不思議な占い師
タラントの町はいわゆる農村で、石を積み上げた簡易な外壁にヨギールナと呼ばれる植物を茂らせて生け垣にしている。ヨギールナは毒草で、モンスターが嫌う匂いの成分を出すのでこうした農村などにはよく使われている。葉っぱは毒草だけど実は食べられる。荒れ地でも茂るために、飢饉のときなんかには役に立つそうだ。
人口は300人~400人あたりかな。木造の家が間隔をあけつつも立っていた。
初夏前の収穫期にさしかかり、町の人たちもどこか顔が明るい。
「人がいっぱい・・・」
ゴロゴロと荷車を押しているとマリアが端正な顔を青ざめさせて呟く。美人が青い顔になるとすさまじい悲壮感が漂う。絵に迫力があるよね。
三日ぶりの人に酔ってしまったようだ。しばらく放置するとブルブル震えだして泣く。
こうなったときのマリアの処置としては薄暗くて静かな部屋に入れること。地下の食料庫みたいなことろが落ち着くらしい。どんなトラウマがあってここまでの対人恐怖症になるのか不思議。
「ルーティ、マリアを先に宿屋へ」
リクスがリーダーぽく心配そうにルーティに言った。決して、マリアには近づかないようにしつつ。
優柔不断で、決断しないだめリーダーなんだけど、人への気遣いはできるからリーダーなんだよね。ナイスリーダー!
「兄、わたしも行きます。荷車は広場に置いておいてください。商品をあとで村長にもっていきます」
「ああ、なんとミリヤは優しいのだろうか! まさに天使! 聞け、我が神よ! 妹はあなた様よりも尊い!」
ぶわっと涙をためて祈るように跪き、リクスは天を仰いだ。
誰も居ないところでするのはいいけど、こんな村の入り口でするとみんな見て・・・ああ、マリアが注目を浴びて震えだしたよ。
「兄、めんどくさい。空気読め」
ミリヤはリクスを睨み付けて、ルーティと一緒にマリアを連れて宿屋の方へと向かう。
人がせっかく感心していたのに・・・さすがシスコン。
リクスは感動しながらミリヤの後ろ姿を見送ると僕に振り返って、
「見ましたか? 私の妹は天使ですよね?」
「さ、広場に荷車持って行きますか」
めんどくさいなぁ。
ゴロゴロとすさまじく重い荷車(十日分の食料と水+ロッドさん60キロぐらい+鋼鉄の兵器と盾)を押しながらのろのろと広場に向かった。
広場はモニュメント的な像、初代村長の石像を日時計にした場所だ。近くには井戸があって人が結構あつまっていた。
その中心には、一際めだつ小柄な老婆。
占い老婆がボロボロのコザに座り、怪しいローブのフードを被りつつ何か占いをしていた。
すごく目を惹くのが老婆の目だ。何かよくわからない魔方陣がまぶたに描かれていて、それをぴったりと閉じているから怖い。
こーいうのに話しかけられると不吉なことを言われて金を要求される。
場所を変えようかとリクスに声をかける瞬間、
「お主ら」
おどろおどろしい声で逆に声をかけられた。
やばい。めんどくさいことになりそうだ。
村の人からものすごく注目を浴びているし。
「お主らの冒険の先に、不吉な影がうごめておる」
あ、きた。やっぱりそう来るか。
「あー、すみません。僕達貧乏なパーティーなのでそういうのは―――」
「ご老体、さぞ名のある占術師とお見受けする」
と、僕の声を遮ったのはなんとロッドさんだった。
びっくりして振り返ると、ロッドさんは目がしゃんとして酔っ払いじゃない。二日酔いでもない。
すごく知的な顔で、涼しげに老婆を見ていた。
「ほぅ。お主はよーくわかっておるようじゃの」
「その魔方陣、いや呪術とでもいいますか。かなりご苦労なされたのでしょうね」
「ほぉっほぉっほぉ。若いのにこのような古い呪術をしっているとな」
「知っているだけですよ。実践されている方がいるとは―――。いやはや、今は起きる価値がある。で、術を拝見したいのですが、代金はこの杖でいいですか?」
ロッドさんは手に持っていた杖を老婆の方に掲げる。
あれ、ロッドさんの一族の家宝だったはずだけど・・・それを代金にするなんて信じられない。
誰もがその場の雰囲気に飲み込まれていた。
老婆はニヤッと笑いながら、
「そのようなものは多すぎるのでな。対価は等しく、得すぎても与えすぎても魂と星、体に傷が付く。ほれ、色男の胸の美酒。それを対価にいただこうかの」
「とっておきだったんですがね。しかたがありません」
ロッドさんは懐から白い液体の入った瓶を取り出して老婆に投げた。
あれってたぶん、パンの噛み酒・・・。
目を閉じているはずの老婆はそれを軽々と受け止めると、目を開いた。
その両目には水晶の義眼が埋め込まれている。
義眼の奥には五芒星。
「汝らが道は険しく、霧の中。迷えるときにこそ互いを信じ、歩み行け。しからば道は開けん。ただし、臭い物には臭い物で蓋をせよ。芳しきは忘れ、迷いの道を信ずればそのときに汝らに緑の玉が浮かばん」
老婆の占いが僕にはまったく理解できなかった。
ただただ、不思議な雰囲気に圧倒されて口を間抜けに広げているだけだ。
―――パチパチパチ。
ロッドさんが嬉しそうに手を叩き、
「素晴らしい。で、ご老体。この縁は必然ですか?」
「迷える者よ、汝の心には濃い霧が掛かっておる。曇り行く眼を見開き、隣の者たちを信ずるがよい。縁こそ、汝の宙となろう」
「―――これは・・・胸にとどめておきます」
「汝の宙を見られる日を楽しみにしておるぞ。さて、占いもここまでにしようかの。術は老骨に響くのでの」
老婆は目を閉じて満足そうに笑うと、小さな杖を取り出しコツコツと歩き始めた。
痺れたように動けず老婆が町の外に出て行くまで眺め、見えなくなるとふっと肩の荷がおりたように楽になる。
「ロッドさん、さっきのなんだったんですか?」
僕がこの場にいる人たちの代表として聞くと、
「さあ? よくわからねぇ。それよりか、シーカー、砂糖ある?」
一体、なんなんだろう、この人?




