ジュードの話4
引き続き、ジュード視点のお話です。
クロエは俺と顔を合わせても先程の事には一切触れず、いつも通りを装っている。
(……さっきの事を見なかった事にしようとしてるのか?)
そうしてくれるのなら最高にありがたいが、正直俺はコイツを疑っている。俺が帰った後もコイツが黙っている保証はどこにもない。それなら今ここで、さっき俺の事を見たと白状させて、どんな方法を使ってでも黙らせる様にした方が俺としては安心できる。
けれど、俺から「さっき会ったよな?」なんて聞くのは、どうにも癪だ。
だから、俺はクロエから話を切り出す様に笑顔で圧をかける。
30分位経っただろうか?クロエは一向に口を開く気配がない。けれど、居た堪れなくなったのか俺から視線を逸らし、机を見つめている。
さらに10分。まだクロエは黙ったままだ。
………クソ、俺が折れるか。
「………はあ。」
流石にこれ以上時間を無駄にはできないと、俺は腹を括ってクロエに話しかける。取り繕うのも面倒くさくなって、素の俺でだ。
「……お前、午前中に街で俺に会ったよな?」
しかし、俺が折れてやったのに、クロエは頑なに俺に会ったと認めようとはしなかった。
(何なんだ?あの時完全に目が合ってんだ、誤魔化せるわけないだろ。)
しばらく俺たちの間で、不毛な言い合いが続く。これ以上言い合うのも馬鹿らしいので、俺は無理矢理話を進める事にした。
結局、クロエの口から俺の事を誰にも言いふらしてはいない、と聞くことができた。メイド達の態度も変わっていなかった事も考えて、俺もクロエのその言葉を信じる事にした。
けれど、まだ納得がいかない。なぜコイツは、言いふらすと言う選択肢を取らなかったのか。
この際だ、気になる事は全部聞いてやろうと思った。
「お前くらいの年頃の奴らはこう言う、誰かの秘密とか言いふらすの好きだろ?」
俺の問いに、クロエはクソ真面目に考え始める。その姿がなんとなく、面白くて揶揄ってやりたくなる。
真剣に悩むクロエの顔を覗き込み、ニヤリと笑って問いかける。
「……ああ、もしかして。俺の事が好きだから、俺が不利になる情報は黙っておいてくれるとか?」
俺の予想では顔を赤くして慌てるか、普通に「違います」と言ってくると思ったんだが……。コイツの反応はどちらとも違うものだった。
心の底から何言ってんだコイツみたいな顔をして、冷たく一言「は?」と言って来た。
それには思わず俺も声を上げて笑ってしまった。
ひとしきり笑って、俺は驚いているクロエに再度尋ねる。……まだ答えを聞いていないからな。
少し考えて、クロエはゆっくりと口を開いた。
「ジュード先生の授業をもう少し受けてみたいからですかね。」
その言葉に、今度は俺が驚く。
一瞬、何を言われたのか理解ができないほどには驚いた。
「……俺の授業を受けたいから?」
思わず独り言の様に、クロエの言った言葉を繰り返す。そんな俺に、クロエはさらに言葉を続けた。
「そうですよ?あんなに分かりやすい授業あまりないので。それ以外の理由はありません。」
……そんな事を言われたのは初めてだ。
(ああ、クソ……。素直に嬉しいと思っちまった。)
授業の事を誉められるのがこんなに嬉しいだなんて、知らなかった。……ああ、顔が熱くなるのを感じる。ニヤけている口元も、柄にもなく照れている顔も見せたくなくて、咄嗟に手で隠す。
同時にクロエは他の生徒達とは違うのだと、確信する。純粋に俺の授業を受けたいと思ってくれている、そして真面目に授業を受けてくれる。………ああ、本当に
「……本当にお前は、真面目だな。」
心からの言葉だった。……いつぶりだ?取り繕っていない顔で笑うのは。
さて、いつまでもこうしてるのも勿体ない。クロエが言いふらす事がないと確信できたし、授業を始めるぞ、と俺は黒板へ向かう。
そんな俺にクロエは慌てた様子で、俺を止める。どうやら、素の俺で授業をするのが気に食わないらしい。
だから、俺は揶揄う様に尋ねる。前の俺が好みか、と。
「いえ、好みとかではないです。」
今度は予想通りの反応が返ってきた。
まあ、万が一好みだと言われても俺はもうコイツの前で取り繕うのつもりはないんだけどな。
面倒くさいし、それになんとなくクロエには本当の俺で接したいと思ったから……。
ふと、1つ新たな疑問が出てくる。
(そう言えば、街で見せたのは女と遊んでいる姿だけで、この性格をあからさまに見せてはいなかったな……。さっき問い詰めた時に面倒くさくて、この状態で話したのが最初だったはずだ。なのにコイツは、クロエは驚いてはいなかったな……。)
俺は手を止めずに黒板の方を向いたまま、クロエへ問いかける。
なぜ驚かなかったのか?、と。
すると、クロエはなにを思ったのかヘッタクソな演技をし始める。
……コイツ、頭が良いのにたまにちょっとずれた事をするな。
そんなクロエに笑いを堪えながら間髪入れずに、ツッコむ。
その後もクロエはなんかよく分からない言い訳をしてきたが、俺は正直もう理由なんてどうでも良かった。……理由がどうであれ、クロエの前では素の俺でいて良いのだという事実は、変わらないのだから。
でもこの様子だとクロエにとっては前の俺の方が都合がいいのかもしれない。それはそれで少しムカつくが……クロエの困る姿を見られるのであれば、まあ良いだろう。
クロエも散々俺の予想外の事をしてきたんだ、ここはお互い様という事で。
俺はクロエの方へ向き直り、ニヤリと笑う。
「改めて、よろしく。クロエ。」
そう言った俺に、クロエは眉間に皺を寄せながら嫌そうに言葉を返してくる。そんなクロエに俺は、また笑ってしまうのだった。
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