第二十八話 『真実』
その後の質問はおおよそ重要なものを後回しにしたので、旅の中でどんな場所が印象に残っているか、とか、どんな厄介な魔物がいたのか、のような軽く答えられる質問が続き、少し経った後にシオンがゆっくりと聞いてくる。
「ヒサメの発明は、どうやって作ってるの?」
魔法具科の人間からすれば当然とも言える質問だろう、俺の持っている道具の異常性は見逃せないはずである。
おそらくシオンにとっては最も聞きたかった質問ではないだろうか。
詳しい談義をすると時間がいくらあっても足りないだろうな……とりあえず、大まかな話だけにしておこうか。
シオンとはまた魔法具関係で話すこともあるだろうし、機会を見て詳しい話をしようかな。
「とりあえず簡単な感じで話すが、実際のところ、俺やルノが作っているものは一般的に普及している技術を使っているものが多いぞ……少々材料が異常品質な物が多いのは認めるけどな」
地竜戦で使った剣にしてもそうだ、ファフニールの鱗自体は洒落にならないほどの希少度ではあるが、鱗から刃への加工で使っている技術は一般的なものだ、無論加工の難しさはかなりのものではあるが、時間をかければ同じように作れる人間はそれなりに居るだろう。
無論、一般的ではないだろう技術もある程度知ってはいるが、基本的には普通の技巧で作っているものが多数である。
「他人が真似できない特殊なものの一つとしては、俺個人が使える能力を使用したものがあるな」
それは勿論、結晶魔法のことである。
機工系の武器に仕込むことが多く、結晶をあらかじめ内部に組み込んで、そのエネルギーを様々なものに使用したり、あるいは古代言語詠唱による解放をしたときに、結晶の存在を隠すことが出来る点では優秀なのだが……以前キリアさんの前で使った機工剣のように大技の威力に負けて文字通り使い捨てにしかならないのが問題点だ。
しかしそれも結晶とは違ってもエネルギー体のようなものを組み込むことは少なくないため、材料を除けばごく一般的なものだと言える。
「他には俺たちのポーチみたいなものに関しては、古代言語系列になる文様や魔法陣を中に刻んだり、編み込んだりして作ってる……魔法言語でも同じことはやっているからわかるだろ? まあ、効果に大きな差がでるのは当然だけど」
さらに詳しく説明すれば、内側に作用するのか、外側に作用するのかなどの効果対象、方向性などを決める様々な魔法陣に、どういう効果を及ぼすのかという内容を記した古代言語を円周に沿って刻んでいく。
ずれがあるだけで正確に作用しなくなるため、魔法陣を作る際にはかなりの神経が必要になってくる、特に複数の魔法陣を同時に使う際には相互干渉にも気をつけなければならない。
ポーチを例にしてあげれば、中に入れたものを『縮小』する魔法陣、取り出したいものを『読み取り』手元で『拡大』させる魔法陣、中のものを『時間停止』させ保存するための魔法陣、外からの衝撃で壊れないよう『守護』する魔法陣……ざっとあげただけでもこれだけ出てくるのだ、特に拡大と縮小みたいに相反する魔法陣はかなり扱いに注意しなければならない。
「詳しい魔法陣の内容に関してはここでは教えないぞ、適当にやろうとすると酷いことになるからな」
「それは残念……だけど、ある程度は理解できたよ、ありがとう」
もっと詳しく聞きたいのなら後日……そんな含みを持たせながら発した言葉に、シオンは気づいているのか気づいていないのかわからないが礼を言ってくる。
まあ、知りたかったらまた聞いてくるだろう……そう思いながら、俺は数人分新しく飲み物を注いでいく。
「さて……そろそろ夕暮も近くなってくることだし、いい加減延ばし続けた部分について話していこうか」
さあ、語ろう……現在でこの世界にたった一人の、異界の詠歌いと呼ばれる者の話を……
そのための切り口として、俺は改めて今回のことを持ち出す。
