王子様の誕生日会
アルバート王子からの招待状が届いて1か月。
ついにパーティー当日。
クラリス様、もといお母様に選んでもらったドレスに身を包み、いざ王宮へと向かう。
馬車を降りて思わず息を飲む。
王宮は予想していた何倍も豪華で大きくて、さらにパーティーの参加者である沢山の人。
思わず小声でレイスに助けを求めてしまう。
「えー……、なんて言うかもう王宮が予想より凄すぎて、人が沢山で緊張がやばいのだが?どうしよう、レイス。」
「語彙力下がってる。俺がついてるんだから、大丈夫だろ?」
苦笑いしながらそういうとレイスは私の手を優しく握りしめる。その言葉と、レイスの手の温かさで少し緊張が解れる気がした。
覚悟を決め、私はレイスにエスコートされパーティー会場である王宮の大広間へと足を踏み入れた。
王様と王妃様、そして本日の主役であるアルバートへの挨拶もすみ、私とレイスは両親に一言告げ、人が集まるところから少し移動し隅の方で休むことにした。
「どう?初めてのパーティーは」
「緊張はしてるけど今のところなんとかなってる感じ、かな。……視線は痛いけど」
そう、視線。この場で元庶民という私は異質だ。そして、その元庶民が突然公爵家の一員となったわけで、この場にいる大半の人よりも立場が上になったのだ。そのためいろいろな意味が込められた目で見られるのが、なんというか疲れる。
興味、嫉妬、蔑みその他色々。大体が悪い意味の視線だ。さすがプライド高い人たちの集まりである。
(まあ、予想はしていたから辛くはないけど。)
それにありがたいことに、親しくない限り自分より上の立場の人には自ら話しかけるのはあまりよろしくないという、この世界の貴族のマナーがあるらしく視線は向けられるが、話しかけられることはない。
なぜなら、王族の次に位が高いのは公爵。
いくら元庶民でも今の私は公爵令嬢である。
自分から話かけなければ、大半の誰とも話さなくていいのだ。
両親と挨拶はして回ったし、この後はレイスとダンスを踊るまで人のいない壁際で静かにしていようと思う。
「レイスは私に構わず話したい人がいれば行ってきて大丈夫だよ?」
「話したい相手とかいないし、変に話しかけると人が集まってくる。主に令嬢たちが。面倒だからいい。」
ため息混じりに答えるレイスに思わず苦笑いが溢れる。レイスがため息をつくのもしょうがない。
このような場では公爵家や、自分の家柄よりいい家柄の人間と人脈を作ろうとする人達も多い。それに令嬢達は将来のためにいい家柄の子息とお近づきになりたいのだろう。イケメンで公爵家の跡継ぎであるレイスは超優良物件。令嬢達に放っておかれるはずがない。
(この歳からそんなこと考えるって貴族の令嬢って大変だな)
なんて、他人事のように思いながら周りを見渡してみれば、レイスをチラチラと見ている令嬢が何人か。
(やっぱりモテるな、レイス)
そう思うと心が少しモヤっとした。……なんだろうか、この感じは。
不思議に思っていると、突然柔らかい優しそうな声がかけられる。私ではなく隣にいたレイスに。
「話したい相手がいないっていうのは俺も含めて?」
レイスと2人で声のする方に顔を向けるとそこには、マジスクメイン攻略キャラ、アルバート・ガルディアが微笑みながら立っていた。
突然のアルバートに心臓が飛び出るかと思った。
キラキラの王子様スマイルがとても眩しい。背景に薔薇が咲いている錯覚さえ覚えるくらいにはイケメンだ。イケメンは幼少期からイケメンらしい。
(今日はゲームのストーリー上主要なキャラであるアルバートにはなるべく関わらないようにしようと思っていたのだけど、まさか向こうから来るとは予想外。けど話しかけられたのはレイスだし、私はこのまま静かに2人の会話を聞いていよう。)
私はアルバートに一礼をしてそのまま黙っていることにした。第一私から話しかけちゃいけないしね。
「……アルバート殿下。いえ、殿下とはお話したいと思っていましたよ。お誕生日おめでとうございます。」
話しかけられたレイスはそんな言葉を言いつつ、顔は明らか面倒くさそうだ。
いや、王族相手にその顔はダメじゃない?とは思いつつもその言葉は飲み込む。
しかし、そんなレイスの様子を気にも止めずにアルバートは話しを続ける。
「そんな他人行儀みたいな話し方はやめてくれ。いつも通りで構わないよ。」
「公の場ではちゃんとさせて頂きますよ。そういう約束でしょう。」
「音楽も流れてるし、このくらいの声で話していれば周りには聞こえない。だから、ね?」
