ジュードの話2
引き続き、ジュード視点のお話です。
「はじめまして、クロエお嬢様。今日からしばらくの間、お嬢様の家庭教師を務めさせて頂きます。ジュード・フローレス、と申します。よろしくお願いしますね。」
俺が笑顔でそう言えば、大抵奴らは顔を赤くして視線を逸らすなり、俺を熱っぽい目で見てくるのだがコイツは違った。
「は、はじめまして、フローレス卿。よ、よろしくお願いします。」
笑顔を引き攣らせ物凄く俺に警戒しながら、言葉を返してきた。
予想していた反応とは違い内心少し驚くが、過去にこういう生徒がいなかったわけではない。
(……人見知りか?まあ、どうせ慣れてきたら他の生徒と同じで、俺に興味を持ち始めるだろ。)
そう思いながら、俺は授業を始める。
しばらくクロエは静かに俺の授業を聞いていて、ノートもきちんと取っているみたいだった。
(へえ、真面目に授業を受けている奴久しぶりに見たな。)
俺は思わず感心しながら、授業を進めていく。
けれどそう思ったのも束の間、ふとクロエに視線を向けると、俺の方を見てボーっとしていた。
(………結局コイツも同じか。はあ、俺の感心した気持ちを返せ。)
そう思って少しだけイラついた俺は、呆けているクロエに問題を出した。
「それでは、ここの答えはなんでしょうか?私の話をちゃんと聞いていれば、解るはずですよ?」
聞いていなかったコイツには、どうせ答えられないだろうとたかを括っていたが、急に問題を出されて慌てるでもなく、クロエはあっさりと答えを口にする。
「水魔法です。」
俺の予想していたのとは違うクロエの反応に俺は少しだけ驚くが、すぐにいつもの笑顔を作る。
「正解です。ふふふ、クロエお嬢様は私の授業をちゃんと聞いてくれてるみたいですね。」
(……何だよ、普通に話聞いてたのか。)
意地悪したつもりだったが、クロエには効かなかった事に少しだけ悔しいと思ったが、話をちゃんと聞いていたという事に嬉しさも覚える。その後も普通に授業を進めていくが、クロエは一度もボーとしたりする事なく真面目に授業を受け続けた。
クロエの家庭教師を始めて、数週間が経った。
俺の予想に反して、クロエはずっと真面目に授業を受け続けている。
というか、俺に必要以上に近寄ってこない。
………こんな生徒は初めてだ。
今日も授業が終わるまで、クロエから俺に話しかけてくる気配はなかった。
しかし、授業が終わり後片付けを終えて帰りの支度をしていると、クロエが俺に話しかけてきた。
「ジュード先生。」
クロエがこのタイミングで話しかけてくるのは初めてだった。
(………やっぱりコイツも他の生徒と同じか。)
だいたいの生徒が授業終わりに話しかけてくる内容は、俺へのプライベートな質問かお茶でもしませんかというお誘いだ。
ここまで真面目に授業を受けてきたクロエも結局は同じなのかと、俺は何故か少しだけ残念に思いながらクロエに笑顔で振り向く。
「はい。なんでしょうか?」
「少しお時間よろしいですか?」
………プライベートな質問確定だ。「少しお時間よろしいですか?」なんて聞いてくる場合は経験上、100%俺自身の事を聞いてくるパターンだ。
(………はあ。)
俺は内心デカイため息を吐きつつ、「もちろん、大丈夫ですよ。」と笑顔で答える。
けれど、クロエの口から出たのは俺の予想外の言葉だった。
「ここの問題だけまだ習っていないと思うんですけど、簡単にでもいいので教えて頂いてもよろしいですか?」
授業中に渡した問題用紙を、俺に見せながら聞いてくるクロエに思わず驚いてしまう。
確かに、彼女が聞いてきている部分は授業内では時間がなくて教えられなかった場所だ。けれど、それに気づいて質問をしてくる奴なんて初めてだ。
彼女の顔を見ても裏がある様には見えず、純粋に質問してきていることがわかった。
(本当に、コイツは……俺の予想外な事をしてくれる。)
なんとなく面白くなくて俺は質問に答えつつ、わざとクロエとの距離を詰める。肩が触れそうな程近づいても、クロエは俺の真剣に聞いていて気づいていない。
問題の解き方を教え終えると、お礼を言おうと思ったのかクロエがパッと俺の方へ向いたが、一瞬驚いた表情になるのがわかった。
ようやく俺との距離が近い事に気づいたらしい。
(……さあ、どうでる?)
だいたいの生徒は、俺が顔を近づけると顔を赤らめて照れるのだが………。クロエは一切そんな素振りも見せず、俺から一歩離れると改めてお礼を言ってきた。
またしても予想外の反応に、今度は俺が驚く。
思わず、「本当にキミは……」と口を開いてしまい、その後に続くはずだった「面白い奴だな。」という言葉をなんとか飲み込んで、別の言葉をクロエにかける。
「ふふふ、とても真面目ですね。」
俺のその言葉にクロエは首を傾げながら、お礼を言ってきた。そんなクロエの反応が可笑しくて、俺は心の中で笑ってしまった。
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