「今回の迷宮探索……みんなにはあまりにも急過ぎるものだと感じたと思う」
その言葉に、ルノを除いて全員が大なり小なりの肯定の反応が返ってくる。
やはりいくら言いつくろっても突然すぎたことに間違いはない。
「それに関しては謝る……正直なところ、レスカさんに言われなかったらまた同じことをしてたかもしれない、みんなには本当に迷惑をかけた」
自分のことばかりに気をとられて他を疎かにし過ぎていた、初めての『大迷宮』への挑戦で舞い上がっていたのも確かだろう。
そのことが必ずしも悪いわけではないだろう……誰だって自分を大切にする必要はあるし、未知のものを見た時の喜びはあるのだから。
ただ、影響力の強い人間は自分が動くことで周りに与える影響を意識するべきなのだろう……今回はそれを怠っていた。
「目的があったから……それを達成するために、視野が狭くなっていた」
「お前の視野が狭くなるってのは相当なものなんだろうけどよ……その目的ってのは何なんだ?」
「俺の目的は『大迷宮』深層に護られた古代言語の物語……その中に記されているかもしれない一つの魔法だ」
「なるほど、やっぱり金とかそういうものじゃないか……けど、『大迷宮』の最下層に存在するのがそんなものとはねえ」
アサカから感慨深げな声が漏れる。
俺の目的のものが金銭のような即物的なものではないことは予想していたのだろう、それから今まで謎とされていた『大迷宮』の内容を知って何とも言えない表情をしていた。
まあ、種の割れた宝じゃ確かに魅力が半減してしまうものではあるだろうなぁ……けれどまあ、これから話す上では知っていて欲しいことである。
「『大迷宮』はもともとこの古代言語の物語、記述を護るために酔狂な奴が作ったらしい、そしてその物語……歴史の護り手として何体かの聖獣が深層で眠っているんだ」
「歴史の護り手……そこまでして護らなければいけないものなのですか?」
「そうだな……保険ってところかな……この先何百、何千年先に起こりうるかもしれない事態への」
「? 保険ですか?」
「ああ」
今の時代でさえ俺とルノ、じいさんを除けば古代言語を扱えるような人間は居たとして数えるほどでしかないだろう。
ファフニールに確認を取ったわけじゃないから絶対とは言わないが、『大迷宮』に安置されているのは、遥か未来必要になった際に古代言語を復活させ、脅威に対して希望を残しているのだと俺は考えている。
「その脅威ってのは何なんだ?」
「神様の気まぐれ」
「「「「「「は……?」」」」」」
アサカの質問に対して端的に答えれば、全員が呆れたような顔をして聞き返してきた。
まあ、あまりにも突拍子のない話ではあるのだけれども。
「この世界は元々神様によって創られた世界って伝わってる……じゃあ、神様がその世界に興味を失ってしまったらどうなると思う?」
捨てられるのならいい、下手な干渉をされずその世界が自分たちで歩むことが出来るようになると言うことだから。
しかしその神は飽きた世界を壊して、また新しく作り直そうとした。
その世界に生まれた命なんて関係なく、ただ、自分の都合だけを考えて神は自分の世界を壊す。
所詮、創生者にとって世界を創造することは遊びや暇つぶしの延長でしかないのだ。
「それに抗ったのがその時代にこの世界に住んでいた生き物たちだ」
人間も獣人も聖獣も魔物ですら関係なく、理不尽に世界を奪おうとする神と神の送り込んだ尖兵たちと戦った。
それは、想像を絶する戦いだっただろう……この世界に一箇所、本当に何もなく、誰も近づかない荒野が存在する。
一度だけ、俺もルノを連れて寄ってみたことがあるが、形容のしがたい濃密な力で溢れていて、普通の人間ならばいるだけで倒れるほどの何かがあった。