「……はあ、わかったよ。で?今日の主役がこんな隅の方に来てどうしたんだ?」
アルバートのお願いをため息混じりで聞き入れたレイスの口調が一気に砕けた感じになり、聞こえてくる2人の会話から仲の良さが伺える。
ゲーム内ではそんなに仲良くなかった2人が親しげに話しているのだから、ゲームをしていた身からするとなんとも見慣れない光景だ。
「そんなのレイスと話したいからに決まってるだろ。最近俺の誘い全部断るじゃないか。」
「アルバートよりも優先する事があるからな。諦めてくれ。」
「その優先する事がそこにいる妹さんのことかな?」
そう言うとアルバートの視線は唐突に私へと向けられる。
口を開いていいものかとレイスに視線を向けると、軽く頷かれたのでドレスの裾を持ち頭を下げつつ挨拶をする。
「クロエ・アストレアと申します。殿下、本日はお誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう。君の事はいつもレイスからの手紙で書かれていて、とても気になっていたんだ。『可愛い妹ができたから、お前にかまっていられない』ってね。」
アルバートの口から出た手紙の内容に思わず、
「いや、何て恥ずかしくて失礼な手紙を事もあろうにこの国の王子であるアルバートに出してんのよ!」という意味を込めた目でレイスを見る。
しかしレイスは私のそんな抗議の視線に、「正直に言っただけですが、何か?」みたいな涼しい顔で返してくる。
これは何を言っても無駄だと瞬時に理解して、小さくため息をつきながら私達の様子を微笑ましそうに見ていたアルバートに向き直り、とりあえず謝罪をすることにした。
「申し訳ありません殿下。レイス、いえ、義兄が大変失礼な手紙を……」
「ああ、気にしないで。普段からレイスはこんな感じだし、気兼ねなく接してくれて俺も嬉しいから。」
そう言って微笑んだアルバートの何とイケメンなこと。流石メイン攻略対象である。何人ものプレイヤーが彼の沼にハマった気持ちが少しわかった気がした。
現に遠巻きにこちらを見ていた令嬢が今の微笑みを見てキャーキャー言っている。……よく見えたな、そんな遠くから。
正直、アルバートが私達の元にきて先程よりも周囲からの視線が痛い。
いや、まあ、王太子であるアルバートと公爵家子息のレイスがいれば嫌でも注目されるのは当たり前なんだけど。
周りからの、特に令嬢達からの『お前場違いだよ』感がすごい視線から伝わってくる。
うん、それは私も思ってる。
とりあえずこの2人から距離を取ろう。
「レイス、殿下、申し訳ありません。少し喉が渇いてしまいました。飲み物を取りに行ってもよろしいですか?」
突然離れるのも失礼だと思い、とりあえず適当に言い訳して 2人から少しでもいいから離れようとするが、私の思惑を知ってか知らずかレイスに止められる。
「それなら俺が取ってくる。クロエはここにいて。」
「え、いや、自分でーー」
そう言うが早いかレイスは少し離れたところにいる給仕の元へと行ってしまった。
残された私とアルバートとの間に微妙な空気が漂い、お互いに黙り込んでしまう。
(これは何か話したほうがいいのかな……)
話すといっても特に話題なんてないし、私としてはマジスクの主要キャラである彼とはあまりお近づきになる気はないので、レイスには早く戻ってきてもらいたい。が、いろんな人に声をかけられているのが見えるので、暫くは戻ってこれないだろう。
そんな事を考えながらレイスが向かった方をぼーっと眺めていると不意にアルバートが独り言のように呟く。
「君は他の人みたく俺に近づいてこないんだね。」
「え?」
「あ、いや、何か今の言い方だと自惚れてるみたいだな……。その、だいたいの人が俺にいろんな思惑を持って近づいてくるから、君みたいに俺に全く興味がないのは珍しいなと思って。」
確かに、今の状況は大半の人間がチャンスだと思って自分をアルバートに売り込んだりするはずだ。そんな中、私が何もしないのが彼にとっては不思議に見えるのだろう。
そして、彼は少し冗談っぽく私に尋ねる。
「君は俺の婚約者の座とか興味ない?」
「あ、無いです。」
思わず本音で即答してしまう。
(……ヤバイ)
今の発言は王太子に対して失礼だと思い慌てて口元を抑え、恐る恐るアルバートの方をみる。彼は驚いたような表情を浮かべた後、声を上げて笑い始める。
「あははは!君は、クロエは素直だね。それに変わってる。」
