本性
午後から予定されていたジュードの授業は、時間通り始まった。……始まってしまった。
(………気まずい。というか、怖い‼︎)
何故か。
かれこれ授業が始まってから、30分。ジュードがいつもの優しい笑顔を浮かべ、何も言わずにずっと私を見ているからだ。
途中で私は居た堪れなくなって、ジュードから机に視線を落とす。
(……ああ、無言の圧力を感じる。コレはアレですか?私から午前中の事に触れろって事ですか?……いや、絶対言わない。だって今の私は何も知らないていでいるのだから。)
私もジュードも無言のまま、さらに10分程経過する。先に痺れを切らしたのは、ジュードだった。
「………はぁ。」
大きめのため息を吐いたジュードへ視線を戻すと、彼は笑顔から眉間に皺を寄せた不機嫌な表情へと変わっていた。
「……お前、午前中に街で俺に会ったよな?」
喋り方も敬語からタメ口へと変わり、一人称も私から俺に変わっている。
完全にジュードの裏モードである。
そんな彼からの質問に、私は視線を逸らしながら答える。
「……な、なんのことでしょうか?」
「しらばっくれるなよ。お前、あのアクセサリーショップの前にいたよな?それで、俺と目が合って逃げたろ。」
「ヒトチガイデハ、ナイデショウカ……」
「……片言になってるぞ。」
それから暫くジュードと私の間で、あの時会ったのは絶対お前、いや人違いです、という押し問答が続いた。
「……はぁ、まあいい。それで?あの時の俺の事、誰かに話したのか?」
これは彼の中で完全にアクセサリーショップ前で会ったのは私、ということで話が進んでいる。……いや、間違ってはいないのだけど。
(知らぬ存ぜぬ作戦失敗か……。まぁ、最初から誤魔化せる気はしていなかったけど……。)
そんな事を思いながら遠い目をしていると、ジュードが不意に近づいて来た。
「おい、聞いているのか?」
ヤバイ、ジュードからの質問に答えるの忘れてた。……ああ、それ以上近づかないで欲しい。怖いから。
「えっと……。」
「だから、あの時の事誰かに話したのかって聞いているんだ。」
「………いえ、誰にも言っていません。」
私の答えに、ジュードは疑いの眼差しを向けてくる。そして少し何かを考えた後、またため息を吐いた。
「……はぁ。確かに、ここに来た時のメイドの対応もいつもと変わらなかったしな。……お前のその言葉、信じる。」
そう言って、少し離れたジュードに私はホッと一安心する。
一方ジュードは信じるとは言ったものの、まだ何かに疑問を持っているのか微妙な顔をしている。そして、私の方へ向き直り口を開く。
「……というか、何で言いふらさないの?お前。」
「え?」
「お前くらいの年頃の奴らはこう言う、誰かの秘密とか言いふらすの好きだろ?」
……うーん、そうなのだろうか?まあ、確かにこの世界の貴族の令嬢達は噂話とか好きみたいだけど……。全員がそうとは限らないしな……。
その質問に、思わず真面目に考えてしまう。
黙って考えている私に、ジュードはまた近づいてきて私の顔を覗き込む。先程よりもさらに近い位置にジュードの顔があって、私は思わず息を呑んだ。
「……ああ、もしかして。俺の事が好きだから、俺が不利になる情報は黙っておいてくれるとか?」
「……は?」
冗談だか本気だか知らないが、ニヤリと笑いながらそう言うジュードに、思わず本当に冷めた声が出てしまった私は慌てて口元を抑える。
私の反応にジュードは一瞬驚いた顔をするが、すぐに声を上げて笑い出した。
「あっはははは!そんな反応されたの初めてだ!……本当にお前は俺の予想外の事をしてくれる。」
笑い出したジュードに今度は私が驚くが、とりあえず、ジュードが怒っていない事に安心する。
しばらく、ジュードは笑っていたが気を取り直して私に聞いてきた。
