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第十六話 『試験』

「卒業試験?」


 下校時間が来てから妙に机やカウンターで勉強する生徒の数が増えてきたのを見て疑問に思った俺は、珍しく一人で来ていたセリカちゃんに理由を聞いたところ今のような答えが返ってきた。


「そうそう、悪くても卒業自体はできるんだけどね、そのまま高等部での評価につながるからみんな必死なのよ」


「はぁ~、なるほどねえ」


「ああ、俺も必死にやったぜ、このときの試験は」


 横で聞いていたアサカもそのときのことを思い出したのであろう、うんうんと頷いていた。


それは本当のことなんだろうが……


「結果は?」


「さぁ、仕事仕事」


 聞くとすぐに口笛を吹いて仕事に戻っていった……予想はしていたが駄目だったようだ。


まあ、アサカらしいと言えばらしいのだが……たまにはそういう面でしっかりしている姿を見たいと思ってはダメなのか?


それはともかくとして、


「さっきから問題の解説求められたり勉強をしているみたいだから、試験って筆記なのか?」


 ここにきているのは魔法科の生徒ばかりなので俺とはおおよそ顔見知りであり、当然ルノも顔見知りで知識を持っていることは知られているのであっちこっちで捕まって教えを求められているようだ。


テストに関してはノータッチだったから教える分には別に問題はないのだが……さすがにこれだけ集まられると気になってくる。


「両方ね、午前に筆記があって午後から実技」


「ふうん……で、筆記のためにこうやって……」


「マスター、コーヒーと教えて!」


「呼び止められているわけね……」


 教えてる生徒の一人から注文と助けが呼びかけられる。


この子は確か三度目だったか?


「お客さん……教習はメニューにないのですが」


「細かいこと言わない!」


「はいはい……」


 ここは喫茶店で、今の俺はマスターなんだけどなぁ……まあ、この子たちからすれば俺はやっぱり先生になるのだろう。


ちなみにアサカに質問はほとんどいっていない、いや、最初は来ていたんだよ……最初は。


ただ……人には得手不得手と言うものがあるわけで……


「大きなお世話だ!」


「ちょっと待て、今口に出してないぞ……いつのまに読心術なんて使えるようになった!?」


 素で驚いた顔を見せる俺にアサカはさらに怒りを募らせる。


「やっぱりんなこと思ってやがったな! 顔に出てるんだよ!」


「しまった!」


 鎌かけに引っかかるとは不覚……ていうか俺そんなに顔に出るのか?


俺の疑問はさておいてアサカとのやり取りに周りから笑いが出る。


ちなみに今この喫茶店の客は学生しかいない、この様子を見て他の常連は入ることを諦めたようだ。


とりあえずコーヒーと問題の解説をしてカウンターの内側へ戻る。


「しかし……自分で言うのもなんだが、教師が副業の不良教師の店によく集まるもんだ」


「生徒でマスターを嫌ってる人はいないわね……むしろ教師のほうね、生徒たちの信頼が高いことひがんでるみたい、大人って醜いわねえ」


「そこんとこはキリアさんになんとかしてもらいますかね」


 満月のパーティーの件でも多少の話はしたのだが、キリアさんには情報の流出に関して力を尽くしてもらっている。


学園長にも協力してもらい、他の教師との衝突が行われないように折衝も行っており、その点に関しては頭が下がるばかりである。


自分やルノの年齢が低いのはわかっているし、ルノに関しては獣人だと言うことで気に食わないと思っている者もいるだろう……加えてこうして普段は喫茶店を経営しているのだ。


