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第十四話 『狩人』

 それはとある日の夜のこと、街の外で街道から少し外れた平原で俺とルノ、そして一人の女性が向き合っていた。


その女性からは今も常人ではわからないであろう殺気が俺たちに放たれている。


「まったく……ヤル気満々で、面倒なことだな」


「わふぅ……ヒサメがそれを言っても」


 ため息をつく俺に、ルノが脱力をしながら突っ込みを入れる。


まあ、確かにこれに関して俺が言うのは間違っているか……発端は俺だからな。


「そうだ、お前の出した条件であろう……構えろ、行くぞ」


 女性も呆れたように口を開く。


しかしその口調はすぐに真剣なものへと変わり、言葉を終える頃には眼光も鋭くなっている。


「……わかった、来いよ!」


「わう、頑張る!」


 そのときには俺もルノも真剣な表情になっていて、その手に持った武器で女性を迎え撃つ体勢をとっていた。


一瞬の沈黙……そして次の瞬間には夜の平原に高い金属音が鳴り響き、三人の人影が踊るように動き始める。


それは常人には見えぬ神速の剣舞、死線の舞う戦場……少し欠けた月が俺たちを見下ろしていた。




 そもそもこんなことになった原因は昼になる前のことである。


いつもどおりに喫茶店を営業していたところ、その女性がやってきたのだ。


「いらっしゃいませ」


「店主、聞きたいことがある」


 入ってくると同時にカウンターへ座った女性はこんなことを聞いてきた。


珍しいことだと眉をひそめながら内容を聞けば、


「……クラウ、もしくはアーミアという名を知っているか?」


「いえ、知りませんね」


 聞き覚えのある名前に咄嗟に表情が変わろうとするのを抑え込む。


それが普通の人物であるなら俺も話すことを躊躇ったりはしなかっただろう……だけどその名前は、あまりにも特別すぎた。


「そうか……だが、そちらの子供は知っているみたいね」


 自分の動揺はバレていなかっただろう……そう出来た自信はある。


だけど、彼女と相対していた俺以上に不意打ちだってであろうルノにとってはそうではなかった。


その名を聞いた瞬間、ルノの動きが一瞬止まってしまった……普通に見たらほとんど変わりない、気にすることのない本当に一瞬の動揺。


ソレを見逃さなかったということは、それはかなりの実力を持っていることの証左であり……彼らがらみのことであるならばまず間違いなく厄介ごとであろう。


とりあえず落ち込んだ顔を見せるルノに仕事に戻るように手振りして、俺は女性のほうに向き直る。


「……それで?」


「できれば素直に店主の知っていることを口にしてもらいたい」


 女性は腰にある剣を触りながら俺のほうへ目を向ける。


場合によっては実力行使も辞さないってか……予想通りにかなりの厄介事のようだ。


「お客さん……物騒なものはしまってもらえますか?」


 本気だろうか、初めて出会う人物である彼女がどんな人間であるのか推し量るのが難しい。


この場にいるのは俺とルノ、平日の昼前なのでアサカはまだ学園にいるからいいとして、問題となるのは数人の客。


客たちがこちらの剣呑な雰囲気には気づいていないのは幸運なのか不幸なのか……少なくともすぐさま抜き放つことをしないのなら、向こうとしても騒ぎを起こすことは望んでいないのだと判断していいだろう。


