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チャンス

その日から私は、たまにリオンの部屋で一緒に朝食を食べるようになった。

最初は緊張しているみたいだったリオンだが、回数を重ねると慣れてきたのか、少しづつ口数も増えた。


「今日は、よく眠れた?」

「……ちょっとだけ嫌な夢を見た気がします。あ、でも本当にちょっとだけなので、大丈夫です。」

「そっか。でも無理はダメだよ?もし1人で不安だったら、いつでも私の部屋においで。」


あの日以来リオンは、悪夢を見る事が少なくなったらしい。けれど、完全には見なくなったわけではないので、たまに私の部屋へと枕を抱えやってくる。


「そ、それじゃあ今日は一緒に寝てくれますか?」


少し遠慮がちにそう尋ねてくるリオンが可愛くて、思わずその小さい頭を撫でる。


「もちろん。それでリオンが嫌な夢を見ないなら、いくらでも一緒に寝てあげる。」


そう言えば、リオンは嬉しそうに微笑む。


「ありがとう、ございます。」


その顔を見て、リオンが自分に心を開き始めてくれた事を改めて実感する。

けれど、私だけではダメだ。お父様やお母様、レイス、それにこのアストレア家で働いている人たちとも打ち解けてほしい。

本当にみんな良い人たちなのだ。引きこもってしまっているリオンを、みんな毎日気にかけている。その優しさをリオンにして欲しい。


「……ねぇ、リオン。」

「なん、ですか?」


私の真面目な声に、リオンは少し不安そうに応える。


「私はリオンじゃないから、リオンが経験してきた辛い事を、想像する事しかできない。」


私の言葉を聞き、リオンは俯きつつギュッと拳を握る。


「……きっと私が想像しているよりも辛くて苦しかったと思う。だからね、リオンがそう簡単に他人を、特に大人を信用できないのは仕方がないと思うの。」


俯くリオンの頬に優しく手を伸ばす。リオンは恐る恐る、顔を上げ私を見つめる。


「だけどね、ほんの少しだけでいい。私達にチャンスをくれない?」

「……チャンス?」

「そう。少しでもいいから、お父様やお母様、レイスと一緒に過ごしてみてほしいの。

ちょっとでも信用できないと思ったら、こんな提案をした私を「嘘つき」と恨んでくれてもいい。」

「そ、れは……」


私の言葉に困惑するリオン。

けれど、ここで引いてはダメな気がした。

私はリオンの少し震える両手を握りしめ、優しく言葉を紡ぐ。


「リオン。もちろん無理にとは言わない。けどここの、アストレア家の人達はみんな優しくて良い人よ。誰もあなたを傷つけようとなんてしない。私が保証する。」

「……………。」

「……やっぱり怖い?」


黙ってまた俯いてしまったリオン。

暫く私達の間に沈黙が続く。


(まだ、早かったか……。)


しょうがないと諦め、楽しい話題にでも切り替えようと口を開きかけた時、私より先にリオンが口を開いた。


「ぼ、ぼく、クロエ様を信じます。」


そう小さく、けれどハッキリとリオンはそう言った。ゆっくりと私の方へと向けたその瞳は、どこか決意をひめたようだった。


「あ、明日!ち、朝食をみなさんと、食べてみます……!」

「ありがとう、リオン。」


リオンが勇気を出してそう言ってくれた事が嬉しくて、思わず彼を抱きしめる。

リオンは少し照れたように笑い、私を抱きしめ返した。

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