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僕は君達に追放された ~ Evil should be puNis|he|D ~  作者: 江川無名
第一章 「イセカイ」
15/18

第九話 いつまでもマモラレテばかりじゃいられない!

第九話は約7950文字で、読了時間は約16分です。

※1分で500文字読んだ時を想定


完結済みにマークが入っていたらしいです。調べて、修正します。(修正しました……焦りました)

「…………すまねえ、俺に龍は……殺せねえ」



 ウルリラはぽつりと漏らす。

 黄昏時。橙色の陽の(ともしび)が、儚く記憶(・・)を照らしていた。


 ウルリラは、地脈を揺蕩っていた記憶から生成された龍に背を向けて、僕を担ぎながら逃げていた。

 その表情を見て僕は思う。

 


 彼が龍を殺せない理由は――強さじゃない、と。


 

 トラウマ。約束。想い出。――彼の手を止める理由の根幹が何かは分からない。

 しかし、ウルリラが逃げるという選択をとっている事実に変わりはなかった。


「詠唱番号20146(ニマルイチヨンロク)――」


 ジーニアが一瞬足を止めて詠唱し、屹然と周囲を睥睨している龍の周囲に、妨害魔法を展開する。

 この魔法によって、恐ろしいまでの威圧感を放つ龍は、魔法が展開されている範囲外には出られなくなった。


 その事実に気付いたのか――記憶龍(・・・)は天を劈かんばかりの咆哮を轟かせる。


「何処までもつかわかりませんが、少なくとも機関の支援が来るまではもつと信じましょう」

  

 ジーニアとウルリラは、再び<リベル・ボルム>に向かって走り始める。


 彼女が使った魔法は決して持続時間が長いわけではない。

 ましてや、ここまで巨大な範囲で使用したのならなおさらで、更には直前に大量のエネルギーを使用していた。


 そう考えると――もって五分。


 僕は機関がどこまでしっかりとした組織なのかは知らない。


 

 ――でも、もし五分間で来なかったら?


 

 その場合、<リベル・ボルム>に大きな危害が加わってしまうかもしれない――現状、ウルリラ以外に戦闘要員がいないのだから。 

 ウルリラの龍に勝てない理由が心の問題なら、今の僕にだって勝てるのではないか――何故なら、ウルリラから教わってきたから。


 魔物を倒す術を、剣を用いた護衛の術を――そして、敵が自分より強者となる存在であった時に対処する術を。


 

 だから大丈夫、と。



 そんな考えが頭の中を埋め尽くす。

 僕はその考えが正しいと信じ――ウルリラの手をどけて、彼の肩から無理矢理降りる。

 そして、魔法道具から、一年前より決して新調していない自分の剣を取り出し構えた。



「おい! 何をしようと――!」



 ウルリラのかつてない程感情的になった声が聞こえてくる。

 一瞬、身体がびくっとなるが――背に腹はかえられないと冷静なふりをして、彼に言葉を返した。


「僕があの龍を倒します! エネルギーも回復しているみたいですから!」

「駄目だ。やめろ」

「…………何でですか? 僕だって<リベル・ボルム>の人たちを守りたいという気持ちがあるんです!」 

 

 ウルリラはより強く歯噛みして暫く黙りこむ。

 そして漸く紡がれた言葉には――彼特有の覇気がこもっていなかった。


「俺にだって龍は――」

「……僕だって守られてばかりじゃいられないんです!」


 偽善、自己満足、我儘、自己中心、傲慢、自己陶酔――誰に何と言われようとも構わない。 

 今は、そうしなければならない。今は、そうするしかない。今は――そうしたい。


 行き当たりばったりの感情で、先のことなど一切考えていなくて、恐れを誤魔化している。



 ――それでも、そうしたい。



 一年間、ずっと安く防具等を提供してくれたガーネットのためにも、詐欺をしようとしていたあの店員のためにも、僕みたいな不審者を支え続けてくれたウルリラとジーニアのためにも。


 だから、僕はウルリラに確信を付く。これが事実なら、戦うことを許可してくれる――そんな期待を込めて。


「……それに、ウルリラさんが龍を殺せない理由は、力の強さ(・・・・)じゃないですよね?」



「っ!?」



「――それは、それはウルリラさんの過去の記憶(・・)にあるんじゃないですか?」

「…………」


 図星だったのだろう。

 彼は口を噤み、拳を力強く握りしめる。

 

 過去に龍と何があったのか――それを詮索することはできない。

 いつか彼が自らの判断で教えてくれたなら、それほど嬉しいことはない。

 