だが……諦めて引き下がるような雰囲気じゃないな、店内に俺と彼女だけがわかる緊張の糸が張り詰められていく。


「私としても不本意だが……こちらも手段を選んでいるわけにもいかないのだ」


 ギリギリと、その糸が悲鳴をあげる音が聞こえてきそうだ。


この状態で門前払いなどをすれば本当にその場で剣を抜きかねないな……なら、こちらも落としどころを見せるか。


「だとしても、こんな時間帯にそんな話は止めましょうよ……今日の深夜、店を開けます」


「…………わかった、こちらとしても、そちらの方が都合がいい」


 女性は少しの沈黙の後、剣から手を放して頷いてくれた。


それと同時に剣呑な気配は霧散して緊張の糸が緩むのを感じた。


「でしたら……とりあえずご注文をどうぞ」


 深刻な話は終了、俺が営業スマイルでそう言うと女性が少し呆れたような顔を見せる。


気持ちはわかる、俺が反対の立場であったらもっと露骨な表情を見せているに違いないから。


「君は……今私が何をしようとしたのかわかって言ってるのかい?」


「別に良いでしょう? 用件は夜なのだし、一方的に質問して、注文も無しに喫茶店から出るのはどうかと思いますよ?」


「……色々な意味で大したものだ、ならばコーヒーと……オムライスというものを頼む」


「かしこまりました」


 少しの呆れと感心を含ませた表情で、女性は軽く笑って注文してくれた。


注文を受けた俺は料理を手早く作りながら女性のほうを観察する、表層程度しかわからないがそれでも冗談なく強い、技や身体能力に関しては俺よりも遥かに高いと見える。


持っているものからして獲物は剣、スタイルは剣速を活かした物だと考えられる。


腰に刺した剣には何かの文様…………そういうことか、だとすれば彼女の狙いは十中八九クラウ……加えてアーミアの討伐だろうな。


さて、どうしたものか……


「店主、あまり女性の身体をじろじろと見るものじゃない」


「む……すまないな」


 観察にばかり目がいって相手が女性だということを忘れていた。


これはさすがに失礼が過ぎたな。


「別に気にはしないが……しかしそうだな、店主から見て、私はどう映った?」


「そうですね……美人さんでしょうか」


「……喰えない人、といったところか……まあ、褒め言葉はもらっておこう」


「それはどうも」


 互いを探る言葉の応酬。


俺は軽く微笑みながら完成した料理を女性に渡す。


「……いただこう」


 女性は言葉も少なめに口をつけ始める。


そのまま無言で食べ始めるのを確認してから、他の客から頼まれた注文の料理を次々と作っていく。


「マスター、あの姉さんえらく美人じゃないか、話してたみたいだが知り合いか?」


「いえ、そういうわけではないですよ、名前も聞いてませんし」


「そうなのかい? もったいないよそれは」


 非常に返答に困るのでそういう話は止めてください。


というか……数分前まで一触即発の雰囲気だったんですよ、などとはさすがに言えず、俺はそのままルノと作業に戻るのだった。


それから少しして客もまばらになっては来たのだが……さすがに昼のうちに話す内容でもなし、やはりいったんお帰り願うのがベストだろうな。


その間にコチラもいろいろと準備も進めておこうか。


「店主、なかなか美味しかった……また来よう」


「はい、ありがとうございます、お待ちしていますね」


 また今夜に。


双方どちらにもそう含みを持たせながら勘定を済ませ、彼女は出て行った。


「……しまった、結局名前聞き損ねた」


 完全に見送った後、ようやくそのことに気づいたが既に手遅れ。


まあ、ある程度彼女の正体に予想はついているし、どうせ今夜来るんだからそのときに聞けばいいか……そう結論付けて、俺はすぐに思考を切り替えて元の業務へと戻っていった。




 そして夜。


途中から合流したアサカが帰った後を見計らったように再度喫茶店の扉が開かれた。


「彼は……関係ないと思い待っていたが、正解だったか?」


「ええ、ありがとうございます」


「ご注文は何にいたしますか?」


 女性の気遣いにお礼を言い、ルノがメニューを持って女性に近づく。


「いや、結構だ……すぐに本題に入りたい」


「そう焦らずに……コーヒーくらいはサービスしますので飲んでください」


「む……わかったいただこう……どうも店主との会話はうまくいかんな」


 俺の勧めに渋々とカウンターに座る女性。


すぐにコーヒーを自分の分と女性の分を淹れて、会話体勢に入る。


「自己紹介からしておきましょうか、喫茶店『旅人』のマスター、水森氷雨です」


「同じく喫茶店『旅人』の従業員、ルノです」


「……探索者のディナだ」


 探索者……ね、そうには違いないけど、全てを言っているわけではないと。


しかしその位置のままでは同じテーブルにはつけないな……早々に一枚カードを切ることにしようか。


「東には使徒狩りの三勇士という者たちがいると聞いています……その一人が女性で、独特の文様のついた剣を持つということも……その剣士の名前も、確かディナと言いましたね?」


