバーに仕事を割り振っていく。
結構好き勝手に注文されたから、覚えきれていなくて困っていた部分もあっただろうが、指示を出したことで迷いなく工程を進めていく。
「すごいね、ヒサメ」
「ん、何がだ?」
「あれだけ言われたもの、全部覚えてるの?」
「まぁな……一応、これくらいなら何とか」
同時思考演算はじいさんと姉さんに鍛えられたからな……瞬間記憶とか自然と得意になってたりする。
まあ、それよりも個人的にはシトネちゃんが凄い……俺の指示が入る前からしっかりと自分の作業を進めていた。
だけど全てを覚えているわけではなくて、自分がするべきこと、自分の得意なことだけ記憶して仕事を進めていたというところだろう。
注文のすべてを俺が覚えており、そして自分にはこの仕事を必ず振ると理解しての行動……信頼されているのはありがたいんだが、何故だか少々物申したくなってくる。
シトネちゃんは俺のことをなんだと思っているのかと。
「ま……とりあえず仕事か」
他に指示を出しながらも身体は自分の仕事を行っている。
現状作成に最も難易度の高いカレーの準備、ある程度混合したスパイスの作り置きはあるのだが、人気メニューのため結構消費が激しい。
コーヒーと同じく作り手によって味が変わりやすく、シトネちゃんがよく挑戦しているけれど満足のいく出来にはなかなかたどり着いていないようである。
「……さて、完成っと」
少し時間が経ち、それぞれの料理が完成し始める。
配膳の仕事が増えたことで、今まで何もしていなかったルノやサナちゃん、シトネちゃんも働き始める。
食欲をそそる匂いが漂い、活気があふれるこの場所の空気に自然と笑みがこぼれていた。
「お客様、オムライスの完成です」
「おう、アサカ、すまないな」
アサカが料理を渡した相手は去年まで学園にいたアサカの先輩で名前は確かコーダさんだっただろうか。
シオンとも面識はあるらしいが、基本的に世話になっていたのはアサカの方で、アサカもコーダさんにはかなり懐いているようである。
「しっかし、お前が作ってるとは思えないくらいに綺麗な仕上がりだよな」
「先輩……そりゃねえっすよ」
「けど……うまいな」
「あざっす!」
仲良く会話しているアサカとコーダさんの姿。
もう少し余裕のある時であるならば、好きにさせていてもいいんだけど今はさすがに時間が悪いだろう。
「アサカ、すまんが終わったら次の料理を頼む!」
「っと、やべ……先輩、それじゃ」
「すまん、邪魔したな……しっかり働けよ」
「うぃっす!」
会話を打ち切り、アサカは次の料理の準備を始める。
さっきの割り振りのときに残りの材料も仕分けていたので、悩むこともなく料理を開始する。
何も準備をしていなかったところからの注文で少々時間はかかったものの、通常のフルメンバーにシオンまで加えたことでとりあえず問題なく料理は完成していく。
料理を口にし、賑やかになる店内を見ながら思わず言葉がこぼれてしまう。
「昼と変わらねぇなぁ……」
魔法具店を開いたはずなのに何故に喫茶店状態になっているんだろうか……俺の呟きを聞こえた数人の客はそれに苦笑。
「ま、若干形を変えたとしてもマスターの店は喫茶店ってことだよ」
「そうだぞ坊主、それだけ気に入られてるのだ、誇っておけ」
「ハルクさん、ディオさん……そうですね、そうします」
二人の言葉に俺は小さく笑って頷いた。
まあ、正直なところ嬉しいことではあるし良いことだと考えよう。
そんな風に思いながら料理へと視線を戻し、
「よし、これで完成っと」
「こちらも終わりましたよ」
「こっちもだ」
「同じくです」
各々注文された料理を全て作り終わり、残る客に配膳する。
それが終了する頃には魔法具店の面影はなく、完全に喫茶店の雰囲気になっていた。
「さて……あとは……」
「お姉さんのコーヒーだね」
一息をついたところでレスカさんに声をかけられた。
きっとみんなが思っていたことなのだろうけど……この状況を作り上げたきっかけを作ったレスカさんに少しばかり恨みのこもった視線を向ける。
「まったく……レスカさんのせいですからね」
「何のことだかお姉さんにはわからないな」
だけど、俺の視線などやはり効果はないようで、レスカさんは涼しい顔のままそう言い切った。
