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魔王の置き土産  作者: まるくすタン
幸福を呼ぶフクロウ
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幸福を呼ぶフクロウ3

 次の日の陽が昇り始めて間もない頃、ノームと一緒に事件現場へと赴いていた。

 未だに赤い飛沫の跡が、禍々しく残っている。

 それではさっそく始めますか、と背伸びをしてから感覚を研ぎ澄まそうとすると、後方から声をかけられた。


「あの、どちら様ですか?こんなところで何をしているのですか」


 声の主は成人したてくらいの端正な顔立ちの男だった。

 首から剣の付いたネックレスを下げ、肩には猟銃を背負っている。


「どうも、私たちはボッシュさんに、遺体の捜索を手伝ってくれないかと頼まれた者です。私がアリー、こちらがノームです」


「そうですか。私の名はクリスです。私もロウさんの遺体を捜索しています」


 彼は我々がただの旅人だと聞くと、関係ない人を巻き込むなんて失礼な人だ、と首を横に降ってため息をついている。

 一応この森で他に探すものもあるからついでだ、と説明すると彼はしぶしぶ納得しているようだった。


「……ご協力感謝します」


 それでは、と青年に別れを告げて、森の奥に続く血痕を辿って歩き始める。

 すると青年はなぜか黙って後ろを付いて来ていた。

 まだ用があるのかと尋ねると、


「あなた達の捜索に興味がありまして。邪魔はしません」


 クリスはそう言うと、どうぞとばかりに手で続きを促している。

 特に見られて困るものもないし、実際捜索が行き詰まっているため、期待してくれているのかもしれない。

 まぁいいかと、仕切り直して歩を進める。

 捜索は投げっぱなしのノームは、クリスに事件の詳細を聞き出し始めた。


「なぁ、クリス殿。あんたはあの件の親子とは仲が良かったのか?」


「そうですね。私の銃の師匠はロウさんです。ミアさんとも一緒に狩をする仲です」


「じゃあ、あんたから見て、ロウとミアは仲のいい親子だったか?」


 クリスが言うには、誰が見ても仲のいい親子だと言う。

 ミアの母親はミアを産んで早くに死んでしまい、ずっとロウが一人で育ててきたらしい。

 ロウは居酒屋で酔うと、よく「俺はミアに何も心配させたくないんだ。絶対一人にはしない」とこぼしており、ミアもミアで、そんな酔い潰れたロウを毎回迎えに来ていた。

 彼女が「もうお父さん!心配させないでよ!」と言っているのを見て、周りは笑っていたらしい。

 確かにそんなやり取りをするくらいなら、仲のいい親子なのかもしれない。ノームはふーんと言った感じで、別の質問を投げかける。


「クリス殿。クリス殿は今回の件、何か気になることはなかったのか?例えば、事件前後でいつもと違うこととか、些細なことでいいんだ」


「いや、これと言ったことは。……そういえば」


 クリスは事件が起きる1週間前くらいにミアから魔物についての相談を受けたことを思い出した。

 その魔物は、ロウを殺した魔物と同一かどうかはわからないが、どうも『心の声を引き出す魔物』と言うらしい。


「私には魔物の知識なんてありませんから、知らないと答えました」


「……」


 私と、おそらくノームもその単語を思いがけず耳にして、ふと思い出していた。

『心の声を引き出す』ことで人間を破綻に追い込もうと考えていた友人のことを。

 そして、強引に巻き込まれていた自分たちを。


「アリーさんとノームさんは、その魔物について何か知りませんか?」


「知らないな」


 そもそも魔物っていうのは魔力を有する獣のことである。

 だが魔力を有していると言っても人間のように魔法を使えるわけではない。

 姿形を変えたり、体を強化するくらいで、魔法で攻撃することはおろか、心を引き出すなんて複雑なことは殊更できない。


「そうですか。ならあれは、……いやなんでもないです」


 クリスはなにか言いかけたが途中でやめた。我々としても追求は避けたかった。

 ノームは慌てて話を戻した。


「クリス殿は血痕に沿ってできた人間の靴跡には気づかなかったのか?」


「気づいてましたよ」


 彼は人間の靴跡には気づいていたし、ボッシュの狙いにも感づいているようだった。

 ロウを殺したのは人間で、そいつが遺体を運んだのだと。

 さらに、殺すことができるのはミアだけであり、ミアはロウの遺体を隠すことで、魔物の所為に仕立て上げているのだと。

 ボッシュはおそらくそう思っている、と眉間に深くしわを寄せながら虚空を睨んでいる。


「ですが、その靴跡は大人の男のものでした。ミアさんのそれとは全然違います。……本当に、冗談は、やめろって感じですよね」


 クリスは最初こそ淡々と喋っていたのが、途中からまるで別人のように冷たい声を発した。


「クリス殿、落ち着け。ロウの遺体を見つけることができれば、きっと何か分かるさ」


「……そうですね。申し訳ありません。少しイライラしてしまいました」


 思いがけずクリスの地雷を踏んでしまったようで、少し緊張したムードが形成されかけていたが、いつの間にか川までたどり着いていたようである。

 中央まで行くと大人の首まで浸かる深さに、子供なら攫われそうな速度の流れだ。

 だが何も迷うことなく川に両足を突っ込むと、直ぐにその流れの違和感が伝わってくる。


「二人とも、見つけましたよ」


「な!?」


 ノームが早かったな、と感嘆している横で、クリスは驚愕とも取れる声を漏らしている。


「ええ、上流100メートル行った先の川底に沈められています」


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