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僕は君達に追放された ~ Evil should be puNis|he|D ~  作者: 江川無名
第一章 「イセカイ」
10/18

第六話 モトメヌ力

2021/5/2に以下の調整を行いました

・二話にて、本文上部の一部内容を削除しました。一部文章を修正しました

・四話本文下部に新規文章を追加しました。最下部に魔法の簡易的な説明を追加しました

・五話の本文上部に、二人の現在の目的を明確にするための情報を追加しました。また、5/3に本文上部を修正しました

・プロローグの修正を行いました。最下部のみ大幅な変更となります。



Tips : 覚悟なき人間に秀でた力は扱えない

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 ノイズが走る。


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 ノイズが走る。



「――やめろ!!」


 不気味な何かが頭の中に流れ込むのを拒絶するように、咄嗟に目を開け上半身を持ち上げる。



「――はあ……はあ」

 闃然とした部屋に、乱れた呼吸音が、雑音となって波紋のように伝わっていく。

 未だに、自己の理解の範疇をこえた何かが、流れ込んでくる。


 吐き出したい。


 流れ込んできたものを、今流れ込んできているものを、すべて吐き出してすっきりしたい。嘔吐でも、排泄でも、叫喚でも何でもいい。


 とにかく外に――。


 窓を介して差し込む無邪気な光を無視して、無意識に右手を口の中に突っ込みかける。


「薫!?」

 朝の身支度を済ませて戻ってきたところだったのか、部屋の扉の前から焦燥しきった顔で僕の方に駆け寄ってこようとする。

「あ、そうじゃない。ちょっと待ってて! 今ジーニアさんを呼んでくるから!」


 そういうと穂香は、駆け寄るのを中断して、急ぎ早で部屋を飛び出していった。

 一度に流れ込んでくる量は減ってきてはいるものの、理解できるようになりつつ何かは、止まることなく流れ込んできていた。



 気持ち悪い。



 整う気配のない呼吸音が、己の鼓膜を震わせる。

 穂香がジーニアを呼びに行ってから、一分程が経った。


「なんでジーニアさん、を?」 

 ジーニアを呼びに行く理由なんてない。

 確かに呻き声をあげたかもしれないが、直前まではただ寝てただけ。誰かを呼びに行くほど心配する状況には――。


 ――眠ったのはいつだったのだろうか。


 眠る直前の記憶がない。美鈴と何らかの会話を交わした記憶があるが、それだけだった。


 曖昧な記憶を辿っていると、いつのまにか、更に一分程経過しており、穂香が駆け足で戻ってきていた。


「ジーニアさんを呼んできたから、多分すぐに来ると思う。あとウルリラさんも」

 穂香はベッドの左側でしゃがみ込み、僕の手を両手で握りしめる。その顔には、焦燥と不安と恐怖が、隠さずに表情として表れていた。


「――まずは落ち着いて」

 呼吸の乱れが収まっていないからか、彼女は手を離し、僕の身体を抱き寄せる。

 落ち着くまでこうしてあげるからと、痛みも悩みも悲しみも辛さも、全てを分かち合おうとしているかのような、優しく穏やかな声音で囁いた。


「もう二度と――」


 優しい声の中に含まれる悔恨の念を感じ取る。その言葉の先にある光景が何なのか――今の僕には到底理解できない。


 暫くの間、沈黙が時間を支配する。

 彼女のおかげか――呼吸も正常になりつつあった。

 そして、流れ込んできていたものの正体が、()()であったと理解する。

 それを何一つ外に追いやらずに落ち着いてしまったことが、良い事なのか、それとも悪い事なのか。僕には決して分かりはしない。



 今はただ――暑いので穂香に離れてもらいたい。



「あの……もう、落ち着いたので、離れてもらえると嬉しいんだけど。汗だくみたいだし」

「……嫌」

「だから汗がですね……」



「カオルさん、目が覚めたっていうのは本当――ってあら?」

 部屋に入ってきたジーニアが、僕達の状況を見て、右手を口元に当てて微笑んだ。

「呼ばれたのにお邪魔でしたか?」


「違いますからね!?  あくまで、姉の役割としてですからね! そこは間違わないで、ってそんな目で見ないでください!」