「博識だな……いや、調べたのか? どちらにせよ、そう一般が知っているほどの情報ではないぞ?」


 女性、ディナは多少ながらも驚いたようにこちらを見る。


俺は肩をすくめて何でもないように言葉を続ける。


「まあ、こんな商売していると、自然と入ってくるものですよ……特にここは流入の多い探索者の街ですからね」


「ふ……ん、まあ、そういうことにしておこう」


 信用はされていないな……まあ確かに、今の説明じゃ無理があったか。


ここは、早いところ話題の転換をするべきか。


「それで……自分で言うのもなんですが、どうしてこんなところへ?」


「ああ……数日前に夜剣皇帝に会って……負けた」


「……それはそうでしょうね……というよりも、今ここで生きていることに驚きます」


 その時の俺がしていた表情は間違いなく呆れだろう。


クラウの戦闘能力はこの世界においての最強級だ、いくら使徒狩りのスペシャリストとはいえ彼と敵対して勝てるわけがない。


生き残れたことだけでも御の字と言うべきであろう。


「正直、クラウは今変わってきています……手を出さなければ、敵対することもないと思いますよ」


「かもしれないが……彼らはその存在自体が危険なのだ、彼らのうち一人がその気になれば世界を滅ぼせる……そんな化け物であるからこそ……何かの間違いが起こらぬうちに討たねばならぬ」


「……正直、その考え方には賛同はできませんね……俺から見れば、クラウは大切な客です……他の者と変わらない、ね」


「クラウさんは旅のお話聞かせてくれる良い人だよ」


 存在そのものが罪、それを認めることは出来ない。


生物は己の生まれを選ぶことなど出来ない、そうであるのにただそこにいただけで、ただそう生まれただけで責められるような理不尽。


そんな悲しいことなど俺もルノも認めたくなどない。


もっともクラウなら、そう言われようとも一切揺らぐことなどないだろうが。


「だが……事実二ヶ月も前に世界は一度滅びかけた」


「それについてはクラウから聞きましたよ……原因はラガルドらしいですが」


 おかげで先日その話を聞いた時には盛大に引きつることになったが。


そして実際に意外だったと驚いた、夜の王の中でもラガルドは事を大きくするようなことは一番しないと思っていたから。


「私は詳しくは知らない……だが、世界の崩壊が起こりかねない力の発現を感じることができた……行ってみれば二人もの根源使徒の争った形跡……正直、これほどのものかと震えたよ……そのときも夜剣皇帝と戦ったが、見事に負けた」


 無理もない、夜の王同士の戦闘など今この世界の人全てで挑んだとして手の余る事態だ。


それほどの戦闘が彼らには可能なのだ、生きている次元が違っていると言ってもいいかもしれない。


なお、世界の崩壊だとかいう事象に関しては実のところそんなに心配していない……クラウ然り、ファフニール然り、真実世界の崩壊などという事象が行われるのならば動く存在はそれなりにいる。


実際に戦っていたのはクラウかもしれないが……絶対バックアップなり控えなりで聖獣や夜の王はその場に存在していたと考えている。


それはラガルドもまた承知しているはずのことであろう……だけど、それでもラガルドは世界を滅ぼすことを止めることはなかった。


それほどまでにラガルドは、世界を壊したがったのだろうか?


正確には違う。


夜の王六人は種族こそ同じとするが、人間と同じようにそこにもつ性質、得意な魔法、思想その全てが違う。


その中でもラガルドの思想は一際風変わりだと感じられた。


彼らは悠久を生きる者たちだ……そして悠久を生きる者たちにとって敵とは何か?


