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魔王の置き土産  作者: まるくすタン
幸福を呼ぶフクロウ
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幸福を呼ぶフクロウ5

「誰だって愛されたいと思っているはず。私は父さんの愛を確かめただけ。あと、父さんを侮辱しないで。父さんは私を突き放してなんかいない。あの日、父さんは全身全霊をもって、私への愛を証明してくれたわ」


 ミアは父親が死んだ日までのできごとを、まるでノスタルジックに……望郷の炎に吹かれるかのごとく語り始めた。


「1週間程前に、『心の声を引き出す魔物』と運命的な出会いをしたの」


 ある月が照らす光の夜、心のしこりを忘れるために森を散歩していたミアは、見慣れないフクロウが木に停まっているのを見かけた。

 そのフクロウはミアと目があっても、手の届く範囲まで近づかれても、まったく逃げる気配がない。

『バカな鳥だわ』、思いがけずそんな言葉が出てしまう。声を出すつもりなんて、これっぽっちも無かったのに。

 直後、堰を切ったように、内に閉まっていた想いが言葉となって口から溢れ出て来た。もはやフクロウのことなど関係のない事柄。

 まるで抑えが効かず、顎の筋肉は悲鳴をあげ、喉が枯れるまでそれは続いた。

 その夜は何が起きたのか理解できず、恐怖はこみ上げ、そそくさと帰宅してしまう。

 だが次の夜も、その次の夜も、フクロウは同じ木に停まっていた。

 近づくといつも、言葉が湧き水のように体の中から溢れてくる。

 そしてミアは気づいた。このフクロウによって『心の声が引き出されている』と。

 ミアは思った。ある男の心の声を引き出したいと。


「父さんは私を愛している。分かりきっていることだけど、不安でしかたなかった」


 彼女の中で一度も、その疑念が晴れることはなかった。

 だからこそ確認したい。聞いてみたい。その欲求は日々積もり続けるばかり。


 ミアは泊まりがけで狩猟がしたいとロウを説得し、あのフクロウの木のところへ向かった。

 木にフクロウがいることを確認し、父親がその木の根元まで近づいたところで、ミアは積年の不安をぶつけた。


『父さん、……私のことを愛してる?』


 その言葉に振り返ったロウは、少し驚いた表情を見せ、ついに発した言葉は「ふざけるな」、だったそうだ。

 その言葉を皮切りに、ロウはありとあらゆる罵詈雑言をミアに浴びせた。お前なんかいなくなればいい、生きている価値がない、など、おおよそ父親が娘へ投げかける言葉ではなかった。

 ミアはその時はっきりと、自身の中で何かが崩れる音を聞いた。


「気づいた時には、背中に担いでいたはずの猟銃を構えていたの。自分でも自分が分からなくなっていたわ」


 しかし、次の瞬間彼女の目に飛び込んできた光景に、彼女の全ては奪われていた。

 ロウは自分の猟銃を自身の口の中に押し込み、……その引き金を引いたのだ。

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