「僕のご主人様」
僕は「たろう」。
二本足で歩けるご主人様と一緒の群れに居る「あかしば」って生き物。
よくわからないけど、ご主人様は「くれないのはな・まーげどん」て二本足の群れから呼ばれてるみたい。
僕の前では「くれないのはな・まーげどん」から「はなせんせい」と短い呼び方になる。
僕のことを「たろう」って「はなせんせい」が呼ぶ時、僕以外の誰かのことを考えている感じがするけど、僕のことを呼ぶ合図の「たろう」って言う「はなせんせい」の鳴き声を僕は気に入っている。
ここからは、僕もご主人様を他の二本足のヤツに倣って「ハナ先生」と呼ぶことにしよう。
だって「くれないのはな・まーげどん」て長くて呼び難いもん。
ハナ先生は外でよく見る他の二本足のヤツと違って、メラメラを何もないところから出す凄いことができる。
僕の好きな「ぼーる」って鳴き声の前に「どっじ」とか「ばすけっと」とか「びーち」とか何か変わった鳴き声を混ぜて最後に「ふぁいやーぼーる」って鳴くと、僕の前足よりずっとながくてやわらかくてすべすべした前足で掴んだ長い棒からメラメラを出せる。
僕がメラメラが苦手だってわかっているみたいだから、ハナ先生は僕の前でメラメラを出すことはほとんどない。
でも、僕の鼻にかかれば、外でハナ先生がメラメラで何かやってきたことは、匂いですぐにわかる。
そして、メラメラを出した日のハナ先生は決まって僕にこう言うんだ。
「タロウ。赤柴のタロウは良い子ね。わがまま言わないから。それに比べて人間のタロウは世話が焼けて困るわ」
ハナ先生の鳴き声は難しくて僕には真似できないし、意味もわからない。
ただ「にんげんのたろう」のことを呼ぶハナ先生は少しうれしそうで、そして少し疲れた匂いがする。
僕以外の「たろう」はどんなヤツなんだろう?って思うこともあるけど、今はお腹が空いた感じなので、いつもの食べ物を催促しよう。
僕ができる鳴き声の中で「くーん」て細く鼻から鳴き声をあげると、ハナ先生は「あら、ごめんなさい。タロウはご飯がまだだったわね?直ぐに用意してあげるから、そこで待ってなさい」って明るく鳴いて応じてくれる。
僕が思っていることをすぐわかってくれるハナ先生のことを僕はとても気に入ってる。
ハナ先生が「まて」とか「まってなさい」て鳴いた時は、僕は黙って鳴き声を上げず、食べ物をもらえる喜びいっぱいに尻尾を振ってご飯のお皿に出されるまでジッとしているのが一番だっていうことは覚えた。
「にんげんのたろう」もハナ先生に「まて」って鳴き声で知らされているのかな?
「あかしばのたろう」の僕と「にんげんのたろう」は何が違うのかな?
「にんげんのたろう」は僕より足が速いのかな?僕より耳がよく聞こえるのかな?僕より匂いに敏感なのかな?
僕にわかることは、ハナ先生は「たろう」て呼び方に何か特別な気持ちがあるってことくらい。
僕はハナ先生の匂いも綺麗な前足の柔らかな感触も優しい鳴き声もみんな好きだよ。
ハナ先生の目の色や、長い頭の毛の匂いも好き。
僕が顎を乗せてみたりするハナ先生の後ろ足の太いところも柔らかくて温かくて好き。
「あかしば」である僕は、大好きなハナ先生と違う生き物だってことは匂いでわかる。
でも、ハナ先生は男の僕がちゃんと守ってあげないといけない女の子なの。
もし僕がハナ先生と同じ二本足の群れ=にんげんになれたら、ハナ先生に喜んでもらえるだろうか?
僕は「にんげんのたろう」が少し羨ましい。
だって、僕を呼ぶ時の「たろう」よりもう一つの「たろう」の方が少し嬉しそうに聞こえるから。
僕はハナ先生が大好きだ。
ハナ先生の為なら僕より大きな体の悪いやつと戦うことだって怖くない。
僕は、毎日、ハナ先生の縄張りの大きな住処の入り口で、ハナ先生の帰りを待っている。
いろんな匂いに混じって、ハナ先生の匂いや足音や息づかいが近づいて来るだけでも、僕の気持ちはとても嬉しくなる。
僕が「おかえり」の意味で一声鳴くと嬉しそうに綺麗な白い歯を見せて目を細めて、僕の頭を優しくなでて「ただいま」って言ってくれる。
鶏肉のご飯も好きだけど、一番好きなのはハナ先生の前足で僕の頭や背中を撫でてもらうこと。
疲れた匂いのするハナ先生の手や顔をなめるのも好き。
僕を可愛がってくれてありがとうって二本足の群れたちのやり方でお礼したいけど、僕にできることは、舌でなめてあげるか、後ろ足の間の匂いを調べることくらい。
大好きなハナ先生が困っていたら助けたい。
でも、今日も僕はお家でお留守番。
ハナ先生の「こいうらない」って言うお仕事の邪魔をしてはいけないから、僕はお家でハナ先生の次に好きなボールと一緒に待ってるの。
僕はハナ先生が帰ってくるまで、僕の寝床と決めてるハナ先生の匂いのする「そふぁー」って言うふわふわしたところで丸くなって待ってる。
早くハナ先生と遊びたいな。