「申し訳ありません、殿下。今のは、その、口が滑りました。」
「ふふふ、大丈夫。驚いたけど、怒ってはいないよ。」
アルバートが優しくて助かった。思わず口走ってしまった本音に、申し訳なさと恥ずかしさで熱くなる顔を手で仰ぐ。
そんな顔が真っ赤になっているであろう私にアルバートは興味津々で質問する。
「なんで興味がないとか聞いてもいい?」
「……どんな答えでも怒りませんか?」
「もちろん、約束するよ。」
「元々あまり権力とかそう言う物には興味ないんです。正直、公爵家の養子になったのも私がなりたくてなったわけではないですし……。平凡に生きれれば私はそれで十分でした。それに……」
「それに?」
少し言い淀む私にアルバートは続きを促す。
(怒らないと言われたし、変に誤魔化すこともない。ここは思っていることを言ってしまおう。)
そう決意したけれど、ちょっと気まずくて視線をアルバートから外し口を開く。
「あー……。殿下を前にとても失礼だと思うんですけど、面倒くさそうじゃないですか。王族に名を連ねるって。特に殿下の婚約者なんて大変そうですし、王妃教育とか。
国を背負う殿下の支えにならないといけないんですから当たり前ですけど。」
「……確かにね」
王族になれればいい事も沢山あるかもしれない、けどそれ以上に大変な事もあるはずだ。前世の私は、ゲームの中でアルバートと結ばれた主人公はこれから大変なんだろうな、なんていつも思っていた。
そんな私の言葉にアルバートは苦笑いを浮かべながら軽く頷く。
そんな彼の顔を見て思わず「け、けど」、と慌てて口を開く。
「面倒だと思うからこそ私は殿下のこと尊敬してます。
生まれた時から次の国王として期待をされ、色んな事を学んで、努力して、物凄いプレッシャーなんかもあって、私が考えているよりもとても大変なものだと思います。だから、その、殿下は凄いです。」
マジスクでアルバートは特に推しと言う事はなかったが、好印象のキャラではあった。
次期国王になるために幼い時から努力を重ね、けれどその辛さは誰にも見せずいつも笑顔で誰にでも優しくいられる彼を凄いなと思いながら、前世の私はゲームをプレイしていた。
(うわー……思わず本音言っちゃったけど、何最後の「凄いです」って語彙力なさすぎか!)
自分の発言がじわじと恥ずかしくなっていき、アルバートの顔をまともに見れず床へと視線を落とす。そのせいで彼が今どんな顔をしているのかわからない。
「……そっか、凄い、か。ふふ、そんな事言われたのは初めてだな」
暫く黙っていたアルバートは独り言のように呟く。その声はどこか嬉しそうで、私はアルバートが怒っていない事に安堵した。
「………実はね君に少し嫉妬してたんだ。王子である俺と唯一対等でいてくれるレイスという友人を、後から来た君という妹って存在に、取られたような気がして。」
間を置いて、アルバートが突然そんな事を言い出す。
嫉妬と言葉に一瞬「え、アルバートってもしかしてレイスの事が……?」なんて在らぬ妄想をしてしまうが、明らかに今のニュアンスは違う気がして頭から慌ててかき消す。
そんなくだらない事をしている私をよそに、アルバートは言葉を続ける。
「けど、今日直接話してみて君とも仲良くなりたいなと思った。想像してたよりもずっと素直でとってもいい子だったし。」
「えっと……ありがとう、ございます?」
よくわからないがとりあえず、褒められたのでお礼は言っておく。が、なんだろう嫌な予感がする。私にとって、とても嫌な予感。
「ねえ、クロエ。俺と友達になってくれない?」
(……どうしてこうなった!)
アルバートの言葉に私は心の中で頭を抱える。
アルバートが嫌いなわけではない、彼が普通のモブだったなら友達になる事に躊躇しなかっただろう。けど彼は、アルバートはこのマジスクの世界のメインキャラだ。友達になんかになったらストーリーに関わる可能性が一気に上がる。それだけは避けたかったのだが……。
(なるべく主要なキャラとは仲良くなりたくないと思ってたのに……。いつだ?いつアルバートの好感度が上がった?)
思い返してみても自分では何がアルバートの興味を引いたのか全くわからない。
「今俺には気兼ねなく本音を話せる友達ってレイスだけなんだ。だからクロエもそんな友達になってくれたら嬉しいと思ったんだけど……嫌かな?」
黙り込んだ私にアルバートは少し寂しそうな顔で問いかける。その頭には垂れた犬耳が見えるような気がする。
(ぐぅっ!そんな顔をされたら断れない……!)
