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僕は君達に追放された ~ Evil should be puNis|he|D ~  作者: 江川無名
第一章 「イセカイ」
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閑話休題―二 色々信頼度

七話の開始地点より数日後の話です。 七話と八話の繋ぎをスムーズにするために六.五話後に挟んでいます


Tips : <リベル・ボルム>は意外と広い

 <リベル・ボルム>の路地裏に、ひっそりと営業している――わけでもない鍛冶屋があった。

 外は他の建築物と大差なかったが、中は家具も含めてすべて木でできているように見えた。

 

「ガーネット、こいつらの剣を新調してやりたいんだが、特にカオル……ああ、こいつの方がしっかりした奴を頼む」

 ウルリラに連れられてやってきた鍛冶屋にいたのは、カウンターの奥で椅子に腰かけ座っている一人の男性。

 随分と小柄で、ファンタジー小説でいうドワーフに近しい体形をしていた。

 ガーネットと呼ばれるその男性は、椅子から立ち上がり、ウルリラに質問をする。


「一点物にするか?」

「ああ、出来るならそうしてやってくれ」

「了解だ。……カオルだったか。持ち手のサイズを決めてえから、右手を出してくれねえか」

 僕が右手を出すと、物差しを取り出して、右手のいたるところのサイズを測り始める。

 接客業ゆえだろうか――ガーネットが、会話を繋ごうと僕に向かって声をかけてくる。


「ところで、お前さんたちはどうして剣を新調しようと?」

「えっと、ウルリラさんから剣の扱い方とかを色々教えてもらうことになりまして……」


 僕のその発言にガーネットの動きがピタッと止まった。


「……は?」

「…………え?」


 掴んでいた僕の右腕を一気に引っ張り、顔を近づけ、小声で会話を始める。

「おい、こいつに教えてもらうってのかよ!?」

「……なんかまずいんですか?」

「まずいのなんのって、ゴキブリが尻尾巻いて逃げる程って言われてんだぞ」


 ゴキブリってこの世界にもいることに軽く衝撃を受けながら、僕はやり取りを続ける。


「……なんで、そんな風にいわれてるんですか?」

「…………教え方が下手。下手ってもんじゃねえな。下手すぎるんだ」

「……! そ、そうなんですね」

「噂だけどな。でも、こいつ見た目通りがさつなところがあるしな」

「なんとなくわかるかも……。でも、ウルリラさんが教えてくれるって言ってくれたので、喜んでお願いしたんですが……」


「――そうか、そうか……」


 僕の腕を離し、今度は右肩をポンポンと数回叩きながら、何回も頷いていた。

「いつでも来いよ……安くしてやるからな」

「いや、多分ジーニアさんもいるので大丈夫かと――」


「あ、それならたぶん大丈夫だな」



「…………はぁ」



 ジーニアさんの信頼度やばいな、と僕はただ思った。

 あと、安くはしてくれるらしい。



◇◇◇



「これ良かったら食べて頂戴」


 通りを歩いていると一人の女性から、急に食べ物を渡された。

 僕はありがたい事にも関わらず、怪訝そうな顔を女性に向ける。


「えっと、ありがたいんですけど、でもなんで?」

「だって、ウルリラさんから魔法の事とか色々教えてもらうんでしょう?」

 

(この街広いはずなのに、なんでこんな情報伝わるのはやいんだろう)


「それは、そうなんですけど。……でもやっぱりなんで?」

「だってウルリラさん教えるの下手ってよく聞くじゃない?  しかも、龍すら尻尾を巻いて逃げ出す程下手らしいじゃない。気が利くしとってもいい人なのにねえ」


 この世界に龍っているんだ、とか、ゴキブリよりレベル上がってるな、とかのツッコミは一旦置いておく。

 そして、少し考えた後、女性の反応が気になったので、とあることを口にしてみた。


「でも、ジーニアさんも手伝ってくれるので多分――」


「何だそれなら大丈夫ね」

「……あ、そうですか」


 ホント、ジーニアさんの信頼度バグってるな、と思うことになった。

 それと食べ物はくれるらしい。

 

(教え方が下手ってだけで、食べ物くれるってどんな文化?)


