招待状
公爵家で生活を始め半年程がすぎ、その間に私は6歳になった。誕生日に開かれたパーティーは豪華すぎて若干引いたのは内緒だ。
公爵家で働いている人達は皆いい人達ばかりで、庶民からいきなり公爵家の人間になった私に対しても優しく接してくれて、仲良くしてくれている。
公爵夫妻の人望なのだろう、皆な公爵家で働く事を誇りに思い一生懸命で、でもどこか楽しげで穏やかな雰囲気が公爵家の中にはいつもある。
公爵家での生活は今までとは全てが違い、最初の頃は本当に大変だった。
まず、何をするにもメイドさんが手伝ってくれるのだ。着替えからお風呂に入る時までそれはもういろいろと。
自分1人でやろうものなら、慌てた様子で飛んでくるので逆に申し訳なくなってしまう。
今では手伝ってもらうのにも慣れたけど。
勉強も孤児院で習っていたものより、レベルが高い。レベルが高いと言っても、前世でいうところの小学校高学年くらいなのだが。
普通の6歳児からしたら難しい内容だろう。
(中身が17歳の私には簡単すぎるけど……)
読み書きや算術みたいな前世の知識があるものは余裕だが、この国の歴史の勉強、天文学などいろんな学問があり、前世の記憶ではわからない事もあった。
しかし、今まで散々いろいろな本を読んできたおかげか大体のことはすでに頭に入っていた為、なんとかなっている。
そして淑女の嗜みとして刺繍なんかも習っている。案外楽しくて読書以外の趣味ができそうだ。
問題は貴族としての礼儀作法や社交ダンスその他諸々、今までも前世でも習ってこなかった事を覚えるのは大変だ。
特に社交ダンス。今はだいぶ上達したが、ステップ覚えるのは本当に大変だった。
それに何より、社交ダンスを習うという事は何かしらのパーティーで踊らなくちゃいけないということ。
(パーティーとか、できれば全部出席したくないんだけどな……)
貴族の仲間入りした以上避けては通れない事だとは分かっているが、やはり面倒くさいものは面倒くさい。
しかし、どうしても断れないパーティーが実は目前に控えていた。
1か月程前ーー
その日の習い事を終えて、自室でレイスと2人でティータイムを楽しんでいた時だった。
1人のメイドさんがレイス宛に手紙を持ってきた。
「レイス様、手紙が届いております。」
「ありがとう。下がっていいよ。」
レイスがそう言うと手紙を持ってきたメイドさんはお辞儀をして部屋から出て行った。
レイスに手紙が届く事は珍しい事ではない。
パーティーやお茶会などいろんな誘いが沢山くるのだ。しかし、レイスはどの誘いにも出席をしていない。私が公爵家に来る前はたまーに行っていたらしいけど。
曰く「こんなパーティーやらお茶会に行く時間があるなら、クロエと一緒にいたい。」との事。前世でも似たような事を言われた事があった気がするが、その時は何とも思わなかったけど、今は言われると意識してしまうのは告白をされたせいだ。
あの告白からレイスから特にアプローチらしい事はされていない。いつも通り、至っていつも通りに過ごしている。しかし、今まで何とも思っていなかったスキンシップやレイスの言葉に、たまにあの日の告白を思い出して意識してしまう事がある。
(意識はするけど、うーん……?ドキドキは……あまりしない。コレはどういう感情なんだろう。よくわからない。)
小説や漫画みたいに目があってキュン!とか不意に触れ合ってドキッ!みたいな感覚が現れてくれたら簡単なのに。
………恋ってどんな感じ?……わからん。
………話を戻そう。手渡された手紙の差出人を見て、レイスが眉を顰める。
「げっ」
「え、なに?誰から?」
「アルバート」
「アルバートって、あのアルバート⁉︎」