それは退屈、最強の毒だ……特に使徒は元人間、数十年もすれば生に飽いて自ら死を選ぶことも珍しいことではない。


夜の王たちも例外ではない。


どころか、使徒などとは比べ物にならないほど生きているのだ、人が感じる退屈とも比較にならないだろう。


そんな中で唯一、ラガルドだけがその退屈を享受していた……彼の望みは退屈な日常、そのために自ら変わらないことを選択したのだ。


しかし、そこには限界が見えてくる。


ラガルドが永遠生きる中で変わらないのは、同じく永遠を生きる夜の王たち。


だけどラガルド以外の夜の王は殊更に不変を求めているわけではない、不変のラガルドに対してほんの少しずつ変わっていく王たち。


そこには小さな歪みが現れることになる。


そして、その歪みが強くなったのはじいさんが現れたからだろう。


夜の王たちの中に人間という異分子が混じりこむ……それは確実にラガルドの不変という望みにとって歪みが広がることになった。


俺も同じだ、異世界人という歪みは影響を与えたのは疑いようもない。


だが、それでもその歪みによる暴走はまだなかった。


決定的になったのは、おそらくクラウ……それからもう一人の夜の王が原因だろう。


じいさんや俺のようなたまに会う友人関係とは明らかに違う……一人は己の気に入った人間と常に一緒に行動するようになり、そしてクラウは人間に対し使徒へと転じさせるほどに執着を見せた。


それが限界だった、ラガルドの不変という望みと、現実に起こっている変化。


悠久の時をかけながら徐々に軋んでいたラガルドの精神は二人の王の急激な変化によって一気に暴走へと傾いたのだ。


変わることが止められないのなら、全て壊してしまえ、そして壊しつくし、変化の原因である生物を滅ぼしてしまえ、と。


ある意味それは、起こるべくして起こったこと。


厄介であるのは、それが実際に出来てしまうほどの能力を持っていることだ。


人では対抗することなどできず、一人残らず殲滅する。


それが始まる直前に、クラウと、そしてアーミアがラガルドを止めるために戦った……その結果、クラウとアーミアがラガルドを制したのだ。


殺してはいない……とはいえ、しばらくは動けないほどにはダメージを与えたそうだが、結果としてラガルドの行動は止まった。


「彼らは己の思い一つで本当に世界を侵せる……放っておくわけには行かないんだ!」


 ディナの声が荒げられ俺のほうを睨むように見る、俺はその目に逸らさず見つめ返す。


そしてルノもまた、俺たち二人の方をじっと見つめ続けていた。


しばらくの沈黙の後、どちらとともなく目線を外し息をつく。


「そういえば……答えてもらってませんでしたね、なぜ、この喫茶店にわざわざ来たのか」


「……脱線していたな、夜剣皇帝に負けたとき、彼自身に言われたのだ……本気で私を倒したいのだったら、この街の喫茶店のマスターに会いに行ってみろと……あるいは貴様なら我らを超える力が得られるかも知れんぞと」


「倒そうとする敵の言に従ったわけですか」


「正直……今のままでは千回立ち向かおうが勝てぬからな、嘘だろうがなんだろうが縋るしかないのだよ」


 なかば諦観したような言い方ではあるが、その眼には千回立ち上がり、必ず討つという意思が燃え盛っていた。


しかし……ディナが嘘をついてるとは思えないから、実際にクラウがここのことを教えたのだろう。


となると、この人をよこしたのは無限循環を教え込めということか?


体がもたないとクラウには言ったはずなのに、そんな不確定なものを?


俺はディナの方を見て……気づいた。


「使徒……いや、人間の情報のまま使徒の力を得たのか」


「っ!」


 俺の言葉にディナの眼が一気に鋭さを増し、斬りかかってきそうな勢いで剣に手をかけた。


その行動の瞬間、俺はすぐに回避を、ルノはいつでも戦えるような体勢をとった。


「貴様……何故それを知っている」


「感じただけだ、無駄にクラウたちとつきあってないってこと」


 以前にも説明したが、転じるという行為は対象の情報を書き換える行為である。


おそらくは彼女は転じさせられた際、おそらくは転じさせた本人より根源に近い情報に書き換えられ、その上で人間と使徒を分ける決定的なところが書き換えられずに人間のまま力を手にした形なのだろう。