おそらくそこが最も戦いの激しかった場所だったのだろう……荒野は広く、おそらくいくつかの街も巻き込んだ戦いで……推測でしかないがその街の一つは古代言語が盛んで、積極的に広められていたのではないだろうか、同時にその場所で今の魔法言語の原型が生まれ、簡略化された魔法はこの戦いでも有用であるから爆発的に広まった。
しかし、それは同時に古代言語を使う人間が減り、魔法言語が普及し始めるということである、なにより古代言語の魔法研究が盛んだったであろう街はこの戦いで滅びたことが魔法言語が広まった理由となるのではないか。
……思考が脱線していた、とにかく戦争と呼んで差し支えないことが起こっていたのだが……この世界に存在する者にとって、神は神足りえる能力を持っていたのだ。
神の尖兵はいい、過程がどうあれ同じ神に創られたものであり倒せない道理はない……だが神は違う、神は完全にこの世界にとっての創造主だ、創られた者が創った者を傷つけることなどできはしないし、創った者が創られた者を壊すことなど容易いことだ。
「絶対たる防御と攻撃、その二つを備えているんだ、勝てるわけがない」
そもそも、神からすれば戦争をする必要すらない、世界全体が神の創造物なのだ、一撃で世界を破壊することも可能だっただろう。
それをしないのは戦争が神にとって暇つぶしであるから……自分に対して足掻くこの世界の生物の様子を見て楽しんでいるからだ。
「傲慢だな」
そこまでの話を聞いて、レスカさんは不愉快そうに吐き捨てる。
ここにいる者からすれば何よりも不快なことであると言っていいだろう。
「けど、神にはそれが許されるほどの力があった」
生きている次元が違うのだ……神にとってはファフニールだろうがクラウだろうが同じ、どれだけの力、それこそ神に近い力を持とうとも、この世界にいる以上は神に傷をつけられない理を破ることは出来ない。
「だったらどうしたんだ? 今この世界がある以上、神に勝ったんだろ?」
そこまでの説明でアサカが核心部分について聞く。
そう……今がある以上結果的に勝っているのだ、無敵であるはずの神に。
そしてその理由は、俺にも無関係じゃなくなってくる。
「その戦争を勝利に導くことができたのは、異界の詠歌いと呼ばれた者たちのおかげなんだ」
元々は俺の目的を話すはずだった場、神代の戦争なんてものとは基本的に関係のないはずの話である。
しかしここに、今の俺と関係を繋ぐ名称が現れた。
「なあ、神を倒すのに理が邪魔をするというのなら、どうすればいい?」
「それは……理を消すこと、かな?」
「そうじゃなければ、邪魔な理ごと倒せる力を使うこと、かしら?」
俺の問いにサナちゃんとセリカちゃんが答える。
だけどその答えに俺は首を横に振った。
理は絶対だ、それを消すことも破壊することもまず不可能だろう。
「理の中で勝利を得ることは不可能……そうであるならば、答えは一つ」
「反則……理外の方法によること、ですか」
「正解」
シトネちゃんは答えながら信じられないという顔をしている。
気づいたのだろう、異界の詠歌いという称号の意味に。
「この世界に存在する全てのものが神の理に縛られる……逆を言えば、神の創った世界ではない別の世界のものであるなら、神を打倒することが出来る」
シトネちゃんがやっぱりといった顔をし、他の面々も驚いた顔をする。
異界の詠歌い……その名前が持つ意味に気づき始める。
「異界の詠歌いたちは神を倒すことに協力し、彼らの攻撃は、目論見どおり神に届いたんだ」
今まで倒す倒さない以前の問題であった神だ……攻撃が通じるのであれば、ただの強い存在でしかない。
勿論その強さは理が通用しないからと言って簡単に倒せるようなものではなかっただろう。
無傷だった相手にかすり傷一つつけられるようになった程度、理があろうがなかろうが一撃で粉砕される力。
しかしそれでも一つだけ有効な手段が存在していた……それが、結晶魔法と古代魔法の併用。
