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トラウマ

リオンがアストレア家に来て、2週間ほどがたった。


どうにかしてリオンの心の傷を癒やし、家族として仲良くなりたいのだが、当の本人が自室から出てくる事がないため、こちらからは何もできないでいた。


このままだとゲーム通りのリオンになってしまうと、焦り始めたある日の夜。


時間は夜の0時。

前世の私なら余裕で起きているのだが、6歳児の体では起きているのが辛い時間だ。

いつもなら既に寝ているが、今日はどうしても目が冴えて眠れないでいた。


外の空気でも吸おうと、窓を開けるとソヨソヨと心地の良い風が頬を撫でる。空には満天の星。思わずボーっと眺めていると、隣のリオンの部屋から微かに泣き声が聞こえてきた。


何かあったではと思い、慌てて自分の部屋を出る。足速にリオンの部屋の前まで行き、なるべく驚かせないように軽く扉をノックし、優しく声をかける。


「リオン?大丈夫?」


返事はない。

もう一度ノックして声をかけるが、やはり返事はない。


(どうしよう、このまま放っておけないし。……ドアとか開いてたりしない?……そんな都合が良いわけないよね?)


ほんの試しにドアノブに手をかけて引いてみる。

なんと簡単に扉が開いた。


(鍵閉まってないんかい!いや、おかげで助かったけども!)


思わず心の中でツッコむが気を取り直して、そーっと扉を開く。


「リオン、入るよ?」


中にいるであろうリオンに声をかけて、部屋へと入る。扉を静かに閉めて部屋を見渡すと、ベッドの上にシーツに包まりながら震えているリオンを見つけた。


「リオン、大丈ーー」


驚かせないようゆっくり近づき声をかけた瞬間、リオンは後退り私から距離を取ると、うわ言のように謝罪を繰り返す。その瞳は虚だ。


「ひっ……!ご、ごめんな、さい……ごめん、なさい……!おね、がい……殴らない、で……痛いの、はイヤだ……ごめ、なさい……もう、泣いたり、しない、から……ごめんな、さい……」


多分過去の出来事がフラッシュバックして、パニックになっているのだろう。リオンは小さな自分の体を抱きしめ震え続ける。

その姿が痛々しくて、思わず駆け寄りリオンを抱きしめる。


「大丈夫。大丈夫だよ、リオン。ここにはあなたを傷つける人は誰もいない。それに謝る事なんて何もない。大丈夫、大丈夫。」


優しく、落ち着かせるように抱きしめながら背中を撫でる。

抱きしめられた瞬間のリオンは体を硬らせていたが、徐々に力が抜けていく。


「辛かったね。よく耐えたね。リオンは強いね。だけどね、ここでは泣いていいんだよ。誰も怒ったりしないから。」


そう言葉をかけ続けると、リオンの瞳にゆっくり光が灯る。そして私に縋りつき、声を上げて泣き始めた。

今まで堪え続けたものを全て吐き出すように。


どのくらい時間が経っただろう。

ようやくリオンが落ち着いて、私からそっと離れる。泣きすぎたせいか目が赤い。


「落ち着いた?」


そう尋ねれば、コクリと頷くリオン。


「そっか。……目が少し赤くなっちゃったね。何か冷やすものでも貰ってくるよ。」


そう言いながら、リオンのベッドから降りようとすると、服の裾を軽い力で引っ張られる。

振り向けばリオンが慌てた様子で、私の服から手を離した。


「ご、ごめんなさい……!」

「謝ることじゃないよ。……冷やす物は後にして、少し私とお話ししようか。」


私はリオンへと向き、ベッドへ座り直す。

リオンは少し恥ずかしそうに、私から顔を背けた。

そんなリオンを改めてよく見る。相変わらず細く、小さい体。顔は2週間前より少しやつれている気がした。


「……ここ数日、あまりよく眠れてない?」


私の問いかけに、リオンは目を少し泳がせ口を開いたり閉じたりを繰り返す。


「話したくないなら、無理に話さなくていいんだよ?」


リオンの手を握り安心させるようにそう言えば、リオンはフルフルと首を横に振りポツポツと消え入りそうな声で喋り始める。


「………怖い、夢を見るんです。前の、お家での……その……痛いこと、とか、……嫌なこと、とか……。」


勇気を出して話し始めたリオンの声に、私は黙って耳を傾ける。

彼の口から語られる今までの出来事。聞いているだけで、苦しくなる。

思い出すだけで辛いのだろう、リオンの目にはまた涙が溜まっていく。


「ぼ、くは……呪われて、る、から…生きてちゃ、いけなく、て……だから……」

「そんな事ない。」


「生きていちゃいけない」、その言葉に思わず口を開いてしまう。

私がそんな事を言うと思っていなかったのか、驚いた表情でリオンは私の顔を見る。

リオンの今にも溢れそうな涙を、私は服の袖で拭いながら優しく言葉をかける。


「リオンは呪われてなんかいないし、生きてちゃいけないなんて事はないんだよ。」

「でも、ぼくの髪は真っ白で、みんなと違くて……それに目も右と左で色が違う……みんな全部呪いだって……」

「確かに、リオンの髪も瞳も珍しいけど呪いじゃないよ。」

「……どうしてわかるの?」


(どうしても何も、ゲームの設定だから。)


と言えるわけもなく、一瞬考えて当たり障りのない嘘をつく。


「えーと、そ、そう!前に本で読んだの!ものすごくたまに、リオンみたく髪の色が白かったり、瞳の色が違ったりする子が生まれるんだって。でもそれは呪いじゃないんだって。」

「本当?」

「うん、珍しいだけ。つまり、リオンは特別なのかもしれないね?」


そう言いながらリオンの頭を優しく撫でる。

撫でられ慣れていないのだろうか、最初は困惑していたリオンだが、しばらくすると嬉しそうな表情になる。


(何だこの可愛い生き物!全力で守りたい!)


その可愛らしい表情に、私は思わず心の中で悶えた。

読んでいただいき、ありがとうございました。

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