「……それで?何で言わないんだ?」
「…………まあ、強いて言うなら、ジュード先生の授業をもう少し受けてみたいからですかね。」
正直なところ、理由はそれしかない。
本当はお母様に、ジュードが私の授業前に女の人を引っ掛けて遊んでいた事実を言う事もできた。そうすればたぶん、私の事が大事なお母様は即ジュードを私の家庭教師から外しただろう。そうしたら、ジュードとの関わりは、私が学園に入学するまで無くなるのだから。
けれど言わなかったのは、ジュードの授業を受けられなくなる事を少し残念だと思ったから。
(いや、だってあんなに分かりやすくて面白い授業する人なかなかいないし、ジュードの後にくる人の授業がつまらなかったら嫌だし。)
つまり私は、自分のためにジュードの事は言わなかっただけ。
答えたのに何も反応しないジュードを不思議に思い彼の方を見ると、ジュードは目を丸くして驚いていた。
「……俺の授業を受けたいから?」
「そうですよ?あんなに分かりやすい授業あまりないので。それ以外の理由はありません。」
独り言のように呟かれたその言葉に、私は変な誤解をされないようにはっきり答える。
ジュードは俯いて手のひらで口元を隠して、しばらく黙っていたが不意にパッと顔を上げ私に笑いかけた。
「……本当にお前は、真面目だな。」
その笑顔からは全く黒さを感じなかった。けれど、取り繕っていた時の笑顔とも違う。……本当の、素の笑顔みたいな感じだ。
そんな笑顔もできるのかと内心驚いていると、ジュードは「よし。」と一言呟くと黒板の方へと向かう。
「それじゃあ、今日の授業始めるぞ。」
あまりにあっさりと授業を始めようとするジュードに、驚いて一瞬ポカンとしてしまうが慌てて立ち上がり、ジュードに話しかける。
「…………ちょ、ちょっと!なんでこのタイミングで始めようと思ったんですか⁉︎しかも、いつもの優しい感じじゃなくて、今のその感じでやるんですか⁉︎」
「何だ?あっちの俺の方が好みか?」
「いえ、好みとかではないです。」
「ならこっちの俺でもいいだろ?お前にはこの性格知られてるんだし、取り繕うの面倒くさい。」
「えぇ……」
ジュード言葉に、私は力無く椅子に体を預けた。そんな私の事を気にも止めずに、ジュードは黒板にサラサラと今日の授業内容を書いていく。そしてジュードは黒板のから目を離さずに、急に私へと話しかけてくる。
「そういえば俺がこの性格隠さずに話し始めた時、お前一切驚かなかったな。……何で?普通驚くだろ?」
その問いかけに、私はビックと肩を震わす。
言えるわけがない。ゲーム情報で最初から知ってました。なんて、絶対に言えない。
………今からでも驚いておいた方がいいかな。
「わー、先生がそんな性格だったなんて、びっくりだな!」
「遅いし、棒読み過ぎるだろ。」
(ですよね!そうなりますよね!)
私のめちゃくちゃ下手な演技に、ジュードは笑いを堪えながらツッコミを入れる。
私はどうにかいい言い訳がないか、頭をフル回転させる。
「……まあ、人には二面性があったりなかったりするじゃないですか、だからジュード先生に裏の性格があっても驚かなかったっていうか……なんて言うか……。」
うまい言い訳がでてこず、なんか自分でもよくわからない事を口走っている気がする。
そんな私にジュードはまた笑いだす。
「まあ、どんな理由だろうがどうでもいいか。つまり、お前の前では取り繕う必要なしって事なんだから。」
そう言って、ジュードは私の方へと振り向くとニヤリと悪い顔をして笑う。
「改めて、よろしく。クロエ。」
「……よろしく、お願いします。」
そんなジュードに私は苦虫を噛み潰したような顔で言葉を返すのだった。
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