タピオカ仕立てのサピエンス
「さあご覧ください、グレイさん」
そう言って、ジーン・タピオカこと日岡太郎が指差したのは、見るからに多量の脂肪分をふくんだミルキーウェイが、ワインレッドに燃えさかるような熱々の紅茶の海へと流れこむ、まさにその工程だった。
「これが、であるか」
「これは作業行程であると同時に、我々人類の縮図でもあると、私たち神官は、そう考えているんですよ」
「そうか。言われてみれば、ふむ」
全身オリーブドラブに包まれたジーン・タピオカとグレイ大佐は、河の上の巨大な吊り橋を渡りきると、
「ひと息つきますか?」
「いや、先を見よう」
間を置かず、エレベータへと移動した。
「タッポローン神は、絶えずすべての工程を見守っておいでです。我々のようなつぶつぶした人間が常に最高品質を保っていられるのも、すべては神のご加護のためなのです」
「であるか、ふむ」
「着きます、グレイさん」
ジーン・タピオカとグレイ大佐がエレベータを降りると、長い廊下が待っていたが、壁に沿って置かれた机の上に、円形の窓の空いた黒い箱が置いてあった。
「グレイさん、今日はラッキー・デイです。突然変異で生まれてしまった不良品を、我らの神がお見定めになったようで、浄化の工程がご覧になれますよ」
「であるのか」
「はいー」
グレイ大佐が窓をのぞくと、
「……まっくらだ」
「今、見えるようになりますよ」
チャリン……とコインの落ちる音がして、
「おおっ、見えた見えた」
グレイ大佐の視界に、ひとりの男が現れた。そこへ、四方八方から、タピオカミルクティを手にしたギャルが出現し、みんなして男に襲いかかった。
ぼろぼろになった男は、タピオカギャルたちにふたたび立たされて、アコヤガイの装飾がきらびやかなチャーミングな小屋へと引きずり込まれていった。
「あれ、中ではなにをやっているのであろうか」
「今、聞こえるようになりますよ」
チャリン……とコインの落ちる音がして、
「おおっ、聞こえるぞ。なにやら楽しげな声が、きゃっきゃきゃっきゃと聞こえるぞ。これは女子会であるか」
「男も女も、みな楽しんでいます」
「悲鳴も聞こえるが、これはさっきの男か」
「ええ、ご明察」
「おお、これは凄惨だのう」
「いかにもでございますよ、グレイさん」
にぎやかな音声がフェードアウトしてから、グレイ大佐はジーン・タピオカに問うた。
「いったいなにがおこなわれていたのであるか」
「今のは浄化の最終工程、タピオース・タッポローン神の祭壇前でおこなわれる、タピオカ責めです」
「ほう、タピオカで責めさいなむのであるか」
「いえいえグレイさん、人聞きの悪い。タピオカ責めは拷問の類いではありませんよ。先ほどの彼は、不良品とは言いましたが、罪人ではございませんので。というのも、先ほど申しましたように彼は突然変異で生まれてしまった不良品ですから、素は我々と同じ人間なんですよ。だからこの『浄化』という工程を経て、あるべき品質へ戻ることができるのです。ほら、ご覧なさい」
ジーン・タピオカはグレイ大佐にふたたび窓をのぞくよう勧めた。
「……まっくらだ」
「今、見えるようになりますよ」
チャリン。
「おおっ、見えたぞっ」
グレイ大佐の視界には、ふたたびアコヤガイに装飾された小屋が現れ、中から巨大で屈強な男が、ギャルたちやギャル男たちを首や二の腕や太腿にたくさんぶらさげて、タップダンスを躍りながら登場した。
チャリンチャリンチャリン……。
「びばっ、タプシャス・タピオース・タッポローンっ!」
「きゃーっ」
グレイ大佐は聞こえてきた楽しげな音声に、目玉をぷるぷるさせてよろこんだ。
「おおっ、さっきの男は、すっかりみんなと仲良しになったのであるなっ」
ジーン・タピオカは微笑んで、インターカムに囁いた。
「ジェインさん、ジェインさん……、決壊、お願いします」
「りょ」
どどど、ぷるっ、ぷるっ……!
「おおっ、おおっ、おおおおおっ!」
ぷるぷるのタピオカが、大佐の世界をぷるぷると満たした。
美味しいタピオカはほんとに美味しい。