セリカちゃんが言うようにひがんでいる教師もそうであるし、真面目に教師をやっている者からしてもあまり素直に受け入れられるものではないだろう。


なお、これは後から聞いた話になるのだが……以外にも実際には教師から強く嫌われていると言うことはないそうなのだ。


面目を潰されている前者の魔法科の教師たちに関してはそうではあるが、後者に関しては自分の被害妄想が多分にあったようだ。


「まあ、そのことはともかくとしてだ……セリカちゃんは勉強しなくていいのか?」


 時折話してはいるのだが……どうもセリカちゃんの成績はあんまり芳しくないことは窺えている。


そのため話を振ってみたのだが……案の定と言うか、俺の質問にセリカちゃんが強く反応して早口でまくし立てるように口を開きはじめる。


「あ、あたしはさ、ほら、なんていうか、天才肌? っていうのだから、大丈夫よ、うん」


 口を開いたのはいいものの、その内容やどもっているような様子にその言葉の説得力というものは皆無であった。


そんな無駄な努力を続けようとするセリカちゃんに俺はにっこりと笑って宣告する。


「そうかそうか、これで悪い点だったら掴んでやるからな」


「あう」


 あ、落ち込んだ……とりあえず、これで気合入れて勉強してくれればいいんだが。


それに、筆記は今の時点で勉強してもある程度ものになるだろうが……今回のテストはそれだけではないようだし、


「セリカちゃん、実技のほうは大丈夫?」


「そっちは楽勝、優秀なのよ、私」


 まさかと思いセリカちゃんに尋ねてみれば、先ほどと違って一切心配のない口調で言ってくれた。


相当な自信があることが窺えたため、とりあえずは安心することにする。


「へぇ、なら心配なさそうだな」


 セリカちゃんは技能科だから、『大迷宮』の中に何故か存在する宝箱の開錠だったりトラップの解除がメインのはずだな……それからサバイバル技術も含まれていたっけ?


