1話 続く日
新連載始めました!
拙い文章ですが、よろしくお願いします!
それでは、お楽しみ下さいませ!
ある森にひっそりと佇む屋敷の一室。煩雑に扱われた本や服は床やベットに見事に散らかっていて、広い部屋ではあるが、物で溢れかえっているのでかなり狭く感じられる。そして部屋の窓際に置かれたダブルベッドには気持ちよさそうな顔で眠る一人の少年と、それを側で眺めている一人のメイドがいた。
「…ご主人様、朝です。起きて下さい」
「……もうちょっと…だけ……」
メイドにとってはこれはもう朝のルーティンとなっている。寝起きの悪い主人を朝、外の目覚まし鶏クロックチキンが三回鳴いた頃に起こす。
メイドは主人の肩を五回揺さぶり、頬を二回軽く叩く。いつもはこれで主人は起きるはずなのだが、どうも今日はいつもより寝起きが悪いらしい。開かれたままの分厚い本から察するに昨夜はかなり夜更かししていたのだろう。
「…ご主人様、朝です。起きて下さい」
メイドは同じフレーズを今度は少しボリュームをあげて繰り返した。
「……あと5分」
ふにゃっとした返事だけが返ってくる。
メイドはまたこれか…と言わんばかりに深く溜息をついた。スススと部屋の外へと出ると数分後、水をいっぱいに入れた桶を両手に抱えながら現れた。
これからかけますよ。なんて律儀なことは言わない。
メイドの朝は忙しいのだ。これ以上時間を浪費しないよう強行策を取ることに決めた。ちなみにこの強行策はつい一昨日も使った。
バシャン!と水が音を立てて少年に覆いかぶさった。壁や天井に水滴が勢いよく飛び散る。「うわぁっ!」と悪夢から覚めた時のような大声をあげて少年は飛び起きた。
辺りを見回し状況を数秒かけて理解する。顔を二回手で上下に擦り、左斜め上を見上げる。
「…おはようございます。ご主人様」
メイドは何食わぬ顔で一礼をする。
「お、おはよう……メイ」
ここまでが、朝のメイドのルーティンなのである。
****
「………」
少年は、不貞腐れた表情で朝ご飯を口に運んでいた。理由は単純。どこかのメイドに水をぶっかけられたせいである。もちろん自分のせいなのであるが、少年は納得がいかないという表情である。
びしょびしょに濡れた少年の黒髪から水滴が一滴床に滴り落ちる。
すると、台所からメイドが膝までの長さのスカートを左右に揺らしながらいそいそとやってくる。手には大きなモップを持っている。
「なあ、メイ」
少年がため息混じりにメイドに声をかける。
「仕事熱心なのは助かるけどさ?今お前が拭いている床の水滴はお前が俺に水をぶっかけたせいだよな」
モップで床を拭いているメイドは隣の機嫌の悪そうな主人の言葉に首を傾げる。
「……ありがとうございます…?」
「いや!違うよ!?褒めてるんじゃないよ!?そんな無垢な表情でこっちみないで!」
そんなこんなで、今日も二人の1日が始まるのだ。
二人のことを紹介しておこう。黒髪の少年の名前はシンという。そして彼の側付きメイドの名前はメイ。どちらも10代後半くらいに見える。背丈は両者同じくらいで少しシンが高いくらいだ。シンはメイのことをメイと呼び、メイはシンのことをご主人様と呼ぶ。もちろん、2人は従者と主人の関係だ。
「…まあいい。今度からはあーゆうのやめてくれよ?お陰で本がビショビショだ」
「……今お外で干してます」
「あーそうかそうか、それなら、って!違う!干せば許されると思ってんのか!」
メイはきょとんとした顔でもう一度首を傾げた。これは彼女の癖といって良いかもしれない。彼女は分からない事、もしくは分かろうとしない事(こっちの方が多い)を聞いた時は右に首を傾げるのだ。
同時に銀色のサラサラの髪も僅かに揺れる。
「……おーけー。分かったよ。乾いたら部屋に持ってきておいてくれ。それじゃあ、俺は部屋に戻るから」
やれやれといった表情でシンは席を立つ。台所に木製の食器を持ってった後、部屋を出ようとするが、それはメイに阻まれる。メイがシンの服の裾を掴んでいたのだ。暫く、無言の時間が流れる。
「……え、なに、怖い」
「……今日の予定は?」
メイはシンの顔をじっと見つめる
「え、いや、1日本を読もうかと。昨日読みきれなかったし…」
その発言を聞いたメイの表情は一気に暗くなった。
メイはシンの瞳を見続けたまま、ずいっとさらに距離を縮める。メイはいつも覇気の無い顔をしているが、こういう時の無言の威圧感は半端では無い。
いつもの無表情であることには変わりないが、シンにとってはそれが恐怖であった。降参だと言わんばかりに恐る恐るシンが両手を上げる
「今日って、なんの日だ……でしたっけ…」
主人であるシンがメイに敬語でそう聞く。
「……週に一度の仕事の日です。本当に忘れてたんですか?」
「あ〜、いや!うん!覚えてる!」
メイはため息をつきシンから手を離した。しかし、その瞬間、その隙を見計らったようにシンは部屋を飛び出した。
「なっ!」
「ふっ!かかったな!俺は働かないぞっ!」
実の所、シンは今日がその日だと知っていた。だからこそ、一芝居打ったのだ。今日こそは働かないために。
「絶対に俺は働かないからな!」
シンは全速力で屋敷の中を走り回る。この屋敷には二人しか住んでないというのに相当な広さがある。使わない部屋なんてもちろんあるし、まだ行ったことのない部屋すらある。上手く隠れれば今日は働かなくて済む、そう考えていたのである。
しかし、それは浅知恵であった。
メイ曰く、メイドにとって主人を探すことほど簡単なことは無い。だそうだ。
数分後、使われていない3階の空き部屋でシンは捕まった。
縄で縛られ、引きずられながらシンはメイに問う。
「なんで場所が分かった……」
「私はメイドですから」
誇らしげな表情のメイに対して「そんなの理由になってない」と思うシンであった。
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