表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は君達に追放された ~ Evil should be puNis|he|D ~  作者: 江川無名
第一章 「イセカイ」
7/18

第四.五話 何が正しく、何が悪しきか

Tips : 完全悪は存在しうるのだろうか

「ひっとごっろしー、ひっとごっろしー、ひっとごっろしーはたっのしっいなあっとー。アハ、アハハハハハハ!!」


 夜の森に、狂気を孕んだ少年の甲高い笑い声が、響き渡る。その声は、数匹の動物の目を覚まさせ、怯えさせた。

 少年は地面にしゃがみこみ、何度も何度も、直剣を地面に振り落とす。

 剣を地面に突き刺すたび、グチュ、グチュという不快音が生み出されるが、地面を突き刺すことで発生する音にしては、明らかに異質だった。


 ――威嚇する風に、茶色がかった髪をなすがままにされながら、少年は止めることなく、自分の身体の下にある()()を突き刺し続ける。

 この世界では滅多に見ることのない服を着ていた、十五歳前後の死体が、息もないのに痙攣しており、周囲には、死体の血肉が散乱し、殆ど全ての臓器が、潰れた状態であらわになっていた。


 少年は自らの身体に、粘り気のある黒い血液と肉塊が付着する度、極度な興奮状態に陥り、狂気に笑う。

 誰もいない場所、誰も来ない場所。

 自分だけの時間であり、それを拒み、阻むものは何もない――はずだった。

 

 ――彼の興奮状態を遮る音が、森の中に響き渡る。


「誰だ!?」

 

 少年が後ろを振り返ると――そこには、不気味な笑みを浮かべて突っ立ている、一人の青年の姿があった。

 少年は青年の姿を確認して、一瞬、驚愕の表情を浮かべる。


「なんでにっ――。……いや、人違いだ。……いるはずないのに――」

 

 青年に聞こえぬように小声で呟く。

 そして、心の中で罵詈雑言を並べて、自分を責め立てる。自分にとって大切だった人物を、目の前にいる見ず知らずの青年と重ねてしまったことを。

 

 全てを見透かしていると言わんばかりの視線を少年に向けながら、青年は笑みを絶やさず、少年の前までゆっくりと歩いていく。


「こんなところに人がいるなんて、珍しいこともあるものですね」

「今、良いところなんだ、邪魔しないでくれよ」

「私はここを通りたかっただけなんですが……。ですが、その死体を見て、君を放っておくなんてことはできそうもない」

「くっ」


 少年は、目の前にいる男から、異様な雰囲気を感じ取っていた。

 青年を生かしておくことは、自らの命に関わる。例え狂っていようとも、例え冷静でなかろうとも、例え――正気を失っていようとも。それだけははっきりと理解できていた。

 

 本能に従ったのか、考えた上なのか――どちらにせよ、死体に突き刺していた直剣を抜き出し、立ち上がる。

 

「お前も、こいつみたいに殺してやる!!」


 怯懦(きょうだ)な人間であれば、怖気づいてしまうであろう覇気のこもった声で、少年は吼える。

 そして、青年に()()()()()()()()()肉薄した。



◇◇◇



 勝負は一瞬だった。もはや、勝負ともいえない。

 なぜならば、青年は動かずして、自らの能力を見誤った少年を静止したからだ。


 少年は青年を前に(くずお)れ、剣を地面に落とす。地面と金属の擦れる鈍く小さな音が鳴る。


「っ」


 少年は体を動かそうと、全身に力を入れて、藻掻いて足掻くが、身体が動くことは一切なかった。

 青年の妨害魔法によって、一切の行動を抑制されたことに気付いた少年は、身体に力を入れるのをやめて脱力する。


「――何故、君は人を殺すのですか?」

「……そりゃあ、すっきりするからに決まってるだろ。僕の事を散々馬鹿にして、無辜な人間を殺めたやつらが、命を乞いながら苦しんで死んでいく姿を見るのが!」

 随分と単純な理由で人を殺していたのだな、と青年は思う。

 そして、少年が妨害魔法を解除できない事実にも驚いていた。


 彼が使用した妨害魔法は、その分野の中では最も簡易的なものであり、魔法さえ使えるのならば、あっさりと解くことができるはずなのだ。


 青年は少年をまじまじと見つめ続け、一つの答えにたどり着く。



「そうか。君はマリョクバラ――」



「その言葉で僕を貶すな!! 」

「おや、失敬。そんなつもりはなかったんですけどね」


 少年から視線を外さずに、反省の色が全く見受けられない笑い声を周囲に響かせる。

 

「どうやら君は、エネルギーを魔力に変換できないだけらしいですね」

「…………だったら、何なんだよ」

「私の目的を達成するために協力してくださるのならば、魔法を使えるようにしてあげましょう」

「意味わかんねえし、魔法が使えるようになるなんて、そんなの信じられるわけ――」

「信じる信じないはどうでもいいんですよ。協力しないのならば、機関に突きつけるだけですよ。もしくは――」


 身動きの取れない少年に対して、小刀を突きつける。


「お前……質が悪いな」

「誉め言葉としてとらえておいた方がいいですか?」

「ほざくなよ」

 少年は暫く口を閉ざす。

 (リュンナ)が小さな雲に隠れ、再度姿を見せた時、彼は観念するように、深い溜息をついた。

 

「分かった。協力してやる。それに――」

 少年は口を噤ぐ。その理由は単純で、目の前にいる人物が信用に足らないことを理解していたから。


 青年は少年にかけていた妨害魔法を解く。

 それから、小刀をしまった今もなお、警戒心をむき出しにしたまま立ち上がった少年に対して、左手をさし出した。


「私の名前はアドーラ。よろしくお願いしますね」

「……カールスだ」


 アドーラが差し出していた手をはたき、カールスは直剣を掴みなおす。

 そして、さいごにもう一度だけ死体の心臓部を突き刺した。その衝撃で赤い液体が外部に漏れだすことはなかった。


「あ、そうそう。首は取っておいて下さい。どこかで使えるかもしれないので」

「……お前、趣味が悪いな」

「君にだけは言われたくないのですが」

 アドーラは周囲を軽く見渡し、最適な場所を探す。



 ――一人の人物の名を残すために最適な場所を。

Tips : 救いの手が必ずしも救いであるとは限らない


第五話の投稿は、5/1もしくは5/2を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