そのほか戦闘での前衛のサポート、あるいは後衛の護りにもつかなければならない結構大変な役割である。


時には前衛よりもよっぽど前衛の働きを見せるような変り種もおり、想像以上に身体能力の高い人材の巣窟になっているらしい。


「結構鍛えられるのよねえ、そのせいで筋肉も割とついてきているし……」


 強くなるのはありがたい……だけど女の子としてはたくましくなり過ぎるのが今の悩みらしい。


俺は男であるからそれがどれほどの悩みなのか正確に理解することは難しいが、まあ言わんとすることはわかる。


「まあそれにしたって、探索者ってもの自体が割と物騒な職業なんだから仕方がないところだろ」


「そうなのよね……それだけなら諦めもつくんだけど……シトネが全然そんなことないから余計悩むのよね」


「そういえば……かなり細いよな、シトネちゃん」


 戦士科でそれはまた凄いことだな……おそらく成績が悪いと言うことはないだろうし、見た目に反して力が異様にあるのかもしくは、


「技と速度が主体の戦い方……かな?」


「そうね、刀……とかいう剣を使う居合い、だったかしら」


「へぇ……刀か」


 この世界に刀が存在したのか……日本人としては憧れて何度かもどきを作ったことはあるが……製法なんぞ知らない俺じゃ形を模しただけの鈍器にしかならなかった……


どうしようもないことだったから諦めてはいたが、この世界に実在しているのだったらなんとか本物を手に入れられないだろうか。


「刀に興味があるの? そうねえ、シトネが昔使ってたものを譲ってもらえないか頼んでみるわ」


「ありがとう、セリカちゃん」


「別にいいわよ、マスターにはお世話になってるし……まだできるか確約できないしね」


「やってくれるだけでもありがたいさ」


 新たに聞こえてくる注文に応えながらセリカちゃんにお礼を言い、通常業務と教習に戻る。


作って持って行けばすぐに質問され、それに答える……もう何度も繰り返しており、いい加減慣れてしまった。


「んで、ここがこうなるわけ……理解できたか?」


「はい!」


「しかし……お前らもよくもこんな騒がしいところで勉強しようとか思うよな」


 呆れたように俺は本心を愚痴る。


俺とアサカの掛け合いとか間違っても集中できる環境じゃないだろうに……わざわざここで勉強しているのだから、感心するやら呆れるやら。


「確かに騒がしさはありますけど、親身にしてくれる先生が二人もいますから」


 そう言ってくれることに嬉しさがこみ上げてくるが、それを呑みこんでこう返す。


「あのな……褒めてくれるのはいいが、学園内ならともかく今の俺はここのマスター、喫茶店がメインなの、オーケー?」


「ノーです」


 その返答はあっさりと拒否された。


同じようなことを何度も言い続けてるんだが、拒否したりスルーしたりとここの生徒は本当に調子のいい奴が多い。


別にそのことに嫌いはないのだが、こうやって度が過ぎるとため息の一つでもつきたくなる。


「はぁ……」


 まあ、それなりに友好的に接してくれていると考えておこう……そう結論付けたところで新たな来客を告げるように扉が開いた。


「マスター、助けて……って多っ!」


 サナちゃんが扉を開けながら俺に助けを求めようとして、中にいる学生たちを見て他の常連と同じように目を見開く。


まあ、とりあえず他の学生たちと同じ忠告をしておくことにする。


「サナちゃん、一注文につき一助言ね」


「嘘!?」


 告げられた言葉に若干のショックを受けるサナちゃん。


だけど今の客数考えれば一人に対して集中的に教えられる余裕はないんだよ。


あとは仮にも教師として一人を贔屓するわけにも行かないしね。


「……じゃあ、とりあえずサンドイッチとコーヒーで質問二つ」


 目に見えてがっかりしたように言いながら、それでもちゃっかり質問まで注文してサナちゃんはセリカちゃんの隣の席に座る。


セリカちゃんも呆れるやら憐れむやらで複雑な表情の苦笑いを浮かべている。


「はいはい」


 そんな様子に俺も苦笑しながらも後がつかえるのでとにかく料理は手早く作り、渡すついでに問題を確認する。


「それで……どの問題だ?」


「えと、これです」


「……ああ、これか……はぁ」


 指差された問題を眺めて俺は少しうんざりしながらため息をついた。


それも仕方がないことだろう、今日この問題に関しての質問をもう何度もしているのだ。


割と難しいため説明するほうも理解させるのがなかなか難しいんだよな、これ。


手間をかけて教え続けて……いい加減同じ説明を何度もするのが億劫になってきていたところである。


この調子だとサナちゃんに教えた後も同じ質問が出そうだな……このままやってもまともな営業になりそうもないし、仕方ないか。


「……ルノ、ボード持ってこい」


「ボード? ……そっか、わん!」


 ルノは俺が何をしたいのかを理解して奥に引っ込んでいった。


