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異世界アリエリードクエスト  作者: フリントロック
第一章 美味いクエストには裏がある
8/10

のんびりクエスト?

 今回のクエストの行程をおさらいしよう。

 まずはザオリク森林まで約300キロ。その間に長閑な農耕地をテクテク歩きつつ二つの町を経由する。

 まずはじめに80キロばかり行った先にタラントの町、町というか農村だな。宿屋が一軒あって安い。一泊大部屋15コル。民宿みたいなところで掃除もされていないので屋根がある馬小屋的なノリだ。クエストで何度かお世話になったことがある。ドークル酪農はタラントの町にあるったりもする。


 で、次の町はかなり離れており、260キロの場所にあるタタールの町。ここはザオリク森林から採れる良質な木材が有名で木工職人の町とでもいうか。名物は木彫りのヒョウラー族の像。北海道の木彫りの熊みたいなものだ。

 

 タラントの町とタタールの町の間にはバララの森が広がっている。

 バララの森にはバララというでかいバッタ(50センチ~1m)みたいなモンスターがいて、駆除しても駆除しても沸いてくるのでその場所だけ開拓しきれていないのだ。

 バララはレベル4ぐらいのモンスターでウチのパーティでも8匹ぐらいいても問題ないが、ときたま大発生をして数百匹の大群で行動する場合がある。その時期は街道を迂回するルートをとらなきゃいけなくなり、けっこう大変なことになる。

 だけどバララは不思議と他の場所にいかずに自分たちの森の中だけで行動する。


 問題はバララを餌にする大型モンスターで、これが何種類かいて、最大レベルは19の食虫樹ビックパックンツリーがやばいやつだ。まあ滅多にいないので大丈夫だろう。


 バララの森を越え、ノックス川を越えたらタタールの町につく。


 タタールの町からザオリク森林に住むヒョウラー族の集落へはどれだけの距離があるかは未知数。二泊ぐらいして、しっかり準備してからのトライになる。


 片道の行程、約十日+二三日。テクテク徒歩なので一日に30キロあるけばいいほうだ。

 往復だとかなりの距離があって貿易商人でもちょっと骨が折れるルート。

 お金はゴールドラッシュのギルドでしか受け取れないので、その間に狩りでもして小金を稼いで糊口をしのがなければならないが、なんとかなるだろう。


 ウチのモットーは「なるようになるさ」なのでその精神でいけばなんとかなるだろう。たぶん。不安だけど。



 初夏になる前の気持ちよい気候の中、僕達はのんびり荷車を押しつつ、街道を歩いた。正午にゴールドラッシュの町を出たので、今日は大して進まない。


 適当な場所で路肩に荷車を置き、僕達はキャンプの準備を始める。

 本当に道ばただ。街道の脇は雑草の生えた平地で、それをマリアがロングソードでざっくざっくと草を刈って広場を作り、ミリヤとルーティが薪を集めて火をおこす。

 僕とリクスが料理を始め、女将さんに貰ったベーコンを炒めつつ日持ちのするキャベツの酢漬けと合わせて手際よく食事の準備を進めていった。普通のパーティーだと役割が逆になるだろうけどウチだとこれが普通だ。料理は男しかできない。


「やはり、自然は素晴らしい」


 マリアが爽やかな汗を流しつつ、綺麗な歯を見せてそういった。

 彼女は対人恐怖症で、町の中だとおどおどしてしゃべられないけど、こうしてパーティーだけになると話し始める。声をかけるとあたふたするので独り言として流すのがマナーだ。

「そういえば、シーカー。花のようなミリヤがギャンブルクエストを買ってきてね。私も読んだんだけど興味深かったよ」


 僕がベーコンの焼き加減に集中していると横でバゲットを切り終えたリクスが思い出すように言った。

 そういえば買っていたな。すっかり忘れていた。


「へぇ。どんなの?」

「数十年に一度、ヒョウラー族の秘宝への道が開き、それを守るために彼らが凶暴化するって書いてあってね。それを奪いにいった冒険者はみんな恐怖で狂って帰ってきたっていう話だ」


 なんか、ずいぶんと物騒なギャンブルクエストだな。

 ヒョウラー族は戦闘部族で、かなり強いと聞いている。その冒険者たちは一体何を見たのだろう?


「その数十年に一度にあたなければいいね」

「そうだねぇ」

 のんきにキャベツの酢漬けをぱくりとつまみ食いしてリクスが言った。


「まあ後で読ませて貰うよ」

「それがいいさ」


「―――うっ。頭が痛い」


 と、夕餉の準備をのんびりとしていたら荷車から呻くような声が聞こえてくる。


「どこだ? ここ」

 ロッドさんが体を起こして不思議そうに辺りを見渡した。


「クエストだよ。ザオリク森林へ行く途中」

「そうか。酒は・・・作らないといけねぇか。シーカー、砂糖ある?」

 ごそごそとローブのポケットから小ぶりの空き瓶を取り出して僕にそう尋ねた。


「唾液でつくったら?」

 僕がポイとバゲットを投げると、キョトンとした顔で受け取り、

「唾液・・・それもたまにはいいか」


 冗談でいったら本気にしてくちゃくちゃとパンを噛んで酒造りを始めた。


 おそるべし天才錬金術師。

 彼の編み出した新魔術【酔魔】の真骨頂は限られた材料で酒を生み出すことにある。おもに糖分と水があればできるらしい。今回はパンの噛み酒っていうのを作っている。

 ほんと、酒ならなんでもいいんだよねこの人。


 彼はこの世界に珍しくド夜行性なのでもっぱら夜警をまかせている。ギリギリ危険を知らせてくれるから役に立っていると言えばたっているか。


 そんなこんなでクエスト一日目が無事に終わった。

 のんきなもんだ。

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