魔法言語が使えない代わりに使える結晶魔法、それは異界の詠歌いたちの切り札と足りえた。
各々が全力を持って戦い、いつしか古代魔法の詠唱は、何よりも美しい詠のように聞こえたと言う。
だからこそ彼らにつけられた名は『異界の詠歌い』。
彼らの力によって、殺すまで至ることはなかったが、神に傷を負わせ、神はこの世界から手を引いた。
そして彼らは世界自体を壊されないために、世界を覆う守護を作る詠を歌い上げ、完全にこの世界から神を追い出した……そうして勝ち取ったものが、今の世界なのである。
「なるほど……つまり聖獣たちの危惧する脅威というのは」
「守護が消えた時、起こるかもしれない神の再侵攻」
「そういうこと」
ここまで話したところでレスカさんとシオンが正確に脅威について思い至ったようだ。
しかしまあ、他の面々はそれよりも気になっていることがあるだろうな。
「……マスター」
意を決したようにシトネちゃんが俺の方を真っ直ぐに見る。
そして、真実の扉を開く。
「その異界の詠歌いと、マスターが呼ばれた異界の詠歌いの意味は一緒のものですか?」
「ああ、ほぼ間違いないよ」
少なくともこの世界と俺の世界、二つの世界があったんだ。
その時呼ばれた詠歌いが俺と全く同じ世界であったとは断言できない。
神と戦うためか、研究のためかの違いもあるしな。
「なるほど……そりゃ、ヒサメも簡単には話せるはずがねえか」
「そういうこと、つまり俺は異世界人なわけだが……」
異端と言うのは忌避されやすい、だからこそどう思うか聞こうと思ったのだが……それよりも先にアサカが俺の肩を叩いていた。
「うるせえよ、なんだろうがヒサメはヒサメだろうが」
「そうだよ、そのくらいの事実でつきあい変えるような人間じゃないよ」
俺の言いたいことを正確に読み取っていたのだろう、最後まで言わせずアサカとシオンが俺に告げる。
「ああ、信じていたよ……お前らならそう言ってくれると」
そう、信じていた……それでももしもを考えて恐れていたことをお前らは笑うだろうか?
実のところ、相当安堵していると言うことにお前らは気づいているだろうか?
まあ、なんにせよ嬉しいことは確かだ、無意識に伸ばした拳にアサカとシオンがぶつけ合うようにして、笑う。
そして俺もまた笑みを浮かべるのだった。
「私たちも気にしてません!」
「だから、話してくれたんですよね?」
「ま、マスターの非常識が一個増えただけね」
三人娘も笑いながら言ってくれる、まあ、シトネちゃんの言うとおりそう思ったからこそこんな話をしているんだけどね。
「はは、青春だねえ」
「わう、そういうレスカさんはどうなの?」
「ふふ、わざわざ言うまでもないことだよ、ルノ君……そうだな、あえて言えばマスターなんかよりよっぽど地竜などのほうが遠慮願いたいね」
ああ……まあ、直に聖獣見てれば異世界人如きどうということもないか……
「まあ、ここまで材料が出揃えば、マスターの目的も透けて見えるものだね」
微笑を見せながらレスカさんは俺の方を見る。
……確信してるね、それに実際に地竜と話している会話を聞いてることもあるだろうし、その考えは当たりだろうな。
「異世界の人間……その目的、あの時の会話……マスターの探しているものは元の世界へ帰る方法、だな?」
レスカさんの回答に喫茶店内が静かになる。
それは、この関係を壊すのに十分なほどの力を持った言葉である。
「正確には世界を渡る方法……ですがね」
「どう、違うんですか?」
サナちゃんが不安そうに口を出してくる。
カウンター越しにそんなサナちゃんの頭に手をのせながら俺は笑いかけてやる。
「元の世界に帰る方法じゃ、こっちに戻って来れないだろ? 俺の帰る場所はこの世界だよ」
「わ、わ、わ」
わしゃわしゃと乱暴に撫で回しながら言えば、静かになっていた周りも弛緩し、笑いが現れる。
