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僕は君達に追放された ~ Evil should be puNis|he|D ~  作者: 江川無名
第一章 「イセカイ」
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第一.五話 一人の青年が動き出す

Tips : 歯車は狂いだす

 いつの日か、何処の時間か。


 出来事の全てを見守るが如く、ずっしりと世界の中心に聳える、巨大な円形状の建造物の一室。



 不気味なまでに薄暗い、闃然としたその空間に、一人の男の跫音が規則正しく響き渡る。その足取りは心なしか軽快で、不気味さをより一層際立てた。



 窓もない。風の音も聞こえない。



 沈黙を破ることすら憚られるこの部屋には、世界に()()()()魔法の殆ど全てが紙媒体で記録、保管されている。



 等間隔に並ぶ、魔法によって丈夫さを備えた、背板のない木製の仕分け棚。

 三十センチ程度と狭い間隔で仕切り板が取り付けられており、その隙間には一枚ずつ、魔法の詳細が記録された紙が収納されていた。 



 魔法保管室――誰かがつけたその名に一切の偽りはない。



 目的の場所に到達し、彼はおもむろに足を止める。


 保管室の奥の奥。そこにあるは、じゃを封じた巨大な扉。

 雑音を嫌い、静寂しじまを好む空気を、男は平然と裏切り、扉に向けて魔法を放つ。明確な意図をもって施された扉の魔法は、不協和音を鳴らし、存外あっさりと解除された。


 そのあまりにも一瞬で、あまりにも滑稽な光景を見て、男はほくそ笑む。そして、人が踏み入ることを完全に拒んでいたその場所へ、堂々たる足取りで侵入した。



「漸く――」



 不敵な笑みとともに言葉を吐き出す。


 この場所へ侵入するためにどれだけの時間がかかったか――日年数など数えていないが、長き時間に変わりない。


 そこにあるのは、先の場所とは変わらぬ景色。にもかかわらず、不気味さと妖しさが数倍にも膨れ上がっている場所。

 不気味に関する全ての表現を使ってしても、この場所の雰囲気を他者に伝えることは不可能であろう。



「これなんて面白そうですね」

 千五百年の時を経てもなお、僅かにしか変色していない一枚の紙を右手で取り出す。厚紙のようにしっかりとしているように思われた紙も、手が触れた途端に柔らかな紙へと姿を()()()


 内容を確認する。

 左上には大きく記載された魔法陣。下部にはこの魔法の詳細が小さな文字でぎっしりと書き込まれていた。


 そして右上に記載されるは――古代の字。



「危険だからと封印された。悲しき哀しき魔法達」



 とある事件をきっかけに封印された魔法。この場所にあるのは、全てがそんな魔法だった。

 この空間に異質な雰囲気が生まれてしまうのも、この事実を知ってしまえば、容易に想像できる。



 千五百年前に起きた事件によって、魔法に対する考え方と価値観が大幅に変化した。それに伴い、その事件以前に作られた魔法の大半が、危険な魔法として封印されることとなった。


 人を殺し、龍を殺し、魔物を殺す。安全性も何もない魔法――そんな危険な魔法を彼は何故求めるのか。



 好奇心? 殺人を行いたいから? それはどちらも正しく、そして、どちらも間違いである。



 彼が古代魔法を求める理由はただ一つ。

 魔法を以って、人々がみてこなかった現実を、恐怖とともに突きつけ支配するため。



 彼は思い続けた。

 人間は何故見えないものを見ようとしないのか――いや、見えているものすら見ようとしないのか、と。


 平和の中に潜む悪夢。

 愚者達は、確かにそこにある、悪夢ともいえる悲惨な現実から目を背けて、理想郷を創り上げようとしている。


 暗闇の拒否。暗黒の否定。悪夢の黙認。絶望の助長。


 大罪もいいところであるにも関わらず、人間は自らが犯罪行為をしているとは認めず、ましてや理解しようともしていない。



 闇を隠し、悪を認め、命を見捨て、蜜を吸い――悦に浸り、生に溺れ、死を放置し、平和を謳う。



 ――全くもって反吐が出る。



「この世界は平和とは程遠いのです。私が生まれる前からずっと。――そう、あのお方が消えてしまうその前から、ずっと、ずっと、ずっと」



 古代魔法には適性があるといわれている。


 快楽のために人を殺したい、絶望を突き付けた人が憎い、我が理想に共感した。理由はどうであれ、自身と協力できる者を探し、適正さえあれば魔法を享受する。


 そして、協力関係となり得る人間を増やし、愚かな人間を殺し恐怖へ誘い、完全なる平和を掴んだ世界を築き上げる。



 それが彼の中にある野望であり、願い。



 しかし、完全なる世界の支配者となるのは自分自身ではない――彼はそう考えていた。

 支配者となるべき存在は、男が崇拝してやまない大昔に失踪した()()


「カウリストロ様はもうすぐ復活なされる。この世界の支配者として君臨するために。――私は少しばかりお手伝いをさせていただきましょう」


 彼は一人歩きの崇拝者――カウリストロが男を見たとて、知りもしないし無関心であろう。


 しかし、彼はそれでよかった。


 少しでもカウリストロの力になるのならば。自らの行為によって、カウリストロが世界の支配者になるのならば――。



 彼は他数枚の紙を取り出し、魔法を用いて複製する。そして、何事もなかったかのように元に戻し、踵を返した。



「――絶望から救うために……――絶望を見せてあげましょう」



 彼の狂気じみた高笑いが空気を震わせる。  



 その笑いは、静謐を好んでいた空間を委縮させた。

Tips : 最悪の物語は形を変えて動き出す

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