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ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★  作者: 双葉鳴
五章 お爺ちゃん、ブリーダーを目指す
41/44

34話

 迷うまでもなく、スキルを獲得。スキルポイントは全部なくなったが、まぁ良し。

 こういうのは迷ったらダメだ。検証も兼ねて使っていかないと。

 それはそれとして心配している孫へ弁明する。



「なんでもないよ、ちょっと珍しいスキルが手に入っただけ」


「じゃあいつもの事だね!」


「そうそう、いつもの」



 これで通じるのだから身内は便利だ。身内じゃない人は胡乱気な瞳で見てくるけど。



「岩盤工事とかそういう系ですか?」


「似た感じかな? 今のところこの系統は見た事ないな。唐突だけど蜂楽君、君のコール番号教えてもらっていい?」


「本当に唐突ですね。そんなに僕のこと気に入ってくれたんです?」



 まぁいいですけど、とメモをサラサラと書き出して手渡してくる。



「ありがとう。今度うちのキャディの動画を撮ったら送ってあげるね」


「この子の動画ですか? テイムモンスターにそこまで興味はありませんが、ありがたく頂いておきましょう。今後の何かのきっかけになるかもしれませんし」



 先ほどの一部始終は彼の中で無かったことになってるらしい。

 今どきの子ってここまで切り替え早いのか、凄いな。



「お爺ちゃん、キャディの動画撮るの?」


「美咲ばかりに負担はかけさせないよ。先駆者として、テイマーの第一人者として矢面に立っておくさ」


「じゃあ、ライバルだね!」


「そう気負わなくていいよ。まずはその子の育成を優先させなさい。でも生まれたら、キャディと仲良くしてね?」


「うん!」



 それはさておき探索再開。

 通路を歩くとロックスライムがわらわらと現れる。

 美咲が武器を持って動き出す。

 私は腕時計型デバイスを録画モードにして構える。

 抱っこ紐で卵を抱えながら無理のない動きでナイフを構え、ダッシュから滑り込むようにスライディング。交差するタイミングで下から上にナイフを振り上げた。グレードⅤまで上げた武器は当然のようにスパッと硬い殻を切り落とすが、まだ倒しきれてない。



「お爺ちゃん!」


「キャディ、頼む!」



 撮影に集中していた私はキャディに援護を頼んだ。



「くわ!(任せて!)」



 中身が散らばった破片を拾って投げつけるモーションのロックスライム。

 腹ばいにして滑るキャディはさながらペンギンの様。

 中身に向かって根を張り、縫い付けるとそこに美咲の追撃が間に合った。



「まずは一体!」


「くわわー!(まだまだいけるよ)」


「笹井さんは出撃しなくていいんですか?」


「私は今忙しいから」



 傍観者の蜂楽君が、今まで戦闘に参加していた私がなぜ加わらないのか疑問符を浮かべている。



「ぼっと突っ立てるだけのように思えるのに、よくわからないなぁ」


「私のことはいいから、蜂楽君も参加して来たら?」


「僕にあの中に入れと?」



 指を差す方向では激闘が行われていた。

 孫は動き回るタイプだが、卵を抱っこしてるのでいつもより動きは遅い。

 しかしキャディがナイスサポートをしてるのでさながら餅つきのような見事な連携がなされていた。

 私だったら十分参加可能な状態だが、確かに今まで光苔拾いしかしてこなかった若者にはちょっと厳しいかもしれないと思う。

 でも君若いんだし、ゲームくらいした事あるでしょ?



「じゃあ私と一緒に応援してようか」



 ゲームをさせてもらえない家系の可能性もあるかと、その指摘はせずに一緒に応援する。

 美咲がんばれー。キャディがんばれーと応援してるうちに戦闘が終わった。



「お疲れ様」


「ナイスファイトでした」


「卵抱えながらでも案外戦えるもんだね、驚いた」


「実際はヒヤヒヤだったよ? でもキャディが手伝ってくれたから……」


「くわー(助けになったらよかった)」



 すっかり仲良しになったキャディ。あとで動画送ったら驚くだろうな。

 今回は腕時計型のデバイスで撮影したが、やっぱり私はビデオカメラのファインダー越しの景色が好きだ。今はこれでもいいが、やはり本格的に行くなら、それを求めてしまうよね。急拵えの現状では仕方ないが。



「私の方もスキルの用途が定まった。家に帰ったら早速渡すよ」


「渡せる系のスキルなの?」


「どうもダンジョン内の情報を外に発信できるかもしれない素質を秘めている」


「え、すごくない? もしかしてさっき動かなかったのって?」


「うん、美咲の戦闘シーンの撮影してた。上手くいったらいいよね」


「それ、きっとみんなが求めてるやつだよ!」


「だろうね。表に出たら、みんなが欲しがると思う。けど一つ問題があってね?」


「問題?」


「うん、とても重要な問題だ。なんせこのスキル、どんな手順を踏んで手に入ったか見えてこない」


「え? そうなの」



 孫はキョトンとする。

 私は肩を竦めて手のひらを腕にあげた。



「多分だけど、外からの着信を複数回、いろんな人から無視して、更にはレベル20で獲得したものだ。だがその確証はどこにもない。もしかしたら他に要素はあるかもしれないよ。どれか一つでも欠けたら入手できないかもしれないんだ。情報の公開をしても、入手できないんじゃ意味ないよね?」


