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ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★  作者: 双葉鳴
一章 お爺ちゃん、ダンジョンに潜る
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5話

「威力偵察、ですか?」


「そんな感じ。うちの息子たちの立ち上げる新たな事業なんだよ。というわけで貴方も暇でしょ? 扱ってみて使った感想教えて欲しいんだって」



 家族会議を終えた午後。

 朝の探索から息つく暇もなく、連絡が寄越された。

 動き出した若者たちに手柄を持たせようとは思わないのだろうか?



「それは若い世代に任せた方が」


「その若い世代が、暇を持て余してる僕たちに暇つぶしにどうだって言ってきてるのさ」


「様子見で行かせる前に安全性の確保が先では?」


「因みに息子は、第一発見者が僕とあなたであると見抜いての発言だ」


「バラしたんですか?」


「あの子、最近勘が鋭くて」



 誰に似たんだか。そう言いながらどこか得意そうに胸を張る欽治さん。

 確かに暇は持て余してるのでちょうどいいか。


 しかし、例のダンジョン跡地には早速封鎖テープが貼られていた。

 普段は見かけぬ若い警察官が周辺を警戒している。


 ダンジョン誕生から数時間しか経ってないというのに、目をつけるのが早いことだ。



「あ、そうだ。これからダンジョンに入るのに免許が必要になると思うから。はい、これあなたの分」


「今日の今日でもう作ったの?」


「ノウハウはVRで蓄積してるから、リアルでは出力するだけですよ。法整備だってリアルより時間を引き延ばせるVR空間での議論も煮詰まってきてるよ。リアル時間では数時間でも、VRではその限りじゃないということさ」


「はぁ、わかるようなわからないような」



 ここは取り敢えず欽治さんに任せ、私はそれに続く。



「お疲れ様です。その後、ダンジョン内の様子はどうです?」


「誰だお前達は。ここから先は警察の預かりだ。安全面の確保ができるまで立ち入り禁止だ!」


「おっと失礼、私はこういうものです」



 欽治さんが警察手帳を見せるような格好で、例の手帳を見せつけた。



「やや、これは寺井コーポレーションの会長様でしたか? ほう、本日は武器の威力偵察でのご来訪ですか? 少々お待ちください。上に掛け合ってみます」



 鬼に金棒、黄門様の印籠のように効果は覿面だ。

 程なくして、許可が降りた。



「中の調査はどこまで進んでます?」


「はい。暗闇が深く、一寸先も闇という体たらくでして」


「照明の持ち込みは?」


「持ち込むと同時に火は消え、電気は切れるようで手詰まりです」


「文明の利器を持ち込めないのは痛いね。ではこのように大きく振り回す系の武器は不都合が生じるのではないかな?」


「失礼ですがあなたは?」



 欽治さんはお偉いさんだからいいとして、当たり前のように横にいる私に降りかかる不躾な視線。



「私はこういうものだよ。そこの人に誘われた哀れな被害者さ」


「はぁ」



 おんなじ手帳を見せてるというのに、いまいちピンとこない顔をされた。

 信用ないなぁ。



「ともかく、信用できないなら君もついてきなさい。そういえば、君。名前は?」


「今川巡査であります」


「では今川君、君はダンジョンに初めて入る三人目のエリートだ。君の働きには存分に期待してるぞ?」


「いや、まだ行くとは一言も……」


「僕が決めた。上司には僕から掛け合って行くことにするよ」



 欽治さんにポンと肩を叩かれ、今川巡査はこの人の無茶苦茶さに心底辟易したことだろう。わかるよ、その気持ち。



<始まりのダンジョン第二階層・難易度☆☆>



 おや、つい先ほどクリアした時より難易度が落ちている。

 これは情報に差が出るな?

 穴に入る前に杭を打ち込んでロープを垂らす。

 前回はこれをやらなかったので、それこそサバイバルを強いられた。

 今回はきちんと準備をしてきたらしいので、携帯食と武器を持ち込んでの突入だ。


 緊迫した空気の中、耳鳴りに混ざって地を這う液体生物の姿が現れた。

 息を呑む今川巡査。

 警棒を片手に構えるが、いつまで経っても攻撃に移らない。



「どうしたの? ほら、攻撃しないと」


「君だってVRは体験してるだろう? ほら、こうやってさ」



 私がパターを振りかぶって、スライムを攻撃する。

 すると一撃の元に粉砕し、パシャリと水のように弾けた。



「ほら、こんなおじいちゃんでも倒せちゃった。相手に警戒するのはいいけどさ、警戒しすぎてもやられちゃうよ? ゲーム的な動きを取り込んでもいいんだ」


「凄い、簡単に倒せるものなんですね!」


「ほら、アイテムも拾って」


「これが、アイテム?」



 今川巡査に持たせたスライムコアは、私たちの時と違って光ることはなく、手のひらの上で静かに身を潜めていた。



「あれ? おかしいですね。これはどういう事でしょうか?」


「もしかして、レベルが低いと見えない系統でしょうか?」


「ああ、そういうギミックですか? 確かに最初はアイテムとか見えませんでしたね」


 ははは、と笑う私たちに今川巡査はとうとう疑問を突きつけてきた。


「あの、どうしてまだ出来上がってそんなに経ってないダンジョンの情報をそこまで知ってるんですか?」



 その考えはご尤もである。

 ここには誰もいないので、言っても大丈夫かとお互いの顔を覗き込んだ私たちは。巻き込む前提で情報の開示をした。



「ああ、それ。それは私たちがダンジョンを最初にクリアした二人組だからということになる。お互いにレベルは12だよ。ね、欽治さん?」


「そんなところです。なので頼ってくれていいですよ?」


「ひええええ、私としたことが飛んだご無礼を!」



 今川巡査はその場でしゃがみ込むなり土下座をしそうな勢いで頭を下げた。

 大袈裟だね。



「因みにだけど、この情報を表に流すのはお勧めしないよ? 僕のグループがどこと繋がってるか今更確認する必要はないよね?」



 肩に手を回し、耳打ちする欽治さん。

 今川巡査はすっかり震え上がっている。



「そうやって脅さない。別に情報はバンバン表に出していいと思いますよ? ただし私たちの名前を出さないことが条件です。私たちはもう生い先短いですし、今更功績を貰ったところで荷が重いですから。なので表に出すときは、貴方が矢面に立ってもらって、ね?」


「そんな、恐れ多い。でも本当にそれでいいんですか?」


「どちらにせよ、誰かがやらなきゃいけない事だからね。君の気持ち次第だよ。さ、次は自分で倒してみよう。もちろん私たちもサポートするよ」


「わかりました。精一杯誠意を尽くします!」



 よし、釣れた。

 私は内心ほくそ笑み、欽治さんは顔に手を置いた。

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