 恥ずかしくなったのか、彼女は抱き着くのをやめて、コホンと一回咳払いする。

 その光景を見てジーニアは、「分かってますよ」といたずらの笑みを零して、僕の方にやってきた。


 しかし、ベッドに来る頃には、笑顔はなくなり、代わりに、心配していたからこそ浮かべることのできる、安堵の表情が宿っていた。

「苦しくありませんか? 兎にも角にも、目が覚めてよかったです」

「ほんと、目が覚めなかったらどうしようって……」


 ジーニアも穂香も安堵の息を漏らし、僕が起きたことを喜んでいる。

 確かに最悪の目覚めであったが、それを他の者が知っているはずがない。


 そのため、二人の行動が僕からしてみたら、異様でしかなかった。


「そこまで……心配されるようなこと」

「何言ってるんですか!? 五日も寝たっきりだったんですよ!? 誰だって心配しますよ!」

「五日も……?」

「覚えてない?  美鈴ちゃんと別れてすぐに倒れたんだよ? 」

「確かにあの後の記憶はないけれど……」


 思考がうまく働かない。

 寝起きだからか、それとも智慧のせいか。


 ジーニアが、重たい自責の念と後悔の念を両肩に乗せて、穂香の横で俯いていた。

「私が無茶をさせすぎたんです。本来、依頼者の疲労状態を加味して依頼受諾を行わなければならなかったのに――」

「違います! ジーニアさんのせいじゃ……ありません」

「ですが、それ以外に倒れる理由なんて」


 美玲と別れた直後に倒れた理由は、さっき流れ込んできた智慧によるもののはずだ。

 疲労とかでは決してない。

 頭が回っていない状態でも、これだけは分かる。


 しかし、その事をどうやって説明するべきなのか。中途半端な内容じゃ伝わらないかもしれない。


 きっと、最終的に転移してきたことも説明しないといけないだろう。

 一週間という短い間だったが、命を救ってくれたウルリラにも、ずっと支援をしてくれていたジーニアにも嘘をつき続けていた。


 信じてもらえるかはともかく、二人のことは信頼できる。


 だったら僕は――。


「……穂香。ちょっと耳かして」

 穂香は軽くしゃがみ込み、右耳を差し出す。

 僕は彼女の耳に口を近づけて、ジーニアには聞こえぬように、「本当の事を言おう」と提案する。


「……分かった」


 彼女は耳打ちした内容を受け入れる。

 耳を遠ざけて、再度穂香が立ち上がった時、タイミングよく、ウルリラが心配そうな表情で姿を現した。


「遅くなった。カオル大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。……それにちょうどよかった」

「ちょうどよかった?」


 覚悟を決めるかのように、穂香は一度大きな深呼吸を行い、そして、ゆっくりと口を開いた。

「私達ずっと隠し事してたんです」

「隠してた?」

「そうです。ずっと助けてもらっていたのに、騙してしまいすいませんでした」

「それで、隠し事っていうのはなんなんだ?」


 穂香に視線を送り、自分が話すと合図を送った。それに気が付いたのか、穂香は一度頷き、開きかけていた口を噤んだ。


 信じてもらえるかどうか。訝しむ目で見られないだろうか。

 そんな不安を拭うように、僕も穂香みたいに大きな深呼吸をする。


「……僕達が……別の世界から来たって言ったら、信じますか?」

「……なっ! そんなの信じられるわけないじゃないですか!」


 ジーニアは驚愕の表情で、転移を否定する――ことはなかった。


「―――とは、言いませんよ? ……正直、お二人には何かあると思っていましたし」


「…………凄い……ですね」

「私、そういうのには自信はあるんです」

「でも、転移なんて非現実的な話……」

「……そこまで、非現実的な話ではありませんよ。昔からこの世界で転移というのは研究対象です。そして一応実現もされたのですよ? ――一回の使用でざっと二十人くらいが死んだので、封印されたらしいですが」

「うっ。……一応この世界で実現はしてたんですね」

「そうなんですよ。ひどい魔法だったらしいですが、この世界でも実現されたことを考えると、別の世界で転移魔法が開発されてたって不思議ではありませんよ」

「そんな歴史があるなら、簡単に信じることができるのも納得です」

「きっと、お前さんの世界には転移という概念がなかったから、非現実的だと思ったんだろう。そういうことを誰かに話すのって、すげえ勇気がいることだ。話してくれてありがとうな」