「確かにそうだね。じゃあ、お爺ちゃんこれから大変だ」



 孫は警察関係者にこき使われる未来を想像したのだろうけど、それはまた別問題だ。



「別に大変でもないよ」


「そうなの? 警察の人から探索協力されるんじゃないの?」


「え、嫌だよ。別にこんなスキルなくたって、地図でもなんでも作ればいいじゃない。そもそもクリアするたびに内部構造が変わるんだよ? 配信したってその通りの内部構造ではないでしょ?」


「それもそっか。でも配信できるのは大きいよ!」


「大きいけど配信用デバイスが出てくるわけじゃないから、さっきの私のように棒立ちする事になる。配信で人気を取るのは厳しいんじゃない?」


「あー、それはそうだね。じゃあ活用するならカメラマンとして雇う必要があるんだ?」


「レベル20以上の最低でもジョブは一つ持ってる高ランク冒険者を雇えるには一体どれだけかかるのやら」


「そう考えると道のりは長いねー」


「なのでこのスキルは身内で扱う事とする」


「それを僕の前で内緒話するのはどうかと思いますよ?」



 追加メンバーの蜂楽君が私と孫を順番に見る。

 別にうっかりでもなんでもなく、普通に聞こえるように話したのが彼の背徳感に触れたようだ。何か悪い事に加担させられているのではないか? そんな不安顔である。



「まぁ、表に出たところでこの情報は眉唾物だしねぇ。証明できるものがなければ騒がれないでしょ?」


「僕が送られて来た情報を公開するとか思わないんですか?」


「君がそんな大それた事をしでかすとは思えないね」


「どうしてそう言い切れるんです?」


「もし君がそんな刹那的に生きてるのなら間違いなくモンスターエッグ売却に加担してるよ。それをせずにコツコツと光苔を集めてた。まずそんなこと出来るタマじゃないよ。良心の呵責に耐えきれずに今も苦しんでるじゃない?」



 図星だ、とその表情が訴えかけている。



「そうですよ、どうせ僕は気弱な男です。でも蜂楽家の一員なので、見て見ぬ振りは出来ません」



 そう言って、彼は懐から出した警察手帳を開いた。

 桜町の管轄ではないが、どうしてこんな場所で光苔の採取なんてしてるんだろうね。もしかしてプライベートでここに来てる?

 だとしたら他の管轄への探り入れ、スパイのようなものだろうか?

 それこそ後ろ暗いだろうに。



「警察の家系でしたか。ダンジョンに入るとそんな人ばかりだ」


「他にも似たような方をご存知でしたか」


「知ってるかわからないけど、二重さんと今川さんと言う人がいてね」


「どの世代の方です?」


「孫とお爺ちゃん両方だね。孫の方はダンジョンの調査員だったけど、お爺ちゃんの方は一人は過去に遊んだことのあるVRゲームの知り合いで、もう一人はリアルで知ってる人でした」


「世間とはなんと狭いもので」



 本当にね。でも、リアルの知人の割合が高いので、VRの知人はそれほどでもないんだけどね。



「VRってAWO? 私も知ってる人?」


「どうかなぁ? 結構配信でご一緒してるけど。乱気流のクランマスターの師父氏。それが二重さんのお爺ちゃんだったんだ」


「え、凄い偶然!」


「ねー。今は筍掘りおじさんとして有名になってたよ」


「タケノコダンジョン?」


「そうだよ。秋人君がエネルギー弾出せるって聞いて、私も欲しくなっちゃって行ったら居たんだよね。凄い偶然」



 偶然とは連続するものだ。これはAWOでもよくあった。

 他人から言わせると偶然で済ませるのは私くらいだそうだ。

 みんな細かいことを気にしすぎだと思う。



「もしかしてさっきのゴルフボールって?」


「よく分かったね、あれが私のエネルギー弾さ」


「どうやって手に入れたの?」


「コツはダンジョン内で筍のパックを食べることらしい。ただ持ち帰って食べるだけじゃ効果出ないらしいよ?」


「そうなんだー」



 程よく会話が明後日の方向へ飛んだところで一拍置き、蜂楽君へと振り返る。



「というわけで、君は今日から私と警察を繋ぐパイプ役だ。私という人間はね、窮地に立つと周囲を巻き込んで行動を起こす。よく覚えておきたまえ」


「いつもの奴だねー」


「これ、損な役割じゃないです?」



 孫も慣れたもので、蜂楽君へと同情の視線を向ける。



「と、いうわけで私から君にバンバン情報を発信するから、それをどう扱うかは君に任せるよ。君の正義感を信頼してこその情報提供だからね? 警察の威信は君の良心にかかってる。頑張りたまえ!」


「あの、一人で抱えることじゃないので誰かに相談した上で情報開示が得策です。お爺ちゃんもいつもこんなですから」


「普段からこんななのか!」



 こんなとは酷いね。まぁ旅は道連れというし、道連れは多い方が楽しいじゃない? 主に私が。

 孫からの提案を横に流し、私たちはダンジョンをズンズン進んでクリアした。

 私たちにとっての日常を、本邦初公開である。


 その映像をカネミツ君、欽治さん、秋人君に一斉送信した。

 アーカイブ化なんてことはせず、情報の垂れ流しだ。


 まだ固まった情報が出てこないので、大いに検証して欲しい。

 長井君に送らないのはカネミツ君を通じて入手可能だということ。

 あと本人に送るといろんな煽りメールが送られてくるから送らない。

 欽治さんは上手いこと商売に繋げてくれそうだから。

 秋人君は、一応世話になってるからね。我が家の大黒柱だから事業が転けないようにサポートするのも扶養に入ってるものの勤めだよね。


 そんな感じで送ると、それはもうひっきりなしにコールが鳴るよね?

 うん、知ってた。

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