 十秒程経った時、ウルリラは深い溜息をついた。


「……分かった、戦うことは許可する。おそらく、今のカオルだったらあの龍は倒せるだろう。――ただ、無茶だけはするな。エネルギーが枯渇しそうと感じたら、すぐに撤退してくれ」

「分かってます、大丈夫です」


 僕は軽く笑顔を見せる。


「私も支援するよ!」


 いつの間にか、ジーニアの肩から降りていた穂香が僕の左側に立つ。

 ウルリラはジーニアに少しばかり驚いた表情を見せていたが、彼女はその表情を受けてもなお、微かな笑みを零したままだった。


「私は信じていますから――ホノカさんとカオルさんなら、もう既に向かうところ敵なしだと。――二人の努力とあなたのおかげで」


 偽りやお世辞ではないと――声音と過ごした時間が理解させる。

 彼女の信じる(・・・)意思が、僕に自信を与えてくれる。

 


「一つ言っておくと、龍の弱点は鱗が少ない下腹部と口の中だ。記憶魔物だから細かいことは分からねえが、基本はそうなっているはずだ」

「了解です」

「――あと、記憶魔物にはどこかに必ず核がある。最終的にはそれを破壊しないと倒せない。弱点を狙って隙を作っている間に、核を探せ」


 ウルリラの助言に一度頷き、龍の方に意識を向け直す。

 屹然さはどこへやら――妨害魔法から抜け出そうと、考えなしに暴れ回り、時には青白い(・・・)業火を森の中に撒き散らす。



 しかし、その業火は木々を紅色に上書きすることはなかった。



 あくまで記憶――あくまで幻影。


 その光景は、目の前に存在する龍が、生物(・・)ではないのだと視覚で理解させる。

 魔物であることに変わりはないが、それをはっきりと理解することで、僅かにだが緊張感が薄れた。


「穂香はそこまでエネルギーを使ってなかったよね?」

「うん、使ってない!」

「だったら、教わった通りに行こう!」

「おっけーオッケー!」

 

 穂香は次々に僕に向けて魔法を放つ。 

「ありがとう、穂香!」

 

 一通りの支援魔法を穂香からもらった後、僕も無詠唱で一つの魔法を唱える。


 それは、怪我がなくなるわけではないが、痛みを一時的に抑える(・・・)ことができる魔法。

 痛みは行動を抑制してしまうため、誰か、若しくはなにかと交戦するときは、絶対に使用しておくべきだとウルリラから教わった。

 痛みを抑えられるのは優秀ではあるが、効果が切れた後に全ての痛みが纏めて襲い掛かってくるという地獄付き。


 しかし、効果が切れるまでに回復さえできれば、その怪我の痛みを味わうことなく消える。

 


「だから……多少の無茶はご愛嬌――そうでしょ?」 



 僕は誰に向けたかわからぬ言葉を呟き、森の中(あまね)く暴れる魁偉(かいい)な敵に向かって、一気に肉薄する。


 怪我をすることに対して抵抗感はもとよりない。

 ――何より、背後には必ず助けてくれる者がいる。


 この状況で、怪我や傷を恐れる必要が何処にあろうか。


 僕の動きを止めようと、強く気高い青白き龍が、尻尾を振り回し、翼を扇ぎ、前足を薙ぎ払う。

 その攻撃全てが速く、そして重たい。

 しかし――加速魔法、身体能力強化によって、既のところですべての攻撃を回避。


 そのまま敵の下に潜り込み、弱点である腹部を縦に一閃。敵が痛みに悶え、僅かに怯む。

 その好機は決して逃がさない。僕は龍の下から抜け出した後、核を見つけ出すために、敵の全身を確認する。


 心臓部。光が厚くて中を覗けない。

 顔や尾。光は薄いが中には何もない。

 

