前世の記憶
目の前に迫る大きなトラック。
誰かの悲鳴。
私の名前を叫ぶ幼馴染の声。
(あ、コレぶつかる。)
そう思った瞬間、今まで感じたことのない体への衝撃。
これまた感じたことのない強烈な一瞬の痛みの後、私の意識は途切れた……
意識が浮上する。
まだ重たい瞼を擦りながら辺りを見回す。
どうやら本を読みながら寝てしまったらしい。
だんだんとはっきりしていく頭でつい先ほどまで見ていた夢を思い返す。
いや、違う。
アレは夢ではなく私自身の記憶。黒木蓮という日本に住んでいたごく普通の高校生の17年間の記憶。
今日私クロエ・オルコットは前世の記憶を思い出した。
さて、色々思い出して頭は重いが今の状況を整理しよう。
まるで漫画や小説みたいな事が起こっているのに案外冷静な自分に内心苦笑しつつ、落ち着いてきた頭で1つ1つ思い出す。
あの日学校の帰り道、いつものように幼馴染と歩いていた。その時不幸にも事故に遭い、前世の私は17歳で生涯を終えた。
そして今の私、クロエ・オルコットとして生まれ変わったのだ。
私……クロエは現在5歳。
(たった今中身は17歳になってしまったけどね……)
住んでいる場所はガルディア王国・アストレア公爵領北部の小さな田舎街ポーラ。
父と母と私の3人家族。両親はとても優しく、裕福ではないがどこにでもある普通の家庭。
(よかった、クロエとしての記憶もちゃんと残ってる)
記憶がちゃんと残っていたことにホッと一安心する。
ふと、近くにあった鏡が目に入った。
椅子から降りその鏡へと近づき、自分の姿を写してみる。
どういう訳か、転生後の私の姿は前世の幼少期の姿そっくりだった。
日本人らしい黒髪に平凡な顔。
「そっくりというよりそのまま……」
前世と違うところといえば、瞳の色ぐらい。コレは今の母親譲り、綺麗な薄めの紫色。
(転生したら全く違う姿とかになるものだと思ったけど、コレはコレで落ち着くからまあ、いいか)
性格はおとなしい方だと思う。本を読むのが好きで、あまり外で遊んだりはしない。
前世の私と似ていて助かった。性格に差がないことはありがたい。
突然活発だった子がいきなりおとなしい性格になったら周りが心配するだろうし、最悪医者を呼ばれかねない。
そして転生したこの世界。
例えるなら中世ヨーロッパ風の世界。
この世界には魔法が存在する。
全ての人が使えるわけではなく、一部の貴族たちが使えるものらしいのだけど、この魔法の存在がただの転生ではなく、異世界転生なのだと物語っている。
転生するのはまだいい。
死後の世界なんてわからないのだから生まれ変わりがあってもまだ納得できる。
しかし異世界転生、しかも前世の記憶を思い出すパターン。
(コレはマズイ。)
異世界転生というと、だいたい何か不思議な力を得たりだとか、いろんな騒動に巻き込まれるイメージがある。
正直面倒くさい人生が待っているとしか思えない。
絶望感で思わず頭を抱える。
転生して新しい人生を送れるのなら、できれば私は『普通の生活』を送りたい。
「そのためにはとりあえずフラグっぽい事は徹底的に潰していかなきゃ……」
1人であれこれ考えていると、ダイニングの方から母の呼ぶ声が聞こえてきた。
「クロエ、夜ご飯ができたからこっちにいらっしゃい」
「はーい」
慌てて不信がられないように、いつものように返事を返す。
(あーもう!いろいろ考えても仕方がない。)
よし!、と迷いを振り払うように両手で軽く頬を叩く。
転生してしまったことは事実で変えようがない。
それなら第2の人生として、前世で長生きできなかった分この世界で生き抜いてやろう、そう私は決意した。
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