母死家庭
世界にとっては当たり前の今日だが、俺にとって今日は“大事な日”なんだ。
チャイムがなる。朝の号令を号令係が言う。隣の席の櫻庭がいつものように髪の毛を左耳にかける。俺は本当に櫻庭の左隣で良かったと思ってる。何故なら右隣なら櫻庭の左耳が見えないからだ。自分でも気色悪いと思った。いや、思っている。だが今日はそんな自分を許すことができる。だって、今日は“大事な日”だから。
いつもなら帰って来る時間に母さんは帰ってこない。
不意にインターホンがなる。いつもこれが母さんの帰って来る合図だ。そして俺はいつものようにドアを開ける。するとそこにいるのは母さんではなく警察官だ。『夜分にすまないが、木川晴海さんの息子の木川海君だね。』なんでこの警察官、母さんのカバンを持っているんだ。動揺が隠せなかったが一応、はい。と返事する。『木川晴海さんが、今日の夜亡くなってしまった。私たちは今回の晴海さんの件を殺人と考えている。』胸の真ん中を捉えられた。もしかしたら、俺には犯人がわかる気がする。いや、わかる気がではない。わかるんだ。確実にあの女だ。
父さんには不倫相手がいる。父さんはバレていないと思っているが、母さんと俺にはわかっている。母さんはわからないフリをして父さんと接しているが俺はそれを見てていつも苦しくなる。
ちょうど玄関で警察官と話していると、父さんが仕事から帰宅した。
『どうしたんですか?こんな夜遅くに、海がなんかしましたか?』明らかに動揺している。こいつはきっと殺されることをあの女から聞いていただろう。
『晴海さんが亡くなられまして、』初めて聞いたかのように驚きながら聞いているがこいつは絶対にわかっている。真実を知っている。
警察が帰った後しばらく俺は放心状態になっていた。
『学校はしばらく休みなさい。お前も母さん死んだのは悲しいと思うけど男なんだから泣くな。』
全く臭いセリフを吐くよ。俺にはこの頃からあの女と父さんにある気持ちが芽生えてきた。その心がなんなのかわからなくて心がムズムズする。
お通夜もお葬式でも俺はその心がなんなのか気になっていた。ひと段落ついた時に、父さんがスーツ姿で俺の部屋に入って来た。
『話がある』そういうと後ろからあの女が入ってきた。
『入って来るな!!!』怒鳴り散らした。怒鳴っても怒鳴ってもあの女は何1つ言わない。
『まあまあ落ち着け。お前が動揺してる気持ちもわかる。だけどな、この方、いや、瞳が今日からお前のお母さんなんだよ。』言葉を失った。そして同時に自分でもわからなかったあの気持ちがようやく自分で理解できた。
殺したい。俺は何も言わずに父さんとあの女を、部屋の外に追いやった。
『勝手にどうぞ』ほんとは勝手にどうぞなんて言いたくないよ。でもしょうがない。俺は決意してしまったから。
朝の会が終わって俺は先生に
『お腹が痛いので帰ります。』そうひと言いうと、先生の言葉を聞かずに帰った。最後に櫻庭と話したかった。そう思ったがもうしょうがない。学校にも行く気がない。いや、行かことができない。
父さんは今日仕事だ。だから家にはあの女しかいない。なんでこんな日に限って家の鍵を忘れたんだろう。インターホンを押す。ドアが開くとあの女がいた。何か言ってるようだが俺にはあの女と面と向かって話したくない。俺は迷わずキッチンに行き、包丁を持つ。普通、人を殺すとか、罪悪感があるのかと思っていたがそんな事思っていたら人なんて殺せないな。そう思った。現に俺がそうだからだ。あの女は悟ったのか逃げようとする。俺は絶対に逃さない。女の胸ぐらを掴むと、胸のあたりを二、三回刺した。あの女はすぐに何も喋らなくなった。そりゃそうか。殺したんだから。
あの女の死体を放置して、家の棚を乱雑に開ける。家の通帳を持つ。最低限のものを持って俺は家を出る。家に帰ってから30分くらいしか経たなかっただろう。
銀行に行き、10万円ずつ色々な銀行で下ろした。こんなガキが一気に大量の金を下ろすと怪しまれるからだ。とりあえずどこに行くか決めていなかった。でもあの女の死体が見つかるまでにはここから出るべきだ。とりあえず電車に乗ろう。俺は電車の切符を手に持ち、埼玉県の江ノ島行きの切符だ。なぜ江ノ島行きにしたのかというと、小さい頃母さんが教えてくれた。『なんで海って名前なのか教えてあげる。私の晴海っていう名前は、晴れた日の江ノ島の海の近くの病院で産まれたから、晴海って名前なの。それで、海が生まれた時も江ノ島の海の近くの病院だったの。まあ海が生まれたときはすごい嵐だったけどね』未だに覚えている。だから俺は自分の名前が大好きだった。
江ノ島に着くとすごい雨が降っていた。とりあえず近くのコンビニのイートインで買ったおにぎりと牛乳を飲む。そこでしばらく雨が止むのをまった。思ったより早く止んで外は夕暮れ時になっていた。俺は迷わず海に向かおうと思った。根拠なんかなく、母さんがいそうだったからだ。夜行バス乗り場まで歩いていき、気づくと夜の10時だった。夜行バスに乗り、すぐに眠ってしまった。今日は1日すごい疲れた。心と体がそう言っているみたいだった。夜行バスが到着すると深夜の2時にも関わらず海に人だかりができていた。母さんの言う通りとても綺麗な海なんだな。何も考えることなく海の近くにある、ホテルに泊まった。未成年でホテルに泊まれるなんて少し大人な気持ちになった。朝、7時に目が覚める。学校がある日は母さんがいつも起こしてくれたから癖になっていたのだ。
朝食を済ませ、ホテルをチェックアウトし、俺はまた海に向かう。行くあてなんかないし海にいれば自然に時間が過ぎると思った。本当に時間が過ぎるのは早かった。いや、早すぎた。本当にこの海は美しい。母さんが宿ってるかのようだ。俺は『母さん!!』と叫んでみる。もちろん返事など帰ってこないと思っていた。急に後ろから背中をポンポン、と叩かれる。見覚えのある感触。まさかと思いながらも鼓動が上がって、息が苦しくなりながらも
『母さん?』自然に涙が溢れながらもそう言い切った。
すると、目の前にいたのは母さんではなく、紛れもなく警察官だった。
終わり。
この作品は僕の最初の作品です。
上手く書けたという自信は全くないのですが、読んでくれたら幸いです。