 そこまで確認した時、龍は体勢を立て直し、大きく後退。

 業火の息吹を森の中に吐き捨てて、翼で周囲に暴風を発生させた。大炎と暴風が混ざり合った竜巻が、木々の葉々を巻き込んで、森の中を駆け巡る。

 竜巻が蠢く速度はゆっくりで、躱すこと自体は造作もない。僕は落ち着いて回避した後、龍の懐に接近するために加速する。


 しかし、竜巻が吹き合わす暴風によって、土に埋もれた無数の石が空を舞い、高速で右往左往に飛びかっていた。

 無価値(・・・)に路傍に転がっていた石は、龍に味方することで価値(・・)を創りあげている。


 速さと速さがぶつかり合って――価値を生みだした石達が、僕の顔や手に無数の傷をつけていく。

 背後では竜巻が妨害魔法に直撃し、障壁を伝うようにして壊れていた。


 一つの石が、右腕を抉るようにして通過した。

 鈍く不気味な音が小さく鳴ると同時に、自分のどす黒く汚れた肉片が、ドロッとした血液が地面に落ちていく。

 その光景を見て、咄嗟に左手で怪我を抑えた。


「薫!?」

「……このくらい大丈夫だよ!!」


 怪我――そこに痛みがなくとも、自分が逃げていないということを、物理的に教えてくれる唯一の要素。

 時折、咫尺の間にまで近づく龍の容貌の圧が、僕を委縮させ、足を後方に下げさせようとする。


「っ!」


 怪我に恐れはなくとも、存在に対して恐れが生じる。


 でももう、逃げるわけにはいかない。



 ――だって、今まではずっと逃げ続けてきたのだから。 



 ――あの時も。

 あの時も。

 あの時も!!



 怯えて、逃げて、諦めて、受け入れて、助けられて――そんな臆病でどうしようもない自分と向き合うことにさえ恐れて、ただひたすらに誰かの助けを、守りを求めていた。

 


 そんな自分に価値があるのか?



 こう誰かに聞かれたら――きっと答えることはできないだろう。

 いや、寧ろはっきりと答えることができるかもしれない。


 どちらにせよ、目の前にいる、自分よりも圧倒的に強い存在を倒す。


 それは自分からしてみれば、勇気のいる事で――もし、倒すことができたなら、僕にとって大きな一歩となるはずだ。


 倒したという自信と、誰かを守ったという事実によって。



 ――無価値に価値を。不必要を必要に。



 石だって自らの意思で価値を生みだしたのだ。

 だったら僕だって――。


 こんな想い、過去を知らない人(・・・・・・・)には分かってもらえないだろう――いや、知っていたとしても、理解されないかもしれない。

 それでもいい。それでも構わない。



 ――自分がその想い(・・)を理解しているのならば。



 いつの間にか僕の身体を包んでいた緑色の光が消える。完治したわけではなかったが、右腕の怪我は随分と小さくなっていた。


 龍が放つ業炎を躱しながら、再度、敵から隙を生みだすために、土を蹴飛ばして詰め寄る。

 敵の顔を確認しようと見上げた時――空が見えた。その空は黄昏時に終わりを告げて、少しずつ世界を暗闇にしようとしていた。


 妨害魔法のタイムリミットだけでなく、世界の時間によるリミットも考えなければならない。


 焦りを誤魔化すように攻撃の手を止め、魔法を使用し、剣の攻撃能力を底上げする。

 そして、今度こそ核を見つけ出すために、もう一度肉薄。



「うぉぉおおおおおお!!」


 

 僕は吼ゆ。

 目視出来得る速度の剣舞劇。一撃一撃軽くとも、弱点貫き隙を生みだす。

 躱して、飛んで、薙いで、放つ。


 僕は斬る……!

 剣が走り、龍が哭く。かたき鱗が盾となり、鋭き剣を容易くはじく。隙が生まれた僕に対して、長い尻尾を振り払い、墜落させようと試みる。

 落とされ(・・・・)、負わされ、吼えられ、立て直す。

 

 僕は穿つ!

 背中信じて強き一閃。怪我を負っても穂香が癒す。

 唸られ、穿って、叩かれ、いなす!


 群青の炎を躱そうと跳躍した時――狙いを定めていたと言わんばかりに、その場所に向けて尾が薙ぎ払われる。


「カハッ!!」

 

 回避など間に合うはずもなく、結果、無防備だった身体に直撃。

 

 遅れて、僕と龍の尻尾が接触した位置に、防御魔法が張り巡らされる。

 穂香が龍の行動に気が付き放ったのだろう。しかし、発動するまでに時間がかかってしまったようだった。


 ウルリラ達のようには決して行かない。――当然だ。


 でも、彼とジーニアに叩き込まれた教えが、動きが、考えが、絶え間なく脳裏に響き続け、それが自信と落ち着きを維持させてくれる。

 

 

 僕は口の中から血塊を吐き出して、何度も龍に立ち向かう。

 


 龍が攻撃、僕が守る。

 僕が攻撃、龍が守る。

 

 穂香が魔法で攻撃、龍に隙が生まれる。

 隙ができている間に核を探す。


 しかし、一向に核を見つけ出せない。



 天秤は平衡状態を保ったまま――いや、少しずつ傾きながら、時間だけが経っていく。

 ジーニアが展開した妨害魔法はいまだ効果を持続しているが、周囲は殆ど真っ暗に等しい状態だった。


 僕は唇をかみしめる。

 