  そう思いながら、女性と別れて、森の中にある家へと足を進めていった。


 後日聞いた話だが、ジーニア曰く、教え方が下手な人に魔法を教わると、今後魔法を覚える際に、あり得ない程苦労することになるから、という理由があるらしい。

 

 

◇◇◇



 この世界には魔法道具なるものがある。

 本でも読んだし、ジーニアとウルリラから聞いたことでもある。


 そして、今いるのは魔法道具を専門に扱う店であった。

 購入したかったものは、荷物がかさまないように作られた、四次元○ケット的なものだけだったのだが――絶賛、店員からセールスの猛攻撃を喰らっていた。


「今ならこちらをお付けするとお得になるのですが、いかがいたしますか?」

「えっと、その、だから……間にあって――」

「あれ? まだ、お気に召しませんか? ……なら加えてこちらをお付けすると更にお得に――」



「ねえ、店員さん。――薫にどれだけ買わせようとしてるの?」



 穂香の声が背後から聞こえてくる。その声は彼女の口から発せられたものとは思えないほど低かった。

 後ろを振り返ると、顔は笑っているが、目は笑っていないという典型的な表情を浮かべて、店員をぎろりと睨みつけていた。


「はい?  えっと、その? お連れの方でしょうか?」


 穂香は店員の言葉を無視して、後出しされたものを全てレジカウンターの右横に追いやる。

 そして、目的の商品を一度持ち上げ――店員の方に近い位置で、おもいきりたたきつけた。


「これだけで! じゅうぶん! ですので、――お会計していただいても?」

「でも、お買い得に――」


 軽く委縮しながらも、何故か勇猛果敢に立ち向かおうとする店員の女性に、穂香は爆弾を落とす。


「お得お得って言ってますけど――割引価格は言ってませんよね?」

「うっ」


 痛いところをつかれたらしく、店員は一歩後ずさり、静かにカウンターに置かれていた計算表に文字を書き始めた。



「アッ、スー、かしこまりましたー。…………チッ」



「はあ!? いまこの店員舌打ちしたんですけど! ちょっと店長呼んできてよ!  おーい、店長! 奥に居ますか!? このお店のお! 店員があ! ――」


「ちょっ、そういうのはやめて、マジで」

 僕は最初に欲していた魔法道具の購入を行い、穂香を引っ張って店を後にした。

 

 大通りにつながる少し狭めの通りを歩いていく。

 僕と穂香の間に会話はない。

 周囲の賑やかな声を聞いて、何故今日は晴れなのだろう、と思いながら空を一瞬見上げる。


「あの……」

 結局、沈黙が辛くなり、僕は右側にいる穂香の表情をうかがうようにゆっくりと視線を向けると、露骨に顔をそらされた。


(これ僕に対しても怒ってるな)

 

 何故今日は心地の良い風が吹いているのだろう、と思いながら風を受け入れていると、唐突に穂香が口を開く。

 しかし、その声は穏やかではなかった。


「もし、私がいなかったら、全部、買ってた、よね?」

「ヒッ……。――はい、多分そのとおりですね……はい」

 無駄に長い沈黙。


「――とりあえず、薫はああいうお店で一人で買い物するの、禁止ね?」

「…………はい」


 ぐうの音も出なかった。

 

 ――ああ、何故今日は雲一つない青空なのだろう、と思いながら僕は沈んだ表情で通りを歩く。

 しかし、穂香があそこまで声を荒げるのも珍し――。

 

「……あいつは害、あいつは害。私がしっかりしないと」


 あ、これは僕がしっかりしていかないとまずいことになるのでは? と思わされる瞬間でもあった。

Tips : 火のない所に煙は立たぬというけれど、噂は噂でしかないことも多い


薫のことになると一気にねじが吹っ飛ぶのが穂香。本当はもっと最初に出る内容ではあったのですが……。


気を付けてはいるらしいですが、普通に喧嘩しています、この二人。

穂香は薫に嫌な思いをあまりさせたくないので、喧嘩を避けますし、薫は穂香と口喧嘩すると百負けると思っているので避けます。でも、なんだかんだ喧嘩はします。

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