「このヤロ、驚かせやがって!」
「ちょっ、この、痛え、痛え!」
近くにいたアサカが即座に俺にヘッドロックをかましてくる。
まあ、一瞬とはいえ心配させてしまったのでこの攻撃は甘んじて受け入れておく。
とはいえ地味にダメージがきついため抜け出そうとするが相当うまく極められているようでなかなか抜け出すことができない、結局解放されるまで喰らいっぱなしとなるのであった。
「ま、それを聞いて安心したよ、ルノは知ってたの?」
「うん、聞いてたよ、それに、ヒサメが向こうに行くならボクも行くし」
「なるほどね、ルノはいい子だね」
何の迷いもなくそう答えるルノにシオンは微笑ましく思いながらルノを撫でている。
そんなルノの意志を俺は嬉しく思う。
「とりあえず……俺に関することはあらかた話したように思いますよ? 時間も結構使ってますしね」
「ふむ……確かにいい時間だな、正直お姉さんも疲れているし、この辺りでお暇しようか」
「あ、外もそろそろ暗くなるよ」
「門限間に合うかな?」
「許可とってないし不味いわね」
話が終わりなことを理解し、外も夕焼けの色から夜の色になりかけているのを見たことで女性陣が席を立ち始める。
「仕事の始めは明後日からにするから、これからもよろしく頼むな」
「はいっ!」
「わかりました」
「ま、まかせなさいよ」
サナちゃんたちが心強い笑みを浮かべ、出口へと向かう。
「「「またね、マスター!」」」
「ああ、また」
俺はアサカを解放して軽く手を振り、去っていくサナちゃんたちを見送った。
「では、お姉さんもいくよ、またコーヒーを楽しみにしている」
「ええ、楽しみにしていてください」
サナちゃんたちに続くようにレスカさんも外へと出ていく。
その顔は疲れているのを感じさせないほど、綺麗な微笑を見せていた。
そして、残るのは俺とルノ、アサカとシオンの四人。
「しかしまあ……よく帰ってきたな、本当に」
「正直、無謀だと思ってましたよ」
「なんだよ、ひっでえの」
「わう、ギリギリだったけどね」
軽口を叩きあいながら、俺たちは穏やかに笑う。
「けど、安心した、お前がこの世界を選んでくれて」
「当たり前だろ、ここには大切なものばっかりあるんだから」
向こうに俺の大切なものなんて、もうない。
俺を救ったかもしれない友人にしても五年以上も離れていたのだ、とっくに縁なんて切れている。
「それじゃあ、これからもよろしくってことで」
「ああ、そうだな、シオン」
「わう!」
「酒じゃないのが残念だぜ」
シオンが差し向けたグラスを見て、俺たちは互いにグラスを当て合う。
アサカ、ここにはルノがいるんだから酒とか言わないの。
それから、しばらくなんでもないような話を続けていたのだが……
「おう……!?」
ふと立ち上がった拍子に、軽くクラリと身体が傾いた。
うまく身体は支えたが、次に眠気が襲ってくる。
「おいおい、大丈夫か?」
「いや、気を抜いちまったら疲れが一気に」
「わう……ボク……も……すぅ」
それはルノも同じだったのだろう、こちらはテーブルに顔をつけて完全に眠ってしまったようだ。
「ごめんね、疲れてるのにこれだけ話をさせて」
「構わねえよ、ただ、奥まで頼んでいいか?」
今の俺にルノを運びながら寝室まで行ける気はしなかった。
「しょうがねえ、世話が焼ける」
「お疲れ様、ヒサメ」
アサカが俺に肩を貸し、シオンがルノを抱き抱える。
支えられ、あるいは抱えられながら寝室へと連れていかれた俺たちは、ベッドに倒れこんだ瞬間今までの疲れが一気に襲い掛かって来たかのように瞼が重くなっていく。
「お休み、ヒサメ」
「しっかり休めよ」
「お……う」
言葉で返事しながらももう俺はほとんど意識がなくなり始めていた。
そして、アサカたちの姿が見えなくなってすぐに眠りへと落ちていくのだった。
喫茶店『旅人』、明後日より営業を再開します。