「……あそこに核がある!」

 


 その時響いた穂香の声。

 彼女の方を見ると、「あそこ!」と言いながら、上の方を指差す。


 その指は心臓部を指差したいた。――最初は見えなかったが、攻撃に攻撃を重ねたことで、徐々に浮き彫りになっていたようだ。

 浮き彫りにはなっているが、鉄壁となる鱗が核を守るように体を覆っていることに変わりはない。


 しかし、よく見ると、記憶という曖昧性があるからなのか――鱗と鱗の間には僅かな隙間が生じていた。 

 その隙間をうまく利用できないかと熟考し――そして、その隙間を利用することで、平衡状態を打破できる一つの策を思いつく。



「この場所なら――」



 創造を使っても大丈夫な筈だ。周囲には見知った人しかいないのだから。


「穂香!! しばらく時間を稼いで!! 」

「? …………なるほど! 了解!」


 僕が何をするのか気が付いた穂香は朗らかに言葉を返す。

 僕は一度頷いた後――ゆっくりと目を閉じる。


 今――欲しいものは何か。

 何でも斬れる鋭利な剣か。それとも、何でも防げる頑強な盾か。


 否!

 今欲しいのは――!!



「僅かな隙間を素早く貫く武器!」


 

 魔法によって内部空間が大幅に広くなっている鞄の中に、僕は剣を一度しまう。


 そして、右手に収まっていた一つの武器を両手で握りなおした。

 それはこの世界に決して存在しない武器。



 先端から鉛を射出する黒く細長い――一丁の小銃(ライフル)



 曖昧な記憶から探り寄せたため、見た目は汚いが、目的さえ達成できれば構わない。 


 照準を合わせようと、銃を目元に近づける。


 瞬間。

 穂香が左を通り過ぎ龍の足元へ肉薄する。一瞬不可解な行動に感じたが、彼女のその行動の理由はすぐに理解できた。



 ――龍が飛ぼうとしていたのだ。



 妨害魔法の外に出ることは依然叶わない。

 しかし、空は龍の領域といっても過言ではなく――状況が急激に劣勢になってしまう可能性がある。

 

 そして、穂香は、魔法を使うよりも、物理的に攻撃するほうが速いと判断したらしい。

 彼女は足が離れた龍の下に潜り込み、右手に握った剣を一気に突き上げた。



「ガルゥァアアアアアアアア!!」


 

 龍は藻掻き苦しみながら地上に落下する。穂香は既に下から離れており、怪我をすることはない。


「怯んだ!!」

「ありがとう、穂香! でもそこは危ないから下がって!」


 「分かった」と言いながら、穂香は僕の後ろまで下がる。 

 足が捻じれ動けなくなっている龍は、慌てふためき、翼を何度も何度もはためかせて起き上がろうと試みている。


 いま両手で握っている銃は重い。もし、龍に空を飛ばれていたならば、上にあげきれず、この銃は無意味なものになっていた。

 僕は穂香に感謝しつつ、もう一度スコープに目を当て、龍を睥睨し、照準を心臓に合わせる。

 

 これで完璧――と言いたいところだが、生憎、巨体とはいえ、激しく暴れまわる的の僅かな隙間を狙うだけの射撃能力は持ち合わせていない。


 だから――。



「詠唱番号30001! 魔法分野、自己強化――」



 詠唱が終わった瞬間――世界の色素が薄くなった。

 殆どモノクロに近い世界をこの魔法は創り上げていた。


 この魔法は古代魔法の一種。

 その効果は――。


 

 遅くなる。


 

 正確には、自分の体感で三秒程周囲の光景を遅くすることができる。欠点もあるにはあるが、この状況だとないに等しい。

 

 薄くなった世界にゆっくりと動く巨大な的一つ。

 心臓部に位置する核に銃弾を命中させるために、最終調整していく。

 

 身体の揺れを抑えるために、呼吸を落ち着かせた。


 それはコインが回転しながら落ちているような感覚。

 そして、地面にコインが当たり、小さな美しい音が心の中に鳴り響く。


「今!」


 打ち砕けと強く念じながら、引き金を引く。

 世界に色が戻った同時に、銃口から金色の弾丸が、森の中を包む暴風を切り裂きながら、標的に向かって目にも止まらぬ速さで、突っ込んでいく。


 残念ながら、その銃弾は標的を僅かに逸れたらしく、核を破壊するには至らなかった。

 しかし、十分な威力があったのか――その銃弾は核を覆っていた鱗を完膚なきまでに破壊した。

 