 そういうと、ウルリラは僕と穂香の髪をわしゃわしゃとし始め、反射的に目を閉じてしまう。

 その光景を見てなのか、それとも別の理由なのか――どちらにせよ、ジーニアは軽く丸めた左手で口元を抑え、くすくすと笑っていた。

「信用してくれたってことですもんね。信用されるのはいつでも嬉しいものです。……ですが、何故おっしゃっていただけたのですか? 」

「それが倒れた理由に関係すると思ったからです」

「……そういうことですか」


 頭からウルリラの手が離されると同時に、無意識のうちに髪を整えた。

 髪を整える傍ら、二人に対して、

「実は、僕達以外にも多くの人が転移されました。それで、その誰しもが、一部の魔法を使える状態だったんです」


 そして、使用できる魔法は無詠唱で使えるということ。

 使用できる魔法は、分野で分かれていること。

 そして――。


「寝込んだ理由が何らかの分野の魔法を覚えた可能性があるってことか」

「はい。……ただ、使わなくていいなら使いたくない。そんな魔法分野だと思います」

「そっか……。んで、その魔法分野というのは?」

「創造です……きっと」

「ああ、なるほど。確かにそれはまずいな」

「...………まずいですね」


 ジーニアとウルリラは、露骨に「これはやってるな」と言いたそうな渋い表情を浮かべていた。

 しかし、穂香は当然のことながら、二人がまずいと言っている理由も、渋い顔をしている理由も分からず、ポカンとしている。

「……何がまずいの? 」

「穂香も含めて、覚えた魔法は全員無詠唱でできるでしょ?」

「うん……それは確かに」


 『分野 : 創造』。その名の通り、()()()()直接(・・)()()()()()()()場合、この世界に新たな物を()()()()産み出すことができる魔法。


 剣を望み想像すれば、剣が生成され、銃を望み想像すれば、銃が創造できる。


 しかし、強力な魔法分野であると同時に、最も欠点の多い魔法分野でもある。

 特に重大な欠点は――この分野の詠唱は揃いも揃って長い。

 最も短い詠唱でさえも一分を優にこえることとなる。

 


 ならば、無詠唱をとなるが、この分野に無詠唱の魔法が一つも存在しない。

 そして、この分野において無詠唱は不可能であると()()()()られている。度合いでいえば、地球上で永久機関の作成は不可能であるという結論と同じである。


 他にも、記憶内部で攻撃性のないものであると判断されている場合は攻撃できない。

 つまり、記憶内で模造刀と判断されているものを具現化したとしても、それは模造刀にしかなり得ない。


「つまり、無詠唱が不可能と証明された魔法を無詠唱で覚えてしまっているというのが問題」

「確かに……そうだね」

「特に機関とかにバレたらえらいことになりそうだな」

「機関からすれば、利用するか、殺すかでしょうけど……まあ、後者でしょうね」

「でも、私思うんですけど、単純に無詠唱ができるようになった! っていえばいいんじゃないんですか? 」

「あそこ、歴史こそ長いですが、長いせいで割と腐ってるところがありますからね。上の頭が固いなんてよくある話ですよ」

「あっ……そうですか」

「使ってもいいとは思うが、誰かにバレるってことだけはないようにしておかねえとな」

「そうですね」


 僕は大きく一度頷いた。

 使わなくてもいいなら使わない。でも、使う機会がある可能性も考えて、今度、使えるように練習しようと心に決める。


「それで少し疑問に思ったんだが――」

 話題を切り替えるように、ウルリラが僕達に真剣な目を向けて、疑問を呈する。


「ホノカたちの今の目的はなんだ?」


 僕達の目的は一つしかなかった。

 無言で頷きあった後、穂香が今の目的をウルリラ、そしてジーニアに対して告げる。


「…………私達は元の世界に帰りたい、です。そのためには、多分ですが、カウリストロを倒さないといけない。――もちろん、倒したら帰られるという保証はどこにもないんですけど」

「ただ、僕達にはそれ以外の手掛かりが何一つないんです」

 ウルリラは「そうか」と一言呟き、ジーニアは無言ではあったが、首を一度縦に振って、僕達の目的と理由に理解を示した。


 部屋に暫くの沈黙が訪れる。

 窓から差し込む光が、陽が雲に隠れたせいで暗くなり始めた時、ウルリラは何かを思いついたかのように、唐突に口を開いた。


「カウリストロが本当に実在するかは知らねえ。ただ、そいつを倒さねえことには、カオル達が元の世界に戻れるかどうかも分からねえってことだよな?」


「「……はい」」


「だったら、もっと強くなった方がいいよな。というか、今のままじゃ弱すぎると思うからな」

「……そ、そうですね。ごもっとも」


 この世界に来てからの時間を見返して、うなされる。

 現に一度死にかけているし、知識がなさ過ぎて、誰かに襲われでもしたら、カウリストロを倒す以前に、世界とさようならをする羽目になる。

 正直な話、強い弱いの段階にも入ってなどいないだろう。――少なくとも僕は。


 ウルリラに続けるように、ジーニアも謙遜気味にとある提案をし始める。

「本でしか読んだことがありませんが、カウリストロはもっとも恐ろしい存在って話もあります。どうですか?  二人がよろしければ、私達に魔法とかを教えさせてくださいませんか?」