それを見咎めたアサカは俺に聞いてくる。


「あん、何する気なんだ?」


「いや、同じ説明何度もするのが面倒になってきたし、この調子じゃ今日はまともな営業も無理そうだからな、今日はもう営業潰して、まとめて説明しようと思ってな」


「そりゃ確かにそのほうがいい気がするが、どうするんだ?」


「そのための道具をルノに取りに行かせてるんだ」


「持って来たよヒサメ!」


 俺が口にするのと同時にルノが奥から戻ってきた……その手には小さな半球形の魔法具が握られている。


作ったはいいけど使用機会がなくてお蔵入りしていたからな……丁度よかった、これは探索者に売っても仕方がないからなぁ。


「? なんだそれ?」


「見てればわかるさ、ルノ」


「わん!」


 ルノがその魔法具に備えられたスイッチを押すと、空間にボードが投影された。


俺がそのボードに触れるとそこに文字が描かれ始める。


その光景に店内にいた生徒たちが何事かと集まって来たのを見て、俺は口を開いた。


「え~、あまりに同じ質問が多かったから、ひとまずそれについて全体的に解説するぞ、ちなみにこの魔法具の出所については内緒だ、試験には関係ないしな」


 店内から不満の声が上がるが黙殺する。


「今日はもう喫茶店業務諦めるから、しっかり聞きやがれこの野郎ども!」


 そう叫ぶとノリのいい奴らが拍手と歓声を上げる。


「この問題の解説終わったら質問会にする、ただし全員今から最低ワンドリンク頼め」


 再び文句の声が上がるが気にしない、あくまで本業はそっちなんだということを忘れてもらったら困る。


アサカも呆然としていたが、目を覚まさせて全員のドリンクを配らせる、それを見届けながら俺はその問題の解説を始めた。


「ふむ……ヒサメも大概お人好しだよな、なんだかんだ言ってもこうやって世話しているわけだし」


「「「「うんうん」」」」


 ドリンクを配りながらも俺の様子を見て、そんなことを言うアサカに聞こえた数人の生徒が頷いている。


俺は一旦解説を切り、そちらのほうをジト目で見ながら口を開く。


「無駄口を叩いているのなら止めてもいいか?」


「「「「それはだめ!」」」」


 見事なまでの団結力で頷いている奴らだけでなく他の奴までそろえて首を振っていた。


そのあまりの連携ぶりに俺は思わず頭を抱えてしまう。


「まあまあ、いいじゃねえの、悪口言ってるわけじゃねぇんだしさ」


 ドリンクを配り終えたのかアサカが俺の肩を叩いて俺を落ち着ける。


だがな……言い出したのはお前なんだぞ、アサカ。


「……なら、お前も聞いていけ、わかんなかったらみっちりと教えてやるから」


「ぶっ……おいおいおい、俺は関係ないだろ!?」


 思わぬ反撃を食らってアサカが慌てふためくが知ったことではない。


「なに、学力が不安な奴が心配だからわかりやすく、みっちりと教えてやるだけだ……ああ、俺ってお人好しだなぁ」


「違う、それは違うぞ!」


「いいから聞いとけ、反論は聞かん」


「……はい」


 強めの口調で言うと、アサカはおとなしく従った。


相当目が据わっていたのだろう、生徒たちも若干引いていた。


「……すまん、失礼した、じゃあ解説を始めようか」


 表情を元に戻して、サナちゃんに聞かれていた問題の解説に取り掛かる。


やはり何人かは同じところで悩んでいたようで、真剣に聞きながらメモを取っている……のだが、おいアサカ……なんでなるほどという顔をしている?


俺は急にお前のことが心配になってきたぞ……今度時間が空いたら本気で教え込むか?


というかルノ、お前なんで俺の手伝いじゃなくて聞いてる側に回ってるんだよ? え、もう教えるのが疲れたって? 俺だって一緒だっての!


しかし叫びたくても叫べるはずもなく……まあ実演をする必要もないしこれくらいなら一人でも問題はないからいいか、と妥協することにした。


そんなやり取りを裏で交えながら解説を終えて次の質問があるかと聞いた瞬間、大量に手が挙がった光景を見て俺は多少呆れたように声を上げる。


「お前ら……遠慮しなさ過ぎだろ」


「だって、先生の解説わかりやすいから」


「うん、聞かないほうが損になる」


 まあ、基本的に理解できやすいように話は組み立ててるからそれはいい……聞く価値があると思ってくれることは素直に嬉しいと思う。


やっていることは勉強なんだから教師という立場的にも常識的にも褒められるべきことだ。


「魔法学以外でも何でも教えてくれますし」


 ああ、褒められるべきことなんだが……とりあえずちょっと待て、そこの奴。


俺に今以上の負担をかけようと、そういうことなのか?


「とりあえず……今からの質問は魔法学のみに限るぞ?」


「え、そんな!?」


「ここでそれ以外の問題までやると終わらないだろうが!」


 そりゃな、学園内で聞かれたのなら俺も別に何も言わないさ。


ただな……今この場でいちいち質問のたびに教科変えられたら教えるほうは結構大変なんだぞ?