「――――!!」



 痛み、苦しみ、嘆き。何を意味し、何を伝えたいのか――あまりの多さに理解を拒んでしまう、悲痛な咆哮が、脳裏に焼き付くように響き渡る。

 次いで、起き上がれもしないまま、無我夢中になって炎を周囲にまき散らし始める。


 それは死を――地脈に還ることを拒むように長く、強く、広い。


 しかし、僕は回避しない。

 何故なら、その業火は――怪我を(もたら)したとしても、死を齎すことは決してないと確信しているから。


 石が皮膚を掻き切り、炎が体躯を燃やし、翼牙が髪と顔の皮膚を切り裂く。


 痛みとか、傷跡とか、永眠とか一切考えない――向う見ずな戦い方。

 そんなこと知らぬ存ぜぬを貫き、範囲が広まった標的に照準を合わせて――。

 

「もう一発!」  


 炎の息吹が作る灰色の煙が視界を隠す中、僕は引き金を引いた。

 煙と風を切りながら、銃弾は心臓部に向かって突き進み――。


 

 そして――龍の核を貫通した。



 鏡が割れたかのように、核の破片が周囲に飛び交う。



「――――――――――!!」



 どこまでも長く、どこまでも豪快な断末魔の叫びが、何かを訴えかけるように世界に響き渡った。


 その後、龍が無数のポリゴン片となり霧散し、収束。

 大きな記憶の塊が宙に浮かび、やがて地脈に還って――。



『我が盟友のために――命を……捧げよう』



「!? ……今のは?」


 周囲を見渡しても、見知った人物以外に誰もいない。

 僕は未だ尚、宙に漂う記憶(・・)を見つめる。


 

「……もしかして、誰かの、記憶?」



 記憶魔物は、地脈にのこった記憶からうまれる魔物。それは誰かの記憶で何かの記憶の塊。

 決して一人だけの記憶ではなく――決して一体だけの記憶ではないのかもしれない。



 無数に集まった誰かの記憶のうちの一つなのか、あるいは誰もが似たような記憶を持っていたのか。

 ――どちらにせよ、その記憶は、心を深く抉るように脳裏に焼き付いた。


 球体となって宙に浮いていた魔物は、いつの間にか地面の下に還っていた。



 血だらけになっていた銃は、既に消え去っており――世界から異質はなくなった。

 綺麗でさらさらとした血と淀んでドロッとした血が混ざりあって、地面にぽたぽたと流れ落ち、土を黒く染める。


「怪我とかしてませんか!? いや、怪我はいっぱいしてますね。今回復しますから」

「私も――」

「……無茶な戦い方をしすぎですよ」

「……ごめんなさい」


 僕の方に駆け寄ってきて、回復魔法を使うジーニアに対して陳謝する。


「カオル」

 ふと背後からウルリラに声を掛けられる。

「ウルリラさん。どうしたんですか?」


「…………ありがとう。助かった(・・・・)


「――それなら……よかったです」

 ウルリラは苦しい表情の中に、微かな笑顔を見せていた。

 

 全ての傷が回復したのを確認した後、ジーニアは機関に「伝達魔法」を用いて、紙媒体で何らかの連絡を取る。

 暫くして、彼女は紙を折りたたんでスカートの右ポケットにしまう。


「明日、機関に言って直接状況を確認しないといけませんね……」

「――機関に行くんですか!?」

「え、まあ……どうしてそんなキラキラした目をしてるんです? カオルさん?」

「……一緒に行きたいんですけど」

「確かに、今まで行ったことなかったですもんね。別に構いませんが、面白いものなんて何もないですよ?」

「それでも行きたいです。ずっと気になっていたので」


「……なら、いきましょうか。ホノカさんも一緒に行きますか?」

「あ、私は明日ちょっと用事があるので行けないです――行きたいんですけど」


「そうですか……じゃあ、二人で行きましょうか」

「ありがとうございます!」


 黄昏の時間(とき)も完全に終わりを告げ、星と月のみが周囲を照らす唯一の灯となったころ、僕達は安寧を保った<リベル・ボルム>に戻っていった。


「無茶するなって言ったのにな」

「……あっ、忘れてました」

「――嘘つけ」



「…………あはは」

 龍は、ゲーム「モンスターハンター」でいう「ミラバルカン」みたいな姿をしています。


 「ジーニアとウルリラ」の戦い方と「穂香と薫」の戦い方が異なる点を意識して、八話と九話を展開しました。

 特に支援に回っている、ジーニアと穂香に違いが出るよう意識しています。

 詳細は「活動報告」に残しておきますので、お暇なときにでもお読みください。



 一部、戦闘シーンにそぐわない地の文が存在しているため、後日修正いたします。

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