きっと、アルバートは私が断っても許してくれるだろう。けど、この表情の彼の申し出を断るのは私の良心が痛む。それに友達になりたくない理由がゲームのストーリーに関わるのが面倒くさいとか、何も知らない彼に失礼すぎる。
(……ここは受け入れよう)
きっとストーリーには関わる事になってしまうけれど、今の私にはレイスもいるし逆にゲームの知識を使って色んな困難を回避する事だってできるかもしれない。
そう思い覚悟を決める。
「いえ、とても光栄です殿下。これから仲良くしてくださいね」
「本当?ふふ、嬉しいな。こちらこそよろしくクロエ。」
私の言葉にアルバートの表情が一気に明るくなり嬉しそうに微笑む。
(うん、やっぱり貴方は笑顔が1番カッコいい。)
若干現実逃避して遠い目をしながらそんな事を考えていると、アルバートがとんでもないことを言い出す。
「それじゃあこれからは俺の呼び方は『殿下』じゃなくて『アルバート』って呼んでほしいな」
「え?いやいや、それは失礼ですし……」
「そんなの気にしないでいいよ。レイスも普段は俺のこと呼び捨てだし、クロエも友達なんだから俺のこと『アルバート』って呼んで?」
あざとい。
イケメンが小首傾げるとかあざとい。
(いや、そんな事より流石に呼び捨ては無理!)
「いや、私はこのまま殿下と呼ばせてーー」
「アルバート」
「えっと、じゃあアルバート様ーー」
「アルバート」
「……アル、バート」
「うん。今度からそう呼んでね」
笑顔でめちゃくちゃ圧をかけられる。それに押し負けてアルバートの呼び捨てが決定してしまった。
(ホントにどうしてこうなった……)
思わず肩を落としている私をよそに、アルバートは満足そうな顔をして微笑んでいる。
(ていうか、アルバートってこんな押しの強いキャラだったっけ?)
困惑しているとようやくレイスが私達の元へと戻ってきた。
「お待たせ……」
「レイス、おかえり」
「ありがとう、レイス。っていうかお疲れ様、かな?」
グラスを手渡してくれたレイスの顔は明らかに不機嫌そうだ。
色んな人に話しかけられてうんざりしているのだろう。
そんなレイスを見てアルバートと私は思わず苦笑いを浮かべる。
「さて、レイスも戻ってきたし俺は他の人たちに挨拶にでも行ってくるよ。本当はもっと2人と話をしていたいけど、そうもいかないしね。」
「今日の主役だしな。……まあ、頑張れよ。」
「今のレイスにそう言われると、言葉の重みが違うな。」
アルバートは苦笑いを浮かべため息混じりに答える。
この壁際から人がいる方へ行けば正直彼がレイス以上に話しかけられる事は目に見えている。
ため息をつくのもしょうがない。
「今度3人でお茶でもしよう。クロエがいればレイスも誘い断らなそうだしね。それじゃあ、またね。」
そう言うとアルバートは私たちに背を向け、他のパーティーに参加している人たちのもとへと行ってしまった。
「それで?アルバートとはなに話してたんだ?」
「あー、えーと、簡潔に言うと、友達になりました。」
先程アルバートと話していた内容をかいつまんでレイスに話をする。
私の話にレイスはさらに不機嫌そうに顔を歪める。
「……ゲームの主要キャラとはなるべく関わらないようにするんじゃなかった?」
「うっ……。しょ、しょうがないじゃん。あんな捨てられた子犬みたいな顔されたら断れないって。」
「はあ、昔からそういうのに弱いよな、クロエって。」
レイスは呆れたようにため息をひとつ。
いや、呆れているというよりちょっと怒っている気がする。先程から言葉にちょっと棘があるのを感じる。
「……なんか怒ってる?」
「……クロエが他の男と仲良くなるのはいい気がしない。」
「え、なんで?」
「告白、忘れた?好きな子が自分以外の男と仲良くなるの見て、何も感じないほど冷めてはないよ、俺。」
真っ直ぐ見つめられて言われたその言葉に、あの日の事を思い出し顔が熱くなる。慌てて心を落ち着けようとレイスが持ってきてくれた飲み物をゴクゴクと喉に流し込む。
思わず礼儀作法なんか忘れ、一気に飲み干してしまった。
「ーーぷはぁ!」
「思い出した?」
「……忘れてません」
「それは良かった。」
赤くなった顔を隠すように手で顔を覆う。
そんな私の様子を見てレイスは楽しそう笑っていた。
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