それに俺の担当はあくまで魔法学だから、そっちの質問を差し置いて他の教科を教えるのはやっぱり問題だと思うわけだよ。


「……はぁ~い、わかりましたぁ」


 渋々と、本当に渋々とその生徒は折れてくれた。


他にも若干名それで肩を落とした生徒もいるが仕方ない、さすがに諦めてもらおう。


それでも質問が出て解説が始まればすぐに切り替えて必要なことを書き込むのは素直に感心する。


幾つも出される質問に答えて、出尽くした頃には喫茶店の営業時間の方も閉店間際の時間帯に差し掛かっていた。


「よし……じゃあこれで終了、ていうかお前ら、これで実技が駄目だったとか言うなよ?」


 生徒たちを見送りがてら喫茶店から出している中で、冗談のように、しかし本音を入れながら生徒たちに声をかけてみると。


「ああ、それはないよ」


「だよね」


「楽勝楽勝」


 誰一人悲壮な顔を見せずに、自信満々にこう返してくれた。


「へえ、そりゃ頼もしい」


「だって、ねえ?」


「うん、マスターとルノ君の授業で実技もやらされたんだもん」


「そうそう、だから実技は一切心配してないぜ」


「みんなマスターの授業でぐんと実力が上がってるんだよ」


「ありがとう先生、ルノ君」


 一人がお礼を言うと周りも次々にお礼を言って頭を下げてくる。


教えているもの自体はそう大したものではないので正直困惑するしかない。


とはいえお礼を言われているのだから、悪い気分ではなかった。


ルノも多少困惑をしているが嬉しそうな顔をしている、照れも入っているらしい。


教えたことをしっかりと受けとめてもらっている、その姿を見て……この生徒たちに教えることができたのは素直によかったと思えてくる。


「ていうか卒業するとマスターの授業受けられないのか」


「あ、そうだ、ショック……」


「マスター、高等部でも教えてよ!」


「それはパスだ、俺の本業はここ」


 はっきり答えておかないと後で泣きを見そうなので即答しながら親指で後ろの喫茶店を指す。


「ぶぅ……でも、そうだね、マスターとルノ君はここでこうやってるのが一番いいよ!」


 残念そうな顔から一転、生徒たちは晴れやかに笑い、そう言ってくれた。


「はは、ありがと」


「高等部に入ってからも喫茶店寄らせてもらいますね?」


「ああ、歓迎するよ」


 そう言ってくれる生徒たちに俺も微笑みながらそう返す。


「それじゃあ、もう一度だけ、ありがとうマスター、ルノ君!」


「今日はお疲れ様、マスター、ルノ君」


 サナちゃんが代表するように頭を下げて、隣にいたセリカちゃんも小さく労ってくれた。


それに続くように他の生徒も口々にお礼を言ってくれる。


長く続きそうなそれを切るために俺は発破をかけるように口を開く。


「ああ、試験がんばれよ」


「わおん!」


「いい点とって来い、後輩ども」


「お前は何もしてないだろうが!」


「応援くらいいいだろ!?」


 いつも通りのアサカとの掛け合いと、それに笑いが漏れる生徒たち……最後まで賑やかなまま、生徒たちは自分たちの家、あるいは寮へと帰っていく。


残ったのは俺たち三人だけ。


「ま、今日はお疲れさん」


「アサカもお疲れ!」


「そうだな、今日もサンキュ」


 最初に口を開いたアサカに同調して、俺たちは互いに労いの言葉を掛け合う。


「しかし卒業か……俺も来年だな」


「アサカは卒業した後どうするんだ?」


「さあな、まだ決めてねえ」


「わふ、それで大丈夫?」


 どこか他人事のように言うアサカにルノが呆れたように聞く。


「心配しなくてもいいって、まあ、少なくともあと一年はここだな」


 苦笑しながらアサカが俺の後ろの喫茶店を見ながら言う。


「もうすぐサナちゃんたちが入るんだろ? なら今はそのメンバーで笑いながら過ごせれば今の俺には十分さ」


「はは、お前らしいな」


「わん!」


「この街で探索するにしろ、別の街を回っていくにしろ、常に俺らしく、をモットーとしていくよ……じゃあ、俺も帰るとするかな、んじゃ今日はお疲れ」


「おう、お疲れ」


「お疲れ~」


 最後に三人で笑いあった後にアサカは寮へと足を向けて、俺とルノもそれが見えなくなるまで見送ってから喫茶店の中へと戻っていく。


……あ、片付けするの忘れてた。


ルノも思い出したようで、二人して肩を落としながら作業を始めたのだった。




 それから数日後のこと、俺たちが耳にしたのは今年の魔法科の多くの生徒たちの成績が実技・筆記ともに超高得点を叩き出したという朗報だった。


それを聞きつけた生徒たちが集団で勉強を教わりに来るという行為をしてくることが増えたのは頭の痛い話である。






 喫茶店『旅人』、お願いですので塾と勘違いするのはお止めください。

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