他のメンバーからも若干の恨みがありそうだが、それさえもレスカさんは黙殺するようだ。
「ま……いいですけどね、別に」
苦笑しながらレスカさんにコーヒーを淹れて渡し、さすがに自分も少し空腹になって来たと他のメンバーのいる場所に戻るのだった。
そこですでに料理を食い始めているルノとアサカに関しては怒ってもいいのではないかと思う。
「……お前ら、俺来るまでくらい待てよ!」
「だって、おなか空いてたんだもん」
「そうそう、我慢は身体に毒だぜ?」
まったく悪びれずに言う二人に毒気を抜かれた俺はため息をつきながら自分の席に座る。
そんな様子を他のメンバーは苦笑しながら見ていたのだった。
それからしばらく食事を楽しんだ後、俺は少々気になっていたことを聞いた。
「アサカとシオンはともかくとして……サナちゃんたち、こんなことしたせいで結構遅いけど帰りは大丈夫?」
「え? ……あ、はい、そりゃ帰るくらいは問題ありませんけど……」
「唐突ね、それがどうかしたの?」
「ん、いや、やっぱり夜道危ないからよかったら泊まらないかと思って」
今夜は数度あった夜会の中でもさらに遅い、三人の能力が十分に高いのは知っているが……それでも夜道の歩きは若干の危険が伴う。
ここまでの時間になると使徒のような存在が活発に行動したりするのだ、特にこの街みたいな人の出入りの多いところでは人にまぎれて入ってくるなどでそれが顕著となる。
それを考えてその提案をしたのだが、言った瞬間サナちゃんとセリカちゃんの動きが止まった。
「まあ、その時はアサカとシオンも入れてメンバー全員で騒ぐのもありかな、とも思ってるんだけど」
「おお、そりゃ楽しそうだなヒサメ!」
「痛い痛い、バシバシ叩くなっての」
話に乗ってきたアサカが俺の肩を叩いてくるが、何気なく一発一発が無駄に力が入っている。
それを防いで、サナちゃんとセリカちゃんに返答を聞こうとするが……
「マスターの家でお泊り……お泊り……はぅ」
「サナ? 駄目ね、トリップしてるわ……」
「一体どうしたんだ、サナちゃん?」
「貴方のせいよ……」
若干疲れたように言ってくるセリカちゃん。
いやまあ、わかっちゃいるけどさ……別に意図したわけじゃないんだぞ、さすがにこうなるとは思ってなかったって。
一体何を想像しているのかと気になりはするけれども、とりあえずは答えを聞くことにする。
「それで……どうするんだ?」
「そうねぇ……シトネはどうなの?」
セリカちゃんはそう言って、ほとんど会話に参加せずに料理を食べていたシトネちゃんへと振る。
「そうですね……誘いは嬉しいんですけど、今日は着替えなどもありませんし、今回は遠慮をしておきます」
動揺一切見せずに返答する姿はさすがとしか言いようがないな……
「ああ、そうか、それは駄目ね……マスター、今日はやめておくわ」
「あ……うん、マスター、今日はごめんなさい」
「そっか、了解」
シトネちゃんの言葉にセリカちゃんと正気に戻ったサナちゃんも拒否する。
もともと思いつき半分で言ったことでもあるし、それならそれで構わない。
「それじゃあ、マスター、帰り道のエスコートはお願いしますね」
そんなことを考えていると、シトネちゃんが若干冗談めかしたように言ってくる。
俺は他から見えない程度に苦笑し、その冗談にのる。
「わかりました、ではお姫様方、私のような付き人ですがどうぞよろしくお願いします」
出来るだけ大仰に振りをつけてそう言えば、周囲から若干の笑いが漏れるのだった。
「ハハハ、ヒサメ似合わねえ」
「うるさいよアサカ、それぐらいわかってるっての」
笑いのツボにでも入ったのか肩を組みながら笑いかけるアサカに文句を言う。
若干シオンやシトネちゃんたちも笑っていたが、それからよろしくお願いしますと言葉を返してくれた。
それからしばらくして、他の客たちもみんな食事を終えて自分たちの宿泊している場所へと帰り始める。
その人たちを全員見送って、汚れた食器などの洗い物をルノに任せた俺はサナちゃんたちを送るのだった。
……まあ当然ではあるが、その道中に襲撃される等変なイベントがなかったことは言っておく。
ちなみにこれ以降の夜会で最後は喫茶店状態になるのが恒例となり、それに従ってその後に全員で騒ぎあうのもまた恒例になったのだった。
喫茶店『旅人』、信頼できるお客様のみの深夜サービスです。