いざクエストへ!
たっぷりと準備金があるのであれこれと細かく買い物をしなくてよくなり僕の気も楽だ。宿屋に帰ってゆっくりと荷物をまとめることができる。
他のメンバーもクエストの準備は順調に進んでいる。
リクスは錫杖を磨き上げて、宿屋に作っていた簡易神殿をたたんでいた。
ルーティは弓矢という巨大兵器を宿屋前に運んでいる。ついでにマリアの大楯も。二人の武器はあまりにも重くて、宿屋の薄い床を突き抜けそうなので、馬小屋に置いてあるのだ。
マリアとミリヤは既に荷物を荷車に運んでいるし、ロッドさんはいまだに下の食堂で寝て転けている。彼の荷物は僕がいつも運ぶので問題ない。
名誉のためにいっておくが、役立たずのロッドさんも役に立つ瞬間がある。
これまで二度その瞬間が訪れたことがあるが、それ以外は役に立たないので存在が隠れ気味だ。
まあ、ピンチのときにしか覚醒しないヒーローみたいなものと思ったほうが精神的にはいい。お守り代わりというヤツだ。
だいたいの荷物をまとめて、宿屋のロビーに下りると、恰幅のいい女性が笑顔で声をかけてきた。
「あら、クエストかい?」
波乱亭の名物女将、ノッコさん。どっしりして大黒柱的な人だ。旦那さんはがりがりだけど、美味い料理をつくる料理人。たまに僕も彼に料理を教わったりしている。
たぶん、僕は料理人とかになってもやっていける気がするなぁ。ちょっとありだ。
可愛い奥さんと宿屋経営。夢が広がる。
「はい、これからザオリク森林に行ってきます」
「ザオリク森林かい? ずいぶんまた遠出だね。ちょっとお待ち。朝食の残りがあるから詰めてあげるよ」
お礼を言う間もなくノッコさんが厨房へと戻っていった。
いい人だなぁ。
「お兄ちゃん、クエストいくの?」
代わりにひょっこり出てきたのは女将さんの息子リッツ七歳。リッツは冒険者になりたいらしく、こうして僕達がクエストの準備をしていたりすると興味深そうに話しかけてくるのだ。
「そうだよ。ザオリク森林に行くよ」
「あそこならタール草っていう煙草の材料になる草があるからいい値段で売れるよ。ココチイーイ草とかもね」
パチリとウィンクをして可愛く言ってくる。
が、ノコノコとそんな草を持って帰ってくるとエライことになる。タール草は別に大丈夫だけどココチイーイ草は一種の麻薬だ。いい値段で売れるのは当たり前だけどさ。
どこでそんな話を聞いたんだろ?
やっぱ冒険者か・・・質が悪いな。
「リッツ。それは犯罪になるから言わない方がいいよ」
「はーい」
まったく反省してない顔で舌をぺろっと出して外に出て行った。
リッツはマリアが好きだ。マリアは対人恐怖症だけど子供とは話せるようで小声で何かを話していた。
しばし待っていると厨房から女将さんが大きな包みを持って出てきた。
「はいよ。バゲット六本にベーコンひとかたまり、ゆで卵12個。しめて5コルだよ」
あ、ちゃっかりお金取るんだ。安いからいいけど。
普通に買えば20コルはしそうな分量だしね。
「ありがとうございます」
そういいつつじゃらっと小銭で払った。
「気をつけておゆき。たっぷり稼いだらウチで宴会だね! アハハハ!」
ドンドンという勢いで肩を叩かれて、頭が揺れる。
この人も昔冒険者していたから力が強い。女性ってなんでこうもみんな強いのだろ?
僕は女将さんに見送られて、宿屋の前の広場に出た。
さあ! クエストに行こう!
―――っとロッドさんを忘れてた。回収しなきゃ。