アルバート・ガルディア。この国の第一王子にしてレイスと並ぶマジスクのメイン攻略キャラだ。一言でいうなら王道の王子様!って感じ。金髪碧眼のイケメンで誰にでも優しく頭も良い、魔法に剣術どれも優等生。性格は温厚。めっちゃ簡単に好感度が上がるチョロいキャラ。レイスとはいろいろ真逆である。
ゲームの設定ではレイスとはあまり仲良くないというか、お互い必要以上に干渉しない仲だった。
しかし、この世界ではレイス自身がやらかしてアルバートとは友達らしい。
レイスが手紙の封を開け中の便箋に目を通す。
「なんて?」
「パーティーの招待状。アルバートの誕生日パーティーだから断れないやつ。」
「うわぁ、お疲れ。」
「何人事みたいに言ってんの?招待状にはクロエの名前もあるから。」
私には関係無いと思って揶揄うようにレイスを励ましたつもりだったが、予想外の言葉が返ってきた。
「なんで?私面識ないんだけど。」
「てか、親も呼ばれてるから完全に強制参加だなこれ。」
「あー……、一国の王子様の誕生日パーティーだもんね。そりゃ、総出だよね。」
そう考えれば私が招待されたのも納得だ。
ちなみに私にもお茶会などの招待状が何度か届いたことがある。アストレア公爵が庶民の子供を養子に取った、という話は既に社交会に広まっているらしく、興味本位で送ってきたものばかりだったがその時はマナーも何も分からないし面倒で全てお断りしていた。
しかし、まさかこんな早くにレイス以外のゲームの登場人物に会うことになるとは思わなかった。
全然気乗りしないが、しょうがない。
(なにせコレは国からの命令みたいなものなのだから。)
遠い目になりながらも、そう自分に言い聞かせて納得させる。
「てか、なんでレイスに直接?家族全員招待ならお父様に届くものじゃないの?」
「最近個人的なお茶会とか遊びに来いとかいう誘いを全部断ってたから、釘刺しのつもりじゃないか?」
「いや、王子様の誘い全部断ってた事実に驚きだわ!不敬罪とかに問われないの⁉︎」
頻繁に来ていた招待状がアルバートからの物もあったとは思ってもいなかった。
友達同士だからといって王族の誘い断り続けていていいのかと思ったけど、レイスは全然気にしていないようだ。
(この反応は、まあ大丈夫なんだろうな)
手紙を読み終えて、レイスは大きなため息をつきながらソファへと体を沈める。
「はあ、面倒くさい……」
「面倒くさいって、パーティーってどんな感じなの?」
「行けばわかるけど、とにかく俺ら公爵家とか王族に取り入ろうとする奴がガツガツくるから嫌になる。」
「あー、なるほどね。」
確かに、自分達より権力のある人間とはお近づきになりたいと思う人は多いだろう。
レイスやアルバートが囲まれるのは目に浮かぶ。中には自分を婚約者に、と言いよる令嬢も沢山いるのだろう。
(まあ、私には関係ないと思うけどね)
公爵家の人間といえど私は元庶民だ。
プライドの高い貴族の皆さんが、わざわざ私に話しかけてくる事はないだろう。最初軽く挨拶を済ませて終わりだ。その後はひっそりと壁の花にでもなっていよう。
ああ、そういえばパーティーってことは社交ダンスとかしなくちゃいけないのだろうか?
「ねえ、そのパーティーってダンスとかするの?」
「いつも通りならあるんじゃない。」
「私も踊らなきゃダメかな」
練習して踊れるようになったけど、できれば踊りたくはない。面倒くさい。
「無理に踊ることはないと思うけど、俺はクロエ以外を誘う気ないから俺の誘いは断らないで欲しい」
「あ〜……わかった。レイスとは踊るよ」
真っ直ぐ私を見つめながらそう答えるレイスに嫌とは言えず、了承してしまう。
どうやら私のダンスデビューはこのパーティーで決まりらしい。
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