「それは……私達にとっても嬉しいんですけど。……どうしてそこまで?」


「……いや、なんというか――。押しつけがましいかもしれませんが目的があるなら、それは達成した方がいいと思うんです。その目的が自らの意志ではなかったとしても……。あとですね――」


 一瞬言い淀んだ後、言いにくいことを誰かに言う前の苦笑を浮かべだす。

「私も一つ隠し事をしていたんです」

「な、何ですか? 」

「西国は唯一他の国と文字が異なるっていう話をしたじゃないですか?」

「あ、確か初めては会った時に私達に言ってましたね」

「……あれ嘘です」


「「え?」」


 短めの沈黙。そして――。



「「……ええええええ!!」」



 部屋が揺れたのではないと錯覚する程大きな僕達の声が、自らの鼓膜を震わした。

 驚かせるはずが逆に驚かされたを具現化したようだった。


「だから協力するのが、一種の罪滅ぼしかなと思いまして」

「え、でもなんでそんなことをしたんですか? 私達別に――」


「依頼登録をしていただく前に、お二方がカウリストロという人名を出したので、つい気になってしまって。先程、何かあるって思った理由は、カウリストロという名前を出したこととその人物を探してるってことだったんです。……騙しててすいません」


「ちなみに、俺はジーニアからその件を聞いてたな。俺も俺で黙っててすまなかった」

「いや、それは全然いいんです。確かに驚きましたけど。……寧ろ、あの時は咄嗟にあんな対応をしてくださり、私としては感謝しかないなって」


「勝手にやったことですので、そこは気にしたら駄目ですよ? それに本人がいる状態なら、他人が書いても構わないっていうのは本当でしたし」

「でも、何かあるって思ったりしたら機関? っていうところに言ったりするべきじゃないんですか?」


「まあ、責務はあったりしますが、私はそんなことしませんよ。誰かの人生を無下に奪うことはできませんから」


 そういうと、ジーニアは莞爾として笑った。



「あ、ありがとうございます……!」



 違和感を感じた人がジーニア達でよかった。


 僕は心の底からそう思った。



 その後、陽が沈み、リュンナが静かに輝き始める時間まになるまで、四人で明日からのことを相談し合い、これからの一連の流れを決めた。


 その際、ウルリラに、魔物や誰かと互角に戦えるようになるには少なくとも、一年はかかると言われたのは、残念な知らせだった。

 しかし、ジーニア曰く、本来五年間かけて習う内容を纏めようとしている、とのことらしく、僕達としては納得せざるを得ない。


 すぐに元の世界に帰るというのは、諦めるしかなさそうだった。


「じゃあ、明日。この場所に来い。明日からみっちりしごいてやる」

「「本当に……ありがとうございます!」」


 しかし例え、すぐに帰れなくとも、帰るためのアシストをしてくれる人がいる。

 信頼できる人がいる。――それだけで今は十分なのではないだろうか。



 ◇◇◇



 翌日。

 渡された地図を頼りに、森の中に入っていく。

 深い深い森の中。しかし、決して暗くはなく、他の森に比べれば、充分なまでに光は差し込んでいる。


 そして、道という道がなくなった場所に、人里離れたその場所に、ひっそりと、しかし、どっしりと聳え立つ木製の家があった。


「ようこそ、わが家へ」


 その家の目の前には、左に大剣を突き刺し、胡坐をかいて、まさしく強者(つわもの)と言わんばかりの笑みを零すウルリラの姿があった。



「――いや、わが家ではねえけど」



 しまらないな、と僕は思った。

Tips : 現実と向き合うことは難しいこと



七話は5/5以降を予定しています


恐らく八話から物語が大きく動き出します。随分と動き出すのが遅かったですよね。

ここまで読んでくださった方には、本当にありがとうございますとしか言えません。


読んでくださった方がいるといいんですが。

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