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死憶の異世界傾国姫  作者: ぎむねま
1章 エルフのお姫様
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ラジオ体操

 部屋に戻った俺は鏡の前で健康値を確認する。


 健康値:4

 魔力値:25


 生まれた時から20ぐらいが普通な健康値と違って、魔力値は二〇歳前後までをピークに伸び続け、大人のエルフだと100は超えてて当たり前になってくる。そう考えると五歳で25ってのはそう悪くない数字に思える。

 ただし、妹の魔力値、これが200を超えて来るのだ。二歳にして一角の魔法使いレベル、俺の不健康ぶりに隠れてちょっとこれ異常過ぎるんじゃないか?

 母も誇らしいより心配の方が大きいのか、俺の主治医(しょっちゅう呼び出されている)にそれとなく妹の事も尋ねたりしている。


 そんな妹の健康値は16なので俺の4倍も健康と言うことだ、これはいけない。

 鏡に映る俺の姿も生気が無いように感じる、金髪じゃなく、色が抜けた様な銀髪なのも頂けない。明らかに他のエルフと違うし不健康そう、ちなみに妹は金属質な冴え冴えとした青色で、これも珍しいが、魔力が多い子に極稀に現れる髪色らしいので、王様の実子でないなんて事は無いそうだ、


 母パルメに限って、元々それは無いと思うけどね。それにしても肉が付いて無い体である。流石に体脂肪率が4%って事は無いぐらいには付いてるけど。


 ちなみに健康値は体力値とも言う、健康値が低いってのと体力値が低いってのでエルフ的に受け取り方が違うみたいで、そもそも言葉が違うんだからニュアンスが伝え辛いんだけど……体力値が低いよりも健康値が低いって方が危険な感じが伝わるし、健康値が多いって言うよりも体力値が多いって言われた方が嬉しいみたいな感じで使い分けるみたい。


「さて、健康になるにはどうするか?」


 健康になるための計画を立てなくては、自分は不幸が確定している身の上だ。そこで俺がちょっと水を汲みに行くだけで息も絶え絶えの病弱じゃ、なぶり殺しにして下さいと言っている様なもの。

 それどころか目の前で俺を庇う家族が惨殺される様を、貧血に震える体で見守る事態にもなりかねない。自分の身は自分で守るが理想で、ダメでも脅威からいち早く逃げられるだけの体力は必須だ。


「そのためには寝込んでるってのはナシだよね」


 この世界には筋トレと言う概念が存在しないように思う。寝込んでるから体力が無くなると言うのもあり得るのに、体力がないなら寝ていろの一点張りだ。

 時計機能もある鏡を見るに、今は10マスの内3つが点灯している、前世と同じ一日が24時間ならば1マス2.4時間、5マス点灯で正午なので午後まで5時間近くもある。


 毎日、8時間の睡眠とは別に5時間も寝込んでいたら健康児だって病気になってしまう。

 なにより今日は体調が良い……ハズ。なぜか朝食後に健康値が5から4に減ってたけど……動けるならば、動かなくては仕方がない。


 ただし、自室療養を命じられている身。おおっぴらに外出したら首根っこ掴まれてお部屋に強制連行され信頼まで失ってしまう、ここは古式ゆかしい前世の健康運動で体調を整えるしかないだろう。


「ラジオ体操第一ぃぃぃ♪」


 そうラジオ体操である。体操の内容やら順番やら、すっかり忘れていてもそこは便利な参照権。


「いっち♪にっ♪さんっしっ♪」


 参照権で脳内に鳴り響く懐かしいメロディ。リズムをあわせて体操メニューを淡々とこなしていき、完璧な深呼吸でフィニッシュを決めようとしたその時だ。


「おねえちゃん? なにやってるの?」


 シダみたいな植物で作られた、ビーズのれんみたいに部屋を仕切るスクリーンを掻き分けて、妹セレナが顔を覗かせていた。思い切り不審な表情でこちらを見ている。


「あ、あのね、これはね」

「もう、おねえちゃん! ちゃんと休んでないとダメだよ!」

「違うの、ずっと寝てても体に悪いのよ、体がギシギシッって動かなくなっちゃうから、こうしてほぐさないと動けなくなっちゃうの」


 本当の事だ、やましい事など何もない。ただこの世界には準備運動やら柔軟運動の概念も進んでいないだけだ。


「ほんとー? そんなの聞いたことないよー」

「本当よ、こうやって体を動かすと運動した時にケガもしにくくなるのよ、セレナもやってみる?」

「え?やるやるー」


 妹様の満面の笑み、頂きました。妹様はお姉様と遊びたかっただけみたい。ここは一つ姉の威厳を取り戻さないとね。


「ちゃーんちゃーんちゃ♪ちゃちゃちゃちゃ♪腕を前から上にあげて背伸びのうんどー♪」


 参照権で鳴ってる脳内音声は聞こえないので口ずさみ、言葉を大雑把に翻訳しながら目の前で動きを実演してあげる。それを見た妹様はイキイキと真似しだした。


「ちゃーんちゃーんちゃ♪ちゃちゃちゃちゃー♪」


 ちょっと調子ッぱずれだけど其処がかわいい、いやコレ俺が音痴なんじゃないよな?

 とにかく可愛い、体操とかどうでもいいから抱きしめたくなってくる。

 よーし二人でラジオ体操を極めよう! ワシのラジオ体操は三式まで有るぞー


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ハァハァハァ……足をも……どして手足のうんど…………」

「おねえちゃん? おねえちゃんだいじょうぶ? お顔がまっ白だよ?」


 キッツイこれキツイ、ラジオ体操は歌いながらやるものでは決して無い。いやはや歌って踊るアイドルのお仕事がこれほど過酷とは想像もしていなかった。アレ凄かったんだな、声量もダンスもラジオ体操とは比べ物にならないし。


「はい、では、ベッドで伸びの運動で終わりです」


 でっち上げました。よろよろとベッドに倒れこんで終了です。

 あ、ヤバい足攣ってるイタイイタイ。


「おわりー? みじかーい、これで体やわらかくなるのー?」

「なってるよー」

 もう碌に返事も出来ない、ベッドで養生だ、あ、ホントに足痛い。

 ベッドで臥せってると妹様もベッドに上がって、あろうことか足をむんずと掴み上げた。


「ほんとー? あ、ほんとだーやわらかーい」


 イダダダダダ、それ攣ってる方の足だから! 痛いから離して! イタイイタイ!


「おねえちゃん凄ーい! アレ? おねえちゃん? おねーちゃーん!」


 俺は妹の声を聞きながら意識が遠くなるのを感じていた。


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