「……そうか」


 ディナが落ち着いたように剣から手を放す。


それを見て俺たちも臨戦態勢から戻る。


「まあ、なるほど……クラウがここにこさせた理由がわかった」


 俺の無限循環の理論を聞いて、かなり根源に近い使徒の力を持つ人間。


それならば、無限循環の起こす負荷に耐えることができるかもしれない……そうクラウは読んだということか。


この前の会話でラガルドの行動について語った後にクラウは俺たちやアーミアを見ながらこんなことを口にしていた。


「最近興味深い人間たちと出会い、戦って、一つ願いができた……人間が我らと渡り合うのを見てみたい」


 この話を聞いたとき俺とルノはそろって無理無理無理と首を振って否定したが、クラウは笑ってこう続けた。


「お前の養父がその知識のまま若き時ならば、あるいはその可能性もあった……その知識を受け継いだお前たちには今は無理であれ期待している……あと一人、二ヶ月前に戦った人間にもな……お前たちがそろえば、あるいは私と戦うことができるかもしれんな」


 その人間がディナのことであろう、だからこそ俺たちをひき合わせた……あるいは、を実現させるために。


クラウ……お前、間接原因かと思っていたら直接原因なのかよ……その事実にほんの少しめまいと頭痛を感じた。


とりあえず、既に起きている事実なのだから仕方がない……俺は真剣な、だけど縋るような彼女と向き合う。


「それで……できる……のか?」


「……理論だけで良いなら、届く可能性がある……その程度だ、それに、常人であればほぼ間違いなく死ぬ、そういう理論だ」


「常人であれば……か、なるほど、それでいい、教えてくれ!」


 可能性という言葉に反応し、ディナが飛びついた。


今の状態ではその可能性すら見えてこない、だからこそ届く可能性という言葉にすら希望であるのだろう。


「一つ……条件がある」


「条件?」


「俺とルノと戦ってくれ」


「わう?」


「なんだと?」


 突然の言葉にルノとディナが首をかしげた。


まあ、当然の反応か……だけど、自分にとっては必要なことだった。


「クラウの望みは、己よりも強い人間の現出、そしてクラウは勿論俺とルノより強い……なら、少なくとも俺とルノより強い人間でないと意味がない、それならば理論を完成させて俺とルノがクラウに挑んだほうがいい」


 仮に教えた力で彼女がクラウや他の王たちと戦ったとすれば、確実にどちらかが死ぬ。


そしてそれはほとんど彼女の方だろう、だとすれば……せめて見定めなければならない。


理論ありと仮定した俺とルノのクラウとの戦闘での結果が全力で甘く見積もっても一厘以下、ほとんどゼロに等しい結果なのである。


俺たちより弱ければ、理論を渡したところで自殺にしかならない。


ならばこそ、彼女には証明してもらわなければいけない、俺たち以上に強いことを。


そこまで説明してディナは頷いた。


「確かに道理だな……よかろう……私の力、その身に刻んでやる」


「街の外……東の街道から北へ少し離れたところに全く手の加えられていない平原がある、あそこなら迷惑もかからないと思う……準備をしていくから、先に行ってくれ」


「承知した……待っているぞ」


 ディナが身を翻して、店の外に出る。


それを見送ってから、俺は準備を開始する。


「悪いな、ルノ……巻き込んだ」


「ううん、全然大丈夫だよ……それで、本気を出せばいいんだね?」


「ああ、隠し玉全部つぎ込んでやるぞ……最強装備、それに勝ってもらう……ルノ、俺の分を含めて奥の倉庫から取ってきてくれ」


「わうん!」


 そこまで言うと、ルノが店の奥へと走っていってしまう。


持って来させるのはこの街に来てから作ったもので、クラウやファフニールと戦うために作ったもの。


実際に勝てるわけもないが、それでもかなりの力を秘めた物たちである。


それを見てから、俺は戦いに備えて切り札の準備を始めるのだった。


そして、話は冒頭へと戻る。


勝つのは果たして俺たちか、それとも彼女か。






 喫茶店『旅人』、そのマスターと従業員の